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第二十四節「密林包囲網 切望した過去 闇に紛れ蠢きて」
~滅~
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「皆さん、準備は万端でしょうか?」
福留がタブレットへ声を掛けると、それに反応した勇達の声が遅れて反響する様に鳴り響く。
彼等が居るのは四ヶ所に設営された待機地。
オッファノ族に見つからないようブラジル政府が秘密裏に造り上げた、魔特隊メンバー達の為の休憩所兼拠点である。
それぞれがオッファノ族の住んでいる変容地区外殻からおおよそ5km程離れた場所とあり、見つかる事無く設営された建屋は簡素ではあるが人が住むには十分な物。
特に、広大なジャングルに住む多種多様な動植物の影響に晒されないのは大きい所だ。
中には毒を持っているモノも、危険なモノも多く潜む。
それらを防ぐ形で配慮された作りが彼等の安心を誘う様であった。
既にそれぞれの場所にはブラジル政府からの要請で訪れた国連軍の兵士が待機しており、彼等の戦いのサポートを行う為に準備を進めていた。
直接的な戦闘は出来ないが、彼等の移動や救護、通信補助、食料移送や進攻後のキャンプ設営等々やる事は多い。
この戦いにおける物資の準備は万端……後は、福留からの作戦の開始を待つのみであった。
予定する戦闘日程は七日間。
その間に日本の関東地方全域と同等以上の領域を持つオッファノ族の領地へと乗り込む。
戦いが終われば数日後はクリスマス。
お決まりの祝日を迎える為にも、勇達の気合いは十分だ。
『A班、準備万端です』
『B班、こっちはオッケーよ』
『Cはん、もんだい、ない』
『でーはん、だいじょうぶー!』
タブレットから声が漏れ、勇達全員がいつでも進攻開始出来る事を知らせる。
だが福留はそれを確認するや、彼等にそっと告げた。
「では皆さん、今日は遅いですから兵士の皆さんと意思疎通を行いゆっくり休んでください」
既に夜は更け、鬱蒼とした森は闇に落ちて視界を遮る。
いくらナビや光学機器があるとはいえ……訪れたばかりの勇達を即座に戦わせる程、彼は愚かではない。
地球を半周した事による時差ボケも解消出来てはいない。
今は一旦の休息を取り、体を調整させる事が大事だと当然理解している。
福留の考える戦いの始まりは明日の早朝……それに備え、各々に休息を指示したのであった。
「そういえば……勇君、体調の方は平気ですか?」
『えっ?』
突然の振りに戸惑う勇。
思わず声を漏らすが、しばらく考えを巡らせると……思い付いたかの様に声を上げた。
『もしかしてインフルエンザの事ですか?』
「えぇ、一番茶奈さんの傍に居たのが貴方でしたので……」
インフルエンザウィルスは飛沫感染する病原体であり、濃厚接触者には特に伝染が疑われる。
濃厚接触者として家族の一員である彼が一番に挙げられるのも当然の事だ。
だが勇は「フフッ」と鼻で笑うと、軽く一言添えたのだった。
『俺は大丈夫ですよ、滅菌してきましたから』
「滅菌……ですか……」
勇の言う『滅菌』が何を意味するのか、福留にはいまいち思い浮かぶ事は出来なかった。
だが彼が何の目算も無くそういった行為を行う事は無い。
つまり、何かしらの確証出来る判断材料があったが故の行動を行ったのだろう。
例えば……体内に入ったインフルエンザウィルスに対し人体はどの様に対処を行うのだろうか?
答えは……熱である。
病原体は高温に弱く、人体はそれを知っている。
体内に入った病原体を殺す為に発熱を促し、非生存下に置いて焼き殺すのだ。
そして命力は振動を起こす事での発熱・着火が出来る、物理現象に干渉可能な力。
己の体内であればなおさら、自由に熱する事が可能だ。
―――つまり、そういう事である。
「心配は無い、そう思ってよさそうですね……わかりました、皆さん明日はどうかよろしくお願い致しますねぇ」
『まっかせてー!』
「はは、元気が良くて何よりです……では、通信を終えます」
そう一言添えると、福留は共通会話モードを停止させた。
彼の居る所は戦場から遠く離れた、とある町に設営された司令施設。
電子機器による通信網が整っている世界で、指揮官がわざわざ敵地の真っただ中へ乗り込む必要は無い。
強いて挙げるとすれば、地形の状態や敵を取り巻く状況などの情報をタイムリーに得る事が出来ないという所であろうか。
いつだか、獅堂が勇に対してこう言い放った。
福留達は遠くから見ているだけで勇達を利用しているに過ぎない、と。
だが……福留自身がそれを理解していない訳など無い。
熟知しているからこそ……彼は敢えてその立場を重んじる。
指揮官として存在する自分がすべき役目を理解し、徹底する事を冷静に理解する。
それが彼の知る、最善最高の在り方なのである。
だから彼はこうして後ろへ下がり、一息を付きながら差し出されたコーヒーを口に含む。
なんて事の無いその行為ですら、彼にとっては『役目』なのだから。
使い、使われる事が彼の本懐。
それが各々の力を最大限に引き出す事が出来る要素なのだと彼は考えているのである。
「さぁて、今日の夜は大切な時間となりそうです。 皆さんもゆっくりと体を休めてください」
「わかりました」
「福留さんも無理をなさらないで下さいね」
平野と笠本に労いの言葉を掛けると、彼等がそれぞれの部屋へと帰っていく。
それを見送ると、福留はそっとカップを降ろし……窓から暗くなった夜空を見上げた。
澄みきった空気が満点の星空を遮る事無く映し、夜の世界を彩り照らす。
勇達も同じ夜空を見ているのだろうか?
その様に想いを巡らせると……福留の口が思わず僅かに口角が上がる。
大きく息を吸い込み、間も無く「ふぅ」と放たれたその鼻息は……戦いの前夜とは思えない程に落ち着きを伴った緩やかな一息であった。
福留がタブレットへ声を掛けると、それに反応した勇達の声が遅れて反響する様に鳴り響く。
彼等が居るのは四ヶ所に設営された待機地。
オッファノ族に見つからないようブラジル政府が秘密裏に造り上げた、魔特隊メンバー達の為の休憩所兼拠点である。
それぞれがオッファノ族の住んでいる変容地区外殻からおおよそ5km程離れた場所とあり、見つかる事無く設営された建屋は簡素ではあるが人が住むには十分な物。
特に、広大なジャングルに住む多種多様な動植物の影響に晒されないのは大きい所だ。
中には毒を持っているモノも、危険なモノも多く潜む。
それらを防ぐ形で配慮された作りが彼等の安心を誘う様であった。
既にそれぞれの場所にはブラジル政府からの要請で訪れた国連軍の兵士が待機しており、彼等の戦いのサポートを行う為に準備を進めていた。
直接的な戦闘は出来ないが、彼等の移動や救護、通信補助、食料移送や進攻後のキャンプ設営等々やる事は多い。
この戦いにおける物資の準備は万端……後は、福留からの作戦の開始を待つのみであった。
予定する戦闘日程は七日間。
その間に日本の関東地方全域と同等以上の領域を持つオッファノ族の領地へと乗り込む。
戦いが終われば数日後はクリスマス。
お決まりの祝日を迎える為にも、勇達の気合いは十分だ。
『A班、準備万端です』
『B班、こっちはオッケーよ』
『Cはん、もんだい、ない』
『でーはん、だいじょうぶー!』
タブレットから声が漏れ、勇達全員がいつでも進攻開始出来る事を知らせる。
だが福留はそれを確認するや、彼等にそっと告げた。
「では皆さん、今日は遅いですから兵士の皆さんと意思疎通を行いゆっくり休んでください」
既に夜は更け、鬱蒼とした森は闇に落ちて視界を遮る。
いくらナビや光学機器があるとはいえ……訪れたばかりの勇達を即座に戦わせる程、彼は愚かではない。
地球を半周した事による時差ボケも解消出来てはいない。
今は一旦の休息を取り、体を調整させる事が大事だと当然理解している。
福留の考える戦いの始まりは明日の早朝……それに備え、各々に休息を指示したのであった。
「そういえば……勇君、体調の方は平気ですか?」
『えっ?』
突然の振りに戸惑う勇。
思わず声を漏らすが、しばらく考えを巡らせると……思い付いたかの様に声を上げた。
『もしかしてインフルエンザの事ですか?』
「えぇ、一番茶奈さんの傍に居たのが貴方でしたので……」
インフルエンザウィルスは飛沫感染する病原体であり、濃厚接触者には特に伝染が疑われる。
濃厚接触者として家族の一員である彼が一番に挙げられるのも当然の事だ。
だが勇は「フフッ」と鼻で笑うと、軽く一言添えたのだった。
『俺は大丈夫ですよ、滅菌してきましたから』
「滅菌……ですか……」
勇の言う『滅菌』が何を意味するのか、福留にはいまいち思い浮かぶ事は出来なかった。
だが彼が何の目算も無くそういった行為を行う事は無い。
つまり、何かしらの確証出来る判断材料があったが故の行動を行ったのだろう。
例えば……体内に入ったインフルエンザウィルスに対し人体はどの様に対処を行うのだろうか?
答えは……熱である。
病原体は高温に弱く、人体はそれを知っている。
体内に入った病原体を殺す為に発熱を促し、非生存下に置いて焼き殺すのだ。
そして命力は振動を起こす事での発熱・着火が出来る、物理現象に干渉可能な力。
己の体内であればなおさら、自由に熱する事が可能だ。
―――つまり、そういう事である。
「心配は無い、そう思ってよさそうですね……わかりました、皆さん明日はどうかよろしくお願い致しますねぇ」
『まっかせてー!』
「はは、元気が良くて何よりです……では、通信を終えます」
そう一言添えると、福留は共通会話モードを停止させた。
彼の居る所は戦場から遠く離れた、とある町に設営された司令施設。
電子機器による通信網が整っている世界で、指揮官がわざわざ敵地の真っただ中へ乗り込む必要は無い。
強いて挙げるとすれば、地形の状態や敵を取り巻く状況などの情報をタイムリーに得る事が出来ないという所であろうか。
いつだか、獅堂が勇に対してこう言い放った。
福留達は遠くから見ているだけで勇達を利用しているに過ぎない、と。
だが……福留自身がそれを理解していない訳など無い。
熟知しているからこそ……彼は敢えてその立場を重んじる。
指揮官として存在する自分がすべき役目を理解し、徹底する事を冷静に理解する。
それが彼の知る、最善最高の在り方なのである。
だから彼はこうして後ろへ下がり、一息を付きながら差し出されたコーヒーを口に含む。
なんて事の無いその行為ですら、彼にとっては『役目』なのだから。
使い、使われる事が彼の本懐。
それが各々の力を最大限に引き出す事が出来る要素なのだと彼は考えているのである。
「さぁて、今日の夜は大切な時間となりそうです。 皆さんもゆっくりと体を休めてください」
「わかりました」
「福留さんも無理をなさらないで下さいね」
平野と笠本に労いの言葉を掛けると、彼等がそれぞれの部屋へと帰っていく。
それを見送ると、福留はそっとカップを降ろし……窓から暗くなった夜空を見上げた。
澄みきった空気が満点の星空を遮る事無く映し、夜の世界を彩り照らす。
勇達も同じ夜空を見ているのだろうか?
その様に想いを巡らせると……福留の口が思わず僅かに口角が上がる。
大きく息を吸い込み、間も無く「ふぅ」と放たれたその鼻息は……戦いの前夜とは思えない程に落ち着きを伴った緩やかな一息であった。
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