時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
585 / 1,197
第二十二節「戦列の条件 託されし絆の真実 目覚めの胎動」

~背後突くジェラシーサイト~

しおりを挟む
 突然の福留からの残暑見舞い到来から三日後。

 勇達の心身から戦闘の疲れが取れ、相も変わらずの姿で本部へとその姿を現していた。
 ただ勇だけは肉体の限界を超えた行動が祟り、万全とは言い難かったが……ちゃなが本部へと出勤する際に、これ以上は鈍ってしまうと言い張り付いてきた訳である。



「おいおい……お前フラフラじゃねぇか!!」

 僅かに不安を感じる歩き方をしていたのだろう……勇が廊下を歩いていると、事務所から顔を覗かせた心輝が大声を上げて彼へと怒鳴りつけた。

「寝てばっかりだったからな……体が鈍る前に動かさないと、力の使い方も忘れそうでさ」
「バァカ、そんなんだからセリにあーだこーだ言われるんだろうが……」

 そんな事を言われてしまうとさすがに勇もダンマリするしかない。

 先日の瀬玲から放たれた一連の発言が勇にとっては大きな衝撃だったのだろう。
 本来であれば彼の自然治癒能力であれば完治してもおかしくない体であったが……彼女の言葉を思い出し集中力が乱れた事で、完治には程遠い状況と成ってしまっていたのだ。

「帰れ帰れ、またセリみたいに言われたく無きゃあと一ヵ月くらい来んな。 折角だから茶奈ちゃんも一緒に来るんじゃねぇ!!」
「えぇ、それは横暴ですよ……」

 恐らく心輝的には、「お前等一緒に過ごして仲良く絆を深め合え」とでも言いたかったのだろう。
 だがそんな物言いが逆に大人しい茶奈に火を付けてしまったのか……プイッと顔を背けて彼の横を過ぎ去り事務所へと入っていく。
 「あちゃあ」と歯を浮かばせながら、横を過ぎ去る彼女を目で追うが……不意に彼の頭に「ゴンッ!」という衝撃が走り、堪らず頭を抱えた。

「お前も少し考えて物を言えって」
「んなっ……お、俺はお前等の仲を取り持とうとだな……っテテッ!」

 曲がりなりにも命力が高い心輝にダメージを与えるにはそれなりの命力を篭める事が必要……勇から放たれたゲンコツはしっかり命力が籠っており、彼の頭に与えられたダメージは予想に反してそれなりに大きかった様だ。

「余計なお世話だ……大体、俺達はそんな仲じゃない」

 勇と茶奈のお互いの認識が合った事で誤解は晴れたが、彼等にとっての関係はむしろそれ以前の状態……普通の友人同士としての関係に近いモノへと戻っていた。
 家族と言っても過言ではない状況という事もあり、心輝のみならず他の者が思う様な「恋仲」とは程遠い状態だと思っても過言ではないのだろう。

「でも気には?」
「なってると言えば嘘じゃないけど」

 いつの間にか立ち止まり会話をする二人の声は小さく、本音を漏らす様に語る姿に。

「でも、そんなつもりにはなかなかなれないな」
「それはお前が遠慮しがちだからだろうが」
「んじゃお前今すぐレンネィさんに告ってこいよ、今すぐ」
「おま……それここ言うかぁ?」

 心輝の背後の向こうには、二人がこそこそと語っているのを遠目で見るレンネィの姿が。
 彼は現在彼女に『ぞっこん』であるが、未だ告白出来ずにいた。

 痛い所を突かれ……思わず心輝の眉間が寄る。

「時が来たら考えるさ……今は今のままでいい」
「んな事言ってると誰かに取られちまうぜ?」
「それならそれでいいさ、俺は彼女が幸せに成るなら何でもいい」

 勇はそう言い残し、軽く心輝の額にデコピンを食らわせると……痛がる心輝には目も暮れず、足を引きずる様に動かしながら事務室へと入っていった。



「勇殿、体の方はもうよかろうか?」

 仲間の挨拶の中で一際目立つ口調……ジョゾウの声が耳に入ると、席に座りながら彼へと苦笑を浮かべた顔を向ける。
 彼は先日共に戦っていた事もあって事情をよく知る者の一人だからこそ、その優しい言葉が無理をしている勇の胸へ妙に突き刺さった様だ

「なんとかね……ジョゾウさんももう平気なんですか? ゴゴンさんとか空島の件で色々忙しいって聞いてましたけど」
「うむ、里の賢人達にメズリとグルウの事を伝えねばならぬ故……勿論、ゴゴンの事も同様よ」
「まだ伝えてなかったんですね」
「左様……どうにも賢人達がすまぁとふぉんは慣れぬと言うでな、帰郷ついでにお目通りしようと思うてな」

 空島の一件以来、ジョゾウは休む間もなく日本とニュージーランドを何度も往復し、空島へと赴いていた。
 親友であったゴゴンの弔い、空島に残った魔者達への対応、そして空島の管理を行う為の国連軍へのサポートなど……彼がやる事は多く、未だその事案は解決していない。
 今日はたまたま本部に帰ってはいたが……カラクラの里へと帰省し一連の報告をする為の帰国であり、事が済めばまた海の向こうへ渡る予定のようだ。

「結構フライトって疲れませんか? 体にだけは気を付けてくださいね」
「ははは、左様であるな。 どうにも羽根を羽ばたかせずして空を舞うというのは違和感ばかり身纏うものよ……気遣い感謝に御座る」

 そんな話をしながらも、机に広げた荷物を纏めていくジョゾウ。
 彼等特有の腰掛け鞄へ荷物を詰めると、彼等に挨拶を交わし事務所から立ち去っていった。

 ジョゾウが去り、束の間の静けさが訪れると……彼に続く様にレンネィが勇を気遣う。

「所で貴方、まだ治っていないようだけど本当に平気なの?」
「えぇ、動く分には問題無いんで……じっとしてると詰まらない事ばかり思い浮かべちゃうだけですし」
「ジョゾウもだけど、貴方も相当なんだから無理はダメよ? なんだったら私が添い寝してあげましょうか?」
「さ、さすがにそれはちょっと……」

 勇の後頭部に心輝の視線が刺さる様に向けられる。
 男のジェラシーはみっともないものだが……そんな様子を微笑みで返すレンネィと笠本。
 共に涼しげな笑顔を浮かべているが、そんな彼女達の膝はフルフルと小刻みにと震えていた。
 笑いを堪えるので必死なのだ。



 ……きっと彼女達は心輝の心情に気付いているのだろう。



 だが、そんな彼女達にとっても予想外だったのは……茶奈の反応である。

 レンネィの言葉に彼女は一切反応せず、自身に課せられた報告書の記入に向き合っていた。
 以前の様に暴れたり、心輝の様にジェラシーを表に表すのであれば格好の餌となっていたのだろうが、ピクリとも反応を見せないのであれば弄りようもない。

 興が削がれたのか、気付けば脚の震えも消え……自然と笑みもいつも通りの小さな笑窪を作る真顔へと戻っていた。

「まぁ無理はする気は無いですよ、自分の体の事はよくわかってるつもりです。 最初は少し歩きながら体をほぐしていこうかなって」
「そ、そう……ならいいんだけど」

 手早く自身に宛てられた資料に目を通し、予定などを確認すると……勇はそっと立ち上がり事務所の外へと足を運ぶ。

「どこ行くんだ?」
「ちょっとカプロの所に行ってくる」

 そう言い残し……仲間達の視線を尻目に、勇は事務所を後にしたのだった。


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...