時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第三十八節「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」

~心に潜む闇の根源とは ナターシャ達 対 劣妬③~

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 ナターシャ・アンディと相対したのは、ふわふわもこもこの幼女ペルペイン。
 だが大地を陥没させる程の超重量と、斬撃を通さない堅牢さを誇るという。
 しかもその内に潜む殺意は誰よりも純粋で、鬼気に溢れている。

 故にその姿、もはや異様以外の何物でもない。

 その殺意をひけらかす様に、今も無差別の破壊行動が繰り広げられている。
 断ち斬られたはずの角が、また伸びては鋭く二人を追いかけ。
 背中からは八束もの収束光線が放たれ、周囲の瓦礫を見境無く焼き切っていて。
 鬼気溢れる笑みを浮かべ、破れた眼をも輝かせ、本能に従い破壊の限りを尽くす。

 もはや悪魔だ。
 比喩でも何でも無く。
 暗闇に映る影が容姿の印象を殺し、紛れも無い悪魔を演じている。

「ペルはねぇ!! ペルはねえええ!!!」

 そんな悪魔が目の前に飛び交う邪魔者を討たんと、身体を震わせ力を行使する。
 超自我的とも言える叫びを咆え上げながら。

 しかしその猛威の中であろうと、ナターシャとアンディはとても冷静だ。

 迫る光角を避けつつも、走り回って少しづつペルペインとの距離を詰めていき。
 縦横無尽に跳んでは、無差別光線の包囲網を紙一重で避けて見せる。
 それも、恐れ一つ見せる事無く。

 ただ、戦いに向けるその姿勢こそ以前の様だが、動きはまるで違う。
 以前は対照的に動く事が殆どだった。
 でも今はもう自由自在だ。

 片方が高く縦に跳ねては、もう片方が横に跳び。
 時には片方に迫る角を、もう片方が断ち切り活路を拓く。
 どちらも競う様にペルペインの死角を突き、徐々に徐々に間合いを詰めていくという。

 それはやはり、今のナターシャが強い自我を持っているからなのだろう。
 以前とはそこだけが決定的に違うから。

 二年半前は、アンディに付き従うだけのおまけの様な存在で。
 声に、心に合わせて支える事ばかり、自分を考えた事など殆ど無かった。
 けれど、今日までの時間で多くを学んだ。
 己である事の大事さと、一人で考える事の難しさと。

 そして二人で戦う事の楽しさと歓びを。

 それらを知り、理解し、通じ合った今。
 二人の戦いにおける意思は遥かなる高みへ。
 全てが見えて、全てが理解わかる。
 自分達の力と【共感覚】で紡いだ意思が、何もかもを見通した事で。

 例え力強くなくとも、速くなくとも、小賢しくなくとも。
 全てを見通す眼と、その感覚を活かす俊敏性なら誰にも負けはしない。
 ペルペインどころか、勇達にさえも誇れる自慢の技術だ。

 故に、包囲網を張っていたのはペルペインではない。
 二人の刻む軌跡こそが、準神を包む網をっていたのである。

「ペルはッ! ペルはおまえたちのことがだいッきらいだーっ!!」

「ボク達だってぇーーーッ!!」

 その中で、ナターシャが遂に攻勢を掛ける。
 【レイデッター】と【アーデヴェッタ】の柄を突き合わせ、小さな疑似両剣を造ったのだ。
 それも、まるで風車の如く掌で高速回転させ。
 回り込んで突っ込んできた光角を、あたかもミキサーの様に粉砕して。

 光片が、飛び散る。
 螺旋の残光から弾ける様にして。
 そうして両剣が再び分かたれた時、隙間からはペルペインの顔がすぐ目の前に。

ズズンッッ!!!

 ならば剣で斬り込むだけだ。
 今のナターシャに容赦の二文字は存在しないのだから。

 しかもそれはどうやらアンディも同じだったらしい。
 その時には既に、アンディまでもがペルペインの背中を斬っていた。
 なんと八束光線の包囲網すら突破して。

 空かさず、二つの閃光が再び鋭角軌道を刻んで離れていく。
 決定的な一撃を食らわせて見せたからこそ。

 先程のすれ違いざまの連撃とは違う。
 腰を入れて放った両手二剣は、紛れも無くペルペインの肉をも切り裂いたはずだ。
 顔に、胸に。
 肩に、背中に。
 遠くから見ても傷口がわかる程に深々と。



 だがその時、二人はまたしても驚愕する事となる。



 抉る程に深く斬り込んだはずだった。
 今度こそ断裂するつもりだった。

 なのにペルペインの勢いが止まらない。
 それどころか血すら流れていない。
 殺意の眼光をなお輝かせていたのだ。

「やったな!! なおすのたいへんなの!! だからペルのこときずつけるやつはぜったいにころしてやるッ!! おまえたちのかわでペルをなおすんだからーーーっ!!」

 しかも猛攻が更に激しくなる一方。
 光線はまるで砲撃の様に、断続的になって撃ち放たれて。
 たちまち周囲が溶解・爆散し始め、二人どころか自身をも巻き込み大地を揺らす。

 光角も表皮にギザギザとした連棘を生み、更なる害意を形としよう。
 その様相はもはや角と言うよりも、虫の触覚に近い。

「なんなんだコイツーッ!? うああーーーッ!?」

「今のが効いてないのッ!? 手応えは有ったのにッ!!」

 その激しい猛攻を前に、遂に二人にも動揺の顔が。
 とはいえ、その要因は猛攻そのものにある訳ではないが。

 今の一撃が通用していない事に疑問しかなかったのだ。

 刃はそれだけ深く突き刺さっていたのだ。
 それだけ突き刺し抉られれば、まず身体組織が断裂するはずだろう。
 そうすれば痛みはともかく、体の動きさえままならなくなる。
 超重量の身体ならなおさらだ。

 なのに動けている。
 怒りの余りに四つん這いとなり、凶気を殺意を周囲に撒き散らしている。
 これに疑問を抱かない訳が無い。

 しかしその疑いの目が、ナターシャに僅かな真実を伝える事となる。

「あッ!? アニキッ!! あの顔を見てえッ!!」

「なッ!? あれはーーーッ!?」

 いや、それだけで充分だったのかもしれない。
 事実を理解するには、その僅かだけで。

 二人が刮目したのはペルペインの顔。
 ナターシャが深々と刻み込んだ傷だ。

 今、その傷がめくれていた。
 べろりと生々しく、しかして血糊一滴滴らせる事無く。

 そして覗いていたのだ。



 深緑に煌めく艶やかな何かが。



 それはまるで、甲虫の甲殻。
 カブトムシとかクワガタといった硬い殻を持つ昆虫の外殻である。
 それでいて鍍金メッキ肌の様に輝き、独特の縦筋紋様まで浮かんでいて。
 そんな物が何故か、幼女の顔の中に深々と埋まっている。

 不気味だ。
 その殺意に相まってなお。

 遂には剥がれた肌皮がべちゃりと大地に落ちて。
 たちまち地面一面、肌色に染め上げるという。
 それも小さな欠片だったとは思えない程に広く広く。

 今落ちたのは明らかに皮では無い。
 皮の様な、何かだ。
 それがあの緑の甲殻を覆っていたのだ。

 そう、明らかにペルペインは人ではない。
 そう繕って見せている、全く違う何かだ。

 だから斬撃が効かない。
 深々と差し込んでも通らない。
 何故なら、あの幼女の容姿は―――ただの着ぐるみの様な物なのだから。

 その内に潜む本体に届かなければ、無意味なのである。



 この時ようやく、ナターシャとアンディはその事実に気付く。
 己の戦っている者が、見える姿形とは全く異なる異形の存在なのだと。
 それこそが邪神の眷属であり、殺意の根源なのだと。

 なお激しさを増すペルペインの猛攻。
 果たして、その心に潜む闇の根源とは一体―――


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