時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」

~希望はまだ、失われていない~

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 無念の朝が訪れた。
 魔剣の死という事実を再認識させられる一日目が。

 おかげで勇は今なお真っ白だ。
 まるで魔剣と一緒に魂までもが折れてしまったかの様に。
 朝早くから広場にある椅子へと座り込み、ボーっと空を見上げていて。
 もはやお通夜状態どころか勇自身が天に召されそうな感じである。

「重傷じゃなぁ」
「重傷ッスね」

 そんな勇を、バノとカプロが離れの建物の影からこっそりと見守る。

 やはり事をしでかした手前、罪悪感は否めないらしい。
 なので声を掛けたくても出来ないといった雰囲気だ。
 表立つ事さえ憚れているのだろう。

「何やっとんじゃいお前ら」

 するとその二人の頭に突如として「バシバシィ」と衝撃が走る。
 ジヨヨ村長が自慢の杖捌きでひっぱたいた事によって。

 ただ二人はやり返すどころかしょげかえるばかりだ。
 あのバノでさえ今や弱々しく見えてならないもので。
 だからかジヨヨも深い溜息が溢れてとめどない。

「……っちうと、やっちまったんか?」

「うぅ、面目ねぇ……」

「まーあそんなこったろと思ったわ。大体、あれだけのモノの本格修復なんぞそもそもが成功率低かろうもん」

 とはいえ責めるつもりも無い様だが。
 バノの仕事がどれだけ大変なのか知る所もあって。
 伊達に同年代として長く付き合ってきてはいないのだろう。

「こうなっちまったもんはしゃない。に備えとくんやな」

「んん? 次ってなぁなんじゃ?」

「なんや、をもう忘れちまったんかいね。まぁええわ」

 故にこう軽くあしらって物影から歩き出て行く。
 バノが首を傾げていようがお構いなしに。

 そうして向かったのは勇の下で。

 でも勇は今なお放心状態のまま。
 隣にジヨヨが座ろうがまるで気付く様子はない。

「なんやおぬ、一晩で随分腑抜ふぬけたのぉ~」

「あ、村長……おはざーす」

 こうして声を掛けて初めて気付くという有様だ。
 おまけに杖で頭を小突こうと、ピクリとも反応しない。
 よほどショックがデカかったのだろう。

「重症じゃなぁ……」

 それも当然か。
 あれだけ持ち上げておいていきなり「ドボン」なのだ。
 その期待と絶望の落差と言えばもはや計り知れない。

 何より魔剣使いでなくなった事が大きい。
 将来への選択肢の一つが失われたのだから。
 このままでは政府の信頼も消えてなくなりかねないもので。

 今まで、少なからず優悦は感じていたから。
 政府に頼られていた事も、誰かを救えていた事も。
 命を張るというリスクがあっても、それ以上の見返りがあって。
 そのお陰もあって今日まで頑張って来れたのだ。

 でもその頑張りの素が忽然と消えてしまった。
 故に残っているのは就職か進学という現実的な選択肢だけだ。
 それも今日この時までに時間を幾つも無駄にした上での。

 福留も多少は便宜を図ってくれるだろうが、泣き付く訳にもいかない。
 なのでお先は真っ暗、視界は真っ白。

 そんな現実に打ちのめされて現在、現実逃避中という訳である。

 いっそこのままボーっと毎日を過ごしたい。
 そう思えてしまうくらいには自失してしまっている様だ。

「魔剣が無くなっただけでえらい落ち込み様やな。ワシらだったら『暇なったなら畑耕せぇ』で済む事なんやが」

「預金があればそれでもいいんすけどね……ほら、日本って生きるのにお金要るんで」

「なんややっぱし面倒な世界やのぉ。そんなん稲穂交換で済む話やんけ」

 そんなグダグダと長ったるい理由も『あちら側』には無縁で。
 お金なんていう概念も無いから、生きるのは難しくても単純だ。
 だからか、勇の落ち込む理由は理解に及ばないらしい。

 もっとも、悩みそのものはといえば理解出来ない事も無い様だが。

「まぁおぬの様に魔剣を失って道を閉ざすモンは幾らでもおるけぇな。じゃがどいつもその代わりに道具を持つ事になるんじゃあ。畑を耕したり、服ぅ編んだり、槌持ったりのぉ」

「新しい道か……」

「せやで」

 ジヨヨは随分な年寄りだ。
 自分で年齢がわからなくなるくらいに。
 そんな人生の中で多くの者達を見て来たのだろう。
 もしかしたらこの里にも元魔剣使いが居るのかもしれない。

 そして村長という立場柄、そんな者が新たな道に進んだ事も知っていて。
 今では共存し、村の発展に尽くしてくれている事だってわかっている。
 時に意見が食い違ってぶつかり合う事があろうとも。

 だから今、勇にもこうやって気を懸けている。
 例え面倒な世界からの来訪者だとしても関係無い。
 年長者として思う所があるからこそ、そうせずにはいられなくて。

 それに、勇からはまだ全てが失われていないからこそ。

「じゃがおぬはまだそのいずれの道に行かずともよいを持っとる」

「……え?」

「カプロを通して伝えておいたやろ。次来る時はあの日誌持って来いとのぉ」

「あ……すんません、修復の事で一杯で忘れてました」

 そう、ジヨヨは知っているのだ。
 あの日誌にはまだ多くの可能性が秘められている事を。

 それでずっと余裕があったのだろう。
 例え【大地の楔】が失われようとも、どうにでもなるとわかっていたから。

 こうして相棒が失われるのも所詮はキッカケの一つに過ぎないのだと。

「――って事は、グゥさんの日誌が俺の可能性……!?」

「そゆ事や。じゃが、まずはあの日誌を持ってきぃ。でなきゃ話にならんでな」

 魔剣を失う事になったのは確かに偶然でしかない。
 しかしいつかこうなる事を予見し、ジヨヨはカプロへ言伝を伝えていたのだ。

 早い段階でグゥの日誌の秘密を一つ紐解く為に、と。

 そう伝えるとジヨヨが自宅へと戻っていく。
 勇が唖然と眺め尽くす中で。

 ただその視線は先程までとは違って力強かった。
 〝希望がまだ残されている〟――そう伝えられたから。

 だから今、その両手にはグッと砂を握り締めさせていて。
 更には思うがままに、砂だらけの手でスマートフォンを握り締める。

 もう体裁なんて構っていられない。
 目的の為になら恥だって受け入れよう。
 例え信用を失う事になろうとも、後で取り戻せばいいだけなのだと。



 その希望が指し示すままに、勇は一心で電話を掛ける。
 可能性秘めしモノを誰よりも何よりも速く届けてくれるであろう人物へ。

 こうして、一度閉じられた道が今またここで拓かれようとしていた。
 しかも有り得ないとさえ思っていた道が。



 そんな道を願うままに切り拓いてくれるのは――もはや彼女しかいない。


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