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第二十五節「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」
~嵐帝無双~
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突如現れ、ナターシャの危機を救ったのは―――あのバノだった。
右手には大地を砕いた黄金大槌。
そして左手にはあの鈍銀色の金槌を携えての参上だ。
そう、ずっと前にカプロが土産として持ち帰ったあの大鉄槌である。
しかし只の鉄槌にも拘らず、魔剣の様な雰囲気さえ醸し出す。
それだけ所持者であるバノの存在感が圧倒的だったからこそ。
そんな超重量の金槌を片手でひょいっと振り上げ、遂には肩へと当て担ぐ。
「ドスン」と叩き乗ろうが、その剛肩は全くビクともしない。
「貴様、一体何者だ!!」
「あん? 知るかぁ!! ただのジジィじゃあ!!」
そのバノはと言えば、もう既に怒髪天状態だ。
全身の毛を逆立て、目の前の大集団に電撃の如き睨みを当てまくる。
それほど、今の状況に憤りまくっているのだろう。
それも当然か。
勇や魔特隊とは浅からぬ縁があり、恩義も感じていて。
何より、同胞であり弟子のカプロがここに居る。
「おめぇらぁ~覚悟せぇよなぁ!! 儂ぁよってたかって嬲る様なやり方はこれ以上に無く嫌いなんだよォ!!」
しかも大集団で奇襲するという卑怯っぷりを見せつけられたからこそ。
あのバノが怒らない訳も無かったのだ。
こうも同胞や友を脅かし、非道な真似をされたならば。
それが戦術だろうが戦略だろうがこの男には関係無い。
故にバノとてもはや問答無用。
たちまち両手の双金槌を水平に広げて構え、その腰、身体を思いっきり引き捻り絞る。
「メキメキ」と筋肉の軋む音が響き渡る程に強く強く。
周囲の魔者達が堪らず怯み、脅えて足を退かせる程に。
そして溜められた力が解放された時―――
「ぬぅあああーーーーーーッッッ!!!!!」
今ここに、殺戮の旋風魔人が誕生する事となる。
荒ぶるその姿、まるで大竜巻の如し。
その超速大回転はもはやバノ自身が見えなくなる程に豪快。
旋風が、閃光が、更には電光が。
幾重にも吹き荒れて、超ド級の大旋風を巻き起こす。
巻き込まれれば最後、魔者など瞬時にして肉塊と化し。
ただ近くに居ただけで引き込まれ、大渦へと飲み込まれる。
その嵐を前には、ただの魔剣などもはや棒切れ紙切れ程度にしかなりはしない。
しかもその大竜巻が凄まじい勢いで近づいて来るのだ。
もはや襲撃者達は逃げる事さえままならない。
砕く。
砕く。
ひたすら砕く。
何もかもをも巻き込んで。
悲鳴も上がらない。
上げる暇すら与えない。
吸い込んだら即座にあの世行きだ。
襲撃者達も大混乱である。
大集団が仇となり、仲間が壁となって逃げ道を奪うが故に。
そこに竜巻がやって来れば、一人残らずその吸引力の餌食となる。
圧倒無比。
怒りの双金槌大旋風を前に、誰一人として抵抗など叶いはしない。
そんなバノの圧倒的な戦闘力を前に、ナターシャはただただ唖然とするばかり。
その恐ろしい戦闘力もさることながら、見ず知らずの者に助けられた事もあって。
当然、ナターシャはバノの事を知らない。
話くらいは聞いていただろうが。
だから助けられた理由もわかりはしないだろう。
でもそんな事はどうでも良かったのだ。
それだけ、今のバノが頼もしく見えたから。
九死に一生を得て嬉しかったから。
故に、今はただ微笑まずにはいられない。
感涙を滲ませ、クシャクシャとなった頬を想いのままに惚けさせながら。
そんな訳で状況はあっという間にバノの手中に。
訓練施設前の魔者達が纏めて薙ぎ払われ、もはや反撃さえままならない。
それどころか、遂には逃げる者までが出る始末だ。
さすがに敵わないと理解したのだろう。
とはいえ、バノを前にしたから、という理由だけ逃げた訳ではなさそうだが。
襲撃者集団の動きに纏まりが無くなり、遂には散り散りとなっていく。
あれだけ多かった者達ももはや半数、彼方でも大量に吹き飛んだりと絶賛大減少中だ。
するとそんな時、その吹き飛んだ魔者達の中から華麗に飛び出した者が一人。
たちまち宙でクルリと一回転し、そのままバノの傍へと舞い降りる。
トトッ―――
「……ほぉ、これはこれは。 骨の有りそうな奴がおるではないかぁ!!」
静かな着地で現れたのは、なんとウィグルイ。
しかもバノに気付き、嬉しそうに喉を唸らせていて。
両手指をわきわきとさせて喜びを露わにする姿が。
強者故の嗅覚か、バノが相応の実力者である事を悟った様だ。
「おぉん? なんじゃあ、やるんかいのぉ!?」
対するバノも怒髪天を浮かばせたままで。
突如現れたウィグルイを前に怯む事も無く、双金槌を構えて威嚇する。
腰を深く落とし、長大な二槌を片手で軽々と構える姿は実に圧巻である。
旋風を留めたという事は、ウィグルイが強敵であると理解した様だ。
ただ暴れるだけでは通用しない相手なのだと。
そう、二人は互いを知らない。
話すらも聞いていないし、なんなら現在の状況さえも知らない。
だから実は味方同士であるなどとは当然わからない訳で。
なれば即座に一触即発だ。
互いに命力を打ち放ち、ぶつかるその瞬間に備えて高め合う。
周囲の魔者達さえ気が気でなくなる程に強大な命力を。
気迫に充てられて気絶する者達が出てしまうまでに昂らせて。
どちらが上か。
どちらが強者か。
今この時、戦いの火蓋が切っておとさ
「あっ、師匠なにしてんスか?」
―――れる前に、気の抜けた声が互いの耳に届く。
いつも通り空気の読めない毛玉の声が。
それも、ウィグルイの背後から首をピョコリと覗かせながら。
「うおっ!? カプロォ、おめぇドコから生えてきたんじゃあ!?」
「キノコみたいに言わないで欲しいッス。 このウィグルイさんに運んでもらったんスよ」
意外な伏兵、カプロの登場である。
それというのも―――
マヴォ達がいつまでもグラウンド中央に居ては戦いも捗らないという事で。
ウィグルイに頼み、一旦訓練場まで全員を移動させる事になったという。
そんな訳でカプロが一足先にウィグルイに運ばれたのだ。
「ウピョオオオオ!!」という叫び声と共に。
「で、何でここに居るんスか?」
「何ってェおめぇ……緊急事態じゃからって御味さんに連れてきてもらったんじゃあ」
「おっおう、御味さんナイスファインプレイッスね」
「んん……なにか、お前さん方知り合いなのか?」
「ボクの師匠ッス」
とはいえ、お陰で誤解も晴れた様だ。
戦場なのにも拘らず、気付けばほんわりとした雰囲気が場を包む。
カプロの空気の読めない性格がそうさせたのだろうか。
なお、ウィグルイとしてはどうにも理解出来なかったらしい。
このもやしチビッコが、目の前の真の強者の弟子であるなどとは。
二人の姿を交互に見比べ、腕を組んで不可解そうに首を傾げるばかりだ。
もっとも、誰が見てもそう思いそうなものだけれども。
「うぴっ!! ナッチーじゃねっすか!!」
「いまさら気付くとかおそすぎー」
そしてそのゆる~い空気は遂にナターシャにまで及ぶ。
ただ、今まで放置されていた彼女としては不愉快だった模様。
据わった目をカプロに向け、「ぷぅ」と頬を膨らませて憤る姿が。
そんな様子を悪い意味で見慣れているからだろうか。
カプロが何だかとても嫌そうに首を引かさせる。
「んで、アレは敵かいの?」
「敵ッス」
「ちがうよ!!」
その末にこの扱いである。
これにはナターシャも堪えられず、プンスコとご立腹だ。
たちまち二人の醜い争いが勃発する事に。
そんな子供達の喧嘩に巻き込まれれば、ウィグルイとしては堪ったものではないだろう。
遂には無表情のまま虚空を見上げ、大きな溜息まで漏らしていて。
イ・ドゥール最強の師父ウィグルイもどうやら子供だけは苦手らしい。
しかしいつまでもそんな緩い空気が続く訳も無い。
彼等の背後にはなお襲撃者達が目を光らせているのだから。
きっと仲違いでもしていると見えたのだろう。
我に返った者達が突如として再び牙を剥き―――
「とまぁ、んなこたぁどうでもええ。 さっさとコイツラぶちのめさんとなぁ……!!」
「そうさのぉ。 何、相手がわからねば……敵意向ける者全てを屠ればよい事よぉ!!」
―――そうだった者達もたちまち怯えてその身を引かせる事となる。
強者二人が殺意の光を放つ眼を「ギュィィィン」と向けて来たのだから。
しかも鬼気とした笑みを「ニタァ」と浮かばせながら。
その後は当然、鬼人と魔人による宴が開かれる事となる。
圧倒的だった。
何もかもが。
二人の強者が背を守るかの如く舞い飛び、その度に紅の花火が空を彩る。
初めて会ったのにも拘らず、怒涛の共闘劇を見せつけながら。
近くに居た者も、遠くで見ていた者も、誰も彼もが逃げ惑うその中で。
しかも二人は逃げる者達にも容赦しない。
軽快疾風の足捌きを見せるウィグルイが逃げ場に先回りし獲物を追い込んで。
豪快旋風の竜巻を起こすバノが固まった者達を片っ端から吹き飛ばす。
逃げられない、絶対に。
壁に囲まれたグラウンドは言うなれば襲撃者達にとっての檻の中。
ここはもはや暴れる猛獣二人の餌場の様な物なのだから。
「憐れだな。 まぁこんな事を仕掛けたんだ、『インガオウホー』ってやつだろうけども」
「ええ。 これだと私の出番も必要無さそうですね」
なお、マヴォ達も全員無事な様子。
イシュライトに守られつつ、猛獣二人が切り拓いた道をゆっくりと歩き行く。
もう焦る必要も無いくらいに二人が大暴れし過ぎなもので。
むしろグラウンド一面が血まみれで、足の踏み場に困るくらいだ。
「皆さん、まだ油断なさらないよう。 どの様な伏兵が待ち構えているかわかりませんから」
そんな中、福留が堂々と歩きながら仲間達に釘を刺す。
言った通り、まだ状況がどうなるかは不透明だからだ。
見上げれば屋上でも何かしら戦闘が繰り広げられていて。
アージも帰ってこない所を考えれば、まだ戦闘中なのかもしれない。
どこかに増援も居るかもしれないし、強者が再び襲ってくるかもしれない。
「福留のおっちゃん!! アニキが、アニキが……!!」
「ッ!? アンディ君がどうかしましたか!?」
それに、こうして現在進行形で起き続けている事態もありえるからこそ。
福留達が合流した途端、ナターシャが訴える様な声を上げ。
それに気付き、全員が揃って訓練施設へと駆けていく。
歩けないナターシャもマヴォが抱え上げて。
そのまま施設内、地下入り口へ向かうと、そこには寝かされたままのアンディが。
目は虚ろで息も荒く、今にも意識が飛びそうだ。
「ここの設備には確か救急医療キットがあるはずです!」
「既に持ってきています。 これを!」
ただ、そこはさすがの福留達か。
平野の機転で治療器具を得て、早速傷付いたアンディを囲む。
「おせぇよぉ……いてぇよぉ、お腹空いたよぉ」
「はは、憎まれ口を叩けるならきっと平気でしょう。 もう大丈夫ですから安心してください」
とはいえ見た目ほどには酷いという訳でもなさそう。
命力の自己治癒でしっかり生命維持は出来ているのだろう。
地下での事情はここに至るまでにナターシャから聞いていて。
だからこその大金星に、福留達もアンディへの称賛を隠せない。
笠本が優しく抱きかかえ、平野の手で処置を施していく。
功労者に相応しく、丁寧に、丁重に。
なお笠本の胸に寄り掛かったアンディはと言えば、どこか幸せそうだ。
「ナターシャさんもここで休憩していてください。 ニャラさんもお疲れさまでした。 後は皆さんに任せましょう」
「はぁい、さすがにもう疲れたわぁ~」
「私はまだ戦える。 イシュライト殿、アンディ殿の治療をお願いしたい! 外は私が見張りますから」
「ならば俺は少し命力を蓄えさせてもらう」
兎にも角にも、これで状況は一旦落ち着いた。
ならばと、もしもの事に備えて各々が準備を整える。
ナターシャもニャラもほぼ戦闘不能状態、階段傍で落ち着いてすぐぐったりだ。
アンディもイシュライトが治療を始めたからもう大丈夫だろう。
マヴォは通路に腰を落とし、目を瞑って息を整え始める。
瞑想する事で効率的な命力回復が望めるからだ。
「しかし皆さん気だけは抜かないようお願いいたします。 皆で最後まで生き抜く為にも……!!」
後はこの戦いが無事に収束する事を祈るのみ。
誰一人欠ける事無く。
皆が再び笑顔で顔を合わせる為にも。
まだ、各所で戦いは続いている。
屋上でジョゾウ達とレヴィトーンが。
正面ゲートではアージとカノバトが。
グラウンドでもウィグルイとバノが未だ大暴れしているだろう。
でももう、終戦の光明は見え始めている。
だから後はただただ願うだけだ。
仲間達が勝利する事を。
そして、勇達が無事に帰ってくる事も。
彼等にはもう、そうする事しか出来ないのだから。
右手には大地を砕いた黄金大槌。
そして左手にはあの鈍銀色の金槌を携えての参上だ。
そう、ずっと前にカプロが土産として持ち帰ったあの大鉄槌である。
しかし只の鉄槌にも拘らず、魔剣の様な雰囲気さえ醸し出す。
それだけ所持者であるバノの存在感が圧倒的だったからこそ。
そんな超重量の金槌を片手でひょいっと振り上げ、遂には肩へと当て担ぐ。
「ドスン」と叩き乗ろうが、その剛肩は全くビクともしない。
「貴様、一体何者だ!!」
「あん? 知るかぁ!! ただのジジィじゃあ!!」
そのバノはと言えば、もう既に怒髪天状態だ。
全身の毛を逆立て、目の前の大集団に電撃の如き睨みを当てまくる。
それほど、今の状況に憤りまくっているのだろう。
それも当然か。
勇や魔特隊とは浅からぬ縁があり、恩義も感じていて。
何より、同胞であり弟子のカプロがここに居る。
「おめぇらぁ~覚悟せぇよなぁ!! 儂ぁよってたかって嬲る様なやり方はこれ以上に無く嫌いなんだよォ!!」
しかも大集団で奇襲するという卑怯っぷりを見せつけられたからこそ。
あのバノが怒らない訳も無かったのだ。
こうも同胞や友を脅かし、非道な真似をされたならば。
それが戦術だろうが戦略だろうがこの男には関係無い。
故にバノとてもはや問答無用。
たちまち両手の双金槌を水平に広げて構え、その腰、身体を思いっきり引き捻り絞る。
「メキメキ」と筋肉の軋む音が響き渡る程に強く強く。
周囲の魔者達が堪らず怯み、脅えて足を退かせる程に。
そして溜められた力が解放された時―――
「ぬぅあああーーーーーーッッッ!!!!!」
今ここに、殺戮の旋風魔人が誕生する事となる。
荒ぶるその姿、まるで大竜巻の如し。
その超速大回転はもはやバノ自身が見えなくなる程に豪快。
旋風が、閃光が、更には電光が。
幾重にも吹き荒れて、超ド級の大旋風を巻き起こす。
巻き込まれれば最後、魔者など瞬時にして肉塊と化し。
ただ近くに居ただけで引き込まれ、大渦へと飲み込まれる。
その嵐を前には、ただの魔剣などもはや棒切れ紙切れ程度にしかなりはしない。
しかもその大竜巻が凄まじい勢いで近づいて来るのだ。
もはや襲撃者達は逃げる事さえままならない。
砕く。
砕く。
ひたすら砕く。
何もかもをも巻き込んで。
悲鳴も上がらない。
上げる暇すら与えない。
吸い込んだら即座にあの世行きだ。
襲撃者達も大混乱である。
大集団が仇となり、仲間が壁となって逃げ道を奪うが故に。
そこに竜巻がやって来れば、一人残らずその吸引力の餌食となる。
圧倒無比。
怒りの双金槌大旋風を前に、誰一人として抵抗など叶いはしない。
そんなバノの圧倒的な戦闘力を前に、ナターシャはただただ唖然とするばかり。
その恐ろしい戦闘力もさることながら、見ず知らずの者に助けられた事もあって。
当然、ナターシャはバノの事を知らない。
話くらいは聞いていただろうが。
だから助けられた理由もわかりはしないだろう。
でもそんな事はどうでも良かったのだ。
それだけ、今のバノが頼もしく見えたから。
九死に一生を得て嬉しかったから。
故に、今はただ微笑まずにはいられない。
感涙を滲ませ、クシャクシャとなった頬を想いのままに惚けさせながら。
そんな訳で状況はあっという間にバノの手中に。
訓練施設前の魔者達が纏めて薙ぎ払われ、もはや反撃さえままならない。
それどころか、遂には逃げる者までが出る始末だ。
さすがに敵わないと理解したのだろう。
とはいえ、バノを前にしたから、という理由だけ逃げた訳ではなさそうだが。
襲撃者集団の動きに纏まりが無くなり、遂には散り散りとなっていく。
あれだけ多かった者達ももはや半数、彼方でも大量に吹き飛んだりと絶賛大減少中だ。
するとそんな時、その吹き飛んだ魔者達の中から華麗に飛び出した者が一人。
たちまち宙でクルリと一回転し、そのままバノの傍へと舞い降りる。
トトッ―――
「……ほぉ、これはこれは。 骨の有りそうな奴がおるではないかぁ!!」
静かな着地で現れたのは、なんとウィグルイ。
しかもバノに気付き、嬉しそうに喉を唸らせていて。
両手指をわきわきとさせて喜びを露わにする姿が。
強者故の嗅覚か、バノが相応の実力者である事を悟った様だ。
「おぉん? なんじゃあ、やるんかいのぉ!?」
対するバノも怒髪天を浮かばせたままで。
突如現れたウィグルイを前に怯む事も無く、双金槌を構えて威嚇する。
腰を深く落とし、長大な二槌を片手で軽々と構える姿は実に圧巻である。
旋風を留めたという事は、ウィグルイが強敵であると理解した様だ。
ただ暴れるだけでは通用しない相手なのだと。
そう、二人は互いを知らない。
話すらも聞いていないし、なんなら現在の状況さえも知らない。
だから実は味方同士であるなどとは当然わからない訳で。
なれば即座に一触即発だ。
互いに命力を打ち放ち、ぶつかるその瞬間に備えて高め合う。
周囲の魔者達さえ気が気でなくなる程に強大な命力を。
気迫に充てられて気絶する者達が出てしまうまでに昂らせて。
どちらが上か。
どちらが強者か。
今この時、戦いの火蓋が切っておとさ
「あっ、師匠なにしてんスか?」
―――れる前に、気の抜けた声が互いの耳に届く。
いつも通り空気の読めない毛玉の声が。
それも、ウィグルイの背後から首をピョコリと覗かせながら。
「うおっ!? カプロォ、おめぇドコから生えてきたんじゃあ!?」
「キノコみたいに言わないで欲しいッス。 このウィグルイさんに運んでもらったんスよ」
意外な伏兵、カプロの登場である。
それというのも―――
マヴォ達がいつまでもグラウンド中央に居ては戦いも捗らないという事で。
ウィグルイに頼み、一旦訓練場まで全員を移動させる事になったという。
そんな訳でカプロが一足先にウィグルイに運ばれたのだ。
「ウピョオオオオ!!」という叫び声と共に。
「で、何でここに居るんスか?」
「何ってェおめぇ……緊急事態じゃからって御味さんに連れてきてもらったんじゃあ」
「おっおう、御味さんナイスファインプレイッスね」
「んん……なにか、お前さん方知り合いなのか?」
「ボクの師匠ッス」
とはいえ、お陰で誤解も晴れた様だ。
戦場なのにも拘らず、気付けばほんわりとした雰囲気が場を包む。
カプロの空気の読めない性格がそうさせたのだろうか。
なお、ウィグルイとしてはどうにも理解出来なかったらしい。
このもやしチビッコが、目の前の真の強者の弟子であるなどとは。
二人の姿を交互に見比べ、腕を組んで不可解そうに首を傾げるばかりだ。
もっとも、誰が見てもそう思いそうなものだけれども。
「うぴっ!! ナッチーじゃねっすか!!」
「いまさら気付くとかおそすぎー」
そしてそのゆる~い空気は遂にナターシャにまで及ぶ。
ただ、今まで放置されていた彼女としては不愉快だった模様。
据わった目をカプロに向け、「ぷぅ」と頬を膨らませて憤る姿が。
そんな様子を悪い意味で見慣れているからだろうか。
カプロが何だかとても嫌そうに首を引かさせる。
「んで、アレは敵かいの?」
「敵ッス」
「ちがうよ!!」
その末にこの扱いである。
これにはナターシャも堪えられず、プンスコとご立腹だ。
たちまち二人の醜い争いが勃発する事に。
そんな子供達の喧嘩に巻き込まれれば、ウィグルイとしては堪ったものではないだろう。
遂には無表情のまま虚空を見上げ、大きな溜息まで漏らしていて。
イ・ドゥール最強の師父ウィグルイもどうやら子供だけは苦手らしい。
しかしいつまでもそんな緩い空気が続く訳も無い。
彼等の背後にはなお襲撃者達が目を光らせているのだから。
きっと仲違いでもしていると見えたのだろう。
我に返った者達が突如として再び牙を剥き―――
「とまぁ、んなこたぁどうでもええ。 さっさとコイツラぶちのめさんとなぁ……!!」
「そうさのぉ。 何、相手がわからねば……敵意向ける者全てを屠ればよい事よぉ!!」
―――そうだった者達もたちまち怯えてその身を引かせる事となる。
強者二人が殺意の光を放つ眼を「ギュィィィン」と向けて来たのだから。
しかも鬼気とした笑みを「ニタァ」と浮かばせながら。
その後は当然、鬼人と魔人による宴が開かれる事となる。
圧倒的だった。
何もかもが。
二人の強者が背を守るかの如く舞い飛び、その度に紅の花火が空を彩る。
初めて会ったのにも拘らず、怒涛の共闘劇を見せつけながら。
近くに居た者も、遠くで見ていた者も、誰も彼もが逃げ惑うその中で。
しかも二人は逃げる者達にも容赦しない。
軽快疾風の足捌きを見せるウィグルイが逃げ場に先回りし獲物を追い込んで。
豪快旋風の竜巻を起こすバノが固まった者達を片っ端から吹き飛ばす。
逃げられない、絶対に。
壁に囲まれたグラウンドは言うなれば襲撃者達にとっての檻の中。
ここはもはや暴れる猛獣二人の餌場の様な物なのだから。
「憐れだな。 まぁこんな事を仕掛けたんだ、『インガオウホー』ってやつだろうけども」
「ええ。 これだと私の出番も必要無さそうですね」
なお、マヴォ達も全員無事な様子。
イシュライトに守られつつ、猛獣二人が切り拓いた道をゆっくりと歩き行く。
もう焦る必要も無いくらいに二人が大暴れし過ぎなもので。
むしろグラウンド一面が血まみれで、足の踏み場に困るくらいだ。
「皆さん、まだ油断なさらないよう。 どの様な伏兵が待ち構えているかわかりませんから」
そんな中、福留が堂々と歩きながら仲間達に釘を刺す。
言った通り、まだ状況がどうなるかは不透明だからだ。
見上げれば屋上でも何かしら戦闘が繰り広げられていて。
アージも帰ってこない所を考えれば、まだ戦闘中なのかもしれない。
どこかに増援も居るかもしれないし、強者が再び襲ってくるかもしれない。
「福留のおっちゃん!! アニキが、アニキが……!!」
「ッ!? アンディ君がどうかしましたか!?」
それに、こうして現在進行形で起き続けている事態もありえるからこそ。
福留達が合流した途端、ナターシャが訴える様な声を上げ。
それに気付き、全員が揃って訓練施設へと駆けていく。
歩けないナターシャもマヴォが抱え上げて。
そのまま施設内、地下入り口へ向かうと、そこには寝かされたままのアンディが。
目は虚ろで息も荒く、今にも意識が飛びそうだ。
「ここの設備には確か救急医療キットがあるはずです!」
「既に持ってきています。 これを!」
ただ、そこはさすがの福留達か。
平野の機転で治療器具を得て、早速傷付いたアンディを囲む。
「おせぇよぉ……いてぇよぉ、お腹空いたよぉ」
「はは、憎まれ口を叩けるならきっと平気でしょう。 もう大丈夫ですから安心してください」
とはいえ見た目ほどには酷いという訳でもなさそう。
命力の自己治癒でしっかり生命維持は出来ているのだろう。
地下での事情はここに至るまでにナターシャから聞いていて。
だからこその大金星に、福留達もアンディへの称賛を隠せない。
笠本が優しく抱きかかえ、平野の手で処置を施していく。
功労者に相応しく、丁寧に、丁重に。
なお笠本の胸に寄り掛かったアンディはと言えば、どこか幸せそうだ。
「ナターシャさんもここで休憩していてください。 ニャラさんもお疲れさまでした。 後は皆さんに任せましょう」
「はぁい、さすがにもう疲れたわぁ~」
「私はまだ戦える。 イシュライト殿、アンディ殿の治療をお願いしたい! 外は私が見張りますから」
「ならば俺は少し命力を蓄えさせてもらう」
兎にも角にも、これで状況は一旦落ち着いた。
ならばと、もしもの事に備えて各々が準備を整える。
ナターシャもニャラもほぼ戦闘不能状態、階段傍で落ち着いてすぐぐったりだ。
アンディもイシュライトが治療を始めたからもう大丈夫だろう。
マヴォは通路に腰を落とし、目を瞑って息を整え始める。
瞑想する事で効率的な命力回復が望めるからだ。
「しかし皆さん気だけは抜かないようお願いいたします。 皆で最後まで生き抜く為にも……!!」
後はこの戦いが無事に収束する事を祈るのみ。
誰一人欠ける事無く。
皆が再び笑顔で顔を合わせる為にも。
まだ、各所で戦いは続いている。
屋上でジョゾウ達とレヴィトーンが。
正面ゲートではアージとカノバトが。
グラウンドでもウィグルイとバノが未だ大暴れしているだろう。
でももう、終戦の光明は見え始めている。
だから後はただただ願うだけだ。
仲間達が勝利する事を。
そして、勇達が無事に帰ってくる事も。
彼等にはもう、そうする事しか出来ないのだから。
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そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
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