時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十三節「二つ世の理 相対せし二人の意思 正しき風となれ」

~講話と認可 真の世界救済はここから始まる~

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 国連本部議会に参集したのは各国の代表だけではない。
 中には世界権威でもある歴史的有識者や科学研究者、『あちら側』の人類代表、魔者の知識陣などの姿が見られた。
 他にも会話を書き興す速筆者、場面を絵に写す写記など、機械を介さずに講話を記録する為の者達もがその場に居合わせる。
 当然その中にはリッダとアネットの姿も。

 彼等を前にするのは当然、勇とア・リーヴェである。
 それに加え、今回は福留、そしてビーンボールまでもが彼等の背後に付く。

 ビーンボールも先日の日本での聴講会以降、グランディーヴァへと正式に参加している。
 その役割は当然、論理的思考からの意見を勇達に提供する為。

 現に彼の存在は、この講話において何よりも大きな役割を果たしている。
 何故なら彼もまた世界的権威の一人。
 変人扱いこそされてはいるが、科学界において彼の名を知らぬ者は居ない程だ。
 もちろん『ビーンボール』という名は福留同様仮名であるが、今となっては本名の様な物で。

 彼の太鼓判があるからこそ、有識者達は勇達の話を先入観無く聴く事が出来る。
 そもそもそんな先入観などア・リーヴェの声の前には何の意味も成しはしないが。

 勇の象徴性カリスマ
 ア・リーヴェの真実性リアリティ
 そしてビーンボールの証明力エビデンシティ

 その力を持つ三人の声が重なった時……議会が激震する。

 打ち明けられた世界の真実と、その結末。
 これから成さねばならぬ事と、真の敵の存在……アルトランとアルトラン・ネメシス。



 こうして遂に世界は……全てを知ったのである。





◇◇◇





 講話が終わり、勇達が国連本部建屋から姿を現す。
 勇を中心に、付き添いの茶奈と福留、ビーンボールが。
 その反対隣にはリッダとアネットが。

 手応えのある講話に、勇達は満足の笑顔を浮かべていた。

「全く、そんな事ならどうしてもっと早く言わないのだ!!」

 腕を組んだリッダが憤りの様子を見せながら勇と並び歩き、「ぷぅ」と頬を膨らませる。
 そんな余裕も無かった初対面だったのにも拘らずの理不尽な怒りである。
 その隣を歩くアネットも「やれやれ」とお手上げだ。

「しかし見直したぞ! やはり私が見込んだだけの事はあるな!」

 凄まじい掌返しを見せつけながら、膨れっ面を途端に大きな笑みへと変え。
 無い胸を張り上げながら、表情の豊かさをありありと見せつけていた。

 そんな彼女を前に勇達も苦笑を浮かべるしかない。

「真に世界を救うのだ、そんな其方の背を押したのが我が両親だというのは実に誇りに思うぞ!」

 途端、興奮冷めやらぬリッダの手甲が勇の股間をビシビシと叩く。
 背の高さゆえ、その場所に当たってしまうのはいざ仕方のない事か。

 しかしあたかもそこを狙った様に叩くので……勇もどこか困惑気味だ。

「リッダさん、何でそこを叩くんですか」

 それに対し当人よりも先に反応したのは茶奈。
 度の過ぎるスキンシップが彼女の嫉妬心を煽った様だ。
 その時思わず浮かばせた「ムスッ」とした表情が、リッダの何かを刺激する。

「いやな、何せ世界を救おうとしている男なのだ、如何にのか気になるでは無いか?」
「何言ってるのリッダちゃん? わからないわぁ、意味深だわぁ」

 アネットがニコニコとしながらもツッコミを飛ばすが、リッダは止まらない。
 「ウンウン」と頷きながらも、大きな笑みが「ニタニタ」とした厭らしい笑みへと変貌していく。

「それに我が両親が認めた男よ。 相応たる嫁が必要となろう? ならば私がなってやらんでもない」
「リッダちゃんツンデレね? ツンデレのデレなのね?」

 先程まで殺そうとしていた者がその対象だった者に言う様な言葉では無いだろう。
 リッダの言っている事も意味不明だが、息の合った様なアネットのツッコミがその妙な空気を助長する。
 冗談にもならない空気が生まれそうな雰囲気の中、当事者の勇と蚊帳の外の福留達はもはや失笑気味だ。

「リッダさん、初対面でそれは無いと思いますけど? あと勇さんの彼女は私なんですけど?」

 茶奈も負けじと喰らい付き……講話の後の高揚感は急転直下でどん底へ。
 目下で突如として始まった女の火花散る戦いに、勇はもはや顔を引きつらせる事しか出来ない。

「ハハッそうか!! ならば精々可愛がってもらうのだな芋娘!! だがもしこの娘を抱き飽きたら遠慮せず言うが良い、その時は私が其方に寄り添ってやろう。 高貴で誇りに満ち溢れたこの私がな!!」
「リッダちゃん馬鹿なの? どう見ても勝ち目無いの馬鹿なの?」

 先程の勇との対話で妙な火が付いてしまったのだろうか。
 自信に満ち溢れんばかりの鼻高々な笑い方は、どこか某毛玉フジヤマに通じる所を感じさせる。
 アネットのツッコミが耳に入らない所を見るに、興奮すると周りの声が聞こえなくなる性質なのだろう。

 それを考えれば、先程思いとどまったのは奇跡だと言わざるを得ない。

「は? 勇さん私の事飽きるんですか?」
「なんでそこで俺を見るの!?」

 もはやとばっちりもいい所で。

 ようやく彼氏が出来た乙女の純情は時に残酷である。



 そんな一触即発といった所で福留が間に入り……なんとか事なきを得る。
 茶奈とリッダの仲は最悪のままではあるが。



 しかしこれで勇達もこの場所での活動は終わり。
 数日中には次の目的に向けて行動を開始せねばならない。
 そうなれば彼女達との別れも必然となるだろう。

「ここで別れるのは口惜しいが……仕方あるまい、それが其方の成すべき事なのならば」

 落ち着きを取り戻し、冷静となったリッダが浮かべるのは真剣な眼差し。
 仕事ともなれば、いくらこんな彼女であろうとも真面目になる事が出来る。

 多くの魔者達の想いを背に受けているからこそ、彼女は責任を全うする義務を果たすのだ。

「これから苦しい事は沢山あるかもしれない。 またその手で我が同胞を手に掛けるかもしれない。 だがそれが犠牲にならねば救えぬ世界ならば、それも仕方のない事なのだろう」

「でも俺はそれすら避けてみせるよ。 無駄に失えば、それは明日に繋がらないから。 俺は例え必要であっても、守れる命は守りたいからさ」

「ああ、それならいい……それなら―――」

 その時リッダが勇に向けたのは安堵の微笑み。
 勇はそう言った事を成し遂げてくれる……そう信用したからこその。

「それじゃ、俺達は行きますよ。 またどこかで会いましょう」

「ああ。 世界を、皆をよろしく頼む」

 リッダが、アネットが……その一言を最後に手を翳し、勇達に別れの挨拶を送る。
 二人は揃って安らぎの笑顔を送り、手向けとした。
 たったそれだけでも、勇にとっては大きな力と成る。
 それを知ったから、彼女達はこうして見送る事が出来るのだ。



 光が瞬く先に見えるのは、いつも見た景色。



 彼女達は舞い上がる光を追う様にそっと空を見上げ、想いを馳せる。
 その先に在る巨大な龍を。
 その姿を抱き込まんとする黄昏を。

 世界が救われる事をただただ祈って。










「―――という訳で今日から世話になる、リッダとアネット=エリオンテだ」
「なんで貴女なんですか!?」

 この日、国連議会での講話の後日の事。

 アルクトゥーン管制室に茶奈の怒号が響き渡る。
 そこに集まっていたのはグランディーヴァの面々……そして先日散々勇を振り回した二人組。

 何を隠そう、この二人……正式にグランディーヴァへと出向を命じられ、こうして乗艦する事となったのである。
 いわゆる国連直属の監査官である。

「私が一番其方達の事を良く知っているのだからな、当たり前だ!! 其方達が本当に世界を救うかどうかなど、見届けなければ安心も出来ん」

 妙に高圧的なのは性格故か。
 彼女の態度は茶奈だけでなく他の面々までもが顔をしかめさせる程だ。

「世界を救うと見せかけて、裏でラブラブチュッチュばかりされても困るからな!!」
「しませんよ!!」
「駄目なのかよぉ!?」

 否定したい茶奈とラブラブチュッチュしたい心輝とで意見が分かれ、二人の間に微妙な空気が生まれる。
 今まで気が合っていた二人すらも揺らがせるほどの影響力を前に、勇達が不安の余りに大きな溜息を呼び込ませていた。

「当然の事だ……昨日の様にな!!」
「ちゃなたん……」
「ゆうたま……んーッ!!」

 途端、リッダとアネットの物真似が始まり……それを目の当たりにした勇と茶奈が崩れ落ちる様に項垂れる。
 「周りにはそう見えていたのか」などという気恥ずかしさに苛まれながら。

 それにしてもこの二人、演技がまるで練習してきたかの様に息ぴったりである。







「こんな事が無きよう、我々は其方達の事をずっと見ているからそのつもりでいろ!!」
「リッダちゃんがご迷惑をお掛けする事と思いますが、暖かい目で見守って頂ければ幸いですぅ」

 既に二人を見る目は生暖かい。
 その内の一人であるアネットが心配する必要はどうやら皆無の様だ。





 こうして……珍妙な二人組リッダとアネットを仲間に加え、勇達の本当の戦いが始まりを告げる。
 彼女達を迎える事で、グランディーヴァは今日この日正式に国連に認められたのだ。

 これから勇達は国連の許可の下、その力を存分に行使するだろう。
 全ては世界を、未来を守る為に。



 もしかしたら勇の様に天力に目覚めた異星人が人知れずこの星に訪れているかもしれない。
 しかし彼等も、宇宙の彼方に居るであろう別の人類も、きっとこの星で起きている事を知らないだろう。
 この世界に生きる者として、今この星で起きている事はまさに次元の外の事なのだから。

 そんな彼等ともいつか出会う為に。
 遠い未来に【セカイ輪廻】を成す為に。
 例えその気が無くとも、明日を紡ぎたいから。

 勇達は戦い、勝たねばならない。

 世界の真実を知るという責が、彼等の背に重くのしかかる。
 だがそれは彼等が望んで知った事だから……苦では無いだろう。



 未来に繋げる為創世の鍵は、もう彼等の手にあるのだから。



第三十三節 完


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