時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第二十四節「密林包囲網 切望した過去 闇に紛れ蠢きて」

~去~

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 ブラジル側の交渉人達が空へと去っていった。
 後に残ったのは国連大使と魔特隊の面々、そしてウロンド。
 彼等が去ると、国連大使はウロンドへ握手を求める様にその手を差し出す。
 オッファノ族には握手という文化こそ無かったが……ウロンドは咄嗟に悟り、差し出された手をその大きな手で軽く掴んだ。

 力強く交わされる握手。
 大使は大きな笑顔を浮かべ、ウロンドの大きな手を思わず両手で掴んで上下に振っていた。

「先程の交渉では実に驚かされました。 実に有意義な話し合いだったと言わざるを得ません」

 その笑顔は大使の本心。
 偽る事の無い爽やかな笑顔だ。
 ウロンドの話し合い……もっぱら彼の独壇場と化した対話に大使は大きな感心を寄せていた。
 彼が本来大きな文明を持たない知的生命体であるにも関わらず、『こちら側』との人間と対等以上に話が出来る知性を有していたのだから。

「またいずれ、貴方とは直接語り合いたいものです……では、我々はこれで」

 ニコニコと笑顔を浮かべた大使は握手を終えると……ウロンドに向けて会釈し、その場から立ち去っていった。



 間も無く飛び去って行くヘリコプター……それを見つめるウロンドの目はどこか優しさを帯びる。
 そんな彼の背後から福留が近づき、そっと話し掛けた。

「ウロンドさん、お疲れさまでした。 私も彼同様、感心の念を抑えきれません」
「そんなこと ない われわれ のぞむこと せいじつなかいけつ ただ かたっただけ」
「ハハハ……でしたらオッファノ族とはきっと、皆優しい者達ばかりなのでしょうね」
「ああ みんなやさしい とても」

 互いに笑いを浮かべ、そう語る姿はもはや垣根など感じようはずも無い。
 彼等の心をそう動かす程にウロンドの裁量が凄かったのだ。

「恐らく、オッファノ族達の独立は認められるでしょう。 長い年月で文化を作る程に発展出来る知恵や倫理観を持ち合わせています。 そしてウロンドさん……貴方という統率者が居る事が何よりもの有効打となるでしょうから」

 ブラジル政府の交渉人を言いくるめる事が出来た彼ならば、国を成り立たせる事など容易であろう。
 そもそも、既にオッファノ族という魔者の国として成り立っている訳ではあるのだが。

「われわれ もくてき くにつくること ちがう ただ へいおんにくらす それのぞみ」
「そうですね……えぇ、きっと国など何の意味も持たないのでしょう。 名目だけ……それでいいのです」

 そう語ると、福留は静かに成った空を眺めて虚空を見つめる。

「『こちら側』の人間達は、同じ種族でありながら戦い、国という境を作り、互いを守りました。 それはあなた方も一緒ではあるのでしょうが……きっと全てがオッファノ族の様であっても……」
「おそらく たたかい おきる くに つくられるだろう。 だから ひつようなのだ かしこいものが だれもあらそわぬよう いさめるものが。 おうとはちがう なかまおさえるもの」

 ウロンドもまた福留と同じく空を見上げ……虚空の先にある自分達の進むべき未来を思い浮かべた。

「ヘデーノ族も よいものいた そしてこれから あたらしいかんけい つくるだろう」
「彼等は消えなかったのですか?」
「う? どういうこと? いま のこったヘデーノ族 なかまたちのところ いる」
「そうですか……」

 彼は当然、王が居なくなった種族が消える事を知らない。

 実の所、ウロンドどころか残ったヘデーノ族も居なくなってはいない。
 ウロンドがディビーを捕まえた時、恐らくこの土地に居る全ての魔物がウロンドを王と認識したのだろう。
 オッファノ族はともかく……ヘデーノ族は他の種族と違い、王という存在にそれほど大きなウェイトを置いていないのかもしれない。
 だからヘデーノ族の雑兵は捕まった時に彼等に従属する事を選んだ事で、ディビーが殺された後もまだ消えず残っているというのであれば辻褄は合う。

「……そういえば、アージさんから聞きました……元々、王と成ったヘデーノ族を弾劾する為に動いていたのだと」

 すると、思い出した様に福留が顔をウロンドへ向け……その細い目を彼の目へと合わせる。
 それに気付いたウロンドは、小さな福留を見下ろす様にその視線を合わせた。

「その節でも、存分に貴方の采配を感じさせて頂きました……是非ともその戦略眼、御指南願いたい所ですよ、ハハハ」
「それ おれもいえること。 福留氏のしじ てきせつ。 それなし おれのさくせん うまくいかなかった」
「そうでしたかぁ……年甲斐も無く初めて戦略指示を行いましたが、いやぁ上手く利用されてしまいましたなぁ、ハハハ……」
「初めてって福留さぁん!?」

 その話を背後で聞いていた心輝が思わず戸惑いの声を上げる。
 それもそうだろう……初めて行う指示で動かされていたなど、思うはずも無かったのだから。

「どうやら、この一連の出来事で最も賢かったのは……人間でも、ヘデーノ族でもなく……オッファノ族だった様ですねぇ~……いやぁ、これは実に傑作です!」

 途端、福留が今までに誰も見た事無い様な大声で笑いを上げる。

 彼にも僅かな慢心はあったのだろう。
 最新機器、高度な通信網、強力な戦力……負けるはずの無い戦力を持ち合わせていた。
 だが、ウロンドの方が一枚上手だった。
 それはもはや戦力など無意味だという事を証明させられた様なものなのだ。

 直接対決ではないにしろ、戦況を読み解く力はウロンドが上……そう認識させられたのである。

 だからこそ福留は自分の経験の無さによる失敗を受け入れた。
 それはまるで無邪気な若者が知識を知りたがるのと同様に……福留は年配ながらも自身の上げ代を感じ、感謝の意を篭めた笑いを上げたのだ。

「……もう無いとは思いますが、もし次相対する時は……負けません」
「フフッ それはたのしみ おれもまけない」

 そう言葉を交え、力強く握手を交わすと……ウロンドはそのまま森へと向けて一歩を踏み出した。

 そこでふと……その足を止め、顔をゆっくりと振り向かせた。
 それに気付いた福留達が視線を向ける中……ウロンドは鋭い視線を向ける。

「きをつけろ おまえたち ねらってる やつ いる」
「えっ……?」

 だがウロンドはそれ以上語る事無く振り返り、そのまま森の中へと歩き去っていったのだった。



 ウロンドの一言から生まれた疑念を払う事も出来ないまま……福留達もまた帰路へと就く。
 彼の言った事は、もしかすると勇を狙った事と何か関係があるのかもしれない。
 そう思わずにはいられない福留なのであった……。





 こうして対談は終わり、密林を舞台とした一連の出来事は幕を閉じた。

 しばらく後……国連の庇護の下、オッファノ族達の国『オッファノ共和国』が創立される事となる。
 形だけの国だけではあるが……彼等とブラジル政府は確実に前へ歩み出したのだ。

 ここまでに失われたモノが元に戻る事は決してない。
 でも、ここから育まれる絆や友好は一層深いモノとなり……彼等の交わる世界を彩る事になるだろう。

 戻らずとも、前よりもずっと前進する事は目に見えて明らかなのだから。


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