時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十八節「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」

~魂の牢獄 剣聖達 対 憤常④~

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 ラクアンツェの敗北。
 ゴルペオという不滅の強者を前にすれば、この結果は必然だったのかもしれない。

 瞬間的に粉砕しようと、敵は一瞬にして復活を遂げてしまう。
 それを証明した今、人類側の不利は否めないだろう。
 ゴルペオが世界を滅ぼすまで存在し続ければ、勇達は永久にアルトラン・ネメシスの下へと辿り着けないのだから。

 砕けるのに砕けない。
 まるで幽霊の様な掴み所の無い相手を、剣聖は果たして―――



「おう、じゃあ今度は俺の番だな」
 


 それは、ラクアンツェが砕かれた直後の事だった。
 この時ゴルペオの目下では、太陽の如き輝きが既に唸りを上げていて。

 剣聖が間髪入れず、懐に潜り込んでいたのだ。

 ゴルペオは愉悦のままに拳を振り上げたままで、気付く事さえままならない。
 それだけの速度、隙無し気配無しで到達していたからこそ。

「ッ!?」

 そして気付いた時には、その両腕が刎ね飛んでいた。
 刃物の如き両手刀による斬り込みによって。
 しかもその手は留まらず、更には円を描く様にして胴体をも切り出していて。
 その滑らかな刻み具合はまるで、ホールケーキのスポンジを切り取るかのよう。

 遂には魔剣の破片が散る間も無く、その胴体を引き抜いては自身をも下がらせる姿が。

「怒怒怒、無駄だと言って―――」
「んな事わかってらぁ。 ちょいと試したい事があっただけだ」

 しかしそんな胴体も間も無く、何故か元あった場所へと放り投げていて。
 間も無く再生を果たすゴルペオにあろう事か笑みを見せつける。

 何もかもをも悟ったという、あの剣聖らしい不敵なニヤけ面を。



「だがまぁ、大体わかった。 何てこたぁねぇなぁ、ラクの残した結果で充分だった」



 その顔を見せつけた時にはもう既に、剣聖はその体を膨れ上がらせていた。
 そう、全てを解放した姿へと変化させていたのだ。

 天士をも凌駕する究極の人間、【極人】へと進化した姿に。

「時間がねぇ。 とっとと終わらせようや」
「―――ッ!?」

 ならば、ゴルペオにとってのデジャヴとなるこの一言が全ての始まりとなるだろう。
 思いもしなかった現実を見せつけられる事の始まりに。





 剣聖がそう語った時には既に、何故かゴルペオの意識は肉体から離れていた。
 でもふと見下ろせば、自身の体に何が起きていたのかがハッキリと見えたものだ。

 そうして見えた身体はまるで、幾百億の糸に突き刺されたかの様だった。
 それだけの鋭い光針が、全身を一律真っ直ぐと貫いていたのである。
 どれ一つとっても狂い無く同じ方角を向いて。

『な、に……ィッ!?』

 何もわからなかったから、こうして飛び出てしまって。
 それも天力体の様な体に成ったお陰で、今ならその原因が何なのかがやっととわかる。
 時間という概念から解き放たれた事によって。

 更にその身体へと光針を打ち付けられていく、その惨状を。





 0.001秒~0.003秒
 両手の指が全て余す事無く貫かれる。

 0.004秒~0.006秒
 手甲全てが肌色見えぬ程までに貫かれる。

 0.007秒~0.011秒
 足甲から足首までが隙間無く貫かれる。

 0.012秒~0.016秒
 肘下が光の束に埋め尽くされる。

 0.017秒~0.021秒
 膝下が可視不可な程の光に包まれる。

 0.022秒~0.027秒
 両肩を貫ききった針は他より僅かに太い。

 0.028秒~0.036秒
 ふくらはぎも太ももも時変わらず光針の餌食に。

 0.037~0.041秒
 腰部が筋肉に沿って波を描く様にして埋め尽くされる。

 0.042秒~0.050秒
 内臓を象った形に針が刻まれ、今にも動き出しそうだ。

 0.051秒~0.058秒
 心臓、鎖骨も肋骨も大胸筋までもが緻密と貫かれる。 

 0.059秒~0.063秒
 首筋が脈さえ浮彫とする程に貫かれ、それさえ潰される。

 0.064秒~0.065秒
 頭に到達した途端に何故か目が最初に潰される。

 0.066秒~0.070秒
 耳が光だけになる。 

 0.071秒~0.079秒
 髪の一本一本までもが宙に磔だ。

 0.080秒~0.083秒
 輪郭に沿って光の束が無数に立つ。

 0.084秒~0.086秒
 口が閉められない程に光針で埋め尽くされる。

 0.087秒~0.090秒
 顔筋が針によって埋め尽くされ、動かす隙間すら無い。

 0.091秒~0.094秒
 鼻が低くなったかと思える程に深々と無数の針が突き刺さる。

 0.095秒~0.099秒
 自慢の角も棘も余す事無く貫かれて形が見えなくなる。

 0.1秒
 同 じ 事 が も う 一 度 繰 り 返 さ れ る。

 0.2秒
 同じ事がもう一度。
 同じ事がまた。
 同じ事が。

 0.3秒
 何度目かもう数えられない。
 何故か耐えきれない程の激痛が襲ってきた。

 0.4秒
 痛い。
 辛い。
 何故。

 0.5秒
 どれだけたった?
 まだこれだけか。
 もう やめてくれ。
 でもこえはとどかない。

 0.6秒
 なぜまだいきている?
 そうだ
 ふめつだからだ
 ふめつ、ふめつ……とは?

 0.7秒
 にくい
 にくい
 あるじさまがにくい
 なんでふめつにした

 0.8秒
 にくい
 にく
 くいに
 どどど

 0.9秒
 ど
 どど
 どどど



 1秒―――

 し
 に
 た
 い





 ゴルペオが天力子の様な存在となれるならば、体感時間は常人の一万分の一以下となる。
 つまり彼はこのたった一秒の間に、数時間~数十時間にも及ぶ時間を過ごしたという事だ。
 しかも度し難い激痛を伴いながら。

 並の生物ではないから耐えられるかと思えば、そういう訳でも無い。
 苦痛とは、その心が辛いから苦痛なのだ。
 すなわち、この痛みはゴルペオにとっての苦痛。
 ゴルペオが耐えきれない程に辛く激しい痛みが走り続けていたのである。

 故に、その心が憔悴しきるのは必然だった。

 そもそも、こうして心が解き放たれた事も不可解で。
 肉体がなお残っている事も、激痛が走る事も意味がわからない。
 何もかもがわからないから、心が耐えきれない。

 〝何故〟と思う度に、心が別の痛みを伴うからこそ。

 これを名付けるならば、【魂の牢獄】。
 なまじ魂の様な存在に成れてしまうからこそ解き放たれない。
 こうなってしまえばもはや不滅の肉体など何の意味も成さないだろう。

 心だけが磔となっているのだから。

 これは肉体が残るからこそ自由にもなれない、絶対不可避の苦痛地獄だ。
 まるで、世界が滅んだ時に人々が感じるであろうそれと全く同じの。
 違う部分があると言えば、事象の動静を剣聖が握っているという所か。

「勇やデュランみてーなのが居てくれたからよ、なんとなく概念がわかった。 ちょいと命脈らしいモンを突きゃ、魂なんてなぁ簡単に飛び出しちまうってなぁ。 これが茶奈みてーな事になったらどうなるかわからねーが……おめぇみたいな半端モンにゃ充分だろーよ」

 もちろん、剣聖にその魂などが見えている訳ではない。
 天力に目覚めている訳でも無ければ、敵の正体がわかっている訳でもない。

 でも、その仕組みが同一性である事は理解出来た。

 なら後は知るがままにこなせばいい。
 例え見えずとも、知り尽くしているならば答えも手に取る様にわかる。
 目隠しをしても使い慣れた箸を正しく掴めるのと同じ事だ。
 後はそのを使い、ゴルペオの魂を引き摺り出して。
 帰るべき身体から隙間を失くしただけで全ての準備は整う。

『おう、見てんだろうが【ふんじょー】とかいう奴。 これが俺の一〇%だ。 つまり、後残り九〇%分の余力で、これからもおめぇを打ち抜き続ける。 更に加速してな。 望み通り最後まで待つってぇなら、残り時間をしっかり楽しめや』

 一秒後、針を打ち付けた拳にこの言葉を乗せた事によって。

 これもまた命力の言葉だからこそ、声にしなくとも瞬時に伝わるもので。
 【魂の牢獄】に囚われたゴルペオへと時間差無く聴こえた事だろう。

 ならばゴルペオはどう思っただろうか。
 今の出来事の更に十倍以上となる苦痛が待っているとなれば。
 じっと堪える事を選ぶだろうか。
 心を殺して待つ事を選ぶだろうか。



 否。
 ゴルペオはもう、心が折れていた。



『いまのが、もっと……むりだ、もうしにたい……そうだ、しのう』

 不滅の肉体など、所詮はただの入れ物に過ぎない
 弱い心をただ隠すだけの、かりそめの器でしか。

 故に憐れはゴルペオ。
 その器さえ無ければ、彼はただの―――普通の人間でしかなかったのだ。
 敬愛する邪神に〝玩具〟を与えられただけの。
 自らを罪と豪語したままの。

 そんな弱き心の示した結論が導く先は当然、滅びのみ。
 たちまち、不滅だったはずの肉体が自ら灰の様になって崩れていく。
 自ら死を望み、内に滾っていた怒りが跡形も無く消し飛んだ事によって。



 これこそが剣聖の導き出した、不滅の滅し方。
 究極にまで至った者だからこそ成し得た、心だけを破壊する手段なのである。



「さぁて、時間がねぇ!」

 しかしそんな敗者に跡目も引かず、剣聖が力の限りに宙を舞う。
 時間が無いからと、目的のまま一心に。

 そうして間も無く見えたのは、なんとラクアンツェ。

 首上だけとなった彼女は未だ宙を舞ったままで。
 そんな小さい頭部を優しく抱え込み、そのまま大地へ向けて降りていく。
 まるで慈しむ様に、優しく柔らかに。

「おうラク、まだ生きてっかぁ?」

「……全く、素直に死なせてくれないのね」

 それというのも、まだラクアンツェが生きているという事を知っていたから。

 だから急いだのだ。
 時間が無いのだと。
 さすがの彼女でも、この勢いのままに地上に激突すれば死は免れない。

 でもこうして間に合ってしまえばもう大丈夫。
 予想よりもずっと早く倒せたから、なんて事無く助ける事が出来た。
 剣聖としてはそれだけでもう、満足だ。

「それで、アイツは倒せたのかしら?」

「おう。 てんで弱っちかったぜ。 どうやら俺が引いたのはハズレだったらしい。 奴を引くたぁツイてねぇなぁ」
 
「あらそれ、私に対する皮肉なのかしらー」

 存外、ラクアンツェもまだまだ元気そう。
 恐らく魔剣の主核が幸いにも無事だからだろう。
 そうとわかれば、剣聖も相変わらずの笑顔を見せずには居られない。

 ラクアンツェが据わった目を向けてしまう程の、「ニシシ」とした大きな笑顔を。

「んじゃま、後は他の奴等に任せるかぁ」

「そうね。 皆、きっと上手くやるもの」

 そんな笑顔も、着地を果たした時には空の彼方へ向けられていて。
 二人揃って視線を向ける様子がそこに。

 空では仲間達の戦っている姿がまだ映っている。
 ただ剣聖達が早く終わっただけで、戦いはまだまだ続いているから。
 だからこそ、今はただ静かに眺めるのみ。
 来たるべき仲間達の勝利姿をその目へ焼き付ける為に。
 もう心配するつもりなど欠片も無いのだから。
 今更その理由を説明する必要も無いだろう。



 故に今はゆっくりと勝利の余韻に浸ろう。
 大業を成したからこそ、救世を願う強者達にも―――それが許されて、いい。


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