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第二十四節「密林包囲網 切望した過去 闇に紛れ蠢きて」
~帰~
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ウロンドとブラジル政府との間で合議が成された翌日。
……日本。
一足早く戻っていた勇があずーを連れ、行きつけの国立病院へと赴いていた。
レンネィが入院している病院だ。
毒を受けた影響からまだ解放されておらず……未だ意識の昏倒を続ける彼女にはしばらくの安静と休養が必要だと診断を受け、そのまま入院する事となったのだった。
もちろん衰弱の要因は毒よりも、急激な命力消費によるものが大きかった様だ。
二人の帰国を聞きつけた茶奈も、待ち遠しかったと言わんばかりに病院へと急ぎ駆け付けていた。
そこはあずーの泊まる病室。
未だ眠ったままのあずーの傍で勇と茶奈が椅子に座り彼女を見守る。
魔特隊の活動は非公式だという事もあり、両親にはまだ伝えていない。
ただ、命に別状は無かったとはいえ……危険な目に遭わせてしまった事に申し開きは付かないだろう。
「あずさん無事で良かったです……最初聞いた時は一体どうなるかと。 レンネィさんの事もあるし……」
「俺の力が及ばず守れなかった……凄く悔しいよ」
勇の膝に乗せられた拳が堪らず「ギュッ」と握り締められ、彼の想いを体現する。
思いつめた表情を浮かべる彼を横目に、茶奈が心配そうな顔を浮かべて手をそっと膝から持ち上げた。
だが、勇の手に向けられて動いた彼女の手は思わず止まり……彼女の視線と共に膝上へと手が戻されていく。
「で、でも命に別状は無いって事ですし……あずさん起きたら御両親にも伝えましょう?」
「そうだな……」
あずーの寝顔は穏やかそのもの、心配など要らないと思わせる程に。
いや、実際心配など要らないのだろう……勇が負い目を感じている事以外は。
彼にとっての負い目……それは戦いでは無く、彼女が気絶する前に残した言葉。
―――ずっと……大好きでした……これからも……ずっと―――
その言葉がずっと彼の脳裏から離れない。
ここに至るまで、彼女の言葉を思い出し続けていた。
彼女からのアプローチは今まで何度もあった。
だがいずれも「ほんの冗談」、「いつもの彼女のテンションだ」などと軽く受け流したものだ。
しかしそれはいずれも、彼女にとっては間違いなく本心だった。
彼女の残した言葉が今までの言葉をまるで一新していく様に塗り替えていく。
彼女から伝えられてきた言葉の一つ一つに重みを感じ始め……勇の中にはその想いを無下にしてきた事に対し、罪悪感にも近い念が渦巻いていた。
「茶奈、来てくれてありがとな……体調の方は大丈夫かい?」
「あ、うん……もう大丈夫です。 体調が治るまで時間掛かりましたけど……」
「そっか……また無理してるんじゃないかってさ」
発症時の様に無理をしてるんじゃないかと疑う勇であったが……茶奈の見せる笑顔が本物である事がわかると、「ホッ」と胸を撫で下ろした。
「もっと体も鍛えないとですね……勇さんの力はもうほとんど残っていないでしょうし、私が代わりに成らないと……」
「気張る事も無いんじゃないか? 少しは気楽に行った方がいいさ」
勇が「ははっ」と笑いを上げる。
だがそんな事を言う彼を前に、茶奈が何を思ったのか「ムスッ」とした顔を彼へ向けた。
「隠し事ばっかりの勇さんにそんな事言われたくないですっ」
「うっ……それ言われると痛いな……」
茶奈のツッコミもまた罪の意識を誘う様な一言。
途端勇が頭を抱えて二重苦に苛まれる。
だがその顔はどこか和らいだ感じが見受けられ……どうやら茶奈の言葉は僅かに彼の心を落ち着かせた様だ。
「もう隠し事はしないって誓っただろ……それで許してくれよ」
「ふふっ……どうだかぁ?」
「瀬玲みたいないじらしい事言うなよ……結構気にしてるんだから……」
いつの間にか二人の間で交わされるのは笑顔の会話……。
彼女のゆったりとした優しい話し方は、人の心までも緩やかにしてくれる。
勇とはまた違った優しさ……彼女はそれを持っていた。
それからおおよそ二時間後……夕刻。
二人は眠ったままのあずーの前でなんて事の無い会話に華を咲かせていた。
勇が茶奈への報告を兼ねた南米での出来事や戦いの事を語る。
先日行われたブラジルとオッファノの対談の件はタブレットによる連絡で茶奈も知る所であったが……その話を含め、彼の語る現地の話を静かに聴いていた。
だがその中には……あずーが言い残した言葉は含まれていない。
個人的な事だったから。
自分に向けられた彼女の想いの言葉だったから。
さすがに人の想いを勝手に語る程、勇はデリカシーを欠いていない。
「……そろそろ遅いし、君はもう家に帰った方がいい」
「勇さんは?」
「いつ意識が戻るか知れないし、俺はもう少し残るよ。 シン達も明日帰って来るし……せめてその間くらいはな」
「わかりました、レンネィさんの所に寄ってから帰ります……無理しないで下さいね」
「うん、君も」
勇の提案もあり、茶奈は彼に甘えて帰る事となった。
彼女が居なくなった後……静寂に包まれた二人だけの空間を、暗くなった空の色が僅かに暗く滲ませる。
日が暮れ、夜が訪れた空。
深い青で沈む街に、男が一人少女の目覚めをただ静かに待ち続けるのだった。
……日本。
一足早く戻っていた勇があずーを連れ、行きつけの国立病院へと赴いていた。
レンネィが入院している病院だ。
毒を受けた影響からまだ解放されておらず……未だ意識の昏倒を続ける彼女にはしばらくの安静と休養が必要だと診断を受け、そのまま入院する事となったのだった。
もちろん衰弱の要因は毒よりも、急激な命力消費によるものが大きかった様だ。
二人の帰国を聞きつけた茶奈も、待ち遠しかったと言わんばかりに病院へと急ぎ駆け付けていた。
そこはあずーの泊まる病室。
未だ眠ったままのあずーの傍で勇と茶奈が椅子に座り彼女を見守る。
魔特隊の活動は非公式だという事もあり、両親にはまだ伝えていない。
ただ、命に別状は無かったとはいえ……危険な目に遭わせてしまった事に申し開きは付かないだろう。
「あずさん無事で良かったです……最初聞いた時は一体どうなるかと。 レンネィさんの事もあるし……」
「俺の力が及ばず守れなかった……凄く悔しいよ」
勇の膝に乗せられた拳が堪らず「ギュッ」と握り締められ、彼の想いを体現する。
思いつめた表情を浮かべる彼を横目に、茶奈が心配そうな顔を浮かべて手をそっと膝から持ち上げた。
だが、勇の手に向けられて動いた彼女の手は思わず止まり……彼女の視線と共に膝上へと手が戻されていく。
「で、でも命に別状は無いって事ですし……あずさん起きたら御両親にも伝えましょう?」
「そうだな……」
あずーの寝顔は穏やかそのもの、心配など要らないと思わせる程に。
いや、実際心配など要らないのだろう……勇が負い目を感じている事以外は。
彼にとっての負い目……それは戦いでは無く、彼女が気絶する前に残した言葉。
―――ずっと……大好きでした……これからも……ずっと―――
その言葉がずっと彼の脳裏から離れない。
ここに至るまで、彼女の言葉を思い出し続けていた。
彼女からのアプローチは今まで何度もあった。
だがいずれも「ほんの冗談」、「いつもの彼女のテンションだ」などと軽く受け流したものだ。
しかしそれはいずれも、彼女にとっては間違いなく本心だった。
彼女の残した言葉が今までの言葉をまるで一新していく様に塗り替えていく。
彼女から伝えられてきた言葉の一つ一つに重みを感じ始め……勇の中にはその想いを無下にしてきた事に対し、罪悪感にも近い念が渦巻いていた。
「茶奈、来てくれてありがとな……体調の方は大丈夫かい?」
「あ、うん……もう大丈夫です。 体調が治るまで時間掛かりましたけど……」
「そっか……また無理してるんじゃないかってさ」
発症時の様に無理をしてるんじゃないかと疑う勇であったが……茶奈の見せる笑顔が本物である事がわかると、「ホッ」と胸を撫で下ろした。
「もっと体も鍛えないとですね……勇さんの力はもうほとんど残っていないでしょうし、私が代わりに成らないと……」
「気張る事も無いんじゃないか? 少しは気楽に行った方がいいさ」
勇が「ははっ」と笑いを上げる。
だがそんな事を言う彼を前に、茶奈が何を思ったのか「ムスッ」とした顔を彼へ向けた。
「隠し事ばっかりの勇さんにそんな事言われたくないですっ」
「うっ……それ言われると痛いな……」
茶奈のツッコミもまた罪の意識を誘う様な一言。
途端勇が頭を抱えて二重苦に苛まれる。
だがその顔はどこか和らいだ感じが見受けられ……どうやら茶奈の言葉は僅かに彼の心を落ち着かせた様だ。
「もう隠し事はしないって誓っただろ……それで許してくれよ」
「ふふっ……どうだかぁ?」
「瀬玲みたいないじらしい事言うなよ……結構気にしてるんだから……」
いつの間にか二人の間で交わされるのは笑顔の会話……。
彼女のゆったりとした優しい話し方は、人の心までも緩やかにしてくれる。
勇とはまた違った優しさ……彼女はそれを持っていた。
それからおおよそ二時間後……夕刻。
二人は眠ったままのあずーの前でなんて事の無い会話に華を咲かせていた。
勇が茶奈への報告を兼ねた南米での出来事や戦いの事を語る。
先日行われたブラジルとオッファノの対談の件はタブレットによる連絡で茶奈も知る所であったが……その話を含め、彼の語る現地の話を静かに聴いていた。
だがその中には……あずーが言い残した言葉は含まれていない。
個人的な事だったから。
自分に向けられた彼女の想いの言葉だったから。
さすがに人の想いを勝手に語る程、勇はデリカシーを欠いていない。
「……そろそろ遅いし、君はもう家に帰った方がいい」
「勇さんは?」
「いつ意識が戻るか知れないし、俺はもう少し残るよ。 シン達も明日帰って来るし……せめてその間くらいはな」
「わかりました、レンネィさんの所に寄ってから帰ります……無理しないで下さいね」
「うん、君も」
勇の提案もあり、茶奈は彼に甘えて帰る事となった。
彼女が居なくなった後……静寂に包まれた二人だけの空間を、暗くなった空の色が僅かに暗く滲ませる。
日が暮れ、夜が訪れた空。
深い青で沈む街に、男が一人少女の目覚めをただ静かに待ち続けるのだった。
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