時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
27 / 1,197
第一節「全て始まり 地に還れ 命を手に」

~誓い に 殉じて~

しおりを挟む
――――――
――――
――




 統也は昔からとても賢い子でね。
 教えた事を直感的に理解出来る子だったんだ。
 親の私達も驚く位に理解が速くて、何でも覚えて、何でもこなしてしまう。

 この子のそんな長所をもっと伸ばしたい、そんな欲が生まれる程にね。

 統也にあったのは才能で、他の人よりも少し能力が優れているだけに過ぎない。
 しかしいくら才能があっても努力を怠れば結局突き詰めた人間には敵わない。

 だからやりたいと望んだ事をやらせる一方で、努力する事も憶えさせようとしたんだ。

 何をするにも苦労が伴うものだ。
 その苦労を克服して、学んだ事を身に着けて。
 そこから余裕が生まれて新しい事へ挑戦し、突き詰めていく。

 それが努力なのだと。

 何かの習い事をする為にノルマを課したのもそうだ。
 統也もその事をすぐに理解してくれてね。
 ノルマも率先してやり遂げて、その上で自分のやりたい事もこなして。

 私達はそんなあの子にこれ以上無い期待を寄せたものさ。



 でも、それが間違いだったのかもしれない。



 統也が中学生に上がった頃からだろうか。
 その頃から、あいつは何もやらなくなってしまったんだ。

「努力しても意味がねェし」

 それがある日私達に言い放った一言だった。
 努力する事が嫌いな訳じゃない、とも言っていたけどね。

 私達にはその時、統也が何を言っているのかよくわからなかった。
 努力はするけど意味は無い……そんな訳が無いじゃないか、とね。

 私が弁護士をしているのは君も聞いているだろう?
 私も叩き上げの人間で、子供の頃から努力する事で今の立場を得たから。
 努力する事の強みはよく理解しているつもりだったんだけどね。

 でも本質はそこじゃあなかったんだ。

 統也も努力をしたかったんだろう。
 でも、努力する事で周りを置いて行ってしまう。
 そして誰も付いてこない。
 だから何かを始めても、すぐに辞めてしまった。

 何故なら、あいつが本当に欲しかったのは―――共に切磋琢磨し合える友達だったんだ。
 
 きっと大きな世界で見ればそんな相手も見つかるんだろう。
 しかし不運にも身近な所には居なくてね。
 大きなクラブに入れて挑戦させたりもしたけどダメだった。
 とある高名な先生の下に連れていったけど合うお弟子さんは居なかった。

 それは才能があったから、じゃない。
 努力し過ぎる事で何もかも追い越してしまったからなのさ。

 そんな事もあって、統也は塞ぎがちになっちゃってね。
 私達もその事実に気付いてもどうしようもなくて。
 食事の時間でも、ほとんど会話を交わす事すら無くなってしまったんだ。

 もう諦めていたよ。
 私達には何も出来ない。
 これは統也自身の問題なのだと。

 でもね、そんなある日の事―――

「父さん、俺、剣道習いてェんだけど」

 それは中学三年になったばかりの時だったかな。
 いきなりそんな事を言われて驚いたよ。
 中学生になってから習い事をしたいなんて言い出した事は無かったからね。

 とはいえ、本人が言い出した事だから無下にも出来ない。
 どうせ始めてもすぐ辞めるのだから大した出費でも無いだろうし。

 そんな軽い考えで承諾したものさ。

 けど、それから一ヵ月、二ヶ月……あいつは辞める事無く続けていた。
 こんなに長続きしたのは初めての事だったからね、私も妻もびっくりしていたよ。
 
 一体何が統也をやる気にさせたんだろうかって気にもなっていたけど。
 まぁそれもすぐにわかるんだけどね。

 ある日の夕食の時、統也はいきなりこう言いだしたんだ。

「俺、友達出来たよ。 勇って奴でさ」

 この一言には私達も唖然とするばかりだった。
 何せ今まで友達と呼べる友達は出来なかったんだから。

 統也は頭が良いから何でも論理的に考えて話せてしまう。
 いや、話してしまう、の方が正しいかな。

 結論が先に出るから言いたい事が伝わらなかったり、その事が極論だったりで。
 同学年の子と話しても、会話が成り立たないんだ。
 相手は子供だから感情を優先しがちで理屈を理解出来ないし。

 そんな統也に友達が出来たんだ。
 私達も嬉しくてしょうがなかったよ。

 それからというものの、統也は事あるごとに君の話をしていたものさ。

「勇はすげェ奴なんだぜ!」
「勇の奴、俺の動きに付いてきやがったんだ」

 口を開けば「勇」ばかりでね。
 もしかしたら私達は統也の次に君の事を知っている人物かもしれないな。

 それくらいに飽き飽きするほど聞かされたけど、悪くは無かったよ。
 気付けば夕食の団欒も昔みたいに明るさを取り戻していてね。

 いや、嬉しかったんだ。
 まるで私達の望んでいた生活がやっと訪れたみたいで。
 統也が私達の望んでいた姿になっていた事が。



 君の存在が私達の願いを叶えたんだ。
 


 近場の白代高校に通いたいって言いだした時、私達はピンときたね。
 「きっと勇君と同じ学校に行きたいんだろう」って。

 統也なら名門校に受かる事も難なく出来るだろうし、資金もあるから通わせられる。
 本人だってそこからキャリアアップが望める事くらいは知っているだろう。
 でも択ばなかった。
 わかり易い理由だったよ。

 キャリアよりも、肩書よりも。
 友達と同じ時間を過ごす事を選んだんだ。
 きっとそれが統也の最も望んだ事なんだろうな。

 だから止めなかったよ。
 妻は少し不満だったみたいだけどね。

 統也なら経歴くらい軽く覆せる事くらいわかっていたしな。
 


 それから……統也が高校生になった時かな。
 私とこんな話を交わしたよ。

「父さん、その、なんていうか……前は悪かったよ」

「いきなりどうしたんだ?」

「中学くらいの時の事さ。 色々連れてってもらったけど、身にならなかったじゃんか」

「あぁ、気にするな。 お前に合わなかっただけだしな。 でも今はそうじゃないだろ?」

「あァ……」

 剣道の道場通いは辞めたけど、君との繋がりは続いていて。
 剣道部での活動も順調だったし、君繋がりで別の友達も出来たって聞いていた。
 だからもう過去に悩んでいた事なんてどうでもよくなっていたよ。
 統也が楽しければそれでいいってね。

「昔の事は昔に考えていたからいい。 将来の事も将来考えればいい。 今は、勇君達と一緒に楽しい時を過ごす事が大事なんだろう?」

「あぁ」

「統也がそれだけの事を言う子なんだ、相当凄い奴なんだろうなぁ。 一度は会ってみたいものだよ」

「ははっ! 普段は冴えない奴なんだけどな。 いざって時がすげェんだ。 踏み出しも、勢いもさ」

「それ言うの何度目だァ?」

「何度でも言いたくなるって!! そうさ、アイツはそれだけすげェんだ。 俺でも説明しきれないくらいにさ」

 君の事を話す時だけは、さすがの統也も語彙力を失っていたよ。
 半ば興奮気味でね。

「アイツがいなきゃ俺はずっと塞ぎ込んだままだった。 何にもなれないクズのままだった。 そんな俺を、アイツはここまで変えてくれたんだ。 感謝してもしきれねェ……」

 ずっと気になって、後悔もしていたんだろう。
 自分が何にも向き合えない事を。

 だからこそ、統也は君に対して凄く感謝していたんだ。
 私達よりも、誰よりも。



「だから俺は、勇の為なら命を張れる。 俺を変えてくれたアイツの為ならなんだってやってみせる。 これは理屈なんかじゃねェ。 俺の……本心だ!」




――
――――
――――――





 統也の父親が語った背景は、勇も知らない事だった。
 けれどその話には、統也の想いがこれでもかと言う程ふんだんに詰まっていて。
 あの時庇ってくれた理由が痛い程よくわかるくらいに。

「―――そして統也は自分の言った事を実証して見せたんだ。 君を守る事で、その本心が嘘偽り無いものなんだってね」

「統也がそんな事を……」

「けどこうして君に逢えて、なんとなくわかった気がするよ。 統也が守りたかった〝勇〟がどんな人物なのかって事がね」

 そして父親も勇に会えた事で息子の本心がやっと理解出来た。
 実直なまでに素直なその態度を見て。
 嘘を感じさせないまでの想い籠った語りを聴いて。

 目の前の少年の特徴が、息子の語って来た存在と全てにおいて合致している事を。

「結果的には不幸になったのかもしれない。 でもあれだけ慕っていた君を助ける事が出来たのなら、これが統也の選んだ事なら私達は誇りに思いたい。 あいつは私達の誇る最高の息子なのだと」

「統也は、俺にとっても絶対に忘れる事の出来ない最高の親友です」

 勇もまた己の悲しみを押し込めて。
 胸を張り、自信を持ってこう答えよう。
 それが何よりもの両親への、そして統也への手向けとなるだろうから。

 悲しむ事よりも、辛さを見せるよりも……ずっと、ずっと。





 こうして勇は全てを伝えて統也の家を後にした。
 統也の秘めていた想いをも受け取って。

 それでも何故本当に庇ってくれたのかまではわからない。
 ただ有言実行したかったのか、それほど自分の事を想ってくれたのか。
 良い方に思いたくても、その気持ちを確かめる事はもう出来ないから。

 だからこそ迷いも残っている。
 統也は一体何を思って助けてくれたのか、と。

 けどもう伝えるべき人に全てを伝えられたから。
 なら後は前向きに考えよう。
 


 〝生きろ〟と言ってくれた統也へ報いる為に。
 辛さから逃避するのではなく、辛い過去と決別する為に。

 そして、今を大切にする為にも。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~

名無し
ファンタジー
 突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。  自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。  もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。  だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。  グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。  人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密

藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。 そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。 しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。 過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~

下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。 二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。 帝国は武力を求めていたのだ。 フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。 帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。 「ここから逃げて、田舎に籠るか」 給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。 帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。 鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。 「私も連れて行ってください、お兄様」 「いやだ」 止めるフェアに、強引なマトビア。 なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。 ※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。

処理中です...