431 / 1,197
第十四節「新たな道 時を越え 心を越えて」
~進路面談その2~
しおりを挟む
「それで……君も公務員なの……?」
「ウス……」
順番は巡り巡って心輝の番が訪れていた。
教師の前で彼の母親と共に座り面談を受ける心輝……深い事を語らず口を「へ」の字にして教師の言葉を相槌を打つ。
「もしかして君も……相沢君と一緒なの?」
「ウス……」
瀬玲の父親と違い、心輝の母親はそれほど知恵が回る方ではない。
ただただ狼狽えるのみ……そんな彼女は心輝の言う事をただ見守るしか出来ない訳で。
しかし瀬玲という前者が有った為であろう……教師からはそれ以上深い事は聞かず、彼との面談を終わらせた。
―――
勇の番が訪れ、彼と彼の父親が教師の前に座る。
教師が再び進路希望『公務員』と書かれた記入欄を見ると、思わずその口から「ハァ」と溜息が漏れ出た。
「君も……公務員ねぇ……」
「はい」
前の二人とは異なり、勇は自信に充ち溢れた顔付と態度をありありと見せつける。
堂々とした彼の姿がどこか気に成った教師はふと質問を投げ掛けた。
「勇君はこの1年で何か見違える様に大人になった気がします……これも例のボランティアのおかげでしょうかね?」
「はい、そうだと思います」
虚どった態度を見せる事も無く対応する勇を前に……教師は前の二人とは違う雰囲気を感じ取り、自然としかめた顔を軟化させていた。
「去年は割と休みが多かったですが……それでもしっかり勉強し授業にも付いていけています……それでも大学には行かず就職するんですか?」
「えぇ、もう決めたので」
それというのも、教師は以前の勇を知っていたから。
教師も言った通り、この一年で勇は人間的にも大きく成長を果たした。
以前はおとなしめで我はそれほど強くも無い彼だったが……今となっては貫禄すら感じさせる程だ。
女子達が噂するのが判る程に……彼は一足早く、大人に成っていたのである。
死線を乗り越える事で幾度も皮剥けた彼の雰囲気を前に、教師も思わず息を飲む。
「そうですか……分かりました」
一点の曇りもない態度で返事を続けた勇を見て何も心配する事は無いと思ったのか、教師は質問を止めて彼の瞳へ視線を合わせる。
互いの真剣な眼差しが交わり、その無言の意思を伝えると……ふと、教師が微笑み勇へと返した。
「勇君、何があったのかは判りませんが……その気持ちを忘れず、いつまでも上を目指してこれからも頑張ってくださいね」
「先生……ありがとうございます」
教師はそれ以上の事は言わず面談を終わらせた。
彼に関してだけは間違いなく問題無い……そう感じたからだ。
勇と父親は席から立つと教師に一礼し、部屋を後にした。
教室と教室を繋ぐ廊下を二人歩き続ける。
玄関口へ辿り着くと、勇の父親は鞄に仕舞っていた自分の靴の入った袋を取り出し、その靴へと履き替えた。
互いに外履きへと履き替えると、二人揃って外へ向けて歩を踏み出していく。
「お父さんはなんだか聞くだけだったな」
「まぁ、もう進路決まってるしな」
相談室を出て初めて、そこで二人が会話を交わされた。
緊張する事も無く……ゆるりとした雰囲気の中、二人の口元には意図しない微笑みが浮かぶ。
「シンとセリが何を言ったか知らないけど……余計な詮索されなくてよかったよ」
「そうだなぁ……まぁいいんじゃないか、勇なら何が有っても動じないだろ?」
「ハハ、どうかな」
互いに色々あったから……。
獅堂との戦いの前後で、勇だけでなく彼の両親もまた一つの苦しみを乗り越えたから。
それと比べれば、こんな人と話すだけの場などなんて事の無い些細な展開に過ぎなかったのだ。
土曜のこの日……2年以下の生徒は午前中の授業を終わらせ既に帰宅していた。
3年も授業は無く面談で一日を使う為、基本的には休みと同じだ。
二人が校舎から出ると外から運動部の掛け声が聞こえ、各々の夏の大会が近い事を伺わせる。
それは一年前の何も無かった頃の出来事を思い出させ……思わず立ち止まり、その声を聞き入る様に耳を傾ける勇の姿が在った。
その声が徐々に離れていくと、聞き入る為に瞑っていた目が開かれ……その視界に勇の父親の姿を映す。
「あ、俺一人で帰るよ」
「ん? そうか……暑くなってきたから体には気を付けろよ」
「心配要らないよ、俺に関してはさ」
「そうだったな」
そう会話を交わすと、勇の父親は一人駐車場へ向けてのそりのそりと歩き去っていく。
勇はそれを見送ると……校門、学校の外へ向けて歩み始めたのだった。
「ウス……」
順番は巡り巡って心輝の番が訪れていた。
教師の前で彼の母親と共に座り面談を受ける心輝……深い事を語らず口を「へ」の字にして教師の言葉を相槌を打つ。
「もしかして君も……相沢君と一緒なの?」
「ウス……」
瀬玲の父親と違い、心輝の母親はそれほど知恵が回る方ではない。
ただただ狼狽えるのみ……そんな彼女は心輝の言う事をただ見守るしか出来ない訳で。
しかし瀬玲という前者が有った為であろう……教師からはそれ以上深い事は聞かず、彼との面談を終わらせた。
―――
勇の番が訪れ、彼と彼の父親が教師の前に座る。
教師が再び進路希望『公務員』と書かれた記入欄を見ると、思わずその口から「ハァ」と溜息が漏れ出た。
「君も……公務員ねぇ……」
「はい」
前の二人とは異なり、勇は自信に充ち溢れた顔付と態度をありありと見せつける。
堂々とした彼の姿がどこか気に成った教師はふと質問を投げ掛けた。
「勇君はこの1年で何か見違える様に大人になった気がします……これも例のボランティアのおかげでしょうかね?」
「はい、そうだと思います」
虚どった態度を見せる事も無く対応する勇を前に……教師は前の二人とは違う雰囲気を感じ取り、自然としかめた顔を軟化させていた。
「去年は割と休みが多かったですが……それでもしっかり勉強し授業にも付いていけています……それでも大学には行かず就職するんですか?」
「えぇ、もう決めたので」
それというのも、教師は以前の勇を知っていたから。
教師も言った通り、この一年で勇は人間的にも大きく成長を果たした。
以前はおとなしめで我はそれほど強くも無い彼だったが……今となっては貫禄すら感じさせる程だ。
女子達が噂するのが判る程に……彼は一足早く、大人に成っていたのである。
死線を乗り越える事で幾度も皮剥けた彼の雰囲気を前に、教師も思わず息を飲む。
「そうですか……分かりました」
一点の曇りもない態度で返事を続けた勇を見て何も心配する事は無いと思ったのか、教師は質問を止めて彼の瞳へ視線を合わせる。
互いの真剣な眼差しが交わり、その無言の意思を伝えると……ふと、教師が微笑み勇へと返した。
「勇君、何があったのかは判りませんが……その気持ちを忘れず、いつまでも上を目指してこれからも頑張ってくださいね」
「先生……ありがとうございます」
教師はそれ以上の事は言わず面談を終わらせた。
彼に関してだけは間違いなく問題無い……そう感じたからだ。
勇と父親は席から立つと教師に一礼し、部屋を後にした。
教室と教室を繋ぐ廊下を二人歩き続ける。
玄関口へ辿り着くと、勇の父親は鞄に仕舞っていた自分の靴の入った袋を取り出し、その靴へと履き替えた。
互いに外履きへと履き替えると、二人揃って外へ向けて歩を踏み出していく。
「お父さんはなんだか聞くだけだったな」
「まぁ、もう進路決まってるしな」
相談室を出て初めて、そこで二人が会話を交わされた。
緊張する事も無く……ゆるりとした雰囲気の中、二人の口元には意図しない微笑みが浮かぶ。
「シンとセリが何を言ったか知らないけど……余計な詮索されなくてよかったよ」
「そうだなぁ……まぁいいんじゃないか、勇なら何が有っても動じないだろ?」
「ハハ、どうかな」
互いに色々あったから……。
獅堂との戦いの前後で、勇だけでなく彼の両親もまた一つの苦しみを乗り越えたから。
それと比べれば、こんな人と話すだけの場などなんて事の無い些細な展開に過ぎなかったのだ。
土曜のこの日……2年以下の生徒は午前中の授業を終わらせ既に帰宅していた。
3年も授業は無く面談で一日を使う為、基本的には休みと同じだ。
二人が校舎から出ると外から運動部の掛け声が聞こえ、各々の夏の大会が近い事を伺わせる。
それは一年前の何も無かった頃の出来事を思い出させ……思わず立ち止まり、その声を聞き入る様に耳を傾ける勇の姿が在った。
その声が徐々に離れていくと、聞き入る為に瞑っていた目が開かれ……その視界に勇の父親の姿を映す。
「あ、俺一人で帰るよ」
「ん? そうか……暑くなってきたから体には気を付けろよ」
「心配要らないよ、俺に関してはさ」
「そうだったな」
そう会話を交わすと、勇の父親は一人駐車場へ向けてのそりのそりと歩き去っていく。
勇はそれを見送ると……校門、学校の外へ向けて歩み始めたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活
髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。
しかし神は彼を見捨てていなかった。
そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。
これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる