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第二十五節「双塔堕つ 襲撃の猛威 世界が揺らいだ日」
~疚しき想いよりも純粋とあれ~
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イ・ドゥール族最強の拳士、師父ウィグルイ。
彼には一つの夢があった。
それは、己の身を用いての対集団戦闘。
古来より、イ・ドゥール族は故郷の地を他に移す事は無かった。
他種族や人間にも退けられる事無く、その場に在り続けたのだ。
その拳、その戦闘技術が彼等を守り続けたが故に。
しかしその結果、周囲からはありとあらゆる文明が消えた。
余りにもイ・ドゥール族が強過ぎた所為で滅び、あるいは怖れて逃げ去ったからである。
そしてその状況は長い年月に渡って続き。
ウィグルイの時代にはもう既に敵と呼べる相手は周囲に居なくなっていて。
相手にするのはせいぜい、流れて来る魔剣使いや流民程度だった。
加えて、掟が彼等の遠征さえも制限して。
結果、この夢を叶える事は半ば諦めかけていたのだという。
だがこの日、遂にその夢が叶った。
「ケェアァァーーーーーーッッ!!!」
ウィグルイが今、雄叫び咆える。
拳を、足を突き出し飛び跳ねながら。
無数の魔者達を片っ端から打ち砕いて。
敵の強さなどもはや関係は無い。
彼にとって敵などもはやただの的。
己の力を存分に奮うだけの標的に過ぎない。
一蹴りするたびに大地が揺れて。
拳一閃するたびに大気が震える。
その至大至剛の実力を前には、雑兵如き数にもならない。
それどころか実力者であろうとももはや関係無し。
今この場に居る敵全てが獲物だ。
敵意を向ける者全てが標的だ。
奮いし一撃に敵わぬ者は須らく夢の礎となろう。
惜しむらくは、その例外が居ないという事か。
マヴォやズーダーに討たれた者はまだ幸せだっただろう。
中には生きている者も居たからこそ。
ウィグルイに目を付けられたら最後、命はもう無いのだから。
「ふははーーーッ!! 活きや良し、活きや良しィーーーッ!!」
そして一度竜拳を巻けば、周囲の敵が纏めて打ち上がる。
それこそまさに竜巻の如く、血飛沫や肉片を纏い巻き上げながら。
鮮血を纏って飛ぶウィグルイの笑いはもはや鬼気にも近い。
これが戦神。
これが拳神。
その力、在り方に偽り無し。
「大丈夫ですか? 今は戦闘中ゆえ軽い処置しか出来ませんが」
一方のイシュライトはと言えば、マヴォ達の補助に。
ウィグルイと違い、それ程集団戦に対する魅力は感じていない様だ。
立つだけでやっとのズーダーを支え、そっと腰を落とさせていて。
弱った原因である傷口に手を触れ、光を灯す。
翡翠色の輝き―――イシュライトの命力だ。
「痛いのは最初だけです、我慢を」
「うぅ、わ、わかった……!!」
その光が遂にはズーダーを包み込み。
言われた通りの痛みと共に、傷口がゆっくりと塞がっていく。
そう、これは【連鎖命力陣】。
急速な治癒をもたらすイ・ドゥールの秘術だ。
瀬玲にも教えたその本家が来たのだ、ならば使うのは必然だろう。
たちまちズーダーの身体から痛みが引き、自力で立てる程に。
「これは凄い……」
「ですが失った血までは戻せません。 なので無理はせぬよう。 無理なく、戦うのです」
その中で見せたイシュライトの笑顔はとても自然で健やかで。
もし女性だったのであればズーダーが惚れてしまいそう。
それほど慈しみに溢れていただけに。
とはいえ、最後に添えられた一言だけはやはりイ・ドゥール族と言った所か。
「オオーーーッ!!」
するとそんな最中、隙を縫って迫る一人の魔者が。
敵意を向け、背中を見せるイシュライトへと一直線に飛び込んでいく。
―――ッパァンッッ!!!
しかしそれも、間も無く打ち返される事に。
イシュライトの瞬速拳がその魔者を容赦無く撃ち抜いたのである。
たった一発、しかも見る事すら無く。
打ち上げられた魔者は悲惨だ。
空に打ち上げられただけでは済まされず、フェンスすら突き抜けてその先へ。
コンクリートフェンスを撃ち抜いたのだ、肉体は反動で形も残っていない事だろう。
「す、すごい……」
そんな一撃もはたからみれば小突いた様にしか見えない。
その圧倒的な実力を前に、ズーダーもただただ目を丸くするばかりで。
「それに引き換え、力無き自分が情けない。 私にもこんな力が有れば……」
見せつけられた力の差に、悔しささえ滲む。
自分にもこれだけの力があったら、こんな窮地も容易に脱せただろうと。
力を見せつけられたなら、ボーデー達も裏切らなかったかもしれないと。
悔しさの余り、魔剣を掴む拳がググッと握られて。
ギリリと歯さえ食い縛る。
でも、その感情はどうやらイシュライトに筒抜けだった様だ。
その疚しい心さえも。
「力があれば良いという訳にはいきません。 命力は心、命の力です。 他に心を映す疚しき想いではすぐに頭打ちとなり、充分な力は発揮出来ないでしょう」
「あっ……」
「己を信じ貫く覚悟と信念、そしてそれを活かす鋼の意思こそが必要なのです。 そして貴方にはそれがあります。 ならば―――これから強くなればよいのですよ」
傷口から、ズーダーがどうやって受けたのかも読み取ったのだろう。
だからこうやって自信満々に答えられる。
ズーダーもまた鋼の如く強い意思を持っているのだと。
途端、イシュライトの顔に微笑みが浮かぶ。
もしかしたら、この時ズーダーが何を思ったのかも読み取ったのかもしれない。
いや、こればかりは読み取る必要など無いか。
その時、視界には涙を零すズーダーの姿が映っていたのだから。
「……ありがとうイシュライト殿。 俺の心はまだ戦う事を望んでいる。 まだ戦えるんだ!!」
「えぇ、その意気です。 では行きましょうか―――強くなる為に」
感銘は人の心を動かす。
そこに力など必要は無い。
ズーダーにはきっとそういったひたむきさが足りなかったのだろう。
でも、それが今やっと理解ったから。
だから今は黙って戦うのみ。
己の覚悟と信念に準じ、仲間を守りたいという意思を貫くだけだ。
そうすればいずれ、言葉に重みが纏う様になるはずだから。
ズーダーが再び魔剣を構え、イシュライトが拳を突き出す。
今なお戦い続けるマヴォとウィグルイに続いて。
今なお襲撃者達はグラウンドにひしめいている。
しかしその勢力バランスは大きく崩れる事となるだろう。
新たな仲間を得て、力も取り戻した今、魔特隊の反撃はこれからだ。
彼には一つの夢があった。
それは、己の身を用いての対集団戦闘。
古来より、イ・ドゥール族は故郷の地を他に移す事は無かった。
他種族や人間にも退けられる事無く、その場に在り続けたのだ。
その拳、その戦闘技術が彼等を守り続けたが故に。
しかしその結果、周囲からはありとあらゆる文明が消えた。
余りにもイ・ドゥール族が強過ぎた所為で滅び、あるいは怖れて逃げ去ったからである。
そしてその状況は長い年月に渡って続き。
ウィグルイの時代にはもう既に敵と呼べる相手は周囲に居なくなっていて。
相手にするのはせいぜい、流れて来る魔剣使いや流民程度だった。
加えて、掟が彼等の遠征さえも制限して。
結果、この夢を叶える事は半ば諦めかけていたのだという。
だがこの日、遂にその夢が叶った。
「ケェアァァーーーーーーッッ!!!」
ウィグルイが今、雄叫び咆える。
拳を、足を突き出し飛び跳ねながら。
無数の魔者達を片っ端から打ち砕いて。
敵の強さなどもはや関係は無い。
彼にとって敵などもはやただの的。
己の力を存分に奮うだけの標的に過ぎない。
一蹴りするたびに大地が揺れて。
拳一閃するたびに大気が震える。
その至大至剛の実力を前には、雑兵如き数にもならない。
それどころか実力者であろうとももはや関係無し。
今この場に居る敵全てが獲物だ。
敵意を向ける者全てが標的だ。
奮いし一撃に敵わぬ者は須らく夢の礎となろう。
惜しむらくは、その例外が居ないという事か。
マヴォやズーダーに討たれた者はまだ幸せだっただろう。
中には生きている者も居たからこそ。
ウィグルイに目を付けられたら最後、命はもう無いのだから。
「ふははーーーッ!! 活きや良し、活きや良しィーーーッ!!」
そして一度竜拳を巻けば、周囲の敵が纏めて打ち上がる。
それこそまさに竜巻の如く、血飛沫や肉片を纏い巻き上げながら。
鮮血を纏って飛ぶウィグルイの笑いはもはや鬼気にも近い。
これが戦神。
これが拳神。
その力、在り方に偽り無し。
「大丈夫ですか? 今は戦闘中ゆえ軽い処置しか出来ませんが」
一方のイシュライトはと言えば、マヴォ達の補助に。
ウィグルイと違い、それ程集団戦に対する魅力は感じていない様だ。
立つだけでやっとのズーダーを支え、そっと腰を落とさせていて。
弱った原因である傷口に手を触れ、光を灯す。
翡翠色の輝き―――イシュライトの命力だ。
「痛いのは最初だけです、我慢を」
「うぅ、わ、わかった……!!」
その光が遂にはズーダーを包み込み。
言われた通りの痛みと共に、傷口がゆっくりと塞がっていく。
そう、これは【連鎖命力陣】。
急速な治癒をもたらすイ・ドゥールの秘術だ。
瀬玲にも教えたその本家が来たのだ、ならば使うのは必然だろう。
たちまちズーダーの身体から痛みが引き、自力で立てる程に。
「これは凄い……」
「ですが失った血までは戻せません。 なので無理はせぬよう。 無理なく、戦うのです」
その中で見せたイシュライトの笑顔はとても自然で健やかで。
もし女性だったのであればズーダーが惚れてしまいそう。
それほど慈しみに溢れていただけに。
とはいえ、最後に添えられた一言だけはやはりイ・ドゥール族と言った所か。
「オオーーーッ!!」
するとそんな最中、隙を縫って迫る一人の魔者が。
敵意を向け、背中を見せるイシュライトへと一直線に飛び込んでいく。
―――ッパァンッッ!!!
しかしそれも、間も無く打ち返される事に。
イシュライトの瞬速拳がその魔者を容赦無く撃ち抜いたのである。
たった一発、しかも見る事すら無く。
打ち上げられた魔者は悲惨だ。
空に打ち上げられただけでは済まされず、フェンスすら突き抜けてその先へ。
コンクリートフェンスを撃ち抜いたのだ、肉体は反動で形も残っていない事だろう。
「す、すごい……」
そんな一撃もはたからみれば小突いた様にしか見えない。
その圧倒的な実力を前に、ズーダーもただただ目を丸くするばかりで。
「それに引き換え、力無き自分が情けない。 私にもこんな力が有れば……」
見せつけられた力の差に、悔しささえ滲む。
自分にもこれだけの力があったら、こんな窮地も容易に脱せただろうと。
力を見せつけられたなら、ボーデー達も裏切らなかったかもしれないと。
悔しさの余り、魔剣を掴む拳がググッと握られて。
ギリリと歯さえ食い縛る。
でも、その感情はどうやらイシュライトに筒抜けだった様だ。
その疚しい心さえも。
「力があれば良いという訳にはいきません。 命力は心、命の力です。 他に心を映す疚しき想いではすぐに頭打ちとなり、充分な力は発揮出来ないでしょう」
「あっ……」
「己を信じ貫く覚悟と信念、そしてそれを活かす鋼の意思こそが必要なのです。 そして貴方にはそれがあります。 ならば―――これから強くなればよいのですよ」
傷口から、ズーダーがどうやって受けたのかも読み取ったのだろう。
だからこうやって自信満々に答えられる。
ズーダーもまた鋼の如く強い意思を持っているのだと。
途端、イシュライトの顔に微笑みが浮かぶ。
もしかしたら、この時ズーダーが何を思ったのかも読み取ったのかもしれない。
いや、こればかりは読み取る必要など無いか。
その時、視界には涙を零すズーダーの姿が映っていたのだから。
「……ありがとうイシュライト殿。 俺の心はまだ戦う事を望んでいる。 まだ戦えるんだ!!」
「えぇ、その意気です。 では行きましょうか―――強くなる為に」
感銘は人の心を動かす。
そこに力など必要は無い。
ズーダーにはきっとそういったひたむきさが足りなかったのだろう。
でも、それが今やっと理解ったから。
だから今は黙って戦うのみ。
己の覚悟と信念に準じ、仲間を守りたいという意思を貫くだけだ。
そうすればいずれ、言葉に重みが纏う様になるはずだから。
ズーダーが再び魔剣を構え、イシュライトが拳を突き出す。
今なお戦い続けるマヴォとウィグルイに続いて。
今なお襲撃者達はグラウンドにひしめいている。
しかしその勢力バランスは大きく崩れる事となるだろう。
新たな仲間を得て、力も取り戻した今、魔特隊の反撃はこれからだ。
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