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第三十四節「鬼影去りて 空に神の憂鬱 自由の旗の下に」
~対話、敗す~
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エイミーの真っ黒に染まった視界が僅かに白を帯びる。
外の光が薄い瞼を透過して瞳に入り込んだ所為だ。
その白も次第に広がりを見せ、瞬く間に視界全てを覆い尽くし―――
「大丈夫か?」
真っ白になった視界はすぐさま彩りを帯び、輪郭を形作る。
そのまま世界はあっという間に色彩に溢れ、いつもの景色を映し出した。
「ええ、落ち着きました。 心配をお掛けして申し訳ありません」
目の前で困惑の表情を見せる勇の姿と共に。
グランディーヴァの藤咲勇と【救世同盟】のエイミー=ブラットニー。
突如始まった二人のアポなし会合は、彼女の休憩によってしばし間を置く事に。
敵とはいえ、今は話し合いの場。
突然起きたエイミーの不調を前に、勇もどこか不安そうだ。
元々優しい彼だからこその配慮と言った所か。
しかし症状が収まるまでの間に気を落ち着かせていたのだろう。
エイミーが目を開いた時には椅子にもたれ掛かっていて。
それが彼女にとっては逆に安心の種となった様だ。
「あら」と思わず零し、間も無く再びの微笑みを呼び込んでいた。
「話の腰を折ってしまいましたね。 折角ですから世間話はここまでにして、肝心の話に移りませんか?」
「ああ、構わない……と言っても、俺としては目的なんて無いんだけどな」
「と、言いますと……?」
「そのままさ。 それでも敢えて言うなら―――」
そう言い掛けた時、勇がそっともたれ掛かっていた体を起こす。
そのまま膝元に両肘を乗せると、その上に組まれた手へと顎を添え―――
「エイミー、今すぐ【救世同盟】の思想を捨てて本来の形での平和を望んで欲しい」
たった一言、想いを声へと換えた。
それは勇が最も望む在り方。
出来うる事ならば争いたくはない。
この様に話が出来るのだから、話で解決したい。
そんな想いがあるから。
しかしそれも叶わぬと知っているから。
「……と言っても、聞き入れてくれる訳も無いって事くらいはわかってる。 敢えて言ったのは俺のスタンスは基本この方向性だって事を伝えたかったってだけさ」
相手も曲がりなりにも団体の代表。
もはや個として受け入れる事が出来る様な存在ではない。
それに例えその様な立場が無くとも、彼女は受け入れないだろう。
そう確信させる確固たる意志を、勇はこの会話の中でひしひしと感じ取っていたから。
「そうですね。 貴方の言う通り、私は自分の意思を曲げるつもりはありません」
人にとっての正義とは、間違っている事を証明されようと頑なに守りたくなるものだ。
そう簡単には捨てる事の出来ない意地にも足る感情。
それは意固地。
人は簡単に過ちを認められる程単純では無いのだから。
少なくとも、意思の強い者ほど自分自身の考えを曲げる事は難しいだろう。
例え自分自身が間違っているとわかっていたとしても。
「【アースレイジー】の思想はデュゼロー氏の悲願でもあり、我が祖国が望んだ形でもあります。 我が国は昔から多くの人種が集まり、多くの犯罪を犯してきました。 銃社会はいわばその副作用、自己防衛しなければ成り立たない国だからこそ生まれてしまった文化と言えるでしょう。 その意味はきっと日本人である貴方でもわかるはず」
始まりはヨーロッパ人がこの大陸に流入してきた時から始まったと言える。
アメリカという国が無かった時代からこの広い大陸で争いは起き続け、発展と奪い合いで成り立ってきた。
歩んできた道は決して綺麗な物では無く、ありとあらゆる国からの移住者で成り立ったと言わざるを得ない。
それは今も続いている。
今も苦しんでいるのだ。
今なおスラムや犯罪横丁といった秩序の無い地域は数多く存在する。
それだけでなく、秩序に保たれているはずの場所でさえ犯罪が起きるのだ。
銃を持たずに生きる事など不可能に近いと思われる程に、この国は混沌に満ちている。
だから人は望む。
安寧の世界を。
例えそんな犯罪者達が全て滅殺されようとも。
そしてその感情が高まりに高まった時、デュゼローが現れた。
人々は望んでいたのだ。
デュゼローの一言を。
その末に生まれたのが【地球の怒り】。
安寧を脅かす異物を排除せんが為に星が怒りを上げ、世界を歪ませた。
安寧を取り戻せ、脅かす者を排除しろ、倒せ、殺せ、滅せよ。
全ては世界の為に。
これがエイミー達の掲げる思想。
国民の理想が導き出した、単純明快な安寧への希望だったのだ。
「私は思想者ですが、それと同時に愛国者でもあります。 そして支持者はそれを理解した上で私に付いてきてくれているのです。 彼等の意思を汲み取り、形にする為にも、私は思想を捨てる訳にはいかない。 この国を理想溢れる世界にする為にも諦める訳にはいかないのです」
彼女の語りを聴いた時、勇の脳裏にとある声が過る。
―――日本のユウコ=コジマとは性格が実に非対称だ―――
それはアルディが尋問の時に放った一言。
まさに彼の言う通り、勇が感じたエイミーと小嶋は余りにも違い過ぎていた。
性格も、思想も、考え方さえも。
全てを呪い、恨み、破壊し、その頂点に立とうとした小嶋。
全てを想い、救い、再建し、その礎となろうとしているエイミー。
小嶋の様に嘘で固める事も無く、その身に纏っていたのは黄色い願いの形。
慈愛に満ち溢れた、彼女の国を想う心そのものだった。
「そうか……。 その想いは凄いと思う。 今まで逢った誰よりも強い想いの力を貴女から感じたよ」
「貴方からそう言われると嬉しいですね。 少し複雑ですが」
「一番敵に回したくない相手だってハッキリわかっただけでも大きい収穫だな」
途端に勇がその頭を起こし、勢いのままに体を背もたれへと叩き付けた。
敵意の無い敵意。
エイミーの意思を簡単に説明すればこういう事だ。
勇は敵意を持たない者に手を下す事は出来ない。
性格故に、心の在り方故に。
それを理解した上で彼女に言い切った一言。
それは単に「俺は手を出せない」という意味。
そう―――勇は今、この話し合いでの負けを認めたのである。
「ふふ……それなら味方になってくれても良いのですよ。 私のトレードカラーを知っていますか? それは空色。 スーツも蒼を基調とした物を多く仕立てているのです。 つまり貴方の力の色と同じ色、とても合うと思いませんか?」
「光栄だね。 でも、俺も貴女と同じで譲れない想いがある。 最初から俺達は相容れないって事なのさ。 それに生憎俺の力の色は空色でも、俺自身は情熱の赤い炎みたいなもんだって思ってるよ」
とはいえ言った後で少し恥ずかしかったのか、途端に勇の視線はエイミーから外れて明後日の方向へ。
「うーん」と小さく唸り、こめかみをポリポリと掻いていた。
「そうですね、こうなる事は予想通りでした。 でも、私も貴方という存在を知る事が出来て良かったと思います。 知った上でなら、叩き潰す覚悟も出来ますからね」
その様な事を、勇の仕草を見て笑うがままに答える。
エイミーもまたそれが出来る無敵の女性だから今ここに居られるのだ。
「それじゃ、俺はもう行くとするよ。 話し合いの場を設けてくれてありがとう」
「ええ、こちらこそ。 次会う時はどちらかが死体になった時かしらね」
「そうならない事を祈るさ」
その一言を最後に、勇の姿が光となって消えた。
突然の出来事にエイミーが「ワオ」と小さく漏らすも……もはや驚く事にも馴れ過ぎて。
再び微笑みを零すと、その身をソファーへゆるりと委ねるのだった。
こうして勇とエイミーの極秘会談が終わりを告げた。
互いに得られたのはそれぞれの人間性という情報のみ。
しかしそれだけでも十分だったのだ。
相手を知る事が戦略上最も大事な事なのだから。
間も無く始まろうとしている【双界連合グランディーヴァ】と【アースレイジー】の戦い。
果たしてその戦いはどの様な形で実現されるのだろうか。
外の光が薄い瞼を透過して瞳に入り込んだ所為だ。
その白も次第に広がりを見せ、瞬く間に視界全てを覆い尽くし―――
「大丈夫か?」
真っ白になった視界はすぐさま彩りを帯び、輪郭を形作る。
そのまま世界はあっという間に色彩に溢れ、いつもの景色を映し出した。
「ええ、落ち着きました。 心配をお掛けして申し訳ありません」
目の前で困惑の表情を見せる勇の姿と共に。
グランディーヴァの藤咲勇と【救世同盟】のエイミー=ブラットニー。
突如始まった二人のアポなし会合は、彼女の休憩によってしばし間を置く事に。
敵とはいえ、今は話し合いの場。
突然起きたエイミーの不調を前に、勇もどこか不安そうだ。
元々優しい彼だからこその配慮と言った所か。
しかし症状が収まるまでの間に気を落ち着かせていたのだろう。
エイミーが目を開いた時には椅子にもたれ掛かっていて。
それが彼女にとっては逆に安心の種となった様だ。
「あら」と思わず零し、間も無く再びの微笑みを呼び込んでいた。
「話の腰を折ってしまいましたね。 折角ですから世間話はここまでにして、肝心の話に移りませんか?」
「ああ、構わない……と言っても、俺としては目的なんて無いんだけどな」
「と、言いますと……?」
「そのままさ。 それでも敢えて言うなら―――」
そう言い掛けた時、勇がそっともたれ掛かっていた体を起こす。
そのまま膝元に両肘を乗せると、その上に組まれた手へと顎を添え―――
「エイミー、今すぐ【救世同盟】の思想を捨てて本来の形での平和を望んで欲しい」
たった一言、想いを声へと換えた。
それは勇が最も望む在り方。
出来うる事ならば争いたくはない。
この様に話が出来るのだから、話で解決したい。
そんな想いがあるから。
しかしそれも叶わぬと知っているから。
「……と言っても、聞き入れてくれる訳も無いって事くらいはわかってる。 敢えて言ったのは俺のスタンスは基本この方向性だって事を伝えたかったってだけさ」
相手も曲がりなりにも団体の代表。
もはや個として受け入れる事が出来る様な存在ではない。
それに例えその様な立場が無くとも、彼女は受け入れないだろう。
そう確信させる確固たる意志を、勇はこの会話の中でひしひしと感じ取っていたから。
「そうですね。 貴方の言う通り、私は自分の意思を曲げるつもりはありません」
人にとっての正義とは、間違っている事を証明されようと頑なに守りたくなるものだ。
そう簡単には捨てる事の出来ない意地にも足る感情。
それは意固地。
人は簡単に過ちを認められる程単純では無いのだから。
少なくとも、意思の強い者ほど自分自身の考えを曲げる事は難しいだろう。
例え自分自身が間違っているとわかっていたとしても。
「【アースレイジー】の思想はデュゼロー氏の悲願でもあり、我が祖国が望んだ形でもあります。 我が国は昔から多くの人種が集まり、多くの犯罪を犯してきました。 銃社会はいわばその副作用、自己防衛しなければ成り立たない国だからこそ生まれてしまった文化と言えるでしょう。 その意味はきっと日本人である貴方でもわかるはず」
始まりはヨーロッパ人がこの大陸に流入してきた時から始まったと言える。
アメリカという国が無かった時代からこの広い大陸で争いは起き続け、発展と奪い合いで成り立ってきた。
歩んできた道は決して綺麗な物では無く、ありとあらゆる国からの移住者で成り立ったと言わざるを得ない。
それは今も続いている。
今も苦しんでいるのだ。
今なおスラムや犯罪横丁といった秩序の無い地域は数多く存在する。
それだけでなく、秩序に保たれているはずの場所でさえ犯罪が起きるのだ。
銃を持たずに生きる事など不可能に近いと思われる程に、この国は混沌に満ちている。
だから人は望む。
安寧の世界を。
例えそんな犯罪者達が全て滅殺されようとも。
そしてその感情が高まりに高まった時、デュゼローが現れた。
人々は望んでいたのだ。
デュゼローの一言を。
その末に生まれたのが【地球の怒り】。
安寧を脅かす異物を排除せんが為に星が怒りを上げ、世界を歪ませた。
安寧を取り戻せ、脅かす者を排除しろ、倒せ、殺せ、滅せよ。
全ては世界の為に。
これがエイミー達の掲げる思想。
国民の理想が導き出した、単純明快な安寧への希望だったのだ。
「私は思想者ですが、それと同時に愛国者でもあります。 そして支持者はそれを理解した上で私に付いてきてくれているのです。 彼等の意思を汲み取り、形にする為にも、私は思想を捨てる訳にはいかない。 この国を理想溢れる世界にする為にも諦める訳にはいかないのです」
彼女の語りを聴いた時、勇の脳裏にとある声が過る。
―――日本のユウコ=コジマとは性格が実に非対称だ―――
それはアルディが尋問の時に放った一言。
まさに彼の言う通り、勇が感じたエイミーと小嶋は余りにも違い過ぎていた。
性格も、思想も、考え方さえも。
全てを呪い、恨み、破壊し、その頂点に立とうとした小嶋。
全てを想い、救い、再建し、その礎となろうとしているエイミー。
小嶋の様に嘘で固める事も無く、その身に纏っていたのは黄色い願いの形。
慈愛に満ち溢れた、彼女の国を想う心そのものだった。
「そうか……。 その想いは凄いと思う。 今まで逢った誰よりも強い想いの力を貴女から感じたよ」
「貴方からそう言われると嬉しいですね。 少し複雑ですが」
「一番敵に回したくない相手だってハッキリわかっただけでも大きい収穫だな」
途端に勇がその頭を起こし、勢いのままに体を背もたれへと叩き付けた。
敵意の無い敵意。
エイミーの意思を簡単に説明すればこういう事だ。
勇は敵意を持たない者に手を下す事は出来ない。
性格故に、心の在り方故に。
それを理解した上で彼女に言い切った一言。
それは単に「俺は手を出せない」という意味。
そう―――勇は今、この話し合いでの負けを認めたのである。
「ふふ……それなら味方になってくれても良いのですよ。 私のトレードカラーを知っていますか? それは空色。 スーツも蒼を基調とした物を多く仕立てているのです。 つまり貴方の力の色と同じ色、とても合うと思いませんか?」
「光栄だね。 でも、俺も貴女と同じで譲れない想いがある。 最初から俺達は相容れないって事なのさ。 それに生憎俺の力の色は空色でも、俺自身は情熱の赤い炎みたいなもんだって思ってるよ」
とはいえ言った後で少し恥ずかしかったのか、途端に勇の視線はエイミーから外れて明後日の方向へ。
「うーん」と小さく唸り、こめかみをポリポリと掻いていた。
「そうですね、こうなる事は予想通りでした。 でも、私も貴方という存在を知る事が出来て良かったと思います。 知った上でなら、叩き潰す覚悟も出来ますからね」
その様な事を、勇の仕草を見て笑うがままに答える。
エイミーもまたそれが出来る無敵の女性だから今ここに居られるのだ。
「それじゃ、俺はもう行くとするよ。 話し合いの場を設けてくれてありがとう」
「ええ、こちらこそ。 次会う時はどちらかが死体になった時かしらね」
「そうならない事を祈るさ」
その一言を最後に、勇の姿が光となって消えた。
突然の出来事にエイミーが「ワオ」と小さく漏らすも……もはや驚く事にも馴れ過ぎて。
再び微笑みを零すと、その身をソファーへゆるりと委ねるのだった。
こうして勇とエイミーの極秘会談が終わりを告げた。
互いに得られたのはそれぞれの人間性という情報のみ。
しかしそれだけでも十分だったのだ。
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間も無く始まろうとしている【双界連合グランディーヴァ】と【アースレイジー】の戦い。
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