時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第二十八節「疑念の都 真実を求め空へ 崩日凋落」

~SIDE勇-07 そして再び日本へ~

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 現在時刻 日本時間16:56......
 北米、カリフォルニア州時間24:56......

 ミシェルの暴露を前に、勇達はただただ驚愕する。

 誰が想像出来ただろうか。
 一国の長がテロリストにも等しい者達を手引きしていたなどと。

「そ、そんな……小嶋総理が……【救世同盟】……!?」

 勇達は何度も小嶋と会った事があった。
 彼女の事を知っていただった。
 口うるさく、彼等を厳しく扱うも、頭を下げる事も無きにしも非ず……それがだと思っていたから。

 だが現実は異なる。

 小嶋総理は演じていたのだ。
 その内面を悟られぬ様に……。
 心の色を知る事の出来る彼等すら騙し通せる程巧妙に。

「現在彼女の指揮下にある魔特隊も、【東京事変】を境に行動が過激化の一途を辿っており、危険な団体として認識されているのが現状です」

 その驚愕の事実を前に、勇達の開いた口が塞がらない。
 ミシェルはそっとUSBメモリから手を離し、自身の席へと再び腰を下ろすと……青の瞳を細めさせた。

「そしてこれもまた貴方には辛い事実となりますが……福留氏もまた、小嶋由子の部下として動いています」

「なっ!?」

「福留氏の意図はわかりません……ですが、彼女の下で【救世同盟】に関する行動を行っていたのは事実です。 私は彼と親しかったという事もあって【救世同盟】との関与が疑われ、それによって外交官の地位を剥奪されて今は監視対象という訳です」

 ミシェルの置かれた現状が、最初に出会った時に演技を行うに至らせたのだろう。
 除隊されて久しい勇ならまだしも、危険視されている魔特隊の隊長格である茶奈と同伴した事がバレれば彼女自体がどうなってしまうか怪しい。
 保身の為と言えば聞こえは悪いが、同時にこの会話の時間を稼ぐ最善の行動でもあった。

「これらの証拠は全てそのメモリに保存されています……今話した事はその一旦でしかありませんが」

 着替え終えた茶奈が再び勇の横に座る。
 二人の視線は自然とUSBメモリへと向けられていた。

 そこにあるデータが……日本という国の根幹を揺るがす証拠の全て。
 ミシェルが苦労して集めたであろう【救世同盟】と小嶋の悪意が詰め込まれているのである。

「いいですか、ミスターフジサキ、ミスタナカ……貴方達は知ってしまった。 もう無関係ではいられません。 それでもなお、貴方達は突き進みますか?」

 改めて問うミシェル。
 その瞳は先程と同じ、睨みを利かせた厳しいもの。

 そんな彼女が向ける視線の先に映ったのは……勇と茶奈の、意思に溢れた見開かれし眼。



「……突き進みます。 出来る事は少なくても、俺の力が届くのなら……必ず、やり遂げて見せます!!」



 勇の声に合わせ、茶奈も頷き応える。

 二人の意思は既に共有していた。
 互いに想う事は一緒だったから。
 二人にとっての世界を守る事とは、自分達の住む為の国を守る事とも同意義なのだから。

 二人で生きていく為に、彼等はもう……立ち止まる事を辞めたから。

「貴方達の意思はわかりました。 ではもう一つ、貴方達に伝えておきます」

 決意を固めた二人に、ミシェルが再び口を開く。
 それは優しさを伴った声色。
 先程よりもずっと嬉しそうな笑顔を向けて……彼女はそっと答えた。

「ミスターフジサキ……貴方の存在の影響力は貴方が思う以上に大きい。 我々アメリカ政府はこう考えています……唯一、貴方こそが日本から【救世同盟】という毒を抜く事が出来る存在なのだと」

「えっ……」

 それは存在感でも、強さでも無い。
 彼女が言うのは……ひとえに、勇の持つ象徴カリスマ性の事。

「確かに、デュゼロー氏の影響力は大き過ぎました。 その存在が【救世同盟】を生み、世界を揺るがす程に成長させたのも事実……ですが、そんな彼を倒したのは貴方です」

 【東京事変】の折、誰もが疑わなかったデュゼローの勝利を覆した勇という存在。
 それは人々の潜在意識に「デュゼローを超えた存在」という認識を生んだ。
 その結果、彼に英雄と大罪人という二つの呼び名を呼び込む事となったのである。

「だからこそ、【救世同盟】は貴方の存在を恐れています。 貴方がデュゼローを超えた唯一の者として、【救世同盟】を追い詰める事の出来る存在だと認識しているから。 だから小嶋由子は貴方を世界から切り離したのです……必要以上に干渉させないように」

 それが魔特隊から彼を除隊させた本筋の理由である。

 彼が魔特隊から離れ、疑問に思わせないようにさせる。
 その上で魔特隊を操り、徐々に【救世同盟】へと吸収させる……それが小嶋の描いたシナリオ。

「……もし貴方の行動が失敗すれば、貴方達は祖国を裏切り転覆を画策したテロリストというレッテルが貼られます。 そうなればきっと日本は愚か、世界で貴方達の居場所は無くなります。 私達アメリカ政府も貴方を擁護する事が出来なくなるでしょう……」

 不意に彼女の視線が移り、カウンターのある方へと向けられる。
 そこにあるのはモニター。
 何かしらの映像が映っている様であった。

「ですが貴方なら、日本に根を張る【救世同盟】を根幹から取り除く事が出来ます……貴方がセンセーショナルに日本を救う事が出来たならば。 私達は貴方達を信じています……どうか、日本を再びかつての形に戻し、友好国として返り咲かせてください……」

 そのモニターに映っているのはバーの外の光景。
 画面には、青白く光るランプを点滅させる車の影が映っていた。

「私が話せる事はこれで終わり。 さぁ、もう行きなさい……後は私が引き受けます。 どうか神の御加護が貴方達にあらんことを」

「ミシェルさん……ありがとうございました。 また……会いましょう!!」

 その一言を皮切りに、勇と茶奈が座席から飛び出す様に出ていく。
 そしてミシェルへ深く頭を下げると……手を振って見送るバーテンダーに礼を述べつつ、バーの外へと向かって走り出した。 
 
バァンッ!!

 扉を激しく叩く様に開く。
 その時二人の前に姿を晒したのは……数台のパトカーと警官と思しき人間が十数人。
 目を開けるのも困難な程の光を瞬かせながら、逃げ場を塞ぐ様にバーを包囲していた。

連邦保安局FBIだ!! 両手を後ろに回して跪け!!」

 全ての者達が銃を突きつけ、勇達を脅す。
 手馴れた様はドラマのワンシーンを思い起こさせる程だ。

 だが、銃による脅しなど、勇達には何の意味も成さない。

「すいません、俺達は行かなきゃいけない……行くぞ、茶奈!!」
「はいッ!!」



 その瞬間……二人の姿が大地を叩く轟音と共に姿を消した。



 二人は力をふんだんに奮い、思いっきり飛び上がったのである。
 ほとんどの者がその姿を一瞬で見失い、かろうじて目で追っていた者も、深夜の暗闇の中に溶ける様に消えていった二人を追い続ける事など出来るはずも無かった
 上空を飛び交うヘリコプターでさえ、一瞬にして消えた二人が既に頭上に居る事など理解出来る訳も無く……。

「い、今のは……まさか……」

 囲んでいた人員の中の一人、リーダーと思しき黒人の男が思わず呟く。
 彼もまた地位があるからこそ、勇達の顔をよく知っていたから。

「いや、そんな事より……ミシェル=スミスの確保が最優先だ!!」

 その一言で、大勢の隊員がバーを再び囲む。
 すると……店内から再び人影が一人姿を現す。

 それはミシェルであった。

 突然の彼女の登場に驚くリーダーの男を他所に、部下であろう白人の男がいきり吼える。

「ミシェル=スミス!! 貴様を国家反逆の容疑で逮捕する!!」

 彼等はミシェルを監視していた人員だった。
 彼女が怪しい動きを見せたため、急遽確保のために動き出した様だ。
 これだけ時間が掛かったというのも、彼女の動きが功を奏したに他ならない。

 鼻息を荒げて彼女を確保しようとする白人の男。
 だがそれを、リーダーの男がそっと腕で遮り制した。

「やめろ……そこまでする必要は無い」

 リーダーの男から漏れた声は、どこか察したかの様な穏やかな声色。
 ゆっくりと前に出て来るミシェルへと近づき、同じ声色で問い掛ける。

「ミシェル……はもしかして、ユウ=フジサキか?」

 まるで知ったかの様な口ぶり。
 それに対し、ミシェルもまた彼同様に穏やかな顔を向けてゆっくりと答えた。

「えぇ、そうですよエドウィン……彼はやっと立ち上がってくれました。 まだ間に合います……きっと彼なら【救世同盟】を止めてくれるでしょう」

 二人は見上げる。
 彼等が消えた空を。

 二人は願う。
 彼等の成功を。

 なまじ知ってしまっているから……祈らずにはいられない。



 彼等もまた……勇達と同じ様に、明日に希望を馳せている人間だったから。



「そうか……。 ミシェル、すまないが同行願えるか?」

「えぇ、もちろん。 私は疚しい事など何一つしていないもの」



 ミシェルを乗せた車が閑静な住宅街を抜けていく。
 ランプを光らせて連なり、列をなしながら。
 その国はまだ、そんな景色が当たり前で……日常の光景。

 その時、ミシェルは全てをやり遂げた様に……いつにない万遍の笑顔を浮かべていた。





 勇と茶奈が再び暗闇の空を斬り裂いて進んでいく。
 目的地はもちろん日本……。

 やるべき事は決まっていた。
 そして手に握り締めた証拠を便りに、彼等は突き進む。

 二人が成すのは世直しか、国崩しか……どうなるかはまだわかりはしない。

 そんな単純な事では済まない世界の中で、己の存在を賭けた二人の戦いが遂に本筋へと辿り着こうとしていた……。


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