時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
206 / 1,197
第八節「心の色 人の形 力の先」

~携帯、その資金源はいかほどに~

しおりを挟む
 八月も後半へと差し掛かったその日、昼過ぎ。
 湿気を伴った空気と曇り空が、今にも雨を呼び込みそうな程に街を陰りを生んでいた。

 とはいえ、息苦しさがあっても刺す様な陽射しは無い。
 そのお陰か、大工達の動きもどこか軽快だ。

 未だ増築工事で外が騒がしい訳だが―――
 実は屋内も負けない程の賑やかさを伴っていた訳で。

 そう、あのお騒がせトリオ心輝達が訪れていたのである。

「いい加減携帯買い直せよぉ。 まーったく連絡出来ねぇし、何かあったらフォローも何もねぇだろぉ?」

 心輝がペンを片手でくるりと回しながら、そんな愚痴を堪らずポロリ。
 半ば呆れる様な顔付きで、遂にはビシッとペン先を勇へと向ける始末だ。
 これには向けられた当人も苦い顔を浮かべるしかない。

 そんな事で賑やかな彼等であるが、五人で折り畳み式の机を囲んでいて。
 先日のちゃなと同様にノートへとペンを走らせる姿が。



 彼等学生の本分は当然、勉学である。
 戦闘はいわば副業であって、その本分は決して忘れてはいけない。

 ……などという言い訳を基に心輝達が来訪。
 急遽、夏休みの宿題を一緒に推し進める事となったのである。

 と言っても、あずー以外はやる事をしっかりとやる性格な訳で。
 実際に行われたのは、作業結果のすり合わせ程度であるが。



「あー……スマホの事忘れてた。 福留さんから借りてたヤツで十分だったしさ」

「んな事言われると俺は悲しいよぉ~?」

 そんな作業もすぐに終わりを告げて。
 気付けばあずーとその面倒を見るちゃな以外でマッタリとした雰囲気に。
 
 先日宿題を終わらせたばかりの身であるちゃなとしては、きっと心中複雑な事だろう。

「家の増築で金出したから、もうあんまり残ってないんだよなー」

「買ってもらえねぇの?」

「全部が全部アンタの家みたいに裕福じゃないっての。 普通はバイトして買うもんでしょ」

 こうして気付けば携帯電話談義に。

 何せ勇はザサブ戦以来ずっと携帯電話を買い替えていない訳で。
 以降は当然、心輝達とまともな連絡を取っていない。
 勇としては面倒なメッセージを送られない平穏な日々だったのだが……

 でもこの様に話題に挙がってしまえば、もはや言い逃れなど出来る訳も無く。

 こうして結局、勇は皆と一緒に新しい携帯電話を見繕う事に。
 あずーの作業が一段落した所で、近所のショッピングモールへと足を運ぶ事となったのだった。





 今日は平日ともあって両親は不在だ。
 留守にするので、大工達に一声掛けてのお出掛けである。

「つか気軽に出てきたのはいいけどよ、予算どうなんだよ?」

「うーん、まぁスマホ買うくらいなら多分なんとかなるんじゃないかなぁ?」

「何その曖昧さ。 アンタどんだけお金貰ってんのよ……」

 ご存知の通り、勇の家からショッピングモールへは非常に近い。
 ともなればこうして揃って歩き行く事も珍しくはなく。

 そんな道中であろうとも話題は事欠かない。
 やはり皆気になってはいるのだろう。

 家を増築出来る程に稼いだという勇達の給与の事が。

「ま、まぁそれなりにね?」

「それなりって、一体幾らくらいなのよぉ~」

 でも残念ながら、これは相手が関係者であろうとも口外禁止とされている。
 そもそもが非公式かつ法外的な報償金であるが故に。
 例え事情を知る心輝達でも、こればかりは教えられないのだ。

 この場で具体的な金額を伝えられないのも、これが専らな理由である。
 決して給与額がわからない訳では無いという事だけは伝えておくとしよう。

 そんな話での盛り上がりも束の間、彼等の前に大きな建屋が姿を現す。
 大型国道を間に介そうとも関係無く存在感を示す、生活の友・ショッピングモールだ。

 藤咲家はここに設営された携帯電話店をよく利用している。
 かくいう、ちゃなのスマートフォンもそのお店で買った物で。 
 別段他のお店に行く理由も無いので、今回もそこで買う事にしたという訳だ。



 早速店舗に足を踏み入れれば、見えてくるのは当然見本市。
 注目の一品から型落ち機種までがズラリと並んだ棚がお目見えに。

 そして入ってすぐさま勇が手に取ったのは―――

「おいおい、しょっぱな見るのが【A-phoneVIII】かよぉ。 金持ちかよっ!!」

「いやまぁ、田中さんが買ってたのを見て気になってたからさ?」

 そう、ちゃなが持っている物と同じ、【APPO社】製品最新機種【A-phoneVIII】。
 しかもハイエンド仕様で、心輝でさえも簡単には手出し出来ない最高級の一品である。

「それなりって幾らくらいなのよ……ッ!」
「だから言えないって言ってるだろ?」

 しかもそんな物に手を出せば黙っていられないのが瀬玲という子で。
 もう既に決めた様な雰囲気を醸す勇を、指で執拗に突き回す。
 勇当人としては「もうやめよう?」と半ば呆れ気味だ。

「勇君勇君、これ私とお揃い!! これでいいじゃん!?」

 そんな時のあずーはと言えば―――店の端の端、型落ち機種コーナーで手を振る姿が。

 でも勇としては「買うならいい物を」と考えているので、そもそも型落ちには興味ナシ。
 「ハイハイ」と手を振り返しつつ、視線はすぐさま新型機種のスペック表へ。

 その傍らでは、ちゃなが得意気に自身のスマートフォンを見せびらかしていて。
 こんな時のぷっくりとした微笑みも、あずーにとってはもはや煽りにしかなりはしない。
 
 おまけに新型【Aphone】の価格設定を目前にすれば、真っ白に燃え尽きる事請け合いな訳で。

 相手にもされないあずー、今にも泣き出しそう。
 これがアルバイトもお小遣い稼ぎもしていない怠け者の末路である。

「C-52番のお客様~こちらへどうぞ」

「あ、俺だ。 ちょっと行ってくる」

 なお勇が【A-phoneVIII】を選んだのには、もちろんちゃんとした理由も存在する。
 【APPO社】の製品は他の商品と違って契約形態が異なっていて。
 メーカーまでも切り替えるとその辺りの契約更新が発生し、親の了承が必要となってくるからだ。

 それに余程の理由が無い限り、使い慣れたOSオペレーションシステムを変えたいとは普通思わない。
 加えて内部データは全て専用クラウドに保存済み。
 同じシリーズならば難しい操作をせずに電話帳などのデータ移行が可能だ。
 もちろん、「ちゃなちゃん」と刻んだ某電話番号も即座に復元される事になる。

 加えてもう一つ理由を言うなれば―――

「しっかしお前【Aphone】好きだなぁ。 なんでだよ?」

「好きっていうより、まぁ比較的使い易いからだよ」

 そう、なにより操作が楽なのだ。
 他の機種と比べると、最も感覚的に操作出来るからなのだそうな。

 ちなみに心輝と瀬玲は【EX-Tellseエクステルゼ】という機種を使っている。
 【APPO社】との二強とさえ呼ばれる国産メーカー【TONY社】製の有名機種だ。
 OSやアプリの拡張性に優れ、ギーク派オタクな心輝には持って来いの仕様だと言える。
 おまけに価格設定も良心的で、瀬玲が選んだのもこれが理由。
 ほんの少しバッテリーの持ちに不安はあるが、時代を駆ける一品には違いない。

 それを勇が選ばなかったのは、拡張性よりも利便性の方が重要だから。
 そういった各々の理由があるからこそ、【Aphone】は勇にとって一番理に適った機種なのだろう。



 という訳で手続きも済み、遂に【A-phoneVIII】が勇の手に渡った。
 新品独特の重厚な輝きは不思議と人の心を惹くもので。
 当初は乗り気じゃなかったはずの勇の顔にはにんまりとした笑みが浮かぶ。

 なんだかんだで欲しがっていた事には変わりない様だ。
 
「【RAIN】入れた?」

「あ、うん。 全部復元済みだよ」

 いざロックを解いてみれば、壊れる前に入れていたアプリアイコンが画面にずらりと。
 一ヵ月以上も持たなかった所為か、妙に懐かしささえ感じさせる。

 しかしそんな折、突然画面にメッセージ着信が。

『瀬玲:で、いくらもらったの?』

 いざ開いてみればこれである。
 しっかりプライベートメッセージで送ってくる辺りが如何にも彼女らしい。

 これにはさすがの勇も呆れるばかりだ。

『勇:もう使い切ったからわからない(天使のスタンプ)』
『瀬玲:(怒りのスタンプ)』

 と、冗談交じりに返せば―――
 もはやスタンプを見るまでも無く、隣で膨れっ面を浮かべる瀬玲の姿が。

「勇のケチィ」

「せめてこっちの事情も考えよう?」

 気になるのはいいのだが……
 こうしてしつこい程に気にし過ぎるのも困りものである。



 ただスマートフォンを買いに来ただけなのに。
 最初から最後までこんな調子が続き、結局家に着く頃にはやりとりだけで疲れ果て。

 「こんな事なら一人でスマホ買っとけば良かったなぁ」などと思ってならない勇なのであった。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...