時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

文字の大きさ
690 / 1,197
第二十五節「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」

~絆は天堕つ事よりも尊し~

しおりを挟む
 ふとしたきっかけで出会ったレヴィトーンという謎の魔者。

 しかしそのレヴィトーンの放った衝撃の一言が、ジョゾウに事実を悟らせる事となる。
 舌足らずでも分かり合えるが故に、多くの事実を。
 目の前の者が思っていた様な同類ではなかったという事を。

「ウッ!? 其方は……!!」

 その途端にジョゾウが低く身構え、レヴィトーンへと鋭い視線を向ける。
 翼を広げる様はまるで水鳥の威嚇のよう。

 でも対するレヴィトーンはと言えば、なお空を見上げ続けていて。

くなよ、ジョゾウ。 空を見てみろ、静かなものだ。 俺達の気苦労などまるで知りもしないかの様に。 そこに浮世があると思えば、如何に我等が矮小な事か」

「ヌ……」

 それどころか戦意すら見せず、ジョゾウに空の再見さえ誘う程だ。

 ジョゾウが誘われるままに見上げれば、再び満天の空が視界に映り込む。
 そんな蒼天には雲一筋も無く、言う通りの美しくも静かな世界が広がっていた。
 自分達よりもずっとずっと大きく、全てを覆い尽くさんばかりの浮世見えぬ世界が。
 きっとレヴィトーンの言う通りに空が落ちたのならば、きっとこの世などひとたまりも無いのだろう。

 でもジョゾウは知っている。
 その先にあるのは浮世とやらではなく、無の空間であるという事を。

「こうして見ると、空が落ちる訳など無いのにな」

「ウム。 天に壁も無し。 在るのは『うちう』なる虚無の空間のみ……空は落ちぬよ」

「違う、違うのだよジョゾウ。 空は落ちるのだ。 我々の世界という空が今なお落ち続けているのだ」

 だが、その浮世が自分達の世界を指すならば話は別だ。
 浮世が落ちる事、それすなわち【フララジカ】を示す事に他ならない。

 レヴィトーンがその両拳を握り締め、腕ごとグッと脇に引き込ませる。
 翼が震え、羽根が揺れるほどに強く、強く。

 そう思い詰める程に苦しんできたのだろう。
 浮世あちら側を落とさない為に戦ってきたのだろう。

 その想いは誰よりも強く、そして儚い事も知っている。
 だからこそレヴィトーンは望む。
 絆でも無く、愛でも無く、泰平でも無く。

 ただ一つ、孤独の明日を。



「ジョゾウ、俺達と共に来い。 そして知るのだ。 世界は一人である方が、ずっと楽なのだと」

 

 だからこそ誘う。
 ジョゾウに同類の匂いを感じとったから。
 彼ならば同じ志の下で戦う事が出来るだろうと踏んだからこそ。

 共に戦い、共に孤独を求める者として。

 それは決して仲間が欲しいという意味では無い。
 〝互いに斬り合える世界を望む同志〟を欲しているのだ。

 それがレヴィトーンの言う〝常に一人〟の真意なのだから。



「……ハハハッ!」
「ッ!?」



 しかしその時、なんとジョゾウは笑っていた。
 透き通った空に響く程の笑い声を上げて。

 例えレヴィトーンが横目で睨んでいようとも。
 それに怯む事も、怖気付く事も無く。

「一人が楽……か。 そうであろう、一人は楽よな。 だが、それこそ違うぞレヴィトーンよ。 一人では笑えぬ。 話し合えぬ。 孤独は―――楽だが辛いのだ。 其方が落空らっくうの夢を見るのも、天涯孤独だからであろう」

「ヌ……」

くる事は繋がりよ。 其が行いが知らず内とも巡り巡り、他者の恩恵となろう。 この世でも言うておる。 【もちつもたれぇつ】と。 だから我等は進めような。 一人では成せぬ事も、二人三人ならば、更に十人ならば容易にさえ出来よう。 そうして出来た物こそが進歩というものよ。 拙僧はその進歩というものが好きで堪らんのでな」

 引くはずも無い。
 ジョゾウには守るべき者達が、共に生きて歩む者達が今ここに居る。
 故郷でも、きっと彼の帰りを待っているであろう家族や同胞達が居る。
 それを素で良しとする男に、孤独など似合うはずも無いのだ。
 
 その在り方はまさにレヴィトーンの対極、陰と陽。
 孤独に寄り添う事を是とする者とは、願う世界がまるで違うのだから。

 それを悟ったのだろうか、レヴィトーンがそっとあごを落とす。
 ただジョゾウに視線を向ける事も無く、虚空を視界に浮かべたままで。

「やはりわからないか。 これだけ語ろうとも」

「想いはわかろう。 しかし慰めなどを欲している訳ではあるまい?」

「無論だ。 悲しみも、苦しみも、己という空壺に何度も沈め消して来た。 もはや慈しみさえ不要よ。 だがそれでも、出来うる事ならわかって欲しかったのだ。 孤独であるべきというこの想いをも……」

「拙僧にはわからぬよ。 家族も、仲間も居る身ゆえな」

「そうか……なれば、もはや語るまい」

 二人は思考こそ似ていても、その人生は似ても似つかない。
 溶け合いそうで合わない、水と油の様なものだ。
 そして魔特隊と【救世】という立場さえも異なれば。

 もはや相容れる事さえも叶わないのかもしれない。

 間も無く静寂が場を包み、枯れた風切音がぴゅうと互いの耳を突く。
 その二人も今や火照りを除く事も、安らぐ事も忘れ、互いに意識を向け合うのみ。

 構えずとも警戒を見せ続けるジョゾウ。
 横目を向けて静かに佇むレヴィトーン。
 そこにもはや先程の穏やかさは残されていない。

 するとそんな中、レヴィトーンが背を逸らしたままに片腕をすっと引き上げる。
 人差し指をゆるりと浮かせながら。

「ジョゾウよ、外を見てみるがよい」

「ヌ?」

 その指先が示すのは建屋の先、フェンスの向こう。
 先程まで見ていた空にはとても届きそうにない向きだ。

 あれだけ空に拘っていたからこそ、それがジョゾウには不思議に思えてならなくて。
 ふと、誘われるままにフェンス側へと一歩を歩ませる。

 そして間も無く気付く事となるだろう。

 レヴィトーンにはもう、語る必要がのだという事実に。
 
「な、なんとおッ!?」



 なんと、数知れぬほど無数の魔者達が、魔特隊本部の外を覆い尽くしていたのである。



 それもジョゾウが見える範囲だけではない。
 敷地を覆う外壁全てを取り囲む様にして魔者達がひしめいていたのだ。
 それも、外に居たジョゾウにさえ気付かれずに。

 一体どこから現れたのか。
 どこに潜んでいたというのか。

 ただもう、その答えはわかりそうにない。

 魔者達は既に展開済みなのだから。
 それどころか外壁さえよじ登り、今にも敷地内へと入らんとしている。

 たまたま通り掛かった住人は当然逃げる一方だ。
 踵を返して駆け、車をバックさせたりなどで必死に。

 でも魔者達はそんな住人達に一切手を出そうとはしない。
 全てが全て、魔特隊本部へと敵意をぶつけているのだから。

「不味い!!」

 その様な魔者達をこのまま放置する訳にはいかない。

 ジョゾウが空かさずインカムを取り出し、強制通話スイッチへ指を掛ける。
 今まだ事務所に居るであろう仲間達へ危機を知らせる為に。
 
「皆の者!! 敵襲に御座るッ!! 本部が包囲されておるゥ!!」

 それも、地声だけで届きそうな程の大声で。



 だが―――



ピュインッ!!



 その瞬間、インカムが粉々に砕け散る。
 空を裂く一閃がその筐体を貫いたのである。

「おおッ!?」

 余りにも一瞬の出来事に、ジョゾウが驚き咄嗟に飛び退く。

 ただもうインカムなど気にしている場合ではない。
 その手には砕けた破片などでは無く、魔剣が携えられていた。

 目前の敵意へと備える為に。

 そう、既にレヴィトーンがジョゾウに敵意を向けていたのだ。
 その手に握る刃の切っ先と共に。

 恐るべきは、その刀捌きか。
 今の一閃はジョゾウさえ見切るに至っていない。

 それだけ、ただ―――速かったのだから。

「語りを聞いてくれた礼に、一度の報は許そう。 だが、それで終わりだ」

ピュピュインッ!!!

 再び刃が空を裂く。
 瞬時にして十字に。
 己の背丈をも超す刀をいとも容易く操って。

 そして身構えし姿は、まさに剣豪の威。
 掲げる様に構えた刀は刃を天に反らせ、切っ先を指でなぞらせる。
 その先に見据えたジョゾウへ殺意を、落ちる世界に叛意を。

 後はただ腰を落とし、来たるべき一瞬に備えて力を溜め込ませるのみ。
 細めに細めた鋭い眼で狙いを研ぎ澄ましながら。

「後は死合おうか……互いの意地と、信念を賭けてな」

「やはりわかり合えぬか、其方とはッ!!」

 もはや戦う以外に道は無い。
 それこそがレヴィトーンの意思であり、願いでもあるからこそ。

 孤独を求めし者に、敵など斬る以外の価値は無し。



 無数の魔者達が本部内へと進入を果たしていく中、二人はただ静かに対峙する。
 勝つのは、繁栄を護りし二刃の風来坊か。
 それとも、孤高を貫きし疾風の剣客将か。

 果たして―――


しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜

加瀬 一葉
ファンタジー
 王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。  実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?  過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...