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第一節「全て始まり 地に還れ 命を手に」
~眠り を 誘いて~
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統也の両親に事実を伝え、勇が帰宅を果たす。
しかし未だに洗面所から剣聖と父親の声が。
どうやら家を出た事はまだバレていないらしい。
とはいえ、どうせ後日には発覚するだろうけども。
ただ剣聖の好意(?)を無駄にする訳にもいかない。
なので心の中で感謝しつつ、自室の在る二階へと静かに上がる。
時間はもう深夜の十二時前。
そんな時間まで動き続けていたからさすがに疲弊も隠せない。
だからか、ようやくベッドへと倒れ込めば着替える事も無く布団の中へ。
でも、どうしても寝付けなかった。
どうにも頭の中のモヤモヤが晴れなくて。
身体は睡眠を求めているはずなのに。
それでも剣道の練習で疲れた時は大抵爆睡なのだが。
「統也はもう居ないんだよな……」
それはきっと勇が心を整理しきれていないから。
統也の行為が強い心残りになり、意識を留めて離さないのだろう。
だからこうして呟いて自問自答している。
まるで自身へ現実を刷り込むかの様に。
統也が突然居なくなった。
世界が突然変わった。
魔者が突然世に解き放たれた。
何もかもが現実味を欠いていて、夢だとさえ思えてしまう。
こうして刷り込まないと何が現実かわからなくなってしまいそうで。
加えて昼間の剣聖の言葉が繰り返し胸を突いてくる。
―――そいつの運が悪かったってぇだけだろ―――
するとたちまち意識が昂ってしまう。
その言葉を認めたくなくて、覆す理由を求めてしまって。
「運が無かったって言うなら俺はどうして生き残れたんだ。 俺はあいつが守ってくれたからここに居られるんだろ」
例え剣聖の言葉であっても、そこだけは認められなくて。
その一言を覆す答えを求めて思考を続ける。
悩むたびに何度も何度も寝返りを打った。
でも答えは見つからない。
そして巡り巡って元に戻るのだ。
「じゃあなんで俺じゃなくて特別な人間の統也が居なくなったんだ」と。
これはきっと勇の中に答えが無いからなのだろう。
あるいは、答えに足る言葉が無いか。
故に、気付けば眠る事を諦めていた。
淡く灯る薄月をただ眺め、無い答えを求めて。
ギシ、ギシ……
するとそんな時、微かな軋み音が床を伝ってやってくる。
誰かが階段を上がって来たのだ。
だとすればきっと父親だろう。
ようやく〝剣聖洗い〟を済ませたといった所か。
なら来るのはきっと勇の部屋に違いない。
寝床を一時的に寝室から勇の部屋へと移したので。
女の子であるちゃなへの配慮である。
ガチャリ……
案の定その通りだった様で、扉がゆっくりと開かれる事に。
勇が寝ていると思っているのか、動作の何一つとっても静かだ。
「起きてるよ」
勇も気付いていたから、遠慮も無しに悟らせて。
起きていると知った父親も室内へそそくさと足を踏み入れる。
「本当は書斎で寝ても良かったんだけどな、なんならそうするか?」
父親が妙に気を遣うのはやはり年頃の息子相手だからだろうか。
けれど勇はそれを否定するのもなんだか面倒で。
「別に構わないよ」
「お、そうか……じゃあここで寝かしてもらうよ」
いや、これはきっと勇なりの感謝の形だったのだろう。
ここに布団を用意したのは父親で。
ちゃなや剣聖用にもしっかり用意してくれた。
その努力を無為にしたくなかったから。
父親もそんな勇の素っ気ない態度を前に怒る事無く。
好意に甘え、床に敷かれた布団へと潜る。
「そういえば統也君の事は―――」
「もう行ってきた。 親父が色々やってる間に」
「そ、そうか……」
ついでに事実も伝えてさっさと面倒を振り払う。
心なしか、父親の方は力になれなかったのが残念そうだけれど。
すると、そんな父親がこれみよがしにと勇へ振り向いていて。
そんな顔にはニコリとした笑みが。
「いやぁ、剣聖さんの体はでかかったなぁ。 背中流すのも一苦労だったよ」
恐らく、勇を心配しているのだろう。
昼間の惨事で苦しんではいないかと思って。
親なりの配慮だ。
「あの人はほんと熊みたいな人だからな、何もかも。 全部洗いきれたの?」
「それがなぁ、本人が『タオルなんかしゃらくせぇ、これが丁度いい』とか何とか言って風呂掃除用のブラシを使えって言うんだよ」
「マジかよ、何でもアリだなあの人」
「でもどう考えても人二人分なんざ入る訳が無いから、お父さん外からブラシでゴッシゴシとだなぁ……」
「はは、どおりで時間掛かる訳だ」
それに、きっと語りたかったに違いない。
それだけ〝剣聖洗い〟が重労働だったから。
聴くに、まるで象の掃除である。
でもきっと彼は象なんかよりずっと強いだろうから、些細な悩みなど何も無いのだろう。
そんな一言を最後に口が噤み。
たちまち二人の会話がプツリと途切れる。
楽しい会話でも、勇の悩みを断ち切るまでには至らなかったらしい。
だからか、勇は再び先程と同じ事を考え始めていて。
父親との会話で生まれた笑顔も、気付かぬ内に沈んだ表情へと戻っていく。
「どうした、なんか悩みでもあるのか?」
しかしそんな時、父親の一言が再び勇の心を見透かした。
それはきっと勇がわかりやすい性格だからなのだろう。
さっきと同じ様に押し黙っていて。
剣聖の入浴の話題も感情の起伏が浅かったから。
でもそれが勇には一つの救いだったのかもしれない。
自分ではどうしても答えが出なかったから。
誰かに解いてもらいたいと思う程に悩んでいたから。
普段ならきっと「何でもない」と済ませていただろう。
でも考えたくなくなる程に疲れていて。
それに、ここまでしてくれた父親を否定したくなかったから。
そんな心が自然と、悩みを思うがままに曝け出させていた。
「あのさ……人を守るって、無駄なのかな」
そうして放たれた一言はまるで哲学のよう。
一つではない答えが散りばめられた、とても曖昧な質問だったから。
父親もその質問を前に喉を唸らせて考えを巡らせていて。
けれど答えは一向に返らない。
勇に期待する事を諦めさせる程に長く。
ごろりと寝返りを打ち、窓の外へと視線を戻す。
見上げれば相変わらずの薄月と、星も見えない漆黒の闇が広がっていて。
その様子は迷いに迷う勇の心の様に掴み所が無い。
きっとこの答えはこの夜空の星の様に、見つからないのだろう。
見つかっても、掴む事は出来ないのだろう。
そんな想いが勇の心に広がっていく。
だがそんな想いを巡らしていた矢先―――
「それは守る人にしかわからないんじゃないかな?」
「え?」
父親が満を辞してその口を開いたのだ。
しかしそれは質問同様にとても曖昧な回答で。
〝結論は出せない〟、そうともとれる一言だった。
「守る人はなんでそれを守ろうとするのか、人によって理由は変わってくるだろう?」
それでも勇はその先が気になって仕方が無くて。
気付けば静かに、父親の言葉へ聞き耳を立てる姿がここに。
「好きな人を守る為とか、お金の為とか。 もしかしたら有名になりたいなんていう理由だってあるかもしれない」
ただこれは至極当然な答えだ。
そういった意欲が人を動かし、守るという行動に移させる。
でもそれは結局は自分の私利私欲に変わりは無い。
例え好きな人を守る為でも、例え世界を守る為でも。
それは相手が望んだ事ではなく、自己犠牲という自己満足が呼び込んだ結果に過ぎないのだから。
だからこそ剣聖はこう言ったのだ。
〝仇討ちに縛られるなど無駄〟なのだと。
そこにあるのはただの復元的自己満足。
マイナスに寄った感情を基準値に戻すだけの行為に過ぎない。
そこからプラス―――つまり自分にとって明日に繋げる意欲的な力にはならない。
精々安心を呼び込むだけだ。
〝ああ、こうなって良かったな〟とだけ。
「守れなかったら無駄だよね、それ」
だけど死ねばマイナスだけが残る。
死んだ方も、仇討ちを頼まれた方も。
結局、結果的にどう転んでも無駄なのだと。
それが勇にこの様な結論をもたらしていた。
結果だけを求めた末の極論を。
それが真理で、恩人の言い放った一言だったから信じるしかなくて。
でもそれを否定したい自分が居て。
父親がそれを汲み取ったかどうかはわからない。
けれどきっと、彼もまた勇と同じ想いを持っていたのだろう。
だからその先の答えではなく。
その前の答えに重きを置いたのだ。
「だから無駄にならない様に、後悔しない様に守るんじゃないかなぁ。 結果ありきじゃあなく、経過が大事なんだよ」
「あ……」
「自分を犠牲にしてまで守りたい物があるなら、きっとそれはその人が一番守りたい存在だったって事なんだろうなぁってお父さんは願うよ」
「願うのかよ……」
「だってその方が気楽だろ? 気持ちだっていい意味で通じるしな」
「うん」
人は結果に重きを置きがちだ。
結果が伴わないから無駄。
結果が優れないから無駄。
そうして無駄を省いたつもりで経過をおざなりにする。
でもそれは気付いていないだけだ。
その経過、途上で起きた事で何を学んだのかを。
その経過を見るだけで、そこで何が起きたのかを予想する事が出来る。
人の気持ちも、そこで察する事が出来るのだから。
―――
統也は自分が死ぬかもしれないとしても俺の事を守ろうとしてくれた。
統也が俺を守りたいと思ったから。
自分を犠牲にしてでも。
それを知っているのは統也だけだし、俺はそう願いたい。
きっと俺が逆の立場だったらそうするだろうから。
俺を守ってくれた統也の行為が運だと言うのなら、俺はそれを否定する。
統也が命懸けで守ってくれたこの命は。
統也が守りたいと思って繋いでくれたこの命は、決して運で繋いだ物では無いんだって。
―――
すると途端、勇の意識が「スゥー」と遠のいていく。
悩みを象るパズルの穴に、ようやく答えが嵌ったからだろう。
昼間の疲れと、色んな感情の渦巻きと、皆で笑いあった事と。
そして久しぶりの父親とのまともな会話が出来て。
短かったが、そのお陰で大事な事に気付かせてくれたから。
それが嬉しくて、心地よくて。
静かな夜が街を眠りへと誘おう。
いつの間にか皆が寝静まり、人も獣も明日に備える。
夜が明け、日がまた昇るとき、彼等はまた……戦いへ赴くのだろうか―――
第一節 完
しかし未だに洗面所から剣聖と父親の声が。
どうやら家を出た事はまだバレていないらしい。
とはいえ、どうせ後日には発覚するだろうけども。
ただ剣聖の好意(?)を無駄にする訳にもいかない。
なので心の中で感謝しつつ、自室の在る二階へと静かに上がる。
時間はもう深夜の十二時前。
そんな時間まで動き続けていたからさすがに疲弊も隠せない。
だからか、ようやくベッドへと倒れ込めば着替える事も無く布団の中へ。
でも、どうしても寝付けなかった。
どうにも頭の中のモヤモヤが晴れなくて。
身体は睡眠を求めているはずなのに。
それでも剣道の練習で疲れた時は大抵爆睡なのだが。
「統也はもう居ないんだよな……」
それはきっと勇が心を整理しきれていないから。
統也の行為が強い心残りになり、意識を留めて離さないのだろう。
だからこうして呟いて自問自答している。
まるで自身へ現実を刷り込むかの様に。
統也が突然居なくなった。
世界が突然変わった。
魔者が突然世に解き放たれた。
何もかもが現実味を欠いていて、夢だとさえ思えてしまう。
こうして刷り込まないと何が現実かわからなくなってしまいそうで。
加えて昼間の剣聖の言葉が繰り返し胸を突いてくる。
―――そいつの運が悪かったってぇだけだろ―――
するとたちまち意識が昂ってしまう。
その言葉を認めたくなくて、覆す理由を求めてしまって。
「運が無かったって言うなら俺はどうして生き残れたんだ。 俺はあいつが守ってくれたからここに居られるんだろ」
例え剣聖の言葉であっても、そこだけは認められなくて。
その一言を覆す答えを求めて思考を続ける。
悩むたびに何度も何度も寝返りを打った。
でも答えは見つからない。
そして巡り巡って元に戻るのだ。
「じゃあなんで俺じゃなくて特別な人間の統也が居なくなったんだ」と。
これはきっと勇の中に答えが無いからなのだろう。
あるいは、答えに足る言葉が無いか。
故に、気付けば眠る事を諦めていた。
淡く灯る薄月をただ眺め、無い答えを求めて。
ギシ、ギシ……
するとそんな時、微かな軋み音が床を伝ってやってくる。
誰かが階段を上がって来たのだ。
だとすればきっと父親だろう。
ようやく〝剣聖洗い〟を済ませたといった所か。
なら来るのはきっと勇の部屋に違いない。
寝床を一時的に寝室から勇の部屋へと移したので。
女の子であるちゃなへの配慮である。
ガチャリ……
案の定その通りだった様で、扉がゆっくりと開かれる事に。
勇が寝ていると思っているのか、動作の何一つとっても静かだ。
「起きてるよ」
勇も気付いていたから、遠慮も無しに悟らせて。
起きていると知った父親も室内へそそくさと足を踏み入れる。
「本当は書斎で寝ても良かったんだけどな、なんならそうするか?」
父親が妙に気を遣うのはやはり年頃の息子相手だからだろうか。
けれど勇はそれを否定するのもなんだか面倒で。
「別に構わないよ」
「お、そうか……じゃあここで寝かしてもらうよ」
いや、これはきっと勇なりの感謝の形だったのだろう。
ここに布団を用意したのは父親で。
ちゃなや剣聖用にもしっかり用意してくれた。
その努力を無為にしたくなかったから。
父親もそんな勇の素っ気ない態度を前に怒る事無く。
好意に甘え、床に敷かれた布団へと潜る。
「そういえば統也君の事は―――」
「もう行ってきた。 親父が色々やってる間に」
「そ、そうか……」
ついでに事実も伝えてさっさと面倒を振り払う。
心なしか、父親の方は力になれなかったのが残念そうだけれど。
すると、そんな父親がこれみよがしにと勇へ振り向いていて。
そんな顔にはニコリとした笑みが。
「いやぁ、剣聖さんの体はでかかったなぁ。 背中流すのも一苦労だったよ」
恐らく、勇を心配しているのだろう。
昼間の惨事で苦しんではいないかと思って。
親なりの配慮だ。
「あの人はほんと熊みたいな人だからな、何もかも。 全部洗いきれたの?」
「それがなぁ、本人が『タオルなんかしゃらくせぇ、これが丁度いい』とか何とか言って風呂掃除用のブラシを使えって言うんだよ」
「マジかよ、何でもアリだなあの人」
「でもどう考えても人二人分なんざ入る訳が無いから、お父さん外からブラシでゴッシゴシとだなぁ……」
「はは、どおりで時間掛かる訳だ」
それに、きっと語りたかったに違いない。
それだけ〝剣聖洗い〟が重労働だったから。
聴くに、まるで象の掃除である。
でもきっと彼は象なんかよりずっと強いだろうから、些細な悩みなど何も無いのだろう。
そんな一言を最後に口が噤み。
たちまち二人の会話がプツリと途切れる。
楽しい会話でも、勇の悩みを断ち切るまでには至らなかったらしい。
だからか、勇は再び先程と同じ事を考え始めていて。
父親との会話で生まれた笑顔も、気付かぬ内に沈んだ表情へと戻っていく。
「どうした、なんか悩みでもあるのか?」
しかしそんな時、父親の一言が再び勇の心を見透かした。
それはきっと勇がわかりやすい性格だからなのだろう。
さっきと同じ様に押し黙っていて。
剣聖の入浴の話題も感情の起伏が浅かったから。
でもそれが勇には一つの救いだったのかもしれない。
自分ではどうしても答えが出なかったから。
誰かに解いてもらいたいと思う程に悩んでいたから。
普段ならきっと「何でもない」と済ませていただろう。
でも考えたくなくなる程に疲れていて。
それに、ここまでしてくれた父親を否定したくなかったから。
そんな心が自然と、悩みを思うがままに曝け出させていた。
「あのさ……人を守るって、無駄なのかな」
そうして放たれた一言はまるで哲学のよう。
一つではない答えが散りばめられた、とても曖昧な質問だったから。
父親もその質問を前に喉を唸らせて考えを巡らせていて。
けれど答えは一向に返らない。
勇に期待する事を諦めさせる程に長く。
ごろりと寝返りを打ち、窓の外へと視線を戻す。
見上げれば相変わらずの薄月と、星も見えない漆黒の闇が広がっていて。
その様子は迷いに迷う勇の心の様に掴み所が無い。
きっとこの答えはこの夜空の星の様に、見つからないのだろう。
見つかっても、掴む事は出来ないのだろう。
そんな想いが勇の心に広がっていく。
だがそんな想いを巡らしていた矢先―――
「それは守る人にしかわからないんじゃないかな?」
「え?」
父親が満を辞してその口を開いたのだ。
しかしそれは質問同様にとても曖昧な回答で。
〝結論は出せない〟、そうともとれる一言だった。
「守る人はなんでそれを守ろうとするのか、人によって理由は変わってくるだろう?」
それでも勇はその先が気になって仕方が無くて。
気付けば静かに、父親の言葉へ聞き耳を立てる姿がここに。
「好きな人を守る為とか、お金の為とか。 もしかしたら有名になりたいなんていう理由だってあるかもしれない」
ただこれは至極当然な答えだ。
そういった意欲が人を動かし、守るという行動に移させる。
でもそれは結局は自分の私利私欲に変わりは無い。
例え好きな人を守る為でも、例え世界を守る為でも。
それは相手が望んだ事ではなく、自己犠牲という自己満足が呼び込んだ結果に過ぎないのだから。
だからこそ剣聖はこう言ったのだ。
〝仇討ちに縛られるなど無駄〟なのだと。
そこにあるのはただの復元的自己満足。
マイナスに寄った感情を基準値に戻すだけの行為に過ぎない。
そこからプラス―――つまり自分にとって明日に繋げる意欲的な力にはならない。
精々安心を呼び込むだけだ。
〝ああ、こうなって良かったな〟とだけ。
「守れなかったら無駄だよね、それ」
だけど死ねばマイナスだけが残る。
死んだ方も、仇討ちを頼まれた方も。
結局、結果的にどう転んでも無駄なのだと。
それが勇にこの様な結論をもたらしていた。
結果だけを求めた末の極論を。
それが真理で、恩人の言い放った一言だったから信じるしかなくて。
でもそれを否定したい自分が居て。
父親がそれを汲み取ったかどうかはわからない。
けれどきっと、彼もまた勇と同じ想いを持っていたのだろう。
だからその先の答えではなく。
その前の答えに重きを置いたのだ。
「だから無駄にならない様に、後悔しない様に守るんじゃないかなぁ。 結果ありきじゃあなく、経過が大事なんだよ」
「あ……」
「自分を犠牲にしてまで守りたい物があるなら、きっとそれはその人が一番守りたい存在だったって事なんだろうなぁってお父さんは願うよ」
「願うのかよ……」
「だってその方が気楽だろ? 気持ちだっていい意味で通じるしな」
「うん」
人は結果に重きを置きがちだ。
結果が伴わないから無駄。
結果が優れないから無駄。
そうして無駄を省いたつもりで経過をおざなりにする。
でもそれは気付いていないだけだ。
その経過、途上で起きた事で何を学んだのかを。
その経過を見るだけで、そこで何が起きたのかを予想する事が出来る。
人の気持ちも、そこで察する事が出来るのだから。
―――
統也は自分が死ぬかもしれないとしても俺の事を守ろうとしてくれた。
統也が俺を守りたいと思ったから。
自分を犠牲にしてでも。
それを知っているのは統也だけだし、俺はそう願いたい。
きっと俺が逆の立場だったらそうするだろうから。
俺を守ってくれた統也の行為が運だと言うのなら、俺はそれを否定する。
統也が命懸けで守ってくれたこの命は。
統也が守りたいと思って繋いでくれたこの命は、決して運で繋いだ物では無いんだって。
―――
すると途端、勇の意識が「スゥー」と遠のいていく。
悩みを象るパズルの穴に、ようやく答えが嵌ったからだろう。
昼間の疲れと、色んな感情の渦巻きと、皆で笑いあった事と。
そして久しぶりの父親とのまともな会話が出来て。
短かったが、そのお陰で大事な事に気付かせてくれたから。
それが嬉しくて、心地よくて。
静かな夜が街を眠りへと誘おう。
いつの間にか皆が寝静まり、人も獣も明日に備える。
夜が明け、日がまた昇るとき、彼等はまた……戦いへ赴くのだろうか―――
第一節 完
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