時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
257 / 1,197
第九節「人が結ぶ世界 白下の誓い 闇に消えぬ」

~陰艶たるその者と共に 登~

しおりを挟む
 現場の山はスキー場に隣接している。
 なので景色の先へと視線を向ければ、遠くには山頂へと伸びるロープリフトが。
 山を登るならいっそそんな施設を使いたいとも思うものだ。

 でも勇達にはそれは叶わない。
 出来る限り人の目に付かない様に行動しなければならないからこそ。

 それに、魔者もノコノコと人の居る場所に出て来るかどうか。
 目撃証言が他に出ない程に身を潜めているなら、その可能性は極めて薄いだろう。
 そんな理由もあって、勇達は裏道を地道に歩いて探すしかない、という訳だ。

 とはいえ、その歩みは真っ直ぐと山頂に向けられているが。

 それというのも、船頭を切るドゥーラが迷わず突き進んでいるから。
 勇達はそれに付いて歩いている、という感じで。
 幸い、歩む速度は雰囲気通りとても遅いので、見失う事はなさそうだ。

「田中さん、もしも戦いになったらなんだけど―――」

 だからまだ余裕がある内に、戦いに備えての段取りを。
 状況を見て思う事があったのだろう、勇がちゃなへと話し掛ける。

「今回は炎弾無しにして欲しいんだ」

「え、なんでですか?」

 しかし思わぬ提言に、ちゃなが困惑を隠せない。

 炎弾と言えばちゃなのお家芸、最も得意とする技で。
 それをいきなり使ってはいけないと言われてしまえば困りもするだろう。

 ただそう提言した理由は当然、ちゃんとある。

「田中さんの炎弾は爆発力が高いからさ。 もし今そんな爆発を起こしたら、山を揺らして雪崩を起こしてしまうかもしれない。 それに巻き込まれたら魔剣使いでもひとたまりもないと思うんだ」

「雪崩、ですか……?」

「うん、山の上に積もった雪が一挙に流れて来る現象だよ。 今の時期でも起こるかどうかはわからないけど、注意した方がいいんじゃないかって。 ほら、こんなに積もってるし」

 それは今回の戦いにおいて、注意するのが敵だけとはいかなくなるからだ。
 
 勇が叩いて見せたのは雪面。
 そう、膝を曲げず叩けるくらいに雪が積もっているのである。
 大体腰下くらいと言った所か。

 厳しい寒波というだけに、相当な量の雪が降ったのだろう。
 その所為で木々もが雪に埋もれ、地面がどこにあるのかさえわからない。
 それ程の量の雪が山頂にも残っていると思えば、雪崩の可能性も示唆出来よう。

 これがレジャーでの訪れだったら、どれほど好条件だった事か。
 本当ならちゃなと一緒に雪の中に突っ込んだりして遊びたい気持ちもあるだろうに。
 残念ながら、余裕は有ってもさすがに遊んでいられる心境では無い。

「空気弾みたいに上手く爆発しない様な攻撃で何とか出来ないかな?」

「空気弾だと殺傷力が低いんです。 弱い相手なら飛ばすくらいは出来るんですけど」

「うんまぁ、必ずしも殺傷する必要は無いんだけどね……」

 当のちゃなも難しい問題に直面し、堪らず首を捻らせている。
 別の攻撃手段がどうにも思い浮かばなくて。
 炎弾や【複合熱榴弾コンポジットカノン】に頼りっきりだったのが裏目に出た様だ。
 だとすれば出来るのは精々、空気弾と【常温膜域ヒートフィールド】くらいか。

 空気弾は熊本ザサブ戦で実績こそあるが、威力はすこぶる低い。
 実際の所、ちゃな自身が命力を籠めて殴った方がずっと強いくらいに。

 【常温膜域ヒートフィールド】に至っては攻撃手段ですらない。
 早速発生させてみるも、雪がじんわり溶ける程度でとても役には立たなさそう。

「どうしよう……」

「ま、まぁ最悪見ているだけでも平気だよ。 俺とドゥーラさんで何とかして見せるさ」

「うーん、でもそれはいやだなぁ」

 でもお荷物になるのだけは避けたい。
 そんな気持ちが遂には、ちゃなの頭をグラリグラリと揺らす事に。
 考え過ぎて熱を持ったのだろう、今なら温域無しでも雪が溶かせそうだ。

「じゃあですね、例えばこの熱を上げて焼き殺すとか……」

「物騒だね!? あとそれ田中さんも無事じゃ済まないと思うけど!?」

「でもそれは徳島オンズ戦でやった事ありますし―――あ、でもあの時は跳べたからなぁ。 この雪でまた真似出来るかなぁ、うーん」

 その様な頭で考えても支離滅裂な答えが返って来るばかりで。
 勇も今までのイメージに引っ張られた所為で、新しい発想がなかなか出てこない。
 だからといってドゥーラにアイディアを求めるのも酷というものだろう。

「戦いの中で閃くかもしれませんし、少し色々考えてみます……」

「う、うん。 考え過ぎてはぐれない様に手を引いておこっか?」

「はい、おねがいします」

 ちゃなの参戦可否はその閃き次第と言った所か。
 いつに無い真剣な表情を浮かべる辺り、相当に思い詰めている様だ。

 これには勇も〝そこまで無理しなくても〟と思えてならない。
 ちゃっかり手を繋ぐキッカケを得た事には内心喜びも過っていた訳だが。



「その必要は、無い。 もうすぐ、例の魔者達に、逢えるから」



 だがそんな緩やかな二人の間を、ドゥーラの一言が容赦無く裂く。
 それも、それとなく衝撃の事実を付け加えた上で。

「あっちももう、気付いている、みたい」

「「えっ!?」」

「もしかして、気付かなか、った? 山を登り始めた、時からもう、彼等は気付いていた、様だけど。 気を張り巡らしていたから」

「ッ!? まさか、命力レーダーか!?」

 そう、相手がもう勇達に気付いているというのだ。

 恐らく、ドゥーラも同様に最初から気付いていたのだろう。
 だから真っ直ぐと山頂へ向かっていた。
 まるで互いに惹かれ合う様にして。

 けれど勇とちゃなには気付ける余地が無い。
 そう至る為の経験が絶対的に足りないからこそ。
 命力レーダーを駆使する程の相手と対峙した事が無いからである。

 故に、ドゥーラの次なる一言に驚愕さえ見せる事となるだろう。



「ほら、いた。 あそこに」



 その細い手が示した先、傾斜の上には―――なんと二人の人影が。
 陽光を背にして佇み、勇達をじっくりと見下ろしていたのだ。

 そう、写真に写っていた魔者達がとうとう姿を現したのである。

「ううッ!?」

 全くわからなかった。
 全く気付けなかった。
 それ程までに景色に溶け込み、気配も無くて。

 そんな事実を前に、勇もちゃなも動揺をも隠せない。
 もしドゥーラが居なければ一網打尽にされていたかもしれないのだから。

「ど、どうするんですか?」

「どう……? どうもしない。 戦うだけ、フフ」

 しかしそのドゥーラはと言えば、足を止めずに進み行くのみ。
 背中からは既に淡い光が立ち上り、戦意を露わにしていて。

 そしてそれは相手も同様に。
 なればもはや、衝突は免れない。



 果たして、魔者達の目的とは。
 ここにやって来た理由とは何なのか。

 雪山で突如として起きた遭遇劇。
 勇達は果たしてこの悪条件を乗り切る事が出来るのだろうか……。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...