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第三十六節「謀略回生 ぶつかり合う力 天と天が繋がる時」
~Tonnerre bleu <蒼雷> ナターシャとエクィオ①~
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ナターシャとエクィオ。
二人の身体能力ならば、陸に限らず空であろうとも縦横無尽に戦える。
例え飛行能力が無くとももはや関係無く。
互いに陸を、空を駆け抜けられるからだ。
ナターシャの機動力の秘密は、足に備えたブーツ型魔剣【ナピリオの湧蹄】にある。
その力ならば、空気すら足場として蹴り上げる事が可能で。
加えて、両手に備えた魔剣が加速力を与え、俊敏性を更に引き上げるのだ。
その姿は、まさに空を駆ける少女。
対してエクィオも負けてはいない。
小刻みに見せる手足の動きは全て蒼の加速軌道。
自身の身体、魔剣さえも足場にして跳ね上がり、常人では有り得ない立体機動を実現する。
自由自在に空を跳ねるスタイルはもはや予測不能の領域へ。
華麗に空を舞う蒼の貴公子が今ここに。
エクィオが二丁拳銃で弾丸を打ち放てば。
ナターシャが身体を逸らして躱しながら前進を続け。
斬撃が見舞われれば、エクィオが空へ舞う。
それを追いしは烈紅一閃。
しかしそれさえエクィオは体をしならせ一重で躱し。
ナターシャの魔剣を足場にして加速軌道で距離を取り。
同時に幾つもの弾丸が突き抜ける。
でもその弾丸も、ナターシャの足跡を掠るのみ。
既に彼女はエクィオの頭上から切り返しの一閃を斬り降ろそうとしていて。
しかしそれも踊る様に舞う相手を捉える事が出来ない。
それでもナターシャは二刀流、縦横無尽の連撃が出来るから。
動く先を予測して斬って斬って、斬りまくる。
だがそれも、まるで全てが見切られたかの如く空を斬るのみ。
果てには魔剣と魔剣をぶつけられ、それさえ加速軌道でエクィオの機動力に。
距離を取られては空を舞い、幾つも弾丸が突き抜ける。
隙無く、無駄無く、容赦無く。
互いにもはや天がどこにあるかわからない程に動き回り。
慣性さえも押し殺し続け、鋭角軌道を刻み続けている。
それなのにも拘らず、エクィオは全く動じない。
ただただ冷静に、確実に。
僅かなチャンスのみを狙い撃ち、ナターシャを追い詰め続けていて。
でもナターシャの攻撃は―――全く当たらない。
追っても、追っても、当たらない。
その度に躱され、反撃が待っている。
そのいずれもが、全て紙一重。
まるで全てが見えている様だった。
それ程までにエクィオの動きは洗練され、卓越していたのだ。
「こんのォ!!」
【レイデッター】と【ウェイグル】。
二つの魔剣を同時使用した時、彼女の意識が加速して。
それに合わせて体も強化され、加速し、その進歩は天井が無い。
―――のにも拘らず、未だ追い付けない。
いや、速度的には既に追い付き、追い越してはいるのだろう。
それでも、その速度でも何故か斬撃が当たらないのだ。
それでも諦める訳にはいかないから。
当たるまで、何度でも何度でも繰り返す気概がナターシャにはある。
そうして見せるは閃光円環剣。
大地へ向けて閃光が走り抜け、残光が残る程の凄まじい斬撃が斬り下ろされる。
「それでも僕は止められないッ!!」
でもエクィオはその身をぐるりと回し、背中紙一重で躱していて。
それどころか、その様な斬撃であろうとも繰り出された魔剣を叩いて機動力にしてくる。
そして振り向いたナターシャの顔へ、二口の銃口を揃えて向けるのだ。
「ううッッ!?」
それでも、魔導靴が自由を与えてくれるからこそ回避も出来る。
咄嗟の判断で強引に慣性を受け止めたのだ。
空中に足を引っ掛ける様にして。
そうなれば追従していたはずの銃口は狙いを外れ、放たれた弾が無為に消えていく。
たちまちナターシャの体が反力によって宙をグルグルと回り。
再び蹴り出す事でエクィオを追う。
「さすがだよ君は!! 聞いていた以上の機動力だッ!!」
エクィオも澄ましているが、内心は穏やかではないのだろう。
額から汗が滲み、心境を暗に示していて。
しかし回避の度にそれも振り払われ、光の残滓の一部となる。
でも例え焦りがあろうとも、穏やかでなかろうとも、今の彼には関係無い。
使命を果たす為に。
成すべき事を成す為に。
目の前の相手を追い詰め、攻撃を躱し、確実に仕留める為にトリガーを引き続けるだけだ。
例え背にした陸へと跳ねていようとも恐れる事無く。
ナターシャの斬撃が刻まれる中で陸へと到達するも、一目見る事無く片手で大地を叩く。
それさえも加速軌道で速力へと変え、手で跳ねたとは思えぬ速度で大地の上を飛び抜けていて。
追従するナターシャの動きも、その異様な機動性を前に翻弄されるばかりだ。
追っては斬り、逃げては撃ち。
その攻防は何度繰り返されようとも変わる事無く。
それを敢えて呼称するなら、陸天空地。
変わるのは流れていく景色だけで、地形条件などもはや完全無視である。
ただ、その優劣だけは―――徐々に浮き彫りとなっていく。
ナターシャの銃口を突き付けられる回数が増え始めていたのだ。
「くうッ!?」
その度に怯み、防ぎ、大きく回避して。
それが逆にエクィオの更なるチャンスを呼び込み、狙いを澄ます機会を生む。
エクィオの動きが洗練化され始めたのである。
というよりもナターシャの動きを見切り始めている、といった方が正しいか。
撃ち出された弾は確かに速くとも当たらない。
それだけの速度をナターシャが叩き出しているから。
でも彼女を追う銃口の動きは鋭さを増し。
刻まれる鋭角軌道さえも捉え始めていた。
そう、撃てば当たると思える程に。
しかしそこがどこか妙なのだ。
明らかに、当てられる機会は何度もあった。
ナターシャが「何故!?」と思える様なタイミングが。
それなのに、その度に銃口を突き付けられても弾は出ず。
彼の身体がただ離れていくだけで。
撃たれてもそうして離れた後で回避は容易い。
そんな不可解な行動がナターシャに疑問をもたらす事となる。
直情的であるが故に、つい口から飛び出してしまう程の強い疑問が。
「君は何でッ!! ボクを撃てないのッ!?」
「ッ!?」
だがその質問が放たれた時、突如として空気が変わる。
それは何気無い一言だった。
ナターシャも意図しない、只の言い間違いに過ぎなかった。
でもそれは明らかに、エクィオの強い動揺を生んでいて。
その動揺が、あのしなやかだった動きに豪気をもたらす事となる。
ズザザザッ―――!!!
突如としてエクィオの脚が大地を深く抉り、その身の速度を強引に圧し殺し。
土が弾け舞う中で、二人の魔剣が激しく交差した。
ギギィーーーンッ!!
たちまち弾ける火花。
刻まれる閃光。
ただその時、突き抜けていたはずのナターシャの視界に異変が起きる。
突然、景色が意図せずグルリと回ったのだ。
なんとエクィオが体術によって、ナターシャを跳ね上げていたのである。
それはまるであのイシュライトの様に。
しなやかで無駄の無い、卓越した体捌きによって。
いくら動体視力が極限に増していようとも、意図せぬ動きにも対応出来るとは限らない。
ナターシャの様に真っ直ぐ突き進む事を基本としている者ならなおさらだ。
そしてその体が地に付く前に、エクィオによる情け容赦の無い追撃が襲い掛かる。
まるで空手を彷彿とさせる様な、垂直に振り下ろされる手刀が。
ドガアッ!!
その威力、命力も伴っているからか強烈。
たちまちナターシャの体が大地へと打ち付けられる。
「あぐっ!!」
農地であった事が幸いしてか、叩き付けられたダメージは殆ど無い。
ただ、地面に落とされた事が問題なのだ。
咄嗟に顔を上げ、振り向いて見れば―――
そこにはまたしても銃口を向けたエクィオの姿が。
今度は離れてはいない。
彼女の傍で足を突き、狙ったまま鋭く見据え続けるだけだ。
「ナターシャさん、いいかい? 君を殺すチャンスはここまでで七回あった。 それでも僕が撃たなかったのは、無駄な血を流したくないと思っているからだ」
「ううっ……」
「それは君も気付いていたはずだ。 つまり君では僕を捉える事は出来ない、君では僕には勝てないという事だよ」
そう、あれは全て故意だったのだ。
銃口を向けながらも放たなかったのは、全てエクィオの思惑によるもので。
わざとらしく見せつけたのも、敢えて躱させたのも、そう気付かせる為。
「戦いにおいて相手の動きを予測する為には沢山の認識能力が必要になる。 マルチタスクという奴さ。 それが卓越すれば卓越する程、速さや手数なんて物に拘らず対応する事が出来る。 それが僕の実力の秘密だよ」
その上で実力を誇示する。
相手の闘争心を完膚なきまでへし折る為に。
「僕は全部で十二のタスクを同時にこなす事が出来る。 その認識の包囲網を、君の速度や力では突破する事は出来ないんだ。 悲しいけどこれが現実だよ」
こうして突き付けた事実こそ、エクィオの力の秘密。
マルチタスクとはすなわち、自身の意識が同時に行える複数動作の事である。
例えば、誰かの声を聴いてそれに反応する事が一つのタスクだとしよう。
でもシングルタスクしか持たない人間は、二人以上に話しかけられても、一人分の答えしか返す事が出来ない。
聞き取れないからだ。
でもエクィオは十二人同時に話し掛けられても、全員の話を聴き、全員に返す事が出来る。
まるでかの聖徳太子がそうであったのと同様に。
そしてその意識とは見る・体を動かす・考える事も全て含む。
つまりエクィオは同時に十二のアクションをこなす事が出来るという事だ。
敵の攻撃を躱しながら、その軌道を予測し、その先に行く攻撃を行い、更にその先を予測し、体を備えさせる。
その先の先を読む力はもはや、心輝の【命眼】にも近い先見力を与えるのである。
そう出来るから、エクィオにナターシャの攻撃は当たらない。
全て予測の先の先で想定されている行動だから。
では何故こんな事を敢えて打ち明け、心を折ろうとしたのだろうか。
その答えは実に簡単だ。
それも全ては―――
「……だから今すぐこの場から逃げるんだ。 そうすれば僕は追わない」
「えっ!?」
「そして今すぐ戦う事を辞めて、君らしく生きて欲しい。 君みたいな女の子が戦うのを僕は見たくないから……」
そう気付かせて、彼女を逃がす為に。
もしデュランがこの戦いに勝利した時、きっと残党を許しはしないだろう。
例え仲間達が負けたとしても、たった一人で勇の仲間達を皆殺しにするだろう。
エクィオは例え敵であっても人が死ぬ事を望まない優しい青年だから。
機会があるなら救いたいと願う、心の真っ直ぐな青年だから。
デュランの非道な行いも、出来る事なら避けたいと思っているからこそ。
だからこうして叩き伏せたのである。
気付いてもなお諦めず、戦いを続けそうだったから。
その想いを告げ、ナターシャに諦めて貰う為に。
「でも、それでも続けると言うのなら……今から君を撃つ。 動かなくなるまで君を撃つ」
そしてそれが叶わなくとも。
罪を負う事をもう恐れはしない。
己の引き受けた責任を全うする事も。
エクィオは本気だ。
結果がどちらに転んだとしても。
もうその覚悟はしっかり出来ているから。
後はその答えを見極めるのみ。
蒼の青年と紅の少女。
その情けの先で、二人が導く道筋は如何に―――
二人の身体能力ならば、陸に限らず空であろうとも縦横無尽に戦える。
例え飛行能力が無くとももはや関係無く。
互いに陸を、空を駆け抜けられるからだ。
ナターシャの機動力の秘密は、足に備えたブーツ型魔剣【ナピリオの湧蹄】にある。
その力ならば、空気すら足場として蹴り上げる事が可能で。
加えて、両手に備えた魔剣が加速力を与え、俊敏性を更に引き上げるのだ。
その姿は、まさに空を駆ける少女。
対してエクィオも負けてはいない。
小刻みに見せる手足の動きは全て蒼の加速軌道。
自身の身体、魔剣さえも足場にして跳ね上がり、常人では有り得ない立体機動を実現する。
自由自在に空を跳ねるスタイルはもはや予測不能の領域へ。
華麗に空を舞う蒼の貴公子が今ここに。
エクィオが二丁拳銃で弾丸を打ち放てば。
ナターシャが身体を逸らして躱しながら前進を続け。
斬撃が見舞われれば、エクィオが空へ舞う。
それを追いしは烈紅一閃。
しかしそれさえエクィオは体をしならせ一重で躱し。
ナターシャの魔剣を足場にして加速軌道で距離を取り。
同時に幾つもの弾丸が突き抜ける。
でもその弾丸も、ナターシャの足跡を掠るのみ。
既に彼女はエクィオの頭上から切り返しの一閃を斬り降ろそうとしていて。
しかしそれも踊る様に舞う相手を捉える事が出来ない。
それでもナターシャは二刀流、縦横無尽の連撃が出来るから。
動く先を予測して斬って斬って、斬りまくる。
だがそれも、まるで全てが見切られたかの如く空を斬るのみ。
果てには魔剣と魔剣をぶつけられ、それさえ加速軌道でエクィオの機動力に。
距離を取られては空を舞い、幾つも弾丸が突き抜ける。
隙無く、無駄無く、容赦無く。
互いにもはや天がどこにあるかわからない程に動き回り。
慣性さえも押し殺し続け、鋭角軌道を刻み続けている。
それなのにも拘らず、エクィオは全く動じない。
ただただ冷静に、確実に。
僅かなチャンスのみを狙い撃ち、ナターシャを追い詰め続けていて。
でもナターシャの攻撃は―――全く当たらない。
追っても、追っても、当たらない。
その度に躱され、反撃が待っている。
そのいずれもが、全て紙一重。
まるで全てが見えている様だった。
それ程までにエクィオの動きは洗練され、卓越していたのだ。
「こんのォ!!」
【レイデッター】と【ウェイグル】。
二つの魔剣を同時使用した時、彼女の意識が加速して。
それに合わせて体も強化され、加速し、その進歩は天井が無い。
―――のにも拘らず、未だ追い付けない。
いや、速度的には既に追い付き、追い越してはいるのだろう。
それでも、その速度でも何故か斬撃が当たらないのだ。
それでも諦める訳にはいかないから。
当たるまで、何度でも何度でも繰り返す気概がナターシャにはある。
そうして見せるは閃光円環剣。
大地へ向けて閃光が走り抜け、残光が残る程の凄まじい斬撃が斬り下ろされる。
「それでも僕は止められないッ!!」
でもエクィオはその身をぐるりと回し、背中紙一重で躱していて。
それどころか、その様な斬撃であろうとも繰り出された魔剣を叩いて機動力にしてくる。
そして振り向いたナターシャの顔へ、二口の銃口を揃えて向けるのだ。
「ううッッ!?」
それでも、魔導靴が自由を与えてくれるからこそ回避も出来る。
咄嗟の判断で強引に慣性を受け止めたのだ。
空中に足を引っ掛ける様にして。
そうなれば追従していたはずの銃口は狙いを外れ、放たれた弾が無為に消えていく。
たちまちナターシャの体が反力によって宙をグルグルと回り。
再び蹴り出す事でエクィオを追う。
「さすがだよ君は!! 聞いていた以上の機動力だッ!!」
エクィオも澄ましているが、内心は穏やかではないのだろう。
額から汗が滲み、心境を暗に示していて。
しかし回避の度にそれも振り払われ、光の残滓の一部となる。
でも例え焦りがあろうとも、穏やかでなかろうとも、今の彼には関係無い。
使命を果たす為に。
成すべき事を成す為に。
目の前の相手を追い詰め、攻撃を躱し、確実に仕留める為にトリガーを引き続けるだけだ。
例え背にした陸へと跳ねていようとも恐れる事無く。
ナターシャの斬撃が刻まれる中で陸へと到達するも、一目見る事無く片手で大地を叩く。
それさえも加速軌道で速力へと変え、手で跳ねたとは思えぬ速度で大地の上を飛び抜けていて。
追従するナターシャの動きも、その異様な機動性を前に翻弄されるばかりだ。
追っては斬り、逃げては撃ち。
その攻防は何度繰り返されようとも変わる事無く。
それを敢えて呼称するなら、陸天空地。
変わるのは流れていく景色だけで、地形条件などもはや完全無視である。
ただ、その優劣だけは―――徐々に浮き彫りとなっていく。
ナターシャの銃口を突き付けられる回数が増え始めていたのだ。
「くうッ!?」
その度に怯み、防ぎ、大きく回避して。
それが逆にエクィオの更なるチャンスを呼び込み、狙いを澄ます機会を生む。
エクィオの動きが洗練化され始めたのである。
というよりもナターシャの動きを見切り始めている、といった方が正しいか。
撃ち出された弾は確かに速くとも当たらない。
それだけの速度をナターシャが叩き出しているから。
でも彼女を追う銃口の動きは鋭さを増し。
刻まれる鋭角軌道さえも捉え始めていた。
そう、撃てば当たると思える程に。
しかしそこがどこか妙なのだ。
明らかに、当てられる機会は何度もあった。
ナターシャが「何故!?」と思える様なタイミングが。
それなのに、その度に銃口を突き付けられても弾は出ず。
彼の身体がただ離れていくだけで。
撃たれてもそうして離れた後で回避は容易い。
そんな不可解な行動がナターシャに疑問をもたらす事となる。
直情的であるが故に、つい口から飛び出してしまう程の強い疑問が。
「君は何でッ!! ボクを撃てないのッ!?」
「ッ!?」
だがその質問が放たれた時、突如として空気が変わる。
それは何気無い一言だった。
ナターシャも意図しない、只の言い間違いに過ぎなかった。
でもそれは明らかに、エクィオの強い動揺を生んでいて。
その動揺が、あのしなやかだった動きに豪気をもたらす事となる。
ズザザザッ―――!!!
突如としてエクィオの脚が大地を深く抉り、その身の速度を強引に圧し殺し。
土が弾け舞う中で、二人の魔剣が激しく交差した。
ギギィーーーンッ!!
たちまち弾ける火花。
刻まれる閃光。
ただその時、突き抜けていたはずのナターシャの視界に異変が起きる。
突然、景色が意図せずグルリと回ったのだ。
なんとエクィオが体術によって、ナターシャを跳ね上げていたのである。
それはまるであのイシュライトの様に。
しなやかで無駄の無い、卓越した体捌きによって。
いくら動体視力が極限に増していようとも、意図せぬ動きにも対応出来るとは限らない。
ナターシャの様に真っ直ぐ突き進む事を基本としている者ならなおさらだ。
そしてその体が地に付く前に、エクィオによる情け容赦の無い追撃が襲い掛かる。
まるで空手を彷彿とさせる様な、垂直に振り下ろされる手刀が。
ドガアッ!!
その威力、命力も伴っているからか強烈。
たちまちナターシャの体が大地へと打ち付けられる。
「あぐっ!!」
農地であった事が幸いしてか、叩き付けられたダメージは殆ど無い。
ただ、地面に落とされた事が問題なのだ。
咄嗟に顔を上げ、振り向いて見れば―――
そこにはまたしても銃口を向けたエクィオの姿が。
今度は離れてはいない。
彼女の傍で足を突き、狙ったまま鋭く見据え続けるだけだ。
「ナターシャさん、いいかい? 君を殺すチャンスはここまでで七回あった。 それでも僕が撃たなかったのは、無駄な血を流したくないと思っているからだ」
「ううっ……」
「それは君も気付いていたはずだ。 つまり君では僕を捉える事は出来ない、君では僕には勝てないという事だよ」
そう、あれは全て故意だったのだ。
銃口を向けながらも放たなかったのは、全てエクィオの思惑によるもので。
わざとらしく見せつけたのも、敢えて躱させたのも、そう気付かせる為。
「戦いにおいて相手の動きを予測する為には沢山の認識能力が必要になる。 マルチタスクという奴さ。 それが卓越すれば卓越する程、速さや手数なんて物に拘らず対応する事が出来る。 それが僕の実力の秘密だよ」
その上で実力を誇示する。
相手の闘争心を完膚なきまでへし折る為に。
「僕は全部で十二のタスクを同時にこなす事が出来る。 その認識の包囲網を、君の速度や力では突破する事は出来ないんだ。 悲しいけどこれが現実だよ」
こうして突き付けた事実こそ、エクィオの力の秘密。
マルチタスクとはすなわち、自身の意識が同時に行える複数動作の事である。
例えば、誰かの声を聴いてそれに反応する事が一つのタスクだとしよう。
でもシングルタスクしか持たない人間は、二人以上に話しかけられても、一人分の答えしか返す事が出来ない。
聞き取れないからだ。
でもエクィオは十二人同時に話し掛けられても、全員の話を聴き、全員に返す事が出来る。
まるでかの聖徳太子がそうであったのと同様に。
そしてその意識とは見る・体を動かす・考える事も全て含む。
つまりエクィオは同時に十二のアクションをこなす事が出来るという事だ。
敵の攻撃を躱しながら、その軌道を予測し、その先に行く攻撃を行い、更にその先を予測し、体を備えさせる。
その先の先を読む力はもはや、心輝の【命眼】にも近い先見力を与えるのである。
そう出来るから、エクィオにナターシャの攻撃は当たらない。
全て予測の先の先で想定されている行動だから。
では何故こんな事を敢えて打ち明け、心を折ろうとしたのだろうか。
その答えは実に簡単だ。
それも全ては―――
「……だから今すぐこの場から逃げるんだ。 そうすれば僕は追わない」
「えっ!?」
「そして今すぐ戦う事を辞めて、君らしく生きて欲しい。 君みたいな女の子が戦うのを僕は見たくないから……」
そう気付かせて、彼女を逃がす為に。
もしデュランがこの戦いに勝利した時、きっと残党を許しはしないだろう。
例え仲間達が負けたとしても、たった一人で勇の仲間達を皆殺しにするだろう。
エクィオは例え敵であっても人が死ぬ事を望まない優しい青年だから。
機会があるなら救いたいと願う、心の真っ直ぐな青年だから。
デュランの非道な行いも、出来る事なら避けたいと思っているからこそ。
だからこうして叩き伏せたのである。
気付いてもなお諦めず、戦いを続けそうだったから。
その想いを告げ、ナターシャに諦めて貰う為に。
「でも、それでも続けると言うのなら……今から君を撃つ。 動かなくなるまで君を撃つ」
そしてそれが叶わなくとも。
罪を負う事をもう恐れはしない。
己の引き受けた責任を全うする事も。
エクィオは本気だ。
結果がどちらに転んだとしても。
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