時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十節「誓いの門出 龍よ舞い上がれ 歌姫を胸に抱きて」

~震風 プロジェクトリバース~

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 勇達の前に姿を現した、仰々しい紋様を持つ壁。
 幾多の魔剣にも見られた古代文字をあしらった様は、それすらをも魔剣にも見せるよう。

「これは扉ッス。 さ、皆、行くとするッスかね……空島の真実の中枢に」

 勇達が見守る中……立ち上がったカプロがゆっくりと壁へと近づく。
 人二人分もあると思われる様な巨大な台形の紋様へとその手を触れた。

 すると紋様の枠が光を放ち……突如として台形の部分が大気に溶けるかの様に姿を消したのだった。

「すっげ……」

 まるでSFで見る様な消える扉。
 実体でありながら空気の様に消える様はどうにも不可思議だ。

「これも【リフジェクター】の技術を使ってるんスね。 疑似命力粒子ソウルフォトナがリフォーミングで質量を再現して扉を実反射構築リフジェクティングしているッス」

「何言ってるのかさっぱりわからないんだけど?」

 横文字の羅列が勇達の理解を妨げる。
 さも当然の様に話すカプロの在り方はまさに科学者そのもの。
 彼の様な知識者が時折やらかしてしまう、彼等特有の癖とも言えるのかもしれない。

「……まぁ要するに、これは壁じゃなくて、命力が物質に変化してただけって事ッスよ」

「マジかよ!! 命力半端ねぇな!!」

 まるでわかったかの様に声を張り上げる心輝。
 でも恐らく彼もまだわかっていないのだろう、勇達から座った目が向けられたのは言うまでもない。

 簡単に言えば、心輝の炎と同じ様なものだ。
 物理干渉を行い、現象を引き起こし、自在に操る事の出来る命力。
 それを自動制御出来るのだとすれば、ここに備わる装置で心輝の炎と同じ様に土埃を集めて壁を造る事も出来るという訳だ。
 その命令が単純であればある程……その精度は高くなる。

 つまりこの扉は、「扉になれ」と命じられただけのシステムなのだ。
 だからこの様に、壁に見える程の形を構築する事が出来ているのである。

「ようやく到着ッスね……さ、中に入って」

 もう誘導する必要も無くなったのか、カプロが手を振り上げて彼等を部屋へと引き込む。
 勇達が好奇心に誘われる様に扉の先へと足を踏み入れた。



 そしてその先に映る光景を前に……ただ声を殺す。



「これは……!!」



 そこに在ったのは、単に言えば……モニター室。

 部屋自体は数十人が入れそうな程に広い楕円形。
 無数の液晶が壁上半分を覆う様に張り巡らされ、黒い画面とバックライトの名残を僅かに放つ。
 それは現代の物で、よく見ればメーカー名が刻印された様子も僅かに覗く。
 部屋の中央には、いつか空島の中心で見たコンソールらしき金属の台が立ち、それを中心に金属製の机が張り巡らされていた。
 部屋の正面、モニターの密集部へと向かう様に楕円を描く机には固定された椅子が設けられている。
 コンソール前にも高そうなゲーミングチェアの様な体を包み込むタイプの椅子が備えられていた。
 いずれの人工物も、先程の部屋とは異なり専用の意匠すら感じさせる独特な精錬感を漂わせる程の出来栄え。
 机には紋様が走り、僅かに光を放つ。
 パソコンが幾つか備えられ、ディスプレイもその数だけ備えられている。
 そこは明らかな、何かを行う場所……そう思わずには居られない程に、古代と現代の入り混じった様相だったのである。

「ようこそ空島の中枢へ……これがボクらの希望ッス」

 余りにも仰々しい内装に、勇達の驚きが止まらない。
 こういうのが好きな心輝に至っては興奮の連続である。

 するとカプロはゆっくりとコンソールへと歩み始める。
 備えられた椅子へと腰を掛けると、ゆっくりと操作を始めるのだった。

 その手捌きは慣れたもので……何が起こっているのか勇達が理解する間も無く、カプロが声を上げる。

「えーえー、空島に乗員の皆さまー、もう間も無く空島は【プロジェクト リ・バース】を行いまス。 人員は速やかに居住区に移動、もしくは各々の区画に設けられた安全シートに座り、安全確保を行う様に」

 それは恐らく通信機能。
 空島全体に声が行き渡るものなのだろう。
 これもいつだか剣聖が空島で使って見せた機能の一つだ。

「さて、各区画で準備が整う前に、こっちでも準備を整えておくッスかねぇ」

 再びカプロがコンソールへと手を伸ばし、素早い手捌きで操作を行う。
 途端、勇達の居る場所が白の光に包まれ……先程の大広間同様の明るい視界が広がった。

「通電開始ッス。 ほほいのほいっと」

 これみよがしにカプロは指でコンソールを突き、刻まれた紋様に光を灯していく。
 紋様の全てに光が灯った時……突如として勇達の耳に聴き慣れぬ音が響き始めていた。



―――ィィィィイイイイン……

 

 それはまるで機械の起動音。
 そうではないとすれば、言うなれば命力の共鳴音である。

 それと同時に、彼等を覆うディスプレイが一斉に光を放ち始める。
 たちまちそれらが映像を映し始め、様々などこかの風景を構築していった。

 そこに見えたのは……空島内部と外部の映像。
 大量のディスプレイがそれらを克明に映し出し、カプロ達に状況を伝え始めたのだ。

「まだ慌ただしいッスね……もうちょっと時間かかりそうッス」

 その映像には勇達が使ったのとは別のエレベーターの映像も映っている。
 中枢への移動手段は一つでは無かったのだろう。
 多くの人員がエレベーターを使い、入れ替わる様にして駆け回る。
 しかしその身はどこか身軽で……ほとんどの道具を外に置いて来た事を暗に示していた。
 遺体などは真っ先に搬入された様だ。

 先程医務室へ運んだロナーは未だ病室に寝たきり。
 しかし当のカプロは特に気に掛ける事も無く、作業に集中していた。
 病室が安全な場所だという確信があるのだろう。



 ちなみに先程の戦いで捕らえた救世同盟兵は全て、海上のアメリカ軍空母に移送済み。
 反乱軍と共に拘束、彼等の手によって本国へ移送される事となっている。
 全ての準備を終えた空母は既に現海域から離れ始めていた。

 まるで空島から逃げるかの様に。



 そんな光景を前に勇達が佇む中、カプロがふと何かに気付いて頭を上げる。

「あ……勇さん達も念の為にそこに座っててほしいッス」

 カプロが指を差すのは入り口の横の壁。
 そこに在ったのは、壁に備えられたシート群だった。
 それぞれにしっかりシートベルトが備わっており、安全対策もバッチリである。
 ようやく座れるというのもあって、勇達は遠慮する事無く椅子へと腰掛けていく。

 時間にしてみれば、勇達が内部へ移動し始めてからおおよそ三十分。
 勇達は歩いていただけだったが、その間にも人員達が色々と駆けずり回っていたのだろう。
 思ったよりもずっと早く、各所での動きが収まりを見せ始めていた。
 さすがの軍人……こういった作業に対しての効率は彼等の様に統率された者ほど素早いもので。

 先程コンソールに光っていたのは紫の光。
 それとはまた別に青の光が一つ、また一つと灯り始め、前に座るカプロの目を引く。
 画面に映る各区画の映像にも、カメラに向けてサムズアップを見せる兵隊等がちらりと映り込み、それが準備完了である事を暗に悟らせていた。

 外を写す画面にはもはや人っ子一人おらず、気付けば動き回る影すら見当たらない。

 コンソールに青の光が灯り終えた時……カプロが遂にその手を離した。

「ふぅ……準備完了ッスね。 それじゃ早速【プロジェクト リ・バース】を開始するッス」

 カプロが得意げな笑みを浮かべて背後へ振り向くと、そこに居る勇達も頷き返す。
 それを確認したカプロはゆっくりとその身を戻し、コンソールを通して各人員へと連絡を始めたのだった。



「各員に通達、これより【プロジェクト リ・バース】を発動するッス。 各自ショック体勢及び不測の事態に備えるッスよ!」



 そう言い放つと、カプロが再びコンソールへ向けてその手を伸ばす。
 手の向かう先……それはコンソールの中心で大きく点滅する黄色い光。
 淡く優しい光は十字の様な絵柄を象った紋様を浮かび上がらせていた。
 
 それを前にした時、僅かにカプロの手が止まる。
 柄にも無く緊張しているのだろう。

 だが間も無く……仲間達の熱い視線が注がれる中、遂にその指が紋様へとそっと触れたのだった。





……ズズズ……





 途端、周囲に妙な音が鳴り始める。
 それは振動音。
 その事を悟らせるかの様に、空かさず勇達の身に微細な振動が伝わり始めていた。

「さて、最後の問題ッス……【プロジェクト リ・バース】の『リ・バース』とは一体どんな意味を持つのでしょーか?」

 振動が周囲を包む中、余裕のカプロはニヤニヤのした笑みを浮かべて再び振り返る。
 僅かに慌てていた勇達もそんな彼を前に落ち着きを取り戻し、彼の問い掛けに頭を巡らせ始めた。

「『あちら側』の言葉じゃないのか?」

「いんや、わかりやすく『そっち側』の言葉ッスよ」

「じゃあ、『戻す』とか『裏返す』とか、そういった事ですか?」

 その時カプロの指が茶奈へ向けられ、先程よりも大きなニヤリとした笑みを見せつける。

「半分正解ッス。 そしてこの言葉にはもう一つの意味も含まれてるんスよ……それは『再誕』。 リバースReverseリ・バースRe・Birth、このプロジェクトの発動はその二つが行われる事を意味してるってワケッス」

 きっとそれも一つの謎かけなのだろう。
 空島と呼ばれる物に行われる事への。
 それが何を意味するのか……例え漏れても、その真意をわからなくさせる為に。

 ただわからなくさせるのであれば、全く別の名前を付ければよいだろう。

 だがきっと、カプロがそんな名前を付けたのは……この名こそが最も相応しいと思ったから。
 必要以上に飾る事も無く、真意と偽意を乗せられるこの名を。



 そして遂にその真意が解き放たれた時……空島が大きな変化を迎える。





 あるべき姿へと≪再誕リバース≫を果たす為に……。


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