時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第二節「知る心 少女の翼 指し示す道筋は」

~大集団を、釣り上げし囮~

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 ビルから出てきた勇達が緑に包まれた大通りを行く。

 信号は相変わらず光を灯し、誰も通らない道を虚しく指し示している。
 雑音の混じった歩行者向けの音楽をただ鳴らしながら。

 所々に無人の車が放置され、それも緑に混ざって微動だにすらしない。
 中は無事な様だが、持ち主は無事なのだろうか、それとも消えたのだろうか。
 そんな想いを不意に呼び起こさせてならない。

 ただ周辺には魔者の姿は無く、歩みは軽やかだ。
 ヴェイリの情報曰く、雑兵達は今、根城に集結しているとの事。
 今朝の自衛隊への反抗で満足していたそうな。

 とはいえ彼等ももしかしたら不安なのかもしれない。
 突如として知らぬ土地、奇妙な建物に囲まれてしまえば、人間ならば不安に思うのも仕方のない事なのだろうから。
 驚かずに居られる剣聖やヴェイリの様な存在の方が特殊だと言えよう。

「フジサキユウ君、地図は平気かな? 私は地理を覚えているから平気だが」

「平気です」

 そう言うとスマートフォンを取り出し、地図アプリを起動する。
 すると間も無く現在位置を浮かび上がらせていて。

「なるほど、それが君達の道具って事か」

 剣聖同様、ヴェイリが知らない道具に興味を示す。
 画面が指に沿って動く所をまじまじと眺め、好奇の声を漏らす様子がお隣に。

 地図を拡大して見せて間も無く、見覚えのある形状が姿を現す。
 そう、魔者達の根城がある大交差点だ。

「これが集合地点だとして……だとすると、これかな」

「ふむ、そうだ。 この場所、なんて書いてあるんだ?」

「コンサートホールって書いてますね」

 彼等ダッゾ族が根城としているのはいわゆる多目的コンサート会場。
 ミュージカルやオペラ、演奏会等を行う場所だ。
 その規模は球場などと比べれば小さいが、陣取る分には最適なのだろう。

 それを横から覗くヴェイリが脳内の地図と比較し整合性を確認する。

「そうだね、地図感からしてそこで間違いないと思う」

 ちゃなもスマートフォンを覗き込んで興味を見せていて。
 そんな中で答えが返り、三人の現実との認識がようやく重なり合う。

 地図が指し示す目標地点までの徒歩到着時刻は「残り12分」。

 既に目と鼻の先とも言えるこの場所で、三人はとうとうその道を分けようとしていた。

「ヴェイリさん、田中さんの事よろしくお願いします」

「任せてくれ、君も手筈通りによろしく頼んだよ」

 こうして彼等は二手に分かれ、それぞれの役割を果たす為に行動を始めたのだった。





◇◇◇





 勇と別れ、ヴェイリとちゃなが打ち合わせていた場所へと辿り着く。
 相変わらずの光景と静けさが二人の歩みを際立たせてならない。
 そこが先日まで街だったとは思えぬ程に。

タナカサンちゃなはこの辺りで隠れていて欲しい」

「はい、わかりました」

 ヴェイリが指し示したのは雑居ビル一階に構える一店で。
 ガラス張りの壁を有したカジュアルなジュエリーショップだ。
 それも珍しく姿形が変わらずに遺っているという。

 荒らされている形跡は無し。
 きっと魔者達が何の興味も示さなかったからだろう。
 当然無人で、店員や客は転移後に逃げ出たといった所か。

 逃げおおせたかどうかと言えばそれはわからないが。

 店を踏み入れると、置かれた貴金属や宝石に思わず目を惹かれる事に。
 年頃の女の子なのだ、そういった物に興味を抱くのは当然か。

 しかし特に盗ったりもせず、そのまま周囲から隠れる様に机の裏へと隠れる。
 それを確認したヴェイリは一人、合流地点の十字路へと向けて歩いて行ったのだった。





◇◇◇





 一方、勇は敵の集団が居ると思われるコンサートホールの近くへと辿り着いていた。
 路上には先程同様に車が混ざり置かれ、またツタが大きくうねる様に伸びてて障害物は多い。
 そのお陰か、勇は隠れながら近くまで寄る事が出来ていて。

 もちろん、自分の退路も確認済みだ。
 
 体力は有り余っており、ほんの少し走るくらいなら問題無し。
 付近を巡回する様な魔者もおらず、自由に動けたおかげだろう。
 地面も鬱蒼としているが、走れない程でも無い。
 例え途中で転んだりしても、今の落ち着いた勇なら即座にも立ち直せよう。

 ここまで来て、もう後戻りする気は無かったから。
 後は万全を期すだけだ。

 それも全て整い、勇が遂に目的地へと向けて歩み始める。
 雑兵達と思われる魔者達が列挙成す目的地、根城前コンサートホールへと。

「フゥ……フゥ……」

 視認出来る範囲だけでも三○人程。
 囲まれてしまえば万が一も無い程の数だ。
 それを目の前にした時、勇の息が緊張と高揚で荒くなる。

 しかし先日とは違い、思ったよりも苦しくはない。
 どちらかと言えば深呼吸に近い感じだ。

「やけに落ち着けてるな、よし……」

 それはもう確信にも近い。
 明らかに心が軽くなっていると。

 恐怖に馴れたのか。
 乗り越えて強くなったのか。

 それともこれも魔剣の力なのか。

〝生きて戻ったら剣聖かヴェイリにでも訊いてみよう〟
 そんな想いが脳裏を過る。
 勇の心にはそう思える程に余裕が生まれていたから。

 腰からそっと魔剣を抜き出し、柄に、刃にその手を充てる。
 「大丈夫、何も心配要らない」、そんな想いを胸に秘めながら。

 その時、図ったかの様に【エブレ】の珠がキラリと輝きを放っていて。
 それを不意に見かけた勇は、魔剣から勇気を分けて貰えた様に感じていた。

 ちなみにヴェイリからはこうアドバイスを貰っている。
 〝魔剣を見せつければ、魔剣を恐れた彼等が総出で襲ってくる〟と。
 その言葉を思い出し、意を決して彼等の前に姿を晒しながらゆっくりと歩いていく。
 一五〇メートル程の距離間だろうか、もう既に気付かれてもおかしくない距離だ。

 すると、遥か先に佇んでいた魔者達に動きが見える。
 勇に気付き始めたのだ。

 しかしすぐには寄ってこない。
 根城から離れない様にとでも言われているのだろうか。

 もちろん勇も見つけられた事に気付いている。
 魔者達が揃って指を差していたからだ。

 そこで歩みを止めて真っ向から対峙する。

 後は魔者達を呼び寄せ、合流地点まで運ぶだけだ。
 故に覚悟を決め、決意を定めて。
 とうとう手に取った魔剣を掲げ上げる。

 そして肺一杯の空気を全て吐き出すが如く、大声で叫ぶ。



「俺はッ……魔剣使いだあーーーッ!!」



 その叫びは魔者達の下だけに留まらず、ビルを合間を縫う程に大きく轟いた。
 近くの魔者だけでなく、遠くの者も呼び込むつもりだったからこそ、強く、強く。

 そして掲げられた魔剣を見た魔者達が一斉に騒ぎ立て始める。

「魔剣使いだ!」
「魔剣使いは俺達の敵だッ!!」
「殺せッ!! 魔剣使いは殺せェッ!!」

 そんな殺意を吐き出しながら。

 勇の耳にもそんな騒めきが届く。
 不思議と、先日のものよりもずっと鮮明に。

 すると少しづつその集団が勇に向かって足を踏み出し始めていて。

 他所の魔者達もまた釣られて集まり始めていた。
 それも、先頭集団へ追い着かんとばかりに走り出しながら。
 更には後続が追い付き始めると、その先頭集団もが速度を徐々に上げていくという。

 堪らず勇が顔を引きつらせて後ずさる程の迫力を以って。

「う、おお……やばいだろこれッ!?」



 その数はもう既に数えられない程になっていた。
 百? 二百?
 それくらいに思える程の魔者達が一挙にして勇へと向かってきたのである。



「うぅおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!??」

 慌てて踵を返すと、思いっきりその足を踏み出し全力で大地を蹴る。
 見紛うこと無き全速力フルスピードだ。
 そうでもしなければならない程に、勇の余裕は一瞬にして消え去っていたから。

 何せ、大勢の走り迫る足音が圧倒的過ぎたからこそ。

 大地を揺らし、ビルをも揺らさん程に「ドドド!!」と掻き鳴らす。
 それも一人一人が巨大で屈強な魔者という。
 それが百を超える集団で走れば街をも揺らせよう。

 その迫力は、想像を絶する程に凄まじかったのだ。

 決してスピードでは負けている訳ではない。
 むしろ勇の方が速い。
 でもそれで生まれる余裕すらも、勇からゴリゴリと削ぎ落していく。

 だが、それでも作戦成功には変わりない。
 根城を周辺に囲っていた雑兵達の全てが集まり、勇に向かっていたのだから。

 ただし、これでもかと言う程の殺気を撒き散らしながら。



ドドドドドド―――ッ!!



「うわぁあああああ!! さ、作戦通りにッ!!」

 叫び声を上げながら例の十字路へ向けて走り続ける。
 常に全力疾走、全身全霊、全速前進。
 そんな言葉を幾度と無く脳裏に過らせ、ブレーキを掛ける事すら考えさせない。

「くっそおおーーーーーー!! 追いつかれるもんかぁあーーーーーー!!!」

 勇が曲り道へ差し掛かった途端、蹴り上げる様にして曲がる。

 それを追う様に魔者集団が壁を削り取らんまでの勢いで強引に突っ込んでいく。
 路上に置き去りの車を踏み潰し、机や椅子やゴミ箱を弾き飛ばして。
 電柱や壁にぶつかって倒れる者までがいる中で。

―――もうすぐ、もうすぐだ!! 足を動かせぇー!!―――

 そんな中、勇が自身にそう言い聞かせて必死に走り続ける。

 とはいえ、予想以上に体力的には問題なかった様で。
 その速度は落ちる所か更に加速し、最後の十字路を曲がり終えられた。

 その先に見えるのは当然、合流地点の十字路だ。

「み、見えたッ!!!」

 最後の直線ラストスパートに全てを賭ける。
 そのまま勢いに身を任せて。

 続いて魔者達も負けじと曲がり角を滑る様に曲がっていく。
 アスファルトをも削り取りながら、勢いの余り転んだ仲間をも踏みつけ、弾きながら。
 とにかく互いに必死である。

 ただ、十字路まで行けばヴェイリが魔者を一掃してくれる手筈だ。
 その希望を一心に馳せて、全力で大地を踏み叩き続ける。

バギンッ!!

 その時生まれた道路の亀裂に気付く事も無いまま。

「あともうッ……少しッ……!!」

 両腕を交互に激しく振り上げ、前のめりで走る人影がビルの合間を駆け抜けて。
 それを今にも飲み込まんとする勢いで追う大集団が続く。

ズドゴゴゴゴ――――ッ!!

 もう残す距離は、殆ど無い。
 そう、十字路の角の先が見える程に迫っていたから。



 そして遂に―――勇が合流地点の十字路へと到達する。



「ヴェイリさんッ、今ですッッッ!!!!!」

 勇が叫び声を上げながら十字路を跳ねる様にして過ぎ去った。
 ならばと、大地を滑りながら強く振り返るのだった。 

 続けて訪れるであろうその一瞬に希望と期待を篭めて。


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