時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第五節「交錯する想い 友よ知れ 命はそこにある」

~安価 不満 口は誤解の素~

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 新しい洋服は余程お気に入りだった様で。
 ちゃなの道を行く姿は飛んで跳ねるかの様にとても軽快だ。
 思い余って勇を置いて行ってしまう程に。

 そんな明るい姿を見れば勇の悩みも嘘の様にどこかへ消えてしまって。
 先で手を振って待つ彼女に健やかな微笑みを返していた。



 ちゃなの買い物はこれで十分なのだそう。
 何でも、服以外に欲しい物が思い浮かばないのだとか。

 でもこれ、実は引くに引けない状況で導き出した苦肉の言い訳。

 現状、手一杯の荷物を抱えていて。
 買い物したくても出来ないというのが本音だ。
 「四着はやっぱりやり過ぎたかな」などの後悔するも、時すでに遅し。

 ちなみに軽快に見えたのは、荷物が重いからと命力を篭めてみた所為。
 まだコントロールが上手く出来ず、体の動きが緩慢になってしまっていたから。
 その証拠と言わんばかりに、買い物袋に括り付けたプラスチック取手は握り潰されてもはや跡形も無い。

 当人を含め、その事にはまだ誰も気付いていないが。



 という訳で、今度は勇の買い物の番。

 勇が求めていたのも衣類だ。
 探そうとしているのは新しいランニングウェアと先日破れたワイシャツの替え。

 そして戦闘時に着る為の運動服である。

 繊維の硬い衣類ではもう激しい運動には耐えられない。
 だからと言って毎度学校指定のジャージで戦うのもどうかと思う訳で。
 折角だからと、動き易くて丈夫な装備を用意しようと思ったのだ。

 でも出来ればお安めに。

 それというのも、この戦闘服に関しては福留も留意していて。 
 ウィガテ族との戦いの前にも戦闘用の衣類の事をほのめかしていた辺り、きっと何かを用意しようとしている事だろう。
 それまでの繋ぎでいい、という程度の認識だ。

 ランニングウェアもワイシャツも、同様に安物で十分。
 倹約家族の一員として生きているからか、高望みをしないのが彼の性分で。

 そんな理由もあって、二人が次に辿り着いたのは総合量販店ディスカウントストア
 安価メーカーの品物ばかりが多種多様に並ぶ、モール専用店舗である。

「やっぱりここに来ちゃうんだよなぁ~」

 しかし勇はと言えば、どこか楽しそう。

 というのもこのお店、実は勇御用達とも言える場所で。
 扱うのは衣類だけでなく、文房具や家具道具雑貨なんでもござれ。
 一般家庭で使うであろう品物が足りない物は無いと言わんばかりに数多く取り揃えている。
 そこから今までに助けられた事は数知れない。

 お小遣いの少ない勇にとって、ここはまさに救いの地なのだ。
 例え給料を貰った後でもその価値観に変わりは無い。

 早速衣類コーナーへと足を運び、手馴れた様に良さそうな物を探して手を伸ばす。
 いずれも先程ちゃなが買った服の値段と比べればゼロが一個少なくなる程に安価な物ばかりで。
 
 「シュッシュ」と手が伸びるごとに、背後に居るちゃなの顔色が何故かどんどんと不機嫌に。
 
 勇自身はそれに気付く事も無く、軽快に品物を選び続ける。
 一応はデザインを選んでいるのだろうが、それはちゃなですらわかる程にナンセンスで。
 大概が無地でロゴが入っただけの物だったり、意味のわからない柄が入った物だったり。
 センスもへったくれも無いチョイスはまさに先程のちゃなとそっくりなのである。

 確かにそんな商品を選ぶ理由はあるのだろう。
 でもちゃなはその事を知らない。

 その誤解が不満を呼び続け―――

「よし! これでいいかな」

 そしてその一言が彼女の不満を遂に爆発させる事となる。
 


「よくないです」



 その一言はただただ静かに。

 だが、唸るが如き低い声は畏怖すらも呼び込み。
 勇の体を毛の先に至るまで「ガチリ」と固まらせる。

 そこから読み取れる感情など、もはや考える事すら―――不要。

「え……?」

 この時勇が受けたのは恐怖。
 それも背筋が凍る程に強烈な。

 それでも「ギギギ」と軋み音を掻き鳴らさんばかり震えて首を振り向かせると―――



 視線の先にはムスッとした顔のちゃなが。



「いいっ!?」

 勇がこうして狼狽えるのも無理は無い。
 何せちゃなの怒った所を見たのは初めての事で。
 何故怒っているのかすらもわかりはしない。

 それよりも何よりも、女の子を怒らせてしまったという事にショックを隠せない模様。
 もちろんこれも初めての事なだけに。 

「勇さんずるいです! 私だけにお洒落させて自分は適当なんて」

 しかも怒った理由が凄く些細な事で。
 無垢な少女の沸点は思った以上に低過ぎる。

 ……というよりも怒りの方向性感性の違いなのだろう。
 ちゃなは女性らしく同調性に重きを置くタイプの様だ。

 しかし当然そんな事は男の勇にはわかる訳も無く。
 彼女の出所不明な怒りの剣幕を前にただただ動揺するばかり。

 返す言葉を考える余裕すら無くなる程に。

「え、適当!? あ、いや、そんなお洒落とか必要無いし、似合わないし―――」

 そう、必要無いし相応しくも無いだろう。

 ただし〝戦いでは〟。

 勇が言った事自体は確かに間違いない。
 でもその文言一つが抜けるだけで誤解を生むには十分過ぎた。

 それがちゃなの怒りの炎に更なる油を注ぐ事となるのはもはや必然。

「それは私だって……!」

 見る見るうちに彼女の頬が「ぷくぅ」と膨れていく。
 怒れば怒るほど可愛さを増させていくのは彼女の業か。

 怒りの矛先である勇としてはそんな事を気にするゆとりも無いが。

「あ、その……お、俺、お洒落した方がいい、かなぁ……?」

 そうして混乱しテンパった挙句にそんな一言が生まれる。
 どう応対したらいいかわからないが故の苦し紛れの一声だ。

 けれどそれが、幸いにも正解だったのだろう。

 途端にちゃなの膨れっ面が縮んでいき。
 強張っていた顔がたちまち緩さを取り戻していく。

 それどころか「パァッ!」と花開いて輝く様なニッコリとした笑顔に早変わりだ。

 「勇さん、ですっ!」

 なんて素早い切り替わりなのでしょう。

 これには勇も思わず細い目を浮かべて唖然するしかなく。
 とはいえ逆らう気も起きず、ただただされるがままに。

 今度はちゃなに手を掴まれ、そのまま男性用アパレルショップへと赴く事になるのであった。

 妙な所で押しが強いちゃなにはどうやら勇もタジタジの様子。
 こうしてすぐ怒りを納めてくれた事に安堵せずにはいられない。


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