時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第八節「心の色 人の形 力の先」

~携帯、その資金源はいかほどに~

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 八月も後半へと差し掛かったその日、昼過ぎ。
 湿気を伴った空気と曇り空が、今にも雨を呼び込みそうな程に街を陰りを生んでいた。

 とはいえ、息苦しさがあっても刺す様な陽射しは無い。
 そのお陰か、大工達の動きもどこか軽快だ。

 未だ増築工事で外が騒がしい訳だが―――
 実は屋内も負けない程の賑やかさを伴っていた訳で。

 そう、あのお騒がせトリオ心輝達が訪れていたのである。

「いい加減携帯買い直せよぉ。 まーったく連絡出来ねぇし、何かあったらフォローも何もねぇだろぉ?」

 心輝がペンを片手でくるりと回しながら、そんな愚痴を堪らずポロリ。
 半ば呆れる様な顔付きで、遂にはビシッとペン先を勇へと向ける始末だ。
 これには向けられた当人も苦い顔を浮かべるしかない。

 そんな事で賑やかな彼等であるが、五人で折り畳み式の机を囲んでいて。
 先日のちゃなと同様にノートへとペンを走らせる姿が。



 彼等学生の本分は当然、勉学である。
 戦闘はいわば副業であって、その本分は決して忘れてはいけない。

 ……などという言い訳を基に心輝達が来訪。
 急遽、夏休みの宿題を一緒に推し進める事となったのである。

 と言っても、あずー以外はやる事をしっかりとやる性格な訳で。
 実際に行われたのは、作業結果のすり合わせ程度であるが。



「あー……スマホの事忘れてた。 福留さんから借りてたヤツで十分だったしさ」

「んな事言われると俺は悲しいよぉ~?」

 そんな作業もすぐに終わりを告げて。
 気付けばあずーとその面倒を見るちゃな以外でマッタリとした雰囲気に。
 
 先日宿題を終わらせたばかりの身であるちゃなとしては、きっと心中複雑な事だろう。

「家の増築で金出したから、もうあんまり残ってないんだよなー」

「買ってもらえねぇの?」

「全部が全部アンタの家みたいに裕福じゃないっての。 普通はバイトして買うもんでしょ」

 こうして気付けば携帯電話談義に。

 何せ勇はザサブ戦以来ずっと携帯電話を買い替えていない訳で。
 以降は当然、心輝達とまともな連絡を取っていない。
 勇としては面倒なメッセージを送られない平穏な日々だったのだが……

 でもこの様に話題に挙がってしまえば、もはや言い逃れなど出来る訳も無く。

 こうして結局、勇は皆と一緒に新しい携帯電話を見繕う事に。
 あずーの作業が一段落した所で、近所のショッピングモールへと足を運ぶ事となったのだった。





 今日は平日ともあって両親は不在だ。
 留守にするので、大工達に一声掛けてのお出掛けである。

「つか気軽に出てきたのはいいけどよ、予算どうなんだよ?」

「うーん、まぁスマホ買うくらいなら多分なんとかなるんじゃないかなぁ?」

「何その曖昧さ。 アンタどんだけお金貰ってんのよ……」

 ご存知の通り、勇の家からショッピングモールへは非常に近い。
 ともなればこうして揃って歩き行く事も珍しくはなく。

 そんな道中であろうとも話題は事欠かない。
 やはり皆気になってはいるのだろう。

 家を増築出来る程に稼いだという勇達の給与の事が。

「ま、まぁそれなりにね?」

「それなりって、一体幾らくらいなのよぉ~」

 でも残念ながら、これは相手が関係者であろうとも口外禁止とされている。
 そもそもが非公式かつ法外的な報償金であるが故に。
 例え事情を知る心輝達でも、こればかりは教えられないのだ。

 この場で具体的な金額を伝えられないのも、これが専らな理由である。
 決して給与額がわからない訳では無いという事だけは伝えておくとしよう。

 そんな話での盛り上がりも束の間、彼等の前に大きな建屋が姿を現す。
 大型国道を間に介そうとも関係無く存在感を示す、生活の友・ショッピングモールだ。

 藤咲家はここに設営された携帯電話店をよく利用している。
 かくいう、ちゃなのスマートフォンもそのお店で買った物で。 
 別段他のお店に行く理由も無いので、今回もそこで買う事にしたという訳だ。



 早速店舗に足を踏み入れれば、見えてくるのは当然見本市。
 注目の一品から型落ち機種までがズラリと並んだ棚がお目見えに。

 そして入ってすぐさま勇が手に取ったのは―――

「おいおい、しょっぱな見るのが【A-phoneVIII】かよぉ。 金持ちかよっ!!」

「いやまぁ、田中さんが買ってたのを見て気になってたからさ?」

 そう、ちゃなが持っている物と同じ、【APPO社】製品最新機種【A-phoneVIII】。
 しかもハイエンド仕様で、心輝でさえも簡単には手出し出来ない最高級の一品である。

「それなりって幾らくらいなのよ……ッ!」
「だから言えないって言ってるだろ?」

 しかもそんな物に手を出せば黙っていられないのが瀬玲という子で。
 もう既に決めた様な雰囲気を醸す勇を、指で執拗に突き回す。
 勇当人としては「もうやめよう?」と半ば呆れ気味だ。

「勇君勇君、これ私とお揃い!! これでいいじゃん!?」

 そんな時のあずーはと言えば―――店の端の端、型落ち機種コーナーで手を振る姿が。

 でも勇としては「買うならいい物を」と考えているので、そもそも型落ちには興味ナシ。
 「ハイハイ」と手を振り返しつつ、視線はすぐさま新型機種のスペック表へ。

 その傍らでは、ちゃなが得意気に自身のスマートフォンを見せびらかしていて。
 こんな時のぷっくりとした微笑みも、あずーにとってはもはや煽りにしかなりはしない。
 
 おまけに新型【Aphone】の価格設定を目前にすれば、真っ白に燃え尽きる事請け合いな訳で。

 相手にもされないあずー、今にも泣き出しそう。
 これがアルバイトもお小遣い稼ぎもしていない怠け者の末路である。

「C-52番のお客様~こちらへどうぞ」

「あ、俺だ。 ちょっと行ってくる」

 なお勇が【A-phoneVIII】を選んだのには、もちろんちゃんとした理由も存在する。
 【APPO社】の製品は他の商品と違って契約形態が異なっていて。
 メーカーまでも切り替えるとその辺りの契約更新が発生し、親の了承が必要となってくるからだ。

 それに余程の理由が無い限り、使い慣れたOSオペレーションシステムを変えたいとは普通思わない。
 加えて内部データは全て専用クラウドに保存済み。
 同じシリーズならば難しい操作をせずに電話帳などのデータ移行が可能だ。
 もちろん、「ちゃなちゃん」と刻んだ某電話番号も即座に復元される事になる。

 加えてもう一つ理由を言うなれば―――

「しっかしお前【Aphone】好きだなぁ。 なんでだよ?」

「好きっていうより、まぁ比較的使い易いからだよ」

 そう、なにより操作が楽なのだ。
 他の機種と比べると、最も感覚的に操作出来るからなのだそうな。

 ちなみに心輝と瀬玲は【EX-Tellseエクステルゼ】という機種を使っている。
 【APPO社】との二強とさえ呼ばれる国産メーカー【TONY社】製の有名機種だ。
 OSやアプリの拡張性に優れ、ギーク派オタクな心輝には持って来いの仕様だと言える。
 おまけに価格設定も良心的で、瀬玲が選んだのもこれが理由。
 ほんの少しバッテリーの持ちに不安はあるが、時代を駆ける一品には違いない。

 それを勇が選ばなかったのは、拡張性よりも利便性の方が重要だから。
 そういった各々の理由があるからこそ、【Aphone】は勇にとって一番理に適った機種なのだろう。



 という訳で手続きも済み、遂に【A-phoneVIII】が勇の手に渡った。
 新品独特の重厚な輝きは不思議と人の心を惹くもので。
 当初は乗り気じゃなかったはずの勇の顔にはにんまりとした笑みが浮かぶ。

 なんだかんだで欲しがっていた事には変わりない様だ。
 
「【RAIN】入れた?」

「あ、うん。 全部復元済みだよ」

 いざロックを解いてみれば、壊れる前に入れていたアプリアイコンが画面にずらりと。
 一ヵ月以上も持たなかった所為か、妙に懐かしささえ感じさせる。

 しかしそんな折、突然画面にメッセージ着信が。

『瀬玲:で、いくらもらったの?』

 いざ開いてみればこれである。
 しっかりプライベートメッセージで送ってくる辺りが如何にも彼女らしい。

 これにはさすがの勇も呆れるばかりだ。

『勇:もう使い切ったからわからない(天使のスタンプ)』
『瀬玲:(怒りのスタンプ)』

 と、冗談交じりに返せば―――
 もはやスタンプを見るまでも無く、隣で膨れっ面を浮かべる瀬玲の姿が。

「勇のケチィ」

「せめてこっちの事情も考えよう?」

 気になるのはいいのだが……
 こうしてしつこい程に気にし過ぎるのも困りものである。



 ただスマートフォンを買いに来ただけなのに。
 最初から最後までこんな調子が続き、結局家に着く頃にはやりとりだけで疲れ果て。

 「こんな事なら一人でスマホ買っとけば良かったなぁ」などと思ってならない勇なのであった。


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