時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
205 / 1,197
第八節「心の色 人の形 力の先」

~発展、得た物は力だけじゃない~

しおりを挟む
 フェノーダラ城で繰り広げられた剣聖とのぶつかり合い。
 この戦いでの勝利は勇に大いなる変革をもたらす事となる。

 一つ目は命力に対する意識の改革。
 二つ目は【大地の楔】を得た事。

 命力とは意思の在り方次第で、その力の強弱を大きく変える。
 篭める意思をより単純スマートに、それでいて何重にも強く深く。
 ただそれだけではあるが、言う程に簡単ではないからこそ。
 その境地に至る事で、勇は魔剣使いとして飛躍的な進化を遂げたのである。

 更にその進化があの【大地の楔】をも許容した。

 触れた者の多くを気絶に追いやったという、忌まわしき逸話を持つ伝説の魔剣【大地の楔】。
 熟練の魔剣使いでさえも嫌悪する魔剣を、勇は自在に操る事が出来たのだ。

 以前のままでこの魔剣を手に取れば、きっと満足に戦う事も出来ずに負けていただろう。
 もしかしたら魔剣の力に心を塗り潰されて死んでいたかもしれない。

 でもその様な負の可能性さえも乗り越えられたから。
 勇は見事に剣聖を退け、アルライの里を守る事に成功したのだ。
 
 そしてその成功がもう一つのキッカケを呼び込む事となる。

 戦いの後、勇はエウリィとの触れ合いで気付いた。
 彼女と手と背中を合わせる事で、僅かながら体が軽くなった事に。

 これは決して勘違いでも、心が浮ついたからでも無い。
 間違いなく、戦いで疲弊した身体に力が戻っていて。
 まるでエウリィが命力を分けてくれたかのよう。

 いや、実際にそうだったのだろう。
 歩くのにも精一杯だった勇が、助力も得ずに帰る事が出来たのだから

 例えその様な些細な事でも、気付けばいつか新たな進化へと繋げられるかもしれない。
 そんなキッカケを貰ったから、勇にとってはもう一つの成長なのである。

 そう実感出来る程に元気を分けて貰えたから―――



 フェノーダラ城を跡目に、勇は満足気な微笑みを浮かべる事が出来たのだ。
 まるで、無動の青空にも足る穏やかさで。



 こうして全てを終え、一台の車がフェノーダラ城を後にする。
 まるで勇の勝利を讃えるかの様に、甲高いエンジン音を掻き鳴らしながら。
 
 そんな音が微かに届く、城のとある一室で。
 剣聖がベッドの上で寝転がる姿がそこにあった。

「へっ、なかなか退屈させねぇなぁこの世界はよぅ」

 その顔に笑みを浮かばせて。
 勇達の残した残滓に耳を傾け瞼を降ろす。

 その様子に先程までの荒々しさは欠片も残ってはいない。
 ただ静かに、戦いの余韻に浸りながら寝息を立てるのみ。
 
 秘められた想いを誰も気付かれぬままに。






 



 それから十日ほどが過ぎた八月中旬。

 空からの陽射しは一層強さを増していて。
 照り付ける光と、焼ける様な地熱が道行く人々の体力と気力さえも奪っていく。

 そんな真夏日、勇の家の前。
 そこに、家屋を見上げる数人の男達の姿が。

 揃いも揃ってブカブカのツナギを身に纏い。
 暑い中であろうが関係無く、反り返らんばかりに背筋を伸ばし。
 威風堂々と厳つい顔を見せつけて。

「よぉし、いっちょ始めるぞぉ!」
「「「おぉう!!」」」

 今日日聴かない掛け声を張り上げ、途端に勇の家の敷地内へと足を踏み入れていく。
 如何にも気合いの入った、きびきびとした身動きで。
 しかもそれぞれが仰々しい工具を携えながら。



 そんな彼等の肩には「小村建設」という文字が。



 そう、これは決して討ち入りでもお礼参りでもなんでもない。
 彼等はただ任せられた役目を果たしに来ただけだ。

 勇の家の改築リフォームという大仕事を果たす為に。



 では何故、こうも突然に改築という話になったのだろうか?

 そのキッカケはおおよそ一週間前の事。
 福留の訪れた時に起きた出来事が全ての始まりであった。
 




――――――
――――
――




「えっ、ちゃなさんには個室が無いのですか……?」

 それは福留が契約の話で訪れた際。
 ひょんな事が原因で、藤咲家にはちゃなの個室が無いという事実が公となった。

 それというのも―――
 大事な話の最中にも拘らず、ちゃなが夏休みの宿題を手掛けていたから。
 さすがに気になった福留が訪ねた所、その事実を今ここで初めて知ったのである。

 ちゃなはいつも、リビングか勇の部屋で勉強を行っている。
 それはもちろん彼女自身も受け入れている事なのだが。

 でも福留としてはどうやら容認出来ない所だった様で。

「うぅ~ん、これはいけません。 いけませんねぇ……仲が良いとはいえ、あくまでも他人同士で相手は年頃の女子です。 この状況は公人として見過ごす訳にはいきません」

「で、ですよねぇ~」 

 いつもならニコニコとしている福留が珍しく眉間を寄せていて。
 唸り声の様な警告を前に、勇の父親ももはやタジタジだ。

 家の大きさとはつまり、世帯主の社会的地位に順ずると言えよう。
 だが女の子の部屋一つも捻出出来ない父親に、雲上の存在たる福留への反論の余地は無い。

「面目ない……」

 一戸建てを持っているだけ、一般的には充分マシな方なのだが。
 その辺りの考えに大きな隔たりを持つ福留には、そんな理屈など通じるはずも無く。

 ただ―――考え無し、という訳ではなさそうだが。



「では、部屋を一つ増やしてしまうのは如何でしょうか?」



 とはいえ、その考えもやはり雲上クラスか。
 途端に放たれた一言は、たちまちリビングに静寂をもたらす事となる。
 勇達にとっては余りにも唐突で、突拍子も無い一言だったが故に。

「……へ?」

 いきなり「部屋を増やす」などと言われましても。
 勇達にはそれがどういう事かすぐに理解出来る訳も無く。

 これにはもはや勇の父親も思考停止状態で。
 今まで黙っていた勇と母親でさえも首を傾げるばかり。
 ちゃなに至っては、丸い目をひん剥いて呆然と見上げる姿が。

 ペンが床に転がっても気付かない程に、皆揃って呆気にとられた様だ。

「なに、簡単な事ですよ。 この敷地の大きさに対して家屋はまだまだ拡張性がありそうですから、部屋を増築してしまえばよいのです。 今までの勇君とちゃなさんの御給与を出せば難なく行えるでしょうし」

 対する福留はと言えば、得意気に人差し指を掲げていて。
 よほど自分の妙案に自信がある模様。
 それに、聞く限りではどうやら不可能ではなさそう。

「折角ですし、私の知り合いの施工業者を紹介致しますよ。 少々値は張りますが、この道一筋の職人さんですから安心して任せられます」

「おお……!」

 突然降って沸いた様な話だが、こうして蓋を開いてみれば割と現実的で。
 いざ二人が通帳を開いてみれば―――

 当然の如く、増築など訳無い金額がお目見えである。
 安い住宅程度なら一軒建てられる程には既に溜まっていたのだ。

 両親もなんとなく察していたとはいえ、実際の数字を前に驚きを隠せない。

「でもいいんですか? 私の部屋なんて作ってしまって……」

「出来るならあった方がいいんじゃないかな? それが出来るなら俺が全部だしてもいいくらいだよ。 どうせ使い道無いしさ」

「そうねぇ。 それにもしちゃなちゃんが出ていく時が来ても、物置にする事だって出来るし。 部屋が多いのはいい事よぉ?」

「うー……じゃあせめて私に出させてください」

 しかしそこは控えめなちゃなだからこそ。
 居候までさせてもらった上で部屋まで作ってもらうなんて、素直に納得出来る訳も無く。
 通帳を半ば強引に押し付ける様にして、自分が拠出する意思を見せつける。



 という訳で勇とちゃなが半分づつお金を出し合う事が決まり。
 親達も不甲斐なさを感じつつも、家の増築を決意したのだった。

 とはいえこのままタダで転ぶ勇達ではない。
 どうせだからと、増築だけでなく色んな綻びも修繕して貰う事にしたのだ。

 大きくなった車に対応する為に、駐車場の入り口を広げたり。
 痛んだ外装をまるっと張り替えて貰う事にして。
 おまけに剣聖が刻んだ玄関の名残も補修する事に。

 こうも決定してしまえば、後はもう早かった。

 翌日には施工業者の棟梁が直々に訪れ、すぐさま施工の契約と検討を開始。
 翌二日後には設計図が仕上がり、後はもう材料が入ればすぐにでも工事開始可能状態へ。

「なんたって福留先生の肝入りですからねぇ。 他の仕事の納期を遅らせてでも早期に仕上げますんで期待して頂いて構いませんぜ!」

 そこはやはり、さすがの福留の力か。
 この様な業者からの熱いお言葉をもらうまでに至ったという訳である。




――
――――
――――――





 という訳で、この日遂に工事開始。
 勇達が見守る中、家はあっという間に養生シートで覆われる事となったのである。

 もちろん家に住めない訳ではない。
 工事が行われる間、少し不便ではあろうが。

 工事の完了予定はおおよそ一か月後。
 ちゃなだけでなく勇達も、待ち遠しいその日を夢見て微笑みを浮かばせていた。



 成長と進歩。
 そして発展。

 勇の取り巻く環境は、ここにきて大きな変化を迎え始める。
 変容事件という負の変化から切り替わった人生は、こうして少しづつ良い方向へと進み始めたのだ。

 いつか来るかもしれない苦難を乗り越える為に。
 エウリィが願う空色の心を持ち続ける為に。



 今はただ人らしく―――日常を過ごせればそれでいい。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...