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18話 雨音
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――今にも泣き出しそうな、鈍色の曇天だった。
王都クロスキングス周辺の北東部に点在する平原地帯。
冒険者パーティ【紺碧の刃剣】に属する三人は、息を切らしながら必死に逃げていた。
逃げて、逃げて、逃げて、ようやく拠点に転がり込めた頃には疲労困憊で、ルインは地面に身体を投げ出すように寝転がった。
「ゼー……ハァー……ゼー……ハァー…….、ヒルダ、スコット……無事か……?」
後ろを確かめる暇もなく逃げ出してきたので、スコットとヒルダと、あともう一人――リオの後釜として雇った銀級冒険者――が付いてきているか、ルインは上体を起こして見回す。
「な……なんとか、な……」
這々の体でスコットが拠点に入ってきて、ルインと同じように身体を地べたに投げ出す。
その後でヒルダも拠点に入ってきて、他の二人のように寝転びはしないものの、その場で座り込む。
「ルイン……」
弱々しい声で、ヒルダはルインの名を呼んだ。
「どうしたヒルダ?……いや、あいつ、『マイケル』は?」
数日前に、リオの後釜として雇った銀級冒険者の姿が見えないことに、ルインはヒルダの顔と拠点の出入り口を見比べる。
殿を務めていたわけではなかったはずだが。
「……マイケルはもう、ダメよ」
ヒルダの言う「ダメ」は、戦力になるかどうかのニュアンスではなかった。
逃げ遅れたのだ。
マイケルはもう、今回の討伐目標だった『サイクロプス』に喰われて腹の中だろう。
「は、はぁ!?あの野郎、どれだけ高い金払ってやったと……!」
大金を叩いて雇った銀級冒険者が、まるで役に立たないどころか無駄死にしたことに、ルインは怒った。
「思ったより使えない奴だったな、ハズレだったんじゃね?」
その横からスコットが皮肉げにそう言った。
そんなはずは無かったのだ。
リオのような、使いどころも使っているのかも分からない【タイム連打】ではなく、物理攻撃に特化した【パワーファイター】のスキルを持つマイケルの方が総合的な戦力になる……そのはずだった。
「クソッ、何が期待の銀級冒険者だ!リオの方がもっと上手く立ち回ってただろうが!」
ザッ、と地面に握り拳を叩き付けるルイン。
ところがどうだ?
大金を叩いて雇ったのに、いざ実戦になれば、ノロクサとした動きの大振りな攻撃ばかりで、ちょっとすばしっこい小型の魔物にも苦戦する始末だ。
大型の魔物の相手ならばと期待しても、結果はこのザマ。挙げ句、逃げ遅れてサイクロプスに喰われたのだろう。
金をもらうだけもらって、何の役にも立たないまま死にやがったのだ。
これなら、リオをパーティに残したままの方が遥かにマシだった。
「……ルイン、やっぱりリオを」
「言うな!!」
何か言いかけたヒルダを、ルインは声を大にして遮った。
「確かに、今回の依頼で言えばリオの方が良かったかもしれない。だが、これから先はどうなるか分からないだろ……!」
言い訳がましく理由を並べ立てるルインに、スコットは「ハッ」と鼻で嘲笑った。
「そうかぁ?「やっぱりリオを追放するんじゃなかった」って顔に書いてるぜ?」
「ぐっ、くくっ……ッ!」
スコットの言葉が図星だったのか、ルインは歯を軋ませて押し黙る。
「確かに、リオの【タイム連打】スキルはよく分からないものだったけど。それでもリオはスキルに頼らない戦い方で、私達と一緒に戦ってきた」
そこでヒルダは一度区切ってから。
「リオの【タイム連打】って、本当にハズレスキルだったのかしら?」
「ハズレスキルだ!ハズレスキルに決まってる!時を止めるだか言っていたが、あいつがそれを使いこなしていたことなんざ、一度も……」
「その【タイム連打】を使いこなしていたかも分からねぇようなリオが抜けたから、"こうなった“んだろ?」
声を荒げて反論するルインに、また横合いからスコットが水を差すように口を挟んだ。
「あーぁ、マイケルも運が無かったよなぁ。リオが抜けた途端、こんな目に遭っちまってさぁ」
結果論と言えば結果論だが、【紺碧の刃剣】を結成して以来、こんな無様な敗走などした覚えは無かったのに。
前夜に三人で話し合い、スコットとヒルダからは反対の色を示されながらも、『リオのためにと思って』決断し、【紺碧の刃剣】から追放したはずなのに、彼がいなくなった途端にこのザマだ。
何故だ何故だと、ルインは怒りと困惑が綯交ぜになる。
「と……とにかく!マイケルがハズレだっただけだ!クロスキングスに戻ったら、改めて勧誘だ!今度こそまともな銀級冒険者を雇うぞ!」
都合の悪い事実を誤魔化すように声を張り上げるルイン。
「見つかりゃいいな、"リオより強い“銀級冒険者が」
そんなルインを冷ややかな目で見やるスコット。
「………………はぁ」
半ば空中分解したような自分達の現状を、嘆くように溜め息をつくヒルダ。
ふと、夕立が近付いてきたのか、雨粒を感じ――間もなく土砂降りになった。
「……降ってきたか、ツイてないな」
雨に打たれて冷静になったのか、ルインから怒気が消え失せた。
"ツイてない“のは天候なのか、それとも。
痛いほどに冷たい雨は、ぽっかり空いた一人分の隙間から、容赦なく三人を叩いた。
王都クロスキングス周辺の北東部に点在する平原地帯。
冒険者パーティ【紺碧の刃剣】に属する三人は、息を切らしながら必死に逃げていた。
逃げて、逃げて、逃げて、ようやく拠点に転がり込めた頃には疲労困憊で、ルインは地面に身体を投げ出すように寝転がった。
「ゼー……ハァー……ゼー……ハァー…….、ヒルダ、スコット……無事か……?」
後ろを確かめる暇もなく逃げ出してきたので、スコットとヒルダと、あともう一人――リオの後釜として雇った銀級冒険者――が付いてきているか、ルインは上体を起こして見回す。
「な……なんとか、な……」
這々の体でスコットが拠点に入ってきて、ルインと同じように身体を地べたに投げ出す。
その後でヒルダも拠点に入ってきて、他の二人のように寝転びはしないものの、その場で座り込む。
「ルイン……」
弱々しい声で、ヒルダはルインの名を呼んだ。
「どうしたヒルダ?……いや、あいつ、『マイケル』は?」
数日前に、リオの後釜として雇った銀級冒険者の姿が見えないことに、ルインはヒルダの顔と拠点の出入り口を見比べる。
殿を務めていたわけではなかったはずだが。
「……マイケルはもう、ダメよ」
ヒルダの言う「ダメ」は、戦力になるかどうかのニュアンスではなかった。
逃げ遅れたのだ。
マイケルはもう、今回の討伐目標だった『サイクロプス』に喰われて腹の中だろう。
「は、はぁ!?あの野郎、どれだけ高い金払ってやったと……!」
大金を叩いて雇った銀級冒険者が、まるで役に立たないどころか無駄死にしたことに、ルインは怒った。
「思ったより使えない奴だったな、ハズレだったんじゃね?」
その横からスコットが皮肉げにそう言った。
そんなはずは無かったのだ。
リオのような、使いどころも使っているのかも分からない【タイム連打】ではなく、物理攻撃に特化した【パワーファイター】のスキルを持つマイケルの方が総合的な戦力になる……そのはずだった。
「クソッ、何が期待の銀級冒険者だ!リオの方がもっと上手く立ち回ってただろうが!」
ザッ、と地面に握り拳を叩き付けるルイン。
ところがどうだ?
大金を叩いて雇ったのに、いざ実戦になれば、ノロクサとした動きの大振りな攻撃ばかりで、ちょっとすばしっこい小型の魔物にも苦戦する始末だ。
大型の魔物の相手ならばと期待しても、結果はこのザマ。挙げ句、逃げ遅れてサイクロプスに喰われたのだろう。
金をもらうだけもらって、何の役にも立たないまま死にやがったのだ。
これなら、リオをパーティに残したままの方が遥かにマシだった。
「……ルイン、やっぱりリオを」
「言うな!!」
何か言いかけたヒルダを、ルインは声を大にして遮った。
「確かに、今回の依頼で言えばリオの方が良かったかもしれない。だが、これから先はどうなるか分からないだろ……!」
言い訳がましく理由を並べ立てるルインに、スコットは「ハッ」と鼻で嘲笑った。
「そうかぁ?「やっぱりリオを追放するんじゃなかった」って顔に書いてるぜ?」
「ぐっ、くくっ……ッ!」
スコットの言葉が図星だったのか、ルインは歯を軋ませて押し黙る。
「確かに、リオの【タイム連打】スキルはよく分からないものだったけど。それでもリオはスキルに頼らない戦い方で、私達と一緒に戦ってきた」
そこでヒルダは一度区切ってから。
「リオの【タイム連打】って、本当にハズレスキルだったのかしら?」
「ハズレスキルだ!ハズレスキルに決まってる!時を止めるだか言っていたが、あいつがそれを使いこなしていたことなんざ、一度も……」
「その【タイム連打】を使いこなしていたかも分からねぇようなリオが抜けたから、"こうなった“んだろ?」
声を荒げて反論するルインに、また横合いからスコットが水を差すように口を挟んだ。
「あーぁ、マイケルも運が無かったよなぁ。リオが抜けた途端、こんな目に遭っちまってさぁ」
結果論と言えば結果論だが、【紺碧の刃剣】を結成して以来、こんな無様な敗走などした覚えは無かったのに。
前夜に三人で話し合い、スコットとヒルダからは反対の色を示されながらも、『リオのためにと思って』決断し、【紺碧の刃剣】から追放したはずなのに、彼がいなくなった途端にこのザマだ。
何故だ何故だと、ルインは怒りと困惑が綯交ぜになる。
「と……とにかく!マイケルがハズレだっただけだ!クロスキングスに戻ったら、改めて勧誘だ!今度こそまともな銀級冒険者を雇うぞ!」
都合の悪い事実を誤魔化すように声を張り上げるルイン。
「見つかりゃいいな、"リオより強い“銀級冒険者が」
そんなルインを冷ややかな目で見やるスコット。
「………………はぁ」
半ば空中分解したような自分達の現状を、嘆くように溜め息をつくヒルダ。
ふと、夕立が近付いてきたのか、雨粒を感じ――間もなく土砂降りになった。
「……降ってきたか、ツイてないな」
雨に打たれて冷静になったのか、ルインから怒気が消え失せた。
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