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第八節「心の色 人の形 力の先」
~風雲急、自由と夢はそこにあるのか~
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不満やストレスというものはどんどんと蓄積されていくものだ。
ほんのちょっと気に入らないだけでも、少しづつ少しづつ。
そして気付けば我慢も出来なくなって、いつかは爆発してしまう。
その性質は、例え『あちら側』の人間であろうとも―――
最上級の戯れを体験し、ちゃなもエウリィももうニッコニコだ。
気分も上々のまま、人気エリアである【サウスファンタジー】へと遂に足を踏み入れる。
【サウスファンタジー】は中世風の世界観を素に構成されたエリアで。
かの巨城もこのエリアの一部に在り、中に入ればお姫様気分を堪能出来るという話だ。
もちろん他のアトラクションも人気な物が目白押し。
定番のクルクルティーパーティやファンシーカルーセルを始め、各種童話を象った不思議な乗り物や家屋が皆を迎えてくれる。
昔ながらのファンタジーが大好きな人には堪らない場所と言えるだろう。
やはりお目当てのスポットともあって、ちゃなの目の輝きがもう違う。
「はわぁ!」と悦びに浸り、あっちこっちに視線を向けていて。
エウリィも先程と全く変わった景色を前に、揃って喜びを露わにしていた。
ファンタジー風といっても『あちら側』とはそのベクトルが異なる。
彩られた世界はエウリィにとってもやはり物珍しい事には変わり無い様だ。
なお、そんな景色に見惚れているのはその二人だけ。
その後ろに控えた勇はと言えば―――
「うわぁ……凄いなコレ」
二人とは打って変わり、あんぐりと口を開かせる姿が。
それもそのはず。
人気スポットともあって、その人数はもはや尋常ではない。
国道も真っ青なまでの幅道にも拘らず、埋め尽くさんばかりにひしめいていて。
見回せば人だらけ、景色の先を見渡す事も困難なほど。
アトラクションは愚か、売店すら行列に次ぐ行列だったのだから。
では何故そんな中で背の低いちゃなとエウリィは周りが見えているのか。
答えは簡単だ。
二人で交互に体を持ち上げて周囲を見渡しているだけに過ぎない。
親密になったが故のナイスコンビネーションだ。
とはいえ、微笑ましい姿を見せていても状況が状況なだけに笑えない。
これが遅れた反動という事なのだろうか。
「昼時はいつも家族連れやカップルが食事で場を離れるの。 その時を狙うのが上策だったんだけど」
しかし時刻は既に昼過ぎ。
相変わらずご飯所は大賑わいだが、既に多くの客を排出している。
そんな人々が向かうのは当然、まだ体験していない人気アトラクションだろう。
その結果がこの混雑という訳だ。
どうやら完全にチャンスを逃したらしい。
「マジカルイリュージョン、二時間待ち……二時間かよぉ」
「ピーターズライドもビーストハートランもこの調子だとダメね。 精々定番がいいトコ」
そんな中で莉那が指を差したのは、クルクルティーパーティやファンシーカルーセルといったお子様やカップル向けの乗り物。
そこはやはり定番中の定番、刺激も少ないとあって比較的空いている。
ただ、そういう所ではミズニーランドの醍醐味を味わうにも達成感がイマイチ足りないだろう。
と言いつつ、既にちゃなとエウリィがちゃっかり楽しそうにクルクルしていた訳だが。
この謎の行動力よ。
これには指を差していた莉那もさすがに目を丸くせざるを得ない。
そんな訳で戻って来たお二人、早々に「テヘペロ」とお茶目さを見せつける。
「二人で乗って来ちゃった」
「つい勢いで……申し訳ありません」
「いやいや、気にしなくていいよ。 それに俺も乗れって言われても、あれはちょっと恥ずい……」
ともあれそれも自由と夢の国なので何も問題は無いだろう。
それに、勇としてもこれがデートならまだノリノリで楽しめるだろうが、今回はどちらかと言えばお守り。
というか〝お守りをしないといけない〟なんて使命感にしっかり囚われている。
そんな冷静な心境の中でカップル御用達の乗り物に乗るのはさすがに恥ずかしい様だ。
もっとも、両手に華の勇はむしろ羨望の的側なのだけれども。
という事で、再び歩き始めた訳なのだが―――
その後の莉那の進む道は何故かひたすら真っ直ぐで。
人気アトラクションにはまるで目も暮れず、【サウスファンタジー】を突っ切っていく。
気付けば中央部の城付近まで到達するも、それでも立ち止まろうとはしない。
このまま抜けて出ていきそうなくらいに。
この勢いに勇は愚か、ちゃなやエウリィも不安を抱いてならない。
何せ興味があったアトラクションを次から次へと見送らねばならなかったのだから。
「ま、待って! はぁ、はぁ……」
「何?」
「ごめんなさいっ、足がもう……」
それに加え、その怒涛の勢いが遂に怖れていた事態を引き起こす事に。
とうとうちゃなの足が限界を迎えたのである。
確かに今の彼女は【命力機動】で体を支える事も可能だろう。
でもちゃなの身体操作技術は残念ながらそこまで。
それを体力回復に繋げられるのは、勇程に素での身体操作が卓越していればこその話で。
加えて元々の弱い体が高速巡業に耐え切れず、こうして悲鳴を上げてしまったのだ。
それにしてもよくここまで耐えたものだ。
いつぞやの渋谷再侵入の際には一時間歩くだけで一杯一杯だったのに。
人並みの食生活になり、身体に肉が付いた事で体力が付いたのだろうか。
……食べる量は明らかに人のそれを越えているが。
そのお陰なのか胸の成長だけがやけに著しいのは、ここだけの秘密としておこう。
「それなら少し休憩した方がいいな。 無理しない方がいいし」
「うー、それはなんか悪いです。 私だけでも休憩出来ますし……」
遂には足の痛みに耐えられなくなり、腰を地面へ「ぺたん」と落とすまでに。
みっともないとも言っていられないまでに疲労困憊だ。
ただそんな状態のちゃなでもタダでは転ばない所がある様で。
「それに、あの、言いにくいんですが……折角だからあのお城の列に並ぼうかなぁなんて思ってたりも……」
チラッと目を逸らすちゃなに誘われ、勇達がふと振り向いて見れば―――
視線の先にはあの蒼白巨城の尊大な雄姿が。
やはりここだけは抜けないと思ったのだろう。
例え足が壊れようとも、恥をかこうとも。
そう、実はこの【シャンデリアルキャッスル】こそがちゃな一番の目的。
小さな頃からずっと入りたいと願い続けていた憧れの場所なのである。
「もしちゃな様がお一人で心配なのでしたら、私も一緒に。 二人なら大丈夫でしょう? 『すまぁとふぉん』も御座いますし」
それにエウリィの言う事ももっともだ。
二人は世話の掛かる子供ではないから。
どちらももう一人で何でも出来る歳で、連絡手段もある。
いっそ四人揃って立ち止まってもいい。
急いでアトラクションを消化する必要も無いのだから。
「別行動はダメよ。 立ち止まるのも」
しかしそれでも莉那は首を縦には振らなかった。
そこに垣間見えるのは頑なな意思。
相変わらずの仮面の如き無表情で鋭い視線をぶつけて来る。
ちゃなが休む事さえ許さなさそうな雰囲気だ。
これがミズニーランドに掛ける拘りか、それとも彼女なりの精神論か。
そうして見せる姿は小さいにも拘らずやけに威圧的で。
もはや勇が口を挟めない程の圧倒的な強情さを醸し出す。
その姿勢はさすがの福留の孫と言わんばかり。
冷静さを感じさせながらも相応の迫力を伴っている。
「この場所は間も無く、行き場に迷った人が入り乱れる激戦区になる。 だから急いで離れなければならないの。 巻き込まれれば他のアトラクション大半がほぼ体験不可能になるわ」
「で、でも―――」
「それにこの場所は最後に来るのが最高。 その時間にしかやらないナイトパレード直前限定のショーが楽しめるから」
「じゃ、じゃあその時にもう一度入れば―――」
「他のアトラクションを犠牲にしても? 【トゥーンイースト】で遊ぶ事を諦めて? ミズニーの全てを堪能出来なくてもいいの?」
「そ、そんなぁ……」
言い返す事も出来ない莉那の怒涛の説明が、ちゃな達の心を抉り取る。
先程まで浮かれていた気持ちさえも払い除けるかの様に。
ここは自由と夢の国ミズニーランド。
でもそこに隠れた欲望はもはや自由も夢も叶えてはくれない。
全てを堪能するには、「他の客という障害物を押し退けてでも達成してみせる」という気概が必要なのだから。
現実が彼等だけの空気を瞬く間に凍らせて。
炎天下の熱気さえ感じられない程に、勇達の心が冷え切っていく。
それでもなお、その現実は留まる事を知らない。
「ミズニーは過酷なの。 効率を重視して選べるアトラクションを選択しなければならない。 出だしが遅れた以上はその選択肢も―――」
「もういい加減になさい!!」
だがその冷説を、突如として凛とした怒号が遮った。
なんとあのエウリィが怒りの声を上げたのである。
突如として噴出した不満、そして怒り。
果たしてこの感情の導く先はいずこへ。
不自由と現実の国ミズニーランド。
その事実が露わとなった時、その中心にて風雲急が告げられる事となるのであった。
ほんのちょっと気に入らないだけでも、少しづつ少しづつ。
そして気付けば我慢も出来なくなって、いつかは爆発してしまう。
その性質は、例え『あちら側』の人間であろうとも―――
最上級の戯れを体験し、ちゃなもエウリィももうニッコニコだ。
気分も上々のまま、人気エリアである【サウスファンタジー】へと遂に足を踏み入れる。
【サウスファンタジー】は中世風の世界観を素に構成されたエリアで。
かの巨城もこのエリアの一部に在り、中に入ればお姫様気分を堪能出来るという話だ。
もちろん他のアトラクションも人気な物が目白押し。
定番のクルクルティーパーティやファンシーカルーセルを始め、各種童話を象った不思議な乗り物や家屋が皆を迎えてくれる。
昔ながらのファンタジーが大好きな人には堪らない場所と言えるだろう。
やはりお目当てのスポットともあって、ちゃなの目の輝きがもう違う。
「はわぁ!」と悦びに浸り、あっちこっちに視線を向けていて。
エウリィも先程と全く変わった景色を前に、揃って喜びを露わにしていた。
ファンタジー風といっても『あちら側』とはそのベクトルが異なる。
彩られた世界はエウリィにとってもやはり物珍しい事には変わり無い様だ。
なお、そんな景色に見惚れているのはその二人だけ。
その後ろに控えた勇はと言えば―――
「うわぁ……凄いなコレ」
二人とは打って変わり、あんぐりと口を開かせる姿が。
それもそのはず。
人気スポットともあって、その人数はもはや尋常ではない。
国道も真っ青なまでの幅道にも拘らず、埋め尽くさんばかりにひしめいていて。
見回せば人だらけ、景色の先を見渡す事も困難なほど。
アトラクションは愚か、売店すら行列に次ぐ行列だったのだから。
では何故そんな中で背の低いちゃなとエウリィは周りが見えているのか。
答えは簡単だ。
二人で交互に体を持ち上げて周囲を見渡しているだけに過ぎない。
親密になったが故のナイスコンビネーションだ。
とはいえ、微笑ましい姿を見せていても状況が状況なだけに笑えない。
これが遅れた反動という事なのだろうか。
「昼時はいつも家族連れやカップルが食事で場を離れるの。 その時を狙うのが上策だったんだけど」
しかし時刻は既に昼過ぎ。
相変わらずご飯所は大賑わいだが、既に多くの客を排出している。
そんな人々が向かうのは当然、まだ体験していない人気アトラクションだろう。
その結果がこの混雑という訳だ。
どうやら完全にチャンスを逃したらしい。
「マジカルイリュージョン、二時間待ち……二時間かよぉ」
「ピーターズライドもビーストハートランもこの調子だとダメね。 精々定番がいいトコ」
そんな中で莉那が指を差したのは、クルクルティーパーティやファンシーカルーセルといったお子様やカップル向けの乗り物。
そこはやはり定番中の定番、刺激も少ないとあって比較的空いている。
ただ、そういう所ではミズニーランドの醍醐味を味わうにも達成感がイマイチ足りないだろう。
と言いつつ、既にちゃなとエウリィがちゃっかり楽しそうにクルクルしていた訳だが。
この謎の行動力よ。
これには指を差していた莉那もさすがに目を丸くせざるを得ない。
そんな訳で戻って来たお二人、早々に「テヘペロ」とお茶目さを見せつける。
「二人で乗って来ちゃった」
「つい勢いで……申し訳ありません」
「いやいや、気にしなくていいよ。 それに俺も乗れって言われても、あれはちょっと恥ずい……」
ともあれそれも自由と夢の国なので何も問題は無いだろう。
それに、勇としてもこれがデートならまだノリノリで楽しめるだろうが、今回はどちらかと言えばお守り。
というか〝お守りをしないといけない〟なんて使命感にしっかり囚われている。
そんな冷静な心境の中でカップル御用達の乗り物に乗るのはさすがに恥ずかしい様だ。
もっとも、両手に華の勇はむしろ羨望の的側なのだけれども。
という事で、再び歩き始めた訳なのだが―――
その後の莉那の進む道は何故かひたすら真っ直ぐで。
人気アトラクションにはまるで目も暮れず、【サウスファンタジー】を突っ切っていく。
気付けば中央部の城付近まで到達するも、それでも立ち止まろうとはしない。
このまま抜けて出ていきそうなくらいに。
この勢いに勇は愚か、ちゃなやエウリィも不安を抱いてならない。
何せ興味があったアトラクションを次から次へと見送らねばならなかったのだから。
「ま、待って! はぁ、はぁ……」
「何?」
「ごめんなさいっ、足がもう……」
それに加え、その怒涛の勢いが遂に怖れていた事態を引き起こす事に。
とうとうちゃなの足が限界を迎えたのである。
確かに今の彼女は【命力機動】で体を支える事も可能だろう。
でもちゃなの身体操作技術は残念ながらそこまで。
それを体力回復に繋げられるのは、勇程に素での身体操作が卓越していればこその話で。
加えて元々の弱い体が高速巡業に耐え切れず、こうして悲鳴を上げてしまったのだ。
それにしてもよくここまで耐えたものだ。
いつぞやの渋谷再侵入の際には一時間歩くだけで一杯一杯だったのに。
人並みの食生活になり、身体に肉が付いた事で体力が付いたのだろうか。
……食べる量は明らかに人のそれを越えているが。
そのお陰なのか胸の成長だけがやけに著しいのは、ここだけの秘密としておこう。
「それなら少し休憩した方がいいな。 無理しない方がいいし」
「うー、それはなんか悪いです。 私だけでも休憩出来ますし……」
遂には足の痛みに耐えられなくなり、腰を地面へ「ぺたん」と落とすまでに。
みっともないとも言っていられないまでに疲労困憊だ。
ただそんな状態のちゃなでもタダでは転ばない所がある様で。
「それに、あの、言いにくいんですが……折角だからあのお城の列に並ぼうかなぁなんて思ってたりも……」
チラッと目を逸らすちゃなに誘われ、勇達がふと振り向いて見れば―――
視線の先にはあの蒼白巨城の尊大な雄姿が。
やはりここだけは抜けないと思ったのだろう。
例え足が壊れようとも、恥をかこうとも。
そう、実はこの【シャンデリアルキャッスル】こそがちゃな一番の目的。
小さな頃からずっと入りたいと願い続けていた憧れの場所なのである。
「もしちゃな様がお一人で心配なのでしたら、私も一緒に。 二人なら大丈夫でしょう? 『すまぁとふぉん』も御座いますし」
それにエウリィの言う事ももっともだ。
二人は世話の掛かる子供ではないから。
どちらももう一人で何でも出来る歳で、連絡手段もある。
いっそ四人揃って立ち止まってもいい。
急いでアトラクションを消化する必要も無いのだから。
「別行動はダメよ。 立ち止まるのも」
しかしそれでも莉那は首を縦には振らなかった。
そこに垣間見えるのは頑なな意思。
相変わらずの仮面の如き無表情で鋭い視線をぶつけて来る。
ちゃなが休む事さえ許さなさそうな雰囲気だ。
これがミズニーランドに掛ける拘りか、それとも彼女なりの精神論か。
そうして見せる姿は小さいにも拘らずやけに威圧的で。
もはや勇が口を挟めない程の圧倒的な強情さを醸し出す。
その姿勢はさすがの福留の孫と言わんばかり。
冷静さを感じさせながらも相応の迫力を伴っている。
「この場所は間も無く、行き場に迷った人が入り乱れる激戦区になる。 だから急いで離れなければならないの。 巻き込まれれば他のアトラクション大半がほぼ体験不可能になるわ」
「で、でも―――」
「それにこの場所は最後に来るのが最高。 その時間にしかやらないナイトパレード直前限定のショーが楽しめるから」
「じゃ、じゃあその時にもう一度入れば―――」
「他のアトラクションを犠牲にしても? 【トゥーンイースト】で遊ぶ事を諦めて? ミズニーの全てを堪能出来なくてもいいの?」
「そ、そんなぁ……」
言い返す事も出来ない莉那の怒涛の説明が、ちゃな達の心を抉り取る。
先程まで浮かれていた気持ちさえも払い除けるかの様に。
ここは自由と夢の国ミズニーランド。
でもそこに隠れた欲望はもはや自由も夢も叶えてはくれない。
全てを堪能するには、「他の客という障害物を押し退けてでも達成してみせる」という気概が必要なのだから。
現実が彼等だけの空気を瞬く間に凍らせて。
炎天下の熱気さえ感じられない程に、勇達の心が冷え切っていく。
それでもなお、その現実は留まる事を知らない。
「ミズニーは過酷なの。 効率を重視して選べるアトラクションを選択しなければならない。 出だしが遅れた以上はその選択肢も―――」
「もういい加減になさい!!」
だがその冷説を、突如として凛とした怒号が遮った。
なんとあのエウリィが怒りの声を上げたのである。
突如として噴出した不満、そして怒り。
果たしてこの感情の導く先はいずこへ。
不自由と現実の国ミズニーランド。
その事実が露わとなった時、その中心にて風雲急が告げられる事となるのであった。
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