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第十四節「新たな道 時を越え 心を越えて」
~獅堂雄英移送計画~
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夏が訪れる前のある日……勇は一人本部に訪れていた。
それは福留より、外す事の出来ない依頼を受けたからである。
その日だけは勇にとって憂鬱な一日である事には間違いないだろう。
それは何故かというと……
「―――以上が今回の計画の概要です」
「……はい」
勇の前に置かれたテキスト用紙……そこには小さく「獅堂雄英移送計画」と書かれた文が刻まれていた。
今年の3月末……獅堂が起こした反乱は勇達に食い止められ、彼は生きて投獄された。
そしてつい最近、彼に対する罪状が確定し……ようやくそれに見合った刑務所へと移される事と成ったのだった。
抗う力を拘束されて失われているとはいえ、元は魔剣使い……今の彼は常人では止める事は敵わない。
故に最も獅堂に抵抗が出来る者、勇が移送時の監視役として選ばれたのである。
だが……獅堂という存在は勇にとって怨むべき者。
大切な人の命を奪い、多くの者達を誑かした、断罪を下したくなる相手。
しかし法律で守られている彼に手を出せば逆に勇にとって不利となる。
そんな状況下で……勇は怨み憎む相手を守るというジレンマを抱えなくてはならない。
「勇君、今回辛いのは判りますが……なんとか我慢してください」
「えぇ、判ってます……でももしいざって時は……俺は遠慮するつもりはありません」
「……なんとか堪えてください……お願いします」
もう一度会えばきっと獅堂はいつもの様に軽口で挑発してくるだろう。
もしそうなった時、到底我慢など出来る筈は無い……勇にはそう思えてならなかった。
今すぐにでも剣を突き立てエウリィの仇を取りたい……そんな気持ちさえあるのだ。
計画の全容が伝わり、勇の強張った顔が影を落とす。
彼の沈む感情が周囲の空気を重くさせ、二人の間に気まずい雰囲気が立ち込める。
すると……不意に二人の耳へ事務所建屋の扉が開く音と共に足音が入り込む。
そして事務室の入口の扉をコンコンと叩く音が室内に響いた。
「おや……来たようですね、どうぞ中へ」
「え?」
扉を叩く人物……それは福留が呼んだ者なのだろう。
扉が開かれ入ってきたその人物は、肩幅の広いガッシリとした体付きのスーツの男。
その顔は輪郭がハッキリと引き締まった威厳のある様な面持ちで、背筋が伸びて堂々たる風貌を醸し出していた。
「福留さん、お久しぶりです」
「やあ、久しぶりですね誠一郎君」
誠一郎と呼ばれたその男は福留を前に礼儀正しく頭を下げて挨拶を交わす。
堅物の様に見えるが……福留と出会った途端、物腰の柔らかい微笑みを浮かべていた。
「おや、今日は一人ですか? 護衛の方等は……」
「いいえ、今日は外しています。 事が事ですから」
「そうですか……」
そう会話を交わしていると……誠一郎と呼ばれた男の視界に勇の姿が映り、その存在を気付かせる。
勇の身体もまた幾多の戦いと訓練を経て力強い風体を醸し、その存在感を見せつけるよう。
そんな彼の姿が、「藤咲勇」だと悟らせるには十分過ぎる要素に成り得るのは当然の事だった。
「君が藤咲勇君か……なるほど、聞くに勝る男という訳だな」
「俺の事をご存知なんですか?」
誠一郎の言葉に反応し、福留にも問い合わせる様に二人の顔を見ながら言葉を放つ。
僅かに眉を細める勇を前に、福留が軽い笑顔を浮かべゆっくりと口を動かした。
「彼は獅堂誠一郎……獅堂雄英君の父親です」
「えっ……」
目の前にいる誠一郎と呼ばれた男……それはあの憎き獅堂雄英の父親。
その男が突然前触れも無く勇の目の前に現れたのだ、戸惑いもしよう。
そんな彼を前に……誠一郎は臆す事無く体を向け、細い眼から覗き見える瞳を一身に向けた。
「この度は、息子……雄英が大変な事をしでかし……ご迷惑をお掛け致しました」
そう一言を添え……誠一郎が胸に右手を充て、頭を深々と下げる。
そんな姿を前にした勇はただ静かに押し黙っていた。
目の前に居るのは獅堂にゆかりある者……途端勇の心が嫌悪の感情で包まれ、思わずその顔を強張らせる。
彼が直接関係が無い事など判りきった事だ。
だが、そんな事など関係無く……勇の心には得も知れぬ彼へ対する怒りに近い感情が既に沸々と沸き上がっていた。
「あっ……貴方がッ……!!」
そう言いかけた時……残った理性が不意に体を動かし、右手が自身の着込んだ服の首元を掴み抑え込む。
首元が「ググッ」と締め付けられると、そこから生まれた苦の感覚が喉から出そうな程に湧き出てくる感情を抑え付けた。
「……貴方が……彼の父親……ですかっ……」
喉が締め付けられて気道を圧迫して空気の循環が滞り、酸素を求めた体が呼吸を荒くさせる。
しかしそれが逆に彼に冷静さを呼び……首元を抑え付ける力が緩んでいくと同時に、彼の気持ちもまた次第に解れていった。
「何故貴方がここに……?」
落ち着きを見せ始めた勇を前に、誠一郎は声を詰まらせ……僅かな静寂が場を包む。
そんな中、福留が間に入る様に……勇の問いに答えた。
「雄英君は移送後、命力が衰退するまでしばらく面会出来なくなります……なのでそこに収監される前に父親らしく面会をさせる為に呼んだ訳です」
福留は相槌する様にウンウンと頷きそう答えると、それに反応し誠一郎もまた口を開く。
「……私の軽率な行動があの子に悪影響を及ぼしてしまった……それは変えがたい事実だからこそ、私はあの子に一度会って話をしなければならない……そう思ったのです」
「そうですか……」
勇にも当然父親が居る。
何度も相談しては軽く引き受けてもらったり、諭されたり……勇にとって何者にも代え難い心強い存在である。
もし勇の父親がそれらを蔑ろにしたのであれば……今の彼は居なかったかもしれない。
それを少なからずこの一年で思い知らされたからこそ……勇も誠一郎の言う事を否定する事が出来なかった。
「さて、そろそろ行きましょうか……」
もう間も無く移送が始まる。
それまでに面会を終わらせなければならない……猶予は思う程多くは無いだろう。
福留に誘われると、三人は揃い事務所を出て駐車場へ停めてあった福留の車へと乗り込む。
勇が助手席に、誠一郎が後部座席へ座り各々がシートベルトを掛けると……その車はゆっくりと動き出し、特事部本部を後にしたのだった。
それは福留より、外す事の出来ない依頼を受けたからである。
その日だけは勇にとって憂鬱な一日である事には間違いないだろう。
それは何故かというと……
「―――以上が今回の計画の概要です」
「……はい」
勇の前に置かれたテキスト用紙……そこには小さく「獅堂雄英移送計画」と書かれた文が刻まれていた。
今年の3月末……獅堂が起こした反乱は勇達に食い止められ、彼は生きて投獄された。
そしてつい最近、彼に対する罪状が確定し……ようやくそれに見合った刑務所へと移される事と成ったのだった。
抗う力を拘束されて失われているとはいえ、元は魔剣使い……今の彼は常人では止める事は敵わない。
故に最も獅堂に抵抗が出来る者、勇が移送時の監視役として選ばれたのである。
だが……獅堂という存在は勇にとって怨むべき者。
大切な人の命を奪い、多くの者達を誑かした、断罪を下したくなる相手。
しかし法律で守られている彼に手を出せば逆に勇にとって不利となる。
そんな状況下で……勇は怨み憎む相手を守るというジレンマを抱えなくてはならない。
「勇君、今回辛いのは判りますが……なんとか我慢してください」
「えぇ、判ってます……でももしいざって時は……俺は遠慮するつもりはありません」
「……なんとか堪えてください……お願いします」
もう一度会えばきっと獅堂はいつもの様に軽口で挑発してくるだろう。
もしそうなった時、到底我慢など出来る筈は無い……勇にはそう思えてならなかった。
今すぐにでも剣を突き立てエウリィの仇を取りたい……そんな気持ちさえあるのだ。
計画の全容が伝わり、勇の強張った顔が影を落とす。
彼の沈む感情が周囲の空気を重くさせ、二人の間に気まずい雰囲気が立ち込める。
すると……不意に二人の耳へ事務所建屋の扉が開く音と共に足音が入り込む。
そして事務室の入口の扉をコンコンと叩く音が室内に響いた。
「おや……来たようですね、どうぞ中へ」
「え?」
扉を叩く人物……それは福留が呼んだ者なのだろう。
扉が開かれ入ってきたその人物は、肩幅の広いガッシリとした体付きのスーツの男。
その顔は輪郭がハッキリと引き締まった威厳のある様な面持ちで、背筋が伸びて堂々たる風貌を醸し出していた。
「福留さん、お久しぶりです」
「やあ、久しぶりですね誠一郎君」
誠一郎と呼ばれたその男は福留を前に礼儀正しく頭を下げて挨拶を交わす。
堅物の様に見えるが……福留と出会った途端、物腰の柔らかい微笑みを浮かべていた。
「おや、今日は一人ですか? 護衛の方等は……」
「いいえ、今日は外しています。 事が事ですから」
「そうですか……」
そう会話を交わしていると……誠一郎と呼ばれた男の視界に勇の姿が映り、その存在を気付かせる。
勇の身体もまた幾多の戦いと訓練を経て力強い風体を醸し、その存在感を見せつけるよう。
そんな彼の姿が、「藤咲勇」だと悟らせるには十分過ぎる要素に成り得るのは当然の事だった。
「君が藤咲勇君か……なるほど、聞くに勝る男という訳だな」
「俺の事をご存知なんですか?」
誠一郎の言葉に反応し、福留にも問い合わせる様に二人の顔を見ながら言葉を放つ。
僅かに眉を細める勇を前に、福留が軽い笑顔を浮かべゆっくりと口を動かした。
「彼は獅堂誠一郎……獅堂雄英君の父親です」
「えっ……」
目の前にいる誠一郎と呼ばれた男……それはあの憎き獅堂雄英の父親。
その男が突然前触れも無く勇の目の前に現れたのだ、戸惑いもしよう。
そんな彼を前に……誠一郎は臆す事無く体を向け、細い眼から覗き見える瞳を一身に向けた。
「この度は、息子……雄英が大変な事をしでかし……ご迷惑をお掛け致しました」
そう一言を添え……誠一郎が胸に右手を充て、頭を深々と下げる。
そんな姿を前にした勇はただ静かに押し黙っていた。
目の前に居るのは獅堂にゆかりある者……途端勇の心が嫌悪の感情で包まれ、思わずその顔を強張らせる。
彼が直接関係が無い事など判りきった事だ。
だが、そんな事など関係無く……勇の心には得も知れぬ彼へ対する怒りに近い感情が既に沸々と沸き上がっていた。
「あっ……貴方がッ……!!」
そう言いかけた時……残った理性が不意に体を動かし、右手が自身の着込んだ服の首元を掴み抑え込む。
首元が「ググッ」と締め付けられると、そこから生まれた苦の感覚が喉から出そうな程に湧き出てくる感情を抑え付けた。
「……貴方が……彼の父親……ですかっ……」
喉が締め付けられて気道を圧迫して空気の循環が滞り、酸素を求めた体が呼吸を荒くさせる。
しかしそれが逆に彼に冷静さを呼び……首元を抑え付ける力が緩んでいくと同時に、彼の気持ちもまた次第に解れていった。
「何故貴方がここに……?」
落ち着きを見せ始めた勇を前に、誠一郎は声を詰まらせ……僅かな静寂が場を包む。
そんな中、福留が間に入る様に……勇の問いに答えた。
「雄英君は移送後、命力が衰退するまでしばらく面会出来なくなります……なのでそこに収監される前に父親らしく面会をさせる為に呼んだ訳です」
福留は相槌する様にウンウンと頷きそう答えると、それに反応し誠一郎もまた口を開く。
「……私の軽率な行動があの子に悪影響を及ぼしてしまった……それは変えがたい事実だからこそ、私はあの子に一度会って話をしなければならない……そう思ったのです」
「そうですか……」
勇にも当然父親が居る。
何度も相談しては軽く引き受けてもらったり、諭されたり……勇にとって何者にも代え難い心強い存在である。
もし勇の父親がそれらを蔑ろにしたのであれば……今の彼は居なかったかもしれない。
それを少なからずこの一年で思い知らされたからこそ……勇も誠一郎の言う事を否定する事が出来なかった。
「さて、そろそろ行きましょうか……」
もう間も無く移送が始まる。
それまでに面会を終わらせなければならない……猶予は思う程多くは無いだろう。
福留に誘われると、三人は揃い事務所を出て駐車場へ停めてあった福留の車へと乗り込む。
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