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第八節「心の色 人の形 力の先」
~花火、それは誰が為の力か~
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莉那の横暴とも言える言い草に、遂にエウリィが怒りを見せた。
でもその様子は大暴れをした時の怒りとは全く違う。
それはまるでかのフェノーダラ王にも足る、胸を張り上げた雄姿を見せていて。
「キッ」と睨みつけた眼は鋭いながらも熱を帯びているかのよう。
莉那にも負けない―――いや、それ以上にも凛々しい姿で立ち塞がったのである。
まさに獅子の子は獅子。
友とも言えるちゃなを守る為に。
理不尽なまでの高説を覆す事も厭わない。
その姿はまさしくフェノーダラ王の娘、エウリィその人だったのだ。
ほんのちょっとだけ暴力性も残したままの。
「ま、待ってエウリィさん! 落ち着―――ゴゥフッ!!」
仲裁しようとした勇の制止などもはや聞く耳持たず。
すかさず情け容赦無しのボディブローが静かに腹へと突き刺さる。
「効率、能率など……私達は楽しみに来たのです!! 何故行きたい場所があるというのにそれを行くなと言うのか!? 目の前にこうしてあるというのにッ!?」
昏倒する勇など目も暮れず。
遂にはその腕を振り払う、威厳ある立ち振る舞いを見せつけていて。
それでいて途端にきめ細かな青髪が暴れ舞い、荒々しささえも醸し出す。
これにはあの仮面の莉那さえ動揺を隠せない。
焦りと怯えが堪らず顔の引きつりを呼んでいたのだ。
「私達の人生がここで終わる訳ではありません!! 行きたい場所に行く、それがこの国で楽しむという事でしょう!? それを何故一日で全てを回る必要があるのというのですか!? 」
その怒号は遂に周囲の人々にすら気付かせ、たちまち視線を引き寄せていく。
しかしそれでもエウリィは止まらない、止められない。
例え注目を浴びようとも、彼女の意思はもう留まる所を知らない。
「貴女の様にこの場所に来た事があるのであればそうも言えましょう? ですがちゃな様は初めて。 ここに訪れる事を待ち望んでいたのですよ!?」
ゆっくりとその身全体で「ズイッ」と迫る姿は威風堂々。
少女のものとはとても思えぬ迫力だ。
その雰囲気だけで莉那を後ずさりさせる程に。
「その楽しみを奪われた苦しみがわかりましょうか!? それでもなお付いて来ようとした健気さがわかりましょうか!? 必死になって追い付こうとした想いがわかりましょうかッ!?」
ちゃなはずっと莉那や勇に従ってここまで必死に付いて来た。
時折道から逸れたりはしたが、それでも信じてここまで来た。
でもその心にはきっと、もっとゆっくり楽しみたいと思う気持ちがあったのだろう。
エウリィはその心を見れるから、感じ取れるから。
誰よりも何よりもよく理解する事が出来たのだ。
それを踏み躙られれば、感じ取ったエウリィが激昂しないはずもない。
「でもそれを蔑ろにしようと言うのならば、私は決して許しません!! ここが自由と夢を尊重する世界と知っているならば、何よりも他者の自由と夢を尊重なさいッ!!」
そしてこの圧倒的説得力。
それを実現するエウリィにはフェノーダラ王の面影すら見える。
蹲りながらも見上げた勇には、まさしく先日の様な王の雄姿が重なって見えていたのだ。
「お、落ち着いてエウリィさん、静かに話し合わないと……ッ!」
そうも見えてしまえば勇としてもこのままにしておく訳にはいかない
腹の痛みを堪えて立ち上がり、再び二人の間に立ち塞がる。
もう一人の恩人とも言えるフェノーダラ王に報いる為に。
なんとしても彼女を止めなければならない。
別世界の人間である彼女がお忍びで遊びに来た、そんな事がバレれば一大事。
今後の活動は愚か、福留の立場やフェノーダラ王国の存在さえも危うくなる。
そうならない為にも、なんとしてもこの場を納めなければ。
だが、その行動が想像を絶する事態を引き起こす事になるなど、誰が予想しただろうか。
確かにエウリィは獅子なる王の娘だろう。
逞しく、麗しく、気高く誇らしき者なのだろう。
でも、対峙した相手は紛れも無く人間だった。
獅子よりも強く、時に小賢しい―――人間だったのだ。
「おにいちゃんこわーい」
その時打ちあがったのは莉那の一声。
それもまるで台本を棒読みした様な。
しかもあろうことか彼女は勇の腰裏に抱き着いていて。
その表情は先程までと打って変わり、わざとらしい程までに目を震わせている。
これは間違いなく演技―――そう思える程に。
あどけない少女でありながらのこの悪女っぷり。
まさにエウリィと正反対とも言える立ち振る舞いと言えるだろう。
ただ、その行為は……相手の感情を逆撫でするには十分過ぎた。
この瞬間、エウリィの脳裏に「ブチンッ!!」という紐の切れた様な音が鳴り響く。
頭の中で真っ赤な意識が「サーッ」と広がっていく様な感覚と共に。
「勇様……一体私と莉那様のどちらを選ぶというのですか……?」
「エ、エウリィさん!?」
「そ、そうでしょう、えぇ、ウフフフッ! きっと私なんかより莉那様の方がお好みなんですねぇ。 フフフフフ……」
「ちょ、え、ぇえ!?」
それは始まり。
エウリィの中に潜む、もう一つの怒りが顕現する事の。
たちまちその身に真っ黒な命力がゆらゆらと揺らめき始め。
一歩を深く刻むたびに頭が「ガクン、ガクン」と揺れ動く。
その動きはまるで頭の糸だけ切れた操り人形だ。
その状態で一歩づつ迫るエウリィ、やっぱり目が怖い。
「あ、ああ……!?」
そう、いつかの勇のトラウマ再来である。
よりにもよって、この大勢の人達が注目する中での。
こうなった時のエウリィを止める術は無い。
力でも、技術でも、心でも劣る勇には。
そんな彼女を前に、その実力差を良く知る勇が―――脅えない訳も無い。
そのどす黒いまでの気迫は、勇を盾にする莉那さえ目を震わせるほど。
もちろん本当の意味でだ。
「ハァァァ……!! 勇様、莉那様、私もう我慢出来そうにありません……!! いっそもう、どうにでもなってしまえば……!!」
「待ってエウリィさん!? 落ち着こう!? 落ち着こうゥゥ!?」
そんな事を言ってももう止められない。
触れる事すら叶わず、脅えるままに後ずさる事しか出来はしない。
莉那が後ろに付いていても関係無く一緒に。
「アハハハ!! そうです!!きっと、きっと楽しい事が起きます!!そうでしょう!?」
もちろん楽しくなっているのはエウリィだけだ。
もはや勇も莉那も、蚊帳の外なちゃなでさえも、たった今起きている事にただただ驚愕とするばかり。
何故なら、エウリィの頭上に異様な光の球が浮かび上がっていたのだから。
キィィィーーーン……
空気を裂いた様な甲高い音を放つその光球。
それを生み出したのは当然エウリィ。
感情の赴くままに、気持ちの誘うままに。
そうして気付けば、命力で造り上げた光球を片手で浮かび上がらせていたのである。
大きさで言えば、近くで怯んでいる二頭身ミズニーキャラクターの頭部ほど。
しかし異様なまでの輝きを放ち、如何にも妖しさ満々だ。
それだけのものを周囲の者達が気付かぬはずもない。
たちまち人々が指を向け、騒ぎ、喜び、撮影までし始めていて。
もうどうにも収集が付きそうにない状況に。
でもこの状況を一番理解している勇とちゃなだけは様子が違った。
その圧倒的な破壊衝動。
その圧巻たる共鳴波動。
そして凝縮された命力濃度。
どこからどうみても、この周囲一帯を消し炭に出来そうな力強さだったのだから。
「アハ!! アハハハ!! たーのしー!! アトラクション!! はじまりまぁーす!!」
「うわぁああーーー!?」
「だ、だめぇ!!」
ブチ切れたエウリィはもう自制すら効かないのだろう。
今にも生み出した光球を地面に叩き付けそうだ。
そうなってしまえばもう大惨事は免れない。
勇にもそれを制する力は無い。
万事休すか―――
―――と思われたその時。
「くぅッ!!」
誰よりも真っ先に動いたのは、ちゃなだった。
誰もが見上げる中で、腰を落としてたちゃなが咄嗟に何かを投げ付ける。
それは豆粒ほどの小さな命力弾。
魔剣を使用せずに、己の意思だけで撃ち出す事が出来たのだ。
しかし、こうして撃ち出された命力弾も、敢え無く光球へと「スポッ」と消えていく。
それはとてもあっけない消え方で。
明らかに規模が違い過ぎたからだろうか。
誰もが気付かない程に小さなものだったからこそ。
唯一気付いた勇だけが大いに期待したのだが。
その余りにもあっけなさ故に、再び絶望の色が表情を彩っていく。
「もうダメだ」……そう思えてしまう程の絶望を抱きながら。
ただ、そう思うのは早計だったのかもしれない。
すると途端、光球に変化が訪れる。
先程まで神々しいまでの光を放っていた真円光球が、たちまちその形を崩し始めたのだ。
グニャリグニャリと歪み、震え、光さえも衰えて。
パンッ! パパパンッ!!
たちまちエウリィと光球の合間で光が弾け、花火の様な音が鳴り響き。
光球が更にその歪みを大きくし始めて止まらない。
その姿はまるで拒絶反応を起こした単細胞生物のよう。
弾ける現象は止まる事無く、むしろ激しさを増し始め。
とうとう火花を放つまでに発展、エウリィの腕上から徐々にズレ上がっていく。
そしてこの時が限界だったのだろう。
その瞬間、突如として光球が凄まじい速度で空の彼方へ打ち上がっていく。
ヒューーー―――
それはつまり完全にエウリィのコントロールを失ったという事。
ちゃなの命力の混ざった光球がエウリィを主と認識出来ず、拒絶したのである。
ドドォーーーーーーンッ!!!
遂にはその光球も空の彼方で弾け飛び。
幾重もの光の放物線を描いて消えていく。
日の光すら霞む程にハッキリとした紋様として。
そう、まるで打ち上げ花火の様に。
「あーれぇー?」
こんなはずじゃなかったのに。
そう言いたげな顔で呆然としながら空を見上げるエウリィ。
どうやら命力を沢山篭めた事で、感情も一緒に弾け飛んでしまった様だ。
だがそんな彼女と違って、周囲の反応はと言えば―――
ワアアアアアア!!!!!
大歓声である。
大喝采である。
きっとミズニーイベントの一つだとでも思ったのだろう。
突然の事に誰しもが興奮し、満足し、拍手で讃える。
勇達の気持ちなど欠片も理解する事も無く。
「た、田中さんナイス……」
「うん、よかったぁ」
これには勇もちゃなもホッと一安心だ。
しかも全ての注目を光球が奪っていたおかげで、ちゃなの事を見ていた人は皆無。
幸いにも、周囲の人間という壁が余計な視線を防いでくれたらしい。
「今の何なの……」
莉那もただただ目の前で起きた事に唖然と立ち尽くしていて。
空で輝く命力花火をただただボーっと眺め続けるのみ。
さすがの彼女も、今の非現実的な光景を理解するには至れなかったのだろう。
ドドォーン!! パパァーン!!
光球花火はなお続き、観客達を大いに沸かせていて。
危機的状況から一転のお祭り騒ぎに、勇もちゃなも安心のままに眺めずにはいられない。
これだけの力を打ち下ろされたどうなっていた事やら。
そうならなかった事への安堵感が喜びすら呼び込んだ様だ。
なお、エウリィ当人はとしては拍子抜けだった模様。
力無く肩を落とし、あんぐりとしながらと空を見上げるばかりで。
「ねーね、おひめさま、またやって!」
するとそんな時、不意にエウリィの足元から幼い声が。
それに気付いて見下ろしてみれば、そこには知らない女の子の姿があって。
「えっ?」
「はなび、またやって! きれいだったの!」
そうお願いする女の子の眼差しは期待で一杯だ。
キラキラと目を輝かせて必死に懇願し続ける。
もしかしたら女の子はエウリィの事をミズニーキャラクターの一人だと思っているのかもしれない。
何せ現代人とは思えない容姿なのだから、そう思っても不思議ではないだろう。
そんな事情など、エウリィは知るはずもない。
でも、こうして催促されれば叶えたいと思うのが彼女の持ちうる優しさな訳で。
「は、はいっ!!」
それもこうして純心さでお願いされれば、嬉しくもなろう。
女の子に向けて返したのはそんな言葉だけではなく―――微笑みも。
その純粋なお願いがエウリィの気持ちを押し上げて。
心と体が自然に動いていく。
そうして見せたのは、再びの光球。
けれど今度はちょっと小さい掌サイズ。
もう冷静だから、周りに迷惑が掛からない様にとこうして気遣えて。
そんな小さな光球も、踊る様に振り回せば実にファンタジカルだ。
跡を引く残光が人々を驚かせ、再びの喝采を呼び込んで。
その中で打ち上げられた光の花火がまたしても彼等の喜びをも打ち上げていく。
今までに起きていた事の記憶さえも一緒にして。
「へぇ、命力にはこんな使い方もあるんだなぁ」
「綺麗ですね。 これはこれで楽しいかも」
楽しそうに踊り、光球を打ち上げるエウリィを勇達も静かに見守り続ける。
こうなればきっともう大丈夫だろうと思えてならなかったから。
今はただ、エウリィのライトイリュージョンを楽しむだけだ。
こうして気付けば、いつの間にか険悪の雰囲気は掻き消えて。
人々が彩る喜びの歓声によって、勇達の心はこれ以上無い程に満たされたのだった。
でもその様子は大暴れをした時の怒りとは全く違う。
それはまるでかのフェノーダラ王にも足る、胸を張り上げた雄姿を見せていて。
「キッ」と睨みつけた眼は鋭いながらも熱を帯びているかのよう。
莉那にも負けない―――いや、それ以上にも凛々しい姿で立ち塞がったのである。
まさに獅子の子は獅子。
友とも言えるちゃなを守る為に。
理不尽なまでの高説を覆す事も厭わない。
その姿はまさしくフェノーダラ王の娘、エウリィその人だったのだ。
ほんのちょっとだけ暴力性も残したままの。
「ま、待ってエウリィさん! 落ち着―――ゴゥフッ!!」
仲裁しようとした勇の制止などもはや聞く耳持たず。
すかさず情け容赦無しのボディブローが静かに腹へと突き刺さる。
「効率、能率など……私達は楽しみに来たのです!! 何故行きたい場所があるというのにそれを行くなと言うのか!? 目の前にこうしてあるというのにッ!?」
昏倒する勇など目も暮れず。
遂にはその腕を振り払う、威厳ある立ち振る舞いを見せつけていて。
それでいて途端にきめ細かな青髪が暴れ舞い、荒々しささえも醸し出す。
これにはあの仮面の莉那さえ動揺を隠せない。
焦りと怯えが堪らず顔の引きつりを呼んでいたのだ。
「私達の人生がここで終わる訳ではありません!! 行きたい場所に行く、それがこの国で楽しむという事でしょう!? それを何故一日で全てを回る必要があるのというのですか!? 」
その怒号は遂に周囲の人々にすら気付かせ、たちまち視線を引き寄せていく。
しかしそれでもエウリィは止まらない、止められない。
例え注目を浴びようとも、彼女の意思はもう留まる所を知らない。
「貴女の様にこの場所に来た事があるのであればそうも言えましょう? ですがちゃな様は初めて。 ここに訪れる事を待ち望んでいたのですよ!?」
ゆっくりとその身全体で「ズイッ」と迫る姿は威風堂々。
少女のものとはとても思えぬ迫力だ。
その雰囲気だけで莉那を後ずさりさせる程に。
「その楽しみを奪われた苦しみがわかりましょうか!? それでもなお付いて来ようとした健気さがわかりましょうか!? 必死になって追い付こうとした想いがわかりましょうかッ!?」
ちゃなはずっと莉那や勇に従ってここまで必死に付いて来た。
時折道から逸れたりはしたが、それでも信じてここまで来た。
でもその心にはきっと、もっとゆっくり楽しみたいと思う気持ちがあったのだろう。
エウリィはその心を見れるから、感じ取れるから。
誰よりも何よりもよく理解する事が出来たのだ。
それを踏み躙られれば、感じ取ったエウリィが激昂しないはずもない。
「でもそれを蔑ろにしようと言うのならば、私は決して許しません!! ここが自由と夢を尊重する世界と知っているならば、何よりも他者の自由と夢を尊重なさいッ!!」
そしてこの圧倒的説得力。
それを実現するエウリィにはフェノーダラ王の面影すら見える。
蹲りながらも見上げた勇には、まさしく先日の様な王の雄姿が重なって見えていたのだ。
「お、落ち着いてエウリィさん、静かに話し合わないと……ッ!」
そうも見えてしまえば勇としてもこのままにしておく訳にはいかない
腹の痛みを堪えて立ち上がり、再び二人の間に立ち塞がる。
もう一人の恩人とも言えるフェノーダラ王に報いる為に。
なんとしても彼女を止めなければならない。
別世界の人間である彼女がお忍びで遊びに来た、そんな事がバレれば一大事。
今後の活動は愚か、福留の立場やフェノーダラ王国の存在さえも危うくなる。
そうならない為にも、なんとしてもこの場を納めなければ。
だが、その行動が想像を絶する事態を引き起こす事になるなど、誰が予想しただろうか。
確かにエウリィは獅子なる王の娘だろう。
逞しく、麗しく、気高く誇らしき者なのだろう。
でも、対峙した相手は紛れも無く人間だった。
獅子よりも強く、時に小賢しい―――人間だったのだ。
「おにいちゃんこわーい」
その時打ちあがったのは莉那の一声。
それもまるで台本を棒読みした様な。
しかもあろうことか彼女は勇の腰裏に抱き着いていて。
その表情は先程までと打って変わり、わざとらしい程までに目を震わせている。
これは間違いなく演技―――そう思える程に。
あどけない少女でありながらのこの悪女っぷり。
まさにエウリィと正反対とも言える立ち振る舞いと言えるだろう。
ただ、その行為は……相手の感情を逆撫でするには十分過ぎた。
この瞬間、エウリィの脳裏に「ブチンッ!!」という紐の切れた様な音が鳴り響く。
頭の中で真っ赤な意識が「サーッ」と広がっていく様な感覚と共に。
「勇様……一体私と莉那様のどちらを選ぶというのですか……?」
「エ、エウリィさん!?」
「そ、そうでしょう、えぇ、ウフフフッ! きっと私なんかより莉那様の方がお好みなんですねぇ。 フフフフフ……」
「ちょ、え、ぇえ!?」
それは始まり。
エウリィの中に潜む、もう一つの怒りが顕現する事の。
たちまちその身に真っ黒な命力がゆらゆらと揺らめき始め。
一歩を深く刻むたびに頭が「ガクン、ガクン」と揺れ動く。
その動きはまるで頭の糸だけ切れた操り人形だ。
その状態で一歩づつ迫るエウリィ、やっぱり目が怖い。
「あ、ああ……!?」
そう、いつかの勇のトラウマ再来である。
よりにもよって、この大勢の人達が注目する中での。
こうなった時のエウリィを止める術は無い。
力でも、技術でも、心でも劣る勇には。
そんな彼女を前に、その実力差を良く知る勇が―――脅えない訳も無い。
そのどす黒いまでの気迫は、勇を盾にする莉那さえ目を震わせるほど。
もちろん本当の意味でだ。
「ハァァァ……!! 勇様、莉那様、私もう我慢出来そうにありません……!! いっそもう、どうにでもなってしまえば……!!」
「待ってエウリィさん!? 落ち着こう!? 落ち着こうゥゥ!?」
そんな事を言ってももう止められない。
触れる事すら叶わず、脅えるままに後ずさる事しか出来はしない。
莉那が後ろに付いていても関係無く一緒に。
「アハハハ!! そうです!!きっと、きっと楽しい事が起きます!!そうでしょう!?」
もちろん楽しくなっているのはエウリィだけだ。
もはや勇も莉那も、蚊帳の外なちゃなでさえも、たった今起きている事にただただ驚愕とするばかり。
何故なら、エウリィの頭上に異様な光の球が浮かび上がっていたのだから。
キィィィーーーン……
空気を裂いた様な甲高い音を放つその光球。
それを生み出したのは当然エウリィ。
感情の赴くままに、気持ちの誘うままに。
そうして気付けば、命力で造り上げた光球を片手で浮かび上がらせていたのである。
大きさで言えば、近くで怯んでいる二頭身ミズニーキャラクターの頭部ほど。
しかし異様なまでの輝きを放ち、如何にも妖しさ満々だ。
それだけのものを周囲の者達が気付かぬはずもない。
たちまち人々が指を向け、騒ぎ、喜び、撮影までし始めていて。
もうどうにも収集が付きそうにない状況に。
でもこの状況を一番理解している勇とちゃなだけは様子が違った。
その圧倒的な破壊衝動。
その圧巻たる共鳴波動。
そして凝縮された命力濃度。
どこからどうみても、この周囲一帯を消し炭に出来そうな力強さだったのだから。
「アハ!! アハハハ!! たーのしー!! アトラクション!! はじまりまぁーす!!」
「うわぁああーーー!?」
「だ、だめぇ!!」
ブチ切れたエウリィはもう自制すら効かないのだろう。
今にも生み出した光球を地面に叩き付けそうだ。
そうなってしまえばもう大惨事は免れない。
勇にもそれを制する力は無い。
万事休すか―――
―――と思われたその時。
「くぅッ!!」
誰よりも真っ先に動いたのは、ちゃなだった。
誰もが見上げる中で、腰を落としてたちゃなが咄嗟に何かを投げ付ける。
それは豆粒ほどの小さな命力弾。
魔剣を使用せずに、己の意思だけで撃ち出す事が出来たのだ。
しかし、こうして撃ち出された命力弾も、敢え無く光球へと「スポッ」と消えていく。
それはとてもあっけない消え方で。
明らかに規模が違い過ぎたからだろうか。
誰もが気付かない程に小さなものだったからこそ。
唯一気付いた勇だけが大いに期待したのだが。
その余りにもあっけなさ故に、再び絶望の色が表情を彩っていく。
「もうダメだ」……そう思えてしまう程の絶望を抱きながら。
ただ、そう思うのは早計だったのかもしれない。
すると途端、光球に変化が訪れる。
先程まで神々しいまでの光を放っていた真円光球が、たちまちその形を崩し始めたのだ。
グニャリグニャリと歪み、震え、光さえも衰えて。
パンッ! パパパンッ!!
たちまちエウリィと光球の合間で光が弾け、花火の様な音が鳴り響き。
光球が更にその歪みを大きくし始めて止まらない。
その姿はまるで拒絶反応を起こした単細胞生物のよう。
弾ける現象は止まる事無く、むしろ激しさを増し始め。
とうとう火花を放つまでに発展、エウリィの腕上から徐々にズレ上がっていく。
そしてこの時が限界だったのだろう。
その瞬間、突如として光球が凄まじい速度で空の彼方へ打ち上がっていく。
ヒューーー―――
それはつまり完全にエウリィのコントロールを失ったという事。
ちゃなの命力の混ざった光球がエウリィを主と認識出来ず、拒絶したのである。
ドドォーーーーーーンッ!!!
遂にはその光球も空の彼方で弾け飛び。
幾重もの光の放物線を描いて消えていく。
日の光すら霞む程にハッキリとした紋様として。
そう、まるで打ち上げ花火の様に。
「あーれぇー?」
こんなはずじゃなかったのに。
そう言いたげな顔で呆然としながら空を見上げるエウリィ。
どうやら命力を沢山篭めた事で、感情も一緒に弾け飛んでしまった様だ。
だがそんな彼女と違って、周囲の反応はと言えば―――
ワアアアアアア!!!!!
大歓声である。
大喝采である。
きっとミズニーイベントの一つだとでも思ったのだろう。
突然の事に誰しもが興奮し、満足し、拍手で讃える。
勇達の気持ちなど欠片も理解する事も無く。
「た、田中さんナイス……」
「うん、よかったぁ」
これには勇もちゃなもホッと一安心だ。
しかも全ての注目を光球が奪っていたおかげで、ちゃなの事を見ていた人は皆無。
幸いにも、周囲の人間という壁が余計な視線を防いでくれたらしい。
「今の何なの……」
莉那もただただ目の前で起きた事に唖然と立ち尽くしていて。
空で輝く命力花火をただただボーっと眺め続けるのみ。
さすがの彼女も、今の非現実的な光景を理解するには至れなかったのだろう。
ドドォーン!! パパァーン!!
光球花火はなお続き、観客達を大いに沸かせていて。
危機的状況から一転のお祭り騒ぎに、勇もちゃなも安心のままに眺めずにはいられない。
これだけの力を打ち下ろされたどうなっていた事やら。
そうならなかった事への安堵感が喜びすら呼び込んだ様だ。
なお、エウリィ当人はとしては拍子抜けだった模様。
力無く肩を落とし、あんぐりとしながらと空を見上げるばかりで。
「ねーね、おひめさま、またやって!」
するとそんな時、不意にエウリィの足元から幼い声が。
それに気付いて見下ろしてみれば、そこには知らない女の子の姿があって。
「えっ?」
「はなび、またやって! きれいだったの!」
そうお願いする女の子の眼差しは期待で一杯だ。
キラキラと目を輝かせて必死に懇願し続ける。
もしかしたら女の子はエウリィの事をミズニーキャラクターの一人だと思っているのかもしれない。
何せ現代人とは思えない容姿なのだから、そう思っても不思議ではないだろう。
そんな事情など、エウリィは知るはずもない。
でも、こうして催促されれば叶えたいと思うのが彼女の持ちうる優しさな訳で。
「は、はいっ!!」
それもこうして純心さでお願いされれば、嬉しくもなろう。
女の子に向けて返したのはそんな言葉だけではなく―――微笑みも。
その純粋なお願いがエウリィの気持ちを押し上げて。
心と体が自然に動いていく。
そうして見せたのは、再びの光球。
けれど今度はちょっと小さい掌サイズ。
もう冷静だから、周りに迷惑が掛からない様にとこうして気遣えて。
そんな小さな光球も、踊る様に振り回せば実にファンタジカルだ。
跡を引く残光が人々を驚かせ、再びの喝采を呼び込んで。
その中で打ち上げられた光の花火がまたしても彼等の喜びをも打ち上げていく。
今までに起きていた事の記憶さえも一緒にして。
「へぇ、命力にはこんな使い方もあるんだなぁ」
「綺麗ですね。 これはこれで楽しいかも」
楽しそうに踊り、光球を打ち上げるエウリィを勇達も静かに見守り続ける。
こうなればきっともう大丈夫だろうと思えてならなかったから。
今はただ、エウリィのライトイリュージョンを楽しむだけだ。
こうして気付けば、いつの間にか険悪の雰囲気は掻き消えて。
人々が彩る喜びの歓声によって、勇達の心はこれ以上無い程に満たされたのだった。
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魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
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【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
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貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
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武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。
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フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。
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なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
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