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第九節「人が結ぶ世界 白下の誓い 闇に消えぬ」
~陰艶たるその者と共に 説~
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ふと窓から大地を覗けば、そこはもう白銀の園が一面に広がっていた。
ヘリコプターが北海道北部へと到達したのだ。
始めは街並みばかりだったが、気付けばもう山岳部に入っていたらしい。
都市部から離れれば、自然と人の手が入らない場所が多くなる。
だからこその光景を前にして、勇もちゃなも何だか嬉しそう。
何せ初めての銀世界体験。
陽光をキラキラと煌かせるその風景に心躍らさせずにはいられようか。
しかし心躍る時間は長くも続かない。
山傍を飛んでいるという事はつまり〝目的地が近い〟という訳で。
「もう間も無く着きます。 お二人はフードとゴーグル、マスクの着用を。 現地人と話をするので、正体がバレないよう注意してください」
早速、福留からこんな声が掛かる。
ドゥーラの治療術の一件で興奮気味だったからか、想像以上に時間が過ぎていたらしい。
どうやら雪で盛り上がる暇も無さそうだ。
すると早速、機内に僅かな制動が生まれる。
航行から滞空へと切り替わったのだ。
その中で再び窓の外を覗けば、地表で粉雪が巻き上がっていて。
そんな白霧の中へ、遂にヘリコプターが着地を果たす。
到着だ。
そう示すサインを操縦士が手信号で送っていて。
気付いた福留が早速扉を開いて勇達を誘い出す。
とはいえ勇達ももう馴れたもので。
着陸脚を足蹴にして颯爽と飛び降り、数時間ぶりの大地へ足を付く。
僅かに残った雪を喜びと共に踏みしめながら。
ドゥーラも相変わらずだ。
幽霊の如くふわりと跳び上がり、布切れの様に降りる姿がここに。
前にもたれた上半身をゆらりと起こす様相は何だか、動く屍を彷彿とさせてくれる。
これさえ無ければまだまともに見えるのだが。
「まずはあの民宿へ。 目撃者であるオーナーから少し事情を聴きます。 皆さんは平然としていてください」
その中で福留が示した指の先には大きな建屋が幾つか。
スキー場最寄りの民宿な様で、見渡せばそれらしい看板が幾つかチラホラと。
雪をしっかり退けてる辺り、客入りは上々な模様。
もっとも、状況が状況とあって客の姿は全く見えないけれども。
その代わり、建屋から人が二人ほど揃って勇達に近づいてくる。
きっと福留の言う目撃者なのだろう。
よく見れば、その一人は年端も行かぬ子供を抱えていて。
「お待たせして申し訳ありません。 防衛省の者です。 貴方が連絡を下さった民宿のオーナー様で?」
「はい、そうです」
その子供を抱えた男がやってくると、一番に福留へとそう応える。
それもポケットからスマートフォンを取り出して。
例の画像を映した画像を見せながら。
「こ、これです」
「ええ確かに。 送付頂いた写真に相違なさそうですね。 それで、魔者が居た山はどちらに?」
「あの山がそうです。 先日そこの最寄りの傾斜に写真の者達が立っていまして。 それですぐに写真を撮って通報したんです」
「あれですか。 なるほど、写真と同じ景色ですね。 わかりました、後は我々にお任せください」
どうやら通報の真偽を確かめる必要もあった様だ。
まだ魔者を公表したばかりだからか、福留も慎重なのだろう。
今の世の中、混乱目的で虚偽通報する者も少なくは無いからこそ。
ただし、そうなれば魔者の話は真実味を帯びる。
男の雰囲気からしても嘘ではなさそうで、とんぼ返りという事にはならなさそう。
故に勇とちゃなが目を合わせて頷き合う。
二人とももう調査に赴く気満々である。
「ねーえ? くまさんたいじしちゃうの?」
するとそんな時、男に抱えられていた子が疑問を呈する。
その内容はあまり子供に向いた話ではないが。
とはいえ、その着眼点はさすがの子供か。
確かに、よくよく見れば写真の魔者は白熊にも見えなくはない。
子供は見る限り、まだ十歳にも満たない年頃で。
だからきっと魔者が何かもわからないはずだ。
恐らくは漫画か絵本に出て来る「森のクマさん」とでも思ったのだろう。
「あぁ、いえいえ。 おうちに帰ってねとお願いしに行くだけですよ」
しかしそこはやはり福留か。
小さな子供でもわかる様にと優しく返し、そっと頭を撫でる。
でも撫でられるのが余り慣れてないのか、その子はどこか恥ずかしげだ。
肘を寄せて口元を隠す仕草から見るに、女の子と言った所か。
その可愛らしい姿を前にして、勇もちゃなもマスクの裏でニッコリである。
「くまさんいじめないでね!」
「えぇえぇ、もちろんですとも。 ―――では皆さんは調査が終わるまで、しばらく建屋の中に居てください。 危険が無いと判断するまで出ない様に」
「わかりました、よろしくお願い致します」
一方の大人は事情をよくわかるからこそ懸命だ。
そう交わすや否や、すぐに踵を返して建屋へと走り去っていく。
まるで猛獣捕獲劇に巻き込まれた者の如く。
ただ、これくらい警戒してくれた方が勇達にとってはやり易い。
山に入るまでマスクし続ける必要も無くなって。
「さぁそれでは三人とも、調査の方よろしくお願い致しますねぇ」
「わかりました。 行ってきます!」
福留ももう隠す必要が無いからと今まで通り緩やかで。
だからこそ、勇達も意気揚々と踏み出す事が出来る。
それだけで、二人は心に余裕を抱く事が出来るから。
目前に広がりしは、雪に包まれた山林。
その道程は決して楽では無いだろう。
けれど覚悟はもう決めていた。
それに今ならドゥーラも居る。
なら怖いモノは何も無いはずだ。
故に踏み出す一歩は雪にも負けず雄々しく。
先日の大雪で、降ろすものは全て降ろしきったのだろう。
そんな三人の頭上には、銀世界にも負けぬ程に美しい青空が広がっていた。
ヘリコプターが北海道北部へと到達したのだ。
始めは街並みばかりだったが、気付けばもう山岳部に入っていたらしい。
都市部から離れれば、自然と人の手が入らない場所が多くなる。
だからこその光景を前にして、勇もちゃなも何だか嬉しそう。
何せ初めての銀世界体験。
陽光をキラキラと煌かせるその風景に心躍らさせずにはいられようか。
しかし心躍る時間は長くも続かない。
山傍を飛んでいるという事はつまり〝目的地が近い〟という訳で。
「もう間も無く着きます。 お二人はフードとゴーグル、マスクの着用を。 現地人と話をするので、正体がバレないよう注意してください」
早速、福留からこんな声が掛かる。
ドゥーラの治療術の一件で興奮気味だったからか、想像以上に時間が過ぎていたらしい。
どうやら雪で盛り上がる暇も無さそうだ。
すると早速、機内に僅かな制動が生まれる。
航行から滞空へと切り替わったのだ。
その中で再び窓の外を覗けば、地表で粉雪が巻き上がっていて。
そんな白霧の中へ、遂にヘリコプターが着地を果たす。
到着だ。
そう示すサインを操縦士が手信号で送っていて。
気付いた福留が早速扉を開いて勇達を誘い出す。
とはいえ勇達ももう馴れたもので。
着陸脚を足蹴にして颯爽と飛び降り、数時間ぶりの大地へ足を付く。
僅かに残った雪を喜びと共に踏みしめながら。
ドゥーラも相変わらずだ。
幽霊の如くふわりと跳び上がり、布切れの様に降りる姿がここに。
前にもたれた上半身をゆらりと起こす様相は何だか、動く屍を彷彿とさせてくれる。
これさえ無ければまだまともに見えるのだが。
「まずはあの民宿へ。 目撃者であるオーナーから少し事情を聴きます。 皆さんは平然としていてください」
その中で福留が示した指の先には大きな建屋が幾つか。
スキー場最寄りの民宿な様で、見渡せばそれらしい看板が幾つかチラホラと。
雪をしっかり退けてる辺り、客入りは上々な模様。
もっとも、状況が状況とあって客の姿は全く見えないけれども。
その代わり、建屋から人が二人ほど揃って勇達に近づいてくる。
きっと福留の言う目撃者なのだろう。
よく見れば、その一人は年端も行かぬ子供を抱えていて。
「お待たせして申し訳ありません。 防衛省の者です。 貴方が連絡を下さった民宿のオーナー様で?」
「はい、そうです」
その子供を抱えた男がやってくると、一番に福留へとそう応える。
それもポケットからスマートフォンを取り出して。
例の画像を映した画像を見せながら。
「こ、これです」
「ええ確かに。 送付頂いた写真に相違なさそうですね。 それで、魔者が居た山はどちらに?」
「あの山がそうです。 先日そこの最寄りの傾斜に写真の者達が立っていまして。 それですぐに写真を撮って通報したんです」
「あれですか。 なるほど、写真と同じ景色ですね。 わかりました、後は我々にお任せください」
どうやら通報の真偽を確かめる必要もあった様だ。
まだ魔者を公表したばかりだからか、福留も慎重なのだろう。
今の世の中、混乱目的で虚偽通報する者も少なくは無いからこそ。
ただし、そうなれば魔者の話は真実味を帯びる。
男の雰囲気からしても嘘ではなさそうで、とんぼ返りという事にはならなさそう。
故に勇とちゃなが目を合わせて頷き合う。
二人とももう調査に赴く気満々である。
「ねーえ? くまさんたいじしちゃうの?」
するとそんな時、男に抱えられていた子が疑問を呈する。
その内容はあまり子供に向いた話ではないが。
とはいえ、その着眼点はさすがの子供か。
確かに、よくよく見れば写真の魔者は白熊にも見えなくはない。
子供は見る限り、まだ十歳にも満たない年頃で。
だからきっと魔者が何かもわからないはずだ。
恐らくは漫画か絵本に出て来る「森のクマさん」とでも思ったのだろう。
「あぁ、いえいえ。 おうちに帰ってねとお願いしに行くだけですよ」
しかしそこはやはり福留か。
小さな子供でもわかる様にと優しく返し、そっと頭を撫でる。
でも撫でられるのが余り慣れてないのか、その子はどこか恥ずかしげだ。
肘を寄せて口元を隠す仕草から見るに、女の子と言った所か。
その可愛らしい姿を前にして、勇もちゃなもマスクの裏でニッコリである。
「くまさんいじめないでね!」
「えぇえぇ、もちろんですとも。 ―――では皆さんは調査が終わるまで、しばらく建屋の中に居てください。 危険が無いと判断するまで出ない様に」
「わかりました、よろしくお願い致します」
一方の大人は事情をよくわかるからこそ懸命だ。
そう交わすや否や、すぐに踵を返して建屋へと走り去っていく。
まるで猛獣捕獲劇に巻き込まれた者の如く。
ただ、これくらい警戒してくれた方が勇達にとってはやり易い。
山に入るまでマスクし続ける必要も無くなって。
「さぁそれでは三人とも、調査の方よろしくお願い致しますねぇ」
「わかりました。 行ってきます!」
福留ももう隠す必要が無いからと今まで通り緩やかで。
だからこそ、勇達も意気揚々と踏み出す事が出来る。
それだけで、二人は心に余裕を抱く事が出来るから。
目前に広がりしは、雪に包まれた山林。
その道程は決して楽では無いだろう。
けれど覚悟はもう決めていた。
それに今ならドゥーラも居る。
なら怖いモノは何も無いはずだ。
故に踏み出す一歩は雪にも負けず雄々しく。
先日の大雪で、降ろすものは全て降ろしきったのだろう。
そんな三人の頭上には、銀世界にも負けぬ程に美しい青空が広がっていた。
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