時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十二節「熱き地の再会 真実は今ここに 目覚めよ創世」

~可能性を示し者の唄~

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「【創世の鍵】は……ここにある……!」



 低く唸る様な声で発せられたヤヴの一言が、家内の隅々に響き渡る。
 まるで決意と真意を乗せた様な、力強くすらある一声。

 勇達は彼の告白を前に、ただただ驚愕の顔を浮かべていて。
 剣聖すらも目をこれでもかという程に見開き、ヤヴへと強い視線を向け続けていた。

「そう、ここにあるのだ。 だが―――」

「えっ……」

 しかし、そう言い切った直後に……ヤヴの真っ直ぐ向けられていた視線が逸れる。
 先を言い切るのが憚れるかの様に、続く言葉を詰まらせて。

 勇達に浮かび上がるのは動揺の色。
 そんな中で、ヤヴは何を思ったのか……地を突いていた掌を丸めて拳を作り、力強く握り締める。

 そして再び勇達へと顔を向けると、険しい顔付きのままに再びその口を開かせた。



「厳密に言えば……隠れ里存在するのだ……」



 それを聴いた途端、勇達がその耳を疑う。
 彼の言う事が余りにも虚実的過ぎて。

 全て存在する……全てでもなく。

 まるで隠れ里が全てで【創世の鍵】であると言わんとするかの如く。

「な……どういう事だそいつぁ!?」

 剣聖が声を張り上げ、意味を問うという事。
 それは彼ですらその一言を全て理解出来なかったという事に他ならない。
 決して翻訳の力が働いていないなどといった理由では無かったのだ。

 その時……何を思ったのかヤヴが片足を突き、ゆっくりと立ち上がる。
 右手の人差し指を己の前に掲げて見せつけながら。

「つまりは……こういう事だ」

 掲げられた指が勇達の前でゆっくりと動く。
 そしてその動きが止まった時……彼等はそこで初めてヤヴの意図を知る。



 人差し指が示しは……大地。



「創世の鍵は詰まる所、命脈の中核、星の中心アストラルストリームに存在するのだ」

「なんだ……と……」

 剣聖がその瞬間、驚愕の余りに唸り詰まる様な声を漏らした。

 それほどの事実。
 彼にはヤヴの言った事が全て理解出来てしまっていたのだ。
 それがどの様な結論をもたらしたのかを。

 勇達が未だ理解しきれぬ中で……剣聖はただ一人、事実を前に思わずその身を震え屈ませていた。
 その後ろでは……何かに感づいたのか、目を逸らす瀬玲の姿も。

「……何が言いたいかはこれでわかったであろう?」

 座りながら震える剣聖の姿が余りにも衝撃的で……勇達の声が詰まる。

 ヤヴもまた、こうなる事を予見して躊躇していたのだろう。
 でもそれが伝えねばならぬ事だったからこそ……使命だったからこそ、彼はこうして堂々と彼等の前に立ったのだ。

「【創世の鍵】に辿り着いたのは、実はお主達が初めてでは無い。 世代を越え、時代を超えて……幾度と無く訪れた者へ、この様な事実を伝え続けて来たのだ。 だが今までに訪れて来た者達は皆、諦めて去っていったよ」

 その声にはどこか悲壮感すら漂う。
 それ程までに長く辛い……業が如き使命を引き継いで来たから。

 絶望とも言うべき、この事実を伝えねばならなかったから。



「当然だ、我々肉に囚われし生命体が星の中心になど行ける訳も無いのだから。 そう……【創世の鍵】は天士のみが得られる物。 人や魔者が扱えるものでは無いのだ」



 きっと天士だけが星の中心と呼ばれる場所へ辿り着く術を有していて、【創世の鍵】を使う事が出来るのかもしれない。
 それはデュゼロー達【救世】やアージが言い残した事と同じだったのだ。
 「我々は天士にはなれない。 しかし天士はもう居ない」のだと。

 だからこそ瀬玲もまた、気付いたのだろう。
 アージの言葉を聞いた本人だからこそ。

「ふざけるなぁ!! 三百年だぞ……俺はそれだけの時をッ―――」

 その時、剣聖の身が奮い立つ。
 身体に力すら漂わせて。

「ならばそれも無駄に消えよう!! 三百年など、悠久の間に永遠と叶わぬ悲願という枷を受け継ぎ続けて来た我々と比べれば、有って無い様なものなのだからな!!」

 ヤヴももはや止まらない。
 滾る剣聖を前にしてもなお、ヤヴは物怖じ一つする事無く立ち塞がる。
 彼にももう失う物は何も無いのだ。
 いや、最初から無かったのかもしれない……この里に生まれた時から。
 叶わぬ想いが呼び起こすのは……無念と諦念。

 その負の感情が……剣聖の憤怒を呼び起こした。



「無駄だと……俺達の三百年を……無駄だとォォォ!!!!!」



 剣聖の怒りが迸り、力へと換える。
 たちまち周囲を覆い包む程に強烈な命力の波動が飛び広がっていった。
 闘志、敵意、殺意……ありとあらゆる攻撃の意思が膨れ上がり、一瞬にしてその場を覆い尽くす。

 そして剣聖の身が力の溢れるがままに、起こされた時……その全てがヤヴへと向けられたのだった。





 だがその瞬間……剣聖の肩に凄まじい衝撃が走る。





ガクンッッッ!!!!!





「なッ!?」

 余りにも不意な事で。
 彼にも一瞬、何が起きたのか理解出来なかった。

 彼の体が途端に……石になったかの様に固まり、持ち上がらなくなっていたのだから。

 しかし剣聖は直ぐに気付く事になる。
 自身の身に何をのか……を。



「ダメです剣聖さん……争ったって何の解決にはならないんですよ……ッ!!」



 それはなんと勇。
 彼が剣聖の肩を地面に押し付けるかの様に押さえつけていたのだ。

 その力は、剣聖が茫然とする程に……強く、重く。

 でもその茫然の素は、力とは別の所に向けられていたのかもしれない。
 そう予見出来る程に……振り向いて勇を一心に見つめる剣聖の姿があった。

 顔に浮かぶのは先程までの怒りではなく……穏やかさを伴う落ち着いた表情だったのだから。

「それに、一歩前進出来たじゃないですか……創世の鍵が地球の中心にあるなら、中心に行ける方法を見つければいいんです」

 もう既に攻撃的意思は一瞬の出来事で巻き起こった突風の様に消え去っていた。
 威圧感すらも感じさせぬ、誰の心の負担にもならない程の間。

 剣聖の意識はもう、勇の語ろうとする意志へと向けられていたのだ。

「おめぇ……それがどういう事かわかってんのか……?」

「えっ……いや、よくはわからないですけど……例えばほら、茶奈に頼んで地面に掘り進んで貰うとか……」

 途端……見る見るうちに剣聖の瞳が細められて。
 気付けばあんぐりと……大きく顎を落とす彼の姿が。

「……それじゃダメですかね?」

 そんな良い反応を見せぬ剣聖を前に、勇はたちまち声を詰まらせ「キョトン」とした表情を浮かべていた。

 虚しさすら漂う静寂が場を包み、別の意味で茶奈達の声が詰まる。
 的外れとわかりそうな程に見当違いな勇の発言に、どう突っ込んでいいのかわからなくて。

 そんな中剣聖はと言えば……「ワナワナ」と肩を震わせ、「ピクピク」と目尻を痙攣させながら勇を睨みつけていた。

「馬鹿野郎!! んなわきゃねぇだろぉ!!!! 星の中心ってのはな、詰まる所、星の精神の中って事だ! 命脈を辿って辿り着く、命の中心だ!! 人間で例えるなら、おめぇの思考の中に人が入るってぇ事だぁよ!!」

 その一言と共に、肩に当てられた勇の両手が弾かれて。
 立ち上がった剣聖がこれ見よがしに、怯む勇の額を太い人差し指で何度も小突き回した。

「要するにだ!! 星の精神の中に入る為には!! 物理的なしがらみを取り除いた!! 精神体にならなきゃなんねぇんだ!! お前等で言う所の魂みたいなもんにな!! だが人間がそんなもんになって戻れると思うかぁ!?」

 何度も何度も小突きながら、剣聖の怒声にも足る説明が繰り広げられる。
 勇の顔に剣聖の唾が飛び散る程の激しい叫び声で。

 小突かれ続けた勇の額は真っ赤に充血し、堪らず苦い面を浮かべてしまうだけにとても痛そうだ。

「あー……そういう事かぁ……」

 今の剣聖の説明で勇だけでなく茶奈達もまた理解に至り、頷く様を見せる。
 心輝やイシュライトも、それを理解するとたちまち項垂れ……事実を受け入れ始めていた。



 だが……そんな中でも勇はまだ、首を傾げる様を見せていた。



「でも、なれる方法がもしかしたら……」

「たぁーッ!! これ聞いてなんでそんな楽観視出来るんだおめぇは!! ったく……なんか呆れてムカムカが飛んで行っちまった……どうすんだこのやり場の無いモヤモヤはッ!!」

 とうとう呆れ尽くしたのだろうか……剣聖は途端に床へと「ドカリ」と座り込み、しかめっ面を浮かべて背を向けてしまうのだった。

 勇はと言えば……眉間を寄せたどこか腑に落ちない表情を浮かべながらも、「ハァ」と溜息を零す。

 こうやって剣聖が癇癪を起こす事など昔からよくあった事で。
 もはやこうなるとテコでも動かないのも知っているから……何を言うのも諦めたのだろう。

 そんな一連の彼等の姿を、ヤヴは静かに佇みながら見つめていた。
 主に……剣聖に前向きさを見せつけ続けていた勇の事を。

 剣聖が押し黙って静かになった時……勇もそれに気付いてふと、視線を向けた。

「ヤヴさん、どうしたんですか?」

「あ、いや……聞いていた以上に前向きなのだなと思ってな」

 勇が見せていたのはどちらかと言えば楽観。
 事実を理解してもなお、諦める事など選択肢に無い様な立ち振る舞い。
 
 でもそれが彼にはどこか新鮮にも見えたのだろう。

「はは、諦めても何も変わらないですからね。 それに可能性が無い訳じゃない……なら、挑戦したっていいじゃないですか。 俺達に時間が無い訳じゃないんだから」

 そう……勇は可能性を諦めないから。

 そしてヤヴが見せたのはまさに可能性。
 不可能な事と思わせても、そこにあるという事実は変わらない。

 だから勇は切り拓く事だけしか見えていなかったのだ。

「そうか……君は―――」

 そんな勇がどこか眩しく見えて。
 先程の苛立ちの様な感情が消え失せてしまう程に照らす様で。
 その先の言葉を詰まらせてしまう程に輝いていて。

 気付けばヤヴも、穏やかな表情を取り戻していて。



―――もしかしたら……我々が待っていたのはではなく、君だったのかもしれんな―――



 そんな想いが……心の中に浮かび上がっていた。


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