タイム連打ってなんだよ(困惑)

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)

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17話 黒い虹色の鱗

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 アンドリューさんと話ながら買い物をしていると、いつのまにか日が暮れて来たので、そろそろ宿屋に戻って少し早めの夕食を取ろうかと思っていたら。

「うん?もう夕方か。お前さんら二人は、これからどうするんだ?」

 空が茜色に染まりつつあるのを見たアンドリューさんは、俺とアイリスがこの後どうするのかと訊ねてきた。

「この後は宿屋に戻って、少し早いですけど先に夕食を取ろうかなと」

 考えていたことをそのまま話すと、アンドリューさんは「ふむ」と頷いた。

「そうかそうか。なら、今晩はオレに付き合うつもりはないか?」

「付き合う、ですか?」

 アイリスは頭に疑問符を浮かべている。

「ようは、今日の晩飯はオレと一緒にどうだって話だ。ついでに酒の肴に話でも付き合ってくれ」

 もちろんオレの奢りだぞ、と付け足すアンドリューさん。
 それはいい提案だ。絡み酒になるかもしれないが、タダ飯はそれだけでありがたい。
 タダより安いものは無いからな、そのためなら酔っ払ったおっさんの相手くらい手数料みたいなもんだ。
 だがひとつ懸念がある。

「酒……俺は18だから大丈夫ですけど、アイリスはまだ17だったな?」

「はい。厳密には今年で17なので、実年齢はまだ16です」

 アバローナ王国の法律では、飲酒喫煙を許される成人扱いは男女ともに18歳からだ。
 アイリスは酒の席に着かせても飲めない、と言うことを挙げると。

「なぁに、付き合ってほしいのは話し相手としてだ。お嬢さんに酒を飲ませるつもりはないから安心してくれ」

「それなら、まぁ。アイリスもいいか?」

「はい、あ、でもっ、自分の食事代は自分でお支払いしますから」

 アンドリューさんの奢りであることを思い出したのか、慌てて自分の分は自分で払うと付け足すアイリス。

「ハッハハッ!構わんぞ、好きな物を好きなだけ食べるといい!」

「いえ、その、でも……」

 躊躇するアイリス。
 勝手な想像だが、施しに対して対価を支払うことをきちんと教育されて来たんだろう。
 いいご両親に育てられたんだな、そこは少し羨ましいものがある。
 とは言えこのままでは話が進まないので、助け船を出そう。

「アイリス、アンドリューさんがいいって言ってるんだ。ここは御相伴に預からせていただくのが、人付き合いってやつだ」
 
「えぇと……いいのでしょうか?」

 アイリスは顔色を窺うようにアンドリューさんに向き直るが、

「おうとも、さっきちょうど良さげな店を見つけてな。今日の晩餐はそこでしようと思っていたんだ」

 さぁ行くぞ、とアンドリューさんは有無を言わさず意気揚々と歩き出したので、俺とアイリスも慌てて一歩後ろを追う。



 アンドリューさんに案内されて来たのは、大通りからは少し外れた位置にある、穴場のような店だった。
 穴場のような場所と言っても、荒くれ者や破落戸の溜まり場となっているわけではない、数人の客が静かに食事をしているだけの、落ち着いた雰囲気がある。
 ここならアイリスにとって居心地が悪いと言うことは無いだろう。

 テーブル席について、各々が食べたい物を注文したところで。

「そう言えば、商隊長さんが商隊を率いているのはいつ頃からなのですか?」

 お冷やを口にしつつ、アイリスがアンドリューさんにそう訊ねた。

「ん?話すとちと長くなるが……まぁ、飯と酒を待つまでのいい時間潰しになるか」

 そうだな、と前置きを置いてから。

「オレは元々、【エンペラル帝国】の【帝都キャピターレ】の出身でな。帝国の書記官として真面目に勤務していたんだが、オレが若い頃……今から50年ほど前か、帝都でこう言うものを見つけてな」

 そう言って、アンドリューさんは懐に手を伸ばして、手のひらサイズのそれをテーブルの上に置いて見せた。



 一目見たそれは、"真っ黒な鱗“。

 しかし光の反射角度によっては様々な色にも透けて見える。
 アイリスも同じように見えているのか、角度を変えたりして黒鱗を見ている。

「魔物の鱗、と言うのはなんとなく分かりますが、不思議な色をしていますね」

 虹色にも見えるし、光を反射しない漆黒にも見える、――"黒い虹色“と言う、不思議な色彩を放っている。

「そう、魔物の鱗に違いはないはずだが、こいつの持ち主が分からなくてな。特定してみようと高位の鑑定士にも鑑定してもらったんだが、"不明“と言う結果が出たんだ」

「不明?そんなこともあるんですね?」

 俺が知る限りでは、鑑定スキルは【物質】【生物】【環境】の三つに分類されており、基本的にはこの三つの内のひとつを鑑定出来るようになるというもので、最も一般的に鑑定士に求められるのは【物質】だ。
 読み取った物質の詳細情報などを確認出来るので、国宝や美術品の真偽も確かめられるのだ。
 ちなみに冒険者ギルドの受付嬢の資格に必要なのも、この【物質】だ。
 ごく稀に、複数の鑑定スキルを持つ者もいるらしいが……俺は見たことがない。

 だが、アンドリューさんが言うには、高位の鑑定士による【物質】の鑑定スキルを用いても"不明“と言う結果が出たらしい。

「そうだ。鑑定スキルでは分からんと言うことで、帝国内のありとあらゆる文献なども調べてみたが、それでも何も分からなかった」

「もしかして、商隊長さんはこの黒い鱗を持つ魔物の正体を確かめるために?」

 アイリスはアンドリューさんが商隊を率いている理由をそう読み取った。

「その通り!最初は大陸中を一人で旅して回るつもりだったんだが、旅を続けていく内にそれだけでは早晩限界が来ると思って、金稼ぎのために商人の真似事を始めてみると、これがなかなか面白くてな!」

 ついでに旨い飯や酒も味わえるから、いつしかそっちが主な目的になっていたな、と笑うアンドリューさんだが、

「だが、いつかはこの黒い虹色の鱗を持つ魔物を、この目で見てみたいとも思っている。それがオレの、商隊を率いている理由だ」

 初老の男でありながら、黒い虹色の鱗を見るその目は少年のように輝いていた。
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