1,143 / 1,197
第三十八節「反旗に誓いと祈りを 六崩恐襲 救世主達は今を願いて」
~魂の牢獄 剣聖達 対 憤常④~
しおりを挟む
ラクアンツェの敗北。
ゴルペオという不滅の強者を前にすれば、この結果は必然だったのかもしれない。
瞬間的に粉砕しようと、敵は一瞬にして復活を遂げてしまう。
それを証明した今、人類側の不利は否めないだろう。
ゴルペオが世界を滅ぼすまで存在し続ければ、勇達は永久にアルトラン・ネメシスの下へと辿り着けないのだから。
砕けるのに砕けない。
まるで幽霊の様な掴み所の無い相手を、剣聖は果たして―――
「おう、じゃあ今度は俺の番だな」
それは、ラクアンツェが砕かれた直後の事だった。
この時ゴルペオの目下では、太陽の如き輝きが既に唸りを上げていて。
剣聖が間髪入れず、懐に潜り込んでいたのだ。
ゴルペオは愉悦のままに拳を振り上げたままで、気付く事さえままならない。
それだけの速度、隙無し気配無しで到達していたからこそ。
「ッ!?」
そして気付いた時には、その両腕が刎ね飛んでいた。
刃物の如き両手刀による斬り込みによって。
しかもその手は留まらず、更には円を描く様にして胴体をも切り出していて。
その滑らかな刻み具合はまるで、ホールケーキのスポンジを切り取るかのよう。
遂には魔剣の破片が散る間も無く、その胴体を引き抜いては自身をも下がらせる姿が。
「怒怒怒、無駄だと言って―――」
「んな事わかってらぁ。 ちょいと試したい事があっただけだ」
しかしそんな胴体も間も無く、何故か元あった場所へと放り投げていて。
間も無く再生を果たすゴルペオにあろう事か笑みを見せつける。
何もかもをも悟ったという、あの剣聖らしい不敵なニヤけ面を。
「だがまぁ、大体わかった。 何てこたぁねぇなぁ、ラクの残した結果で充分だった」
その顔を見せつけた時にはもう既に、剣聖はその体を膨れ上がらせていた。
そう、全てを解放した姿へと変化させていたのだ。
天士をも凌駕する究極の人間、【極人】へと進化した姿に。
「時間がねぇ。 とっとと終わらせようや」
「―――ッ!?」
ならば、ゴルペオにとってのデジャヴとなるこの一言が全ての始まりとなるだろう。
思いもしなかった現実を見せつけられる事の始まりに。
剣聖がそう語った時には既に、何故かゴルペオの意識は肉体から離れていた。
でもふと見下ろせば、自身の体に何が起きていたのかがハッキリと見えたものだ。
そうして見えた身体はまるで、幾百億の糸に突き刺されたかの様だった。
それだけの鋭い光針が、全身を一律真っ直ぐと貫いていたのである。
どれ一つとっても狂い無く同じ方角を向いて。
『な、に……ィッ!?』
何もわからなかったから、こうして飛び出てしまって。
それも天力体の様な体に成ったお陰で、今ならその原因が何なのかがやっととわかる。
時間という概念から解き放たれた事によって。
更にその身体へと光針を打ち付けられていく、その惨状を。
0.001秒~0.003秒
両手の指が全て余す事無く貫かれる。
0.004秒~0.006秒
手甲全てが肌色見えぬ程までに貫かれる。
0.007秒~0.011秒
足甲から足首までが隙間無く貫かれる。
0.012秒~0.016秒
肘下が光の束に埋め尽くされる。
0.017秒~0.021秒
膝下が可視不可な程の光に包まれる。
0.022秒~0.027秒
両肩を貫ききった針は他より僅かに太い。
0.028秒~0.036秒
ふくらはぎも太ももも時変わらず光針の餌食に。
0.037~0.041秒
腰部が筋肉に沿って波を描く様にして埋め尽くされる。
0.042秒~0.050秒
内臓を象った形に針が刻まれ、今にも動き出しそうだ。
0.051秒~0.058秒
心臓、鎖骨も肋骨も大胸筋までもが緻密と貫かれる。
0.059秒~0.063秒
首筋が脈さえ浮彫とする程に貫かれ、それさえ潰される。
0.064秒~0.065秒
頭に到達した途端に何故か目が最初に潰される。
0.066秒~0.070秒
耳が光だけになる。
0.071秒~0.079秒
髪の一本一本までもが宙に磔だ。
0.080秒~0.083秒
輪郭に沿って光の束が無数に立つ。
0.084秒~0.086秒
口が閉められない程に光針で埋め尽くされる。
0.087秒~0.090秒
顔筋が針によって埋め尽くされ、動かす隙間すら無い。
0.091秒~0.094秒
鼻が低くなったかと思える程に深々と無数の針が突き刺さる。
0.095秒~0.099秒
自慢の角も棘も余す事無く貫かれて形が見えなくなる。
0.1秒
同 じ 事 が も う 一 度 繰 り 返 さ れ る。
0.2秒
同じ事がもう一度。
同じ事がまた。
同じ事が。
0.3秒
何度目かもう数えられない。
何故か耐えきれない程の激痛が襲ってきた。
0.4秒
痛い。
辛い。
何故。
0.5秒
どれだけたった?
まだこれだけか。
もう やめてくれ。
でもこえはとどかない。
0.6秒
なぜまだいきている?
そうだ
ふめつだからだ
ふめつ、ふめつ……とは?
0.7秒
にくい
にくい
あるじさまがにくい
なんでふめつにした
0.8秒
にくい
にく
くいに
どどど
0.9秒
ど
どど
どどど
1秒―――
し
に
た
い
ゴルペオが天力子の様な存在となれるならば、体感時間は常人の一万分の一以下となる。
つまり彼はこのたった一秒の間に、数時間~数十時間にも及ぶ時間を過ごしたという事だ。
しかも度し難い激痛を伴いながら。
並の生物ではないから耐えられるかと思えば、そういう訳でも無い。
苦痛とは、その心が辛いから苦痛なのだ。
すなわち、この痛みはゴルペオにとっての苦痛。
ゴルペオが耐えきれない程に辛く激しい痛みが走り続けていたのである。
故に、その心が憔悴しきるのは必然だった。
そもそも、こうして心が解き放たれた事も不可解で。
肉体がなお残っている事も、激痛が走る事も意味がわからない。
何もかもがわからないから、心が耐えきれない。
〝何故〟と思う度に、心が別の痛みを伴うからこそ。
これを名付けるならば、【魂の牢獄】。
なまじ魂の様な存在に成れてしまうからこそ解き放たれない。
こうなってしまえばもはや不滅の肉体など何の意味も成さないだろう。
心だけが磔となっているのだから。
これは肉体が残るからこそ自由にもなれない、絶対不可避の苦痛地獄だ。
まるで、世界が滅んだ時に人々が感じるであろうそれと全く同じの。
違う部分があると言えば、事象の動静を剣聖が握っているという所か。
「勇やデュランみてーなのが居てくれたからよ、なんとなく概念がわかった。 ちょいと命脈らしいモンを突きゃ、魂なんてなぁ簡単に飛び出しちまうってなぁ。 これが茶奈みてーな事になったらどうなるかわからねーが……おめぇみたいな半端モンにゃ充分だろーよ」
もちろん、剣聖にその魂などが見えている訳ではない。
天力に目覚めている訳でも無ければ、敵の正体がわかっている訳でもない。
でも、その仕組みが同一性である事は理解出来た。
なら後は知るがままにこなせばいい。
例え見えずとも、知り尽くしているならば答えも手に取る様にわかる。
目隠しをしても使い慣れた箸を正しく掴めるのと同じ事だ。
後はその箸を使い、ゴルペオの魂を引き摺り出して。
帰るべき身体から隙間を失くしただけで全ての準備は整う。
『おう、見てんだろうが【ふんじょー】とかいう奴。 これが俺の一〇%だ。 つまり、後残り九〇%分の余力で、これからもおめぇを打ち抜き続ける。 更に加速してな。 望み通り最後まで待つってぇなら、残り時間をしっかり楽しめや』
一秒後、針を打ち付けた拳にこの言葉を乗せた事によって。
これもまた命力の言葉だからこそ、声にしなくとも瞬時に伝わるもので。
【魂の牢獄】に囚われたゴルペオへと時間差無く聴こえた事だろう。
ならばゴルペオはどう思っただろうか。
今の出来事の更に十倍以上となる苦痛が待っているとなれば。
じっと堪える事を選ぶだろうか。
心を殺して待つ事を選ぶだろうか。
否。
ゴルペオはもう、心が折れていた。
『いまのが、もっと……むりだ、もうしにたい……そうだ、しのう』
不滅の肉体など、所詮はただの入れ物に過ぎない
弱い心をただ隠すだけの、かりそめの器でしか。
故に憐れはゴルペオ。
その器さえ無ければ、彼はただの―――普通の人間でしかなかったのだ。
敬愛する邪神に〝玩具〟を与えられただけの。
自らを罪と豪語したままの。
そんな弱き心の示した結論が導く先は当然、滅びのみ。
たちまち、不滅だったはずの肉体が自ら灰の様になって崩れていく。
自ら死を望み、内に滾っていた怒りが跡形も無く消し飛んだ事によって。
これこそが剣聖の導き出した、不滅の滅し方。
究極にまで至った者だからこそ成し得た、心だけを破壊する手段なのである。
「さぁて、時間がねぇ!」
しかしそんな敗者に跡目も引かず、剣聖が力の限りに宙を舞う。
時間が無いからと、目的のまま一心に。
そうして間も無く見えたのは、なんとラクアンツェ。
首上だけとなった彼女は未だ宙を舞ったままで。
そんな小さい頭部を優しく抱え込み、そのまま大地へ向けて降りていく。
まるで慈しむ様に、優しく柔らかに。
「おうラク、まだ生きてっかぁ?」
「……全く、素直に死なせてくれないのね」
それというのも、まだラクアンツェが生きているという事を知っていたから。
だから急いだのだ。
地上に落ちるまで時間が無いのだと。
さすがの彼女でも、この勢いのままに地上に激突すれば死は免れない。
でもこうして間に合ってしまえばもう大丈夫。
予想よりもずっと早く倒せたから、なんて事無く助ける事が出来た。
剣聖としてはそれだけでもう、満足だ。
「それで、アイツは倒せたのかしら?」
「おう。 てんで弱っちかったぜ。 どうやら俺が引いたのはハズレだったらしい。 一番弱い奴を引くたぁツイてねぇなぁ」
「あらそれ、私に対する皮肉なのかしらー」
存外、ラクアンツェもまだまだ元気そう。
恐らく魔剣の主核が幸いにも無事だからだろう。
そうとわかれば、剣聖も相変わらずの笑顔を見せずには居られない。
ラクアンツェが据わった目を向けてしまう程の、「ニシシ」とした大きな笑顔を。
「んじゃま、後は他の奴等に任せるかぁ」
「そうね。 皆、きっと上手くやるもの」
そんな笑顔も、着地を果たした時には空の彼方へ向けられていて。
二人揃って視線を向ける様子がそこに。
空では仲間達の戦っている姿がまだ映っている。
ただ剣聖達が早く終わっただけで、戦いはまだまだ続いているから。
だからこそ、今はただ静かに眺めるのみ。
来たるべき仲間達の勝利姿をその目へ焼き付ける為に。
もう心配するつもりなど欠片も無いのだから。
今更その理由を説明する必要も無いだろう。
故に今はゆっくりと勝利の余韻に浸ろう。
大業を成したからこそ、救世を願う強者達にも―――それが許されて、いい。
ゴルペオという不滅の強者を前にすれば、この結果は必然だったのかもしれない。
瞬間的に粉砕しようと、敵は一瞬にして復活を遂げてしまう。
それを証明した今、人類側の不利は否めないだろう。
ゴルペオが世界を滅ぼすまで存在し続ければ、勇達は永久にアルトラン・ネメシスの下へと辿り着けないのだから。
砕けるのに砕けない。
まるで幽霊の様な掴み所の無い相手を、剣聖は果たして―――
「おう、じゃあ今度は俺の番だな」
それは、ラクアンツェが砕かれた直後の事だった。
この時ゴルペオの目下では、太陽の如き輝きが既に唸りを上げていて。
剣聖が間髪入れず、懐に潜り込んでいたのだ。
ゴルペオは愉悦のままに拳を振り上げたままで、気付く事さえままならない。
それだけの速度、隙無し気配無しで到達していたからこそ。
「ッ!?」
そして気付いた時には、その両腕が刎ね飛んでいた。
刃物の如き両手刀による斬り込みによって。
しかもその手は留まらず、更には円を描く様にして胴体をも切り出していて。
その滑らかな刻み具合はまるで、ホールケーキのスポンジを切り取るかのよう。
遂には魔剣の破片が散る間も無く、その胴体を引き抜いては自身をも下がらせる姿が。
「怒怒怒、無駄だと言って―――」
「んな事わかってらぁ。 ちょいと試したい事があっただけだ」
しかしそんな胴体も間も無く、何故か元あった場所へと放り投げていて。
間も無く再生を果たすゴルペオにあろう事か笑みを見せつける。
何もかもをも悟ったという、あの剣聖らしい不敵なニヤけ面を。
「だがまぁ、大体わかった。 何てこたぁねぇなぁ、ラクの残した結果で充分だった」
その顔を見せつけた時にはもう既に、剣聖はその体を膨れ上がらせていた。
そう、全てを解放した姿へと変化させていたのだ。
天士をも凌駕する究極の人間、【極人】へと進化した姿に。
「時間がねぇ。 とっとと終わらせようや」
「―――ッ!?」
ならば、ゴルペオにとってのデジャヴとなるこの一言が全ての始まりとなるだろう。
思いもしなかった現実を見せつけられる事の始まりに。
剣聖がそう語った時には既に、何故かゴルペオの意識は肉体から離れていた。
でもふと見下ろせば、自身の体に何が起きていたのかがハッキリと見えたものだ。
そうして見えた身体はまるで、幾百億の糸に突き刺されたかの様だった。
それだけの鋭い光針が、全身を一律真っ直ぐと貫いていたのである。
どれ一つとっても狂い無く同じ方角を向いて。
『な、に……ィッ!?』
何もわからなかったから、こうして飛び出てしまって。
それも天力体の様な体に成ったお陰で、今ならその原因が何なのかがやっととわかる。
時間という概念から解き放たれた事によって。
更にその身体へと光針を打ち付けられていく、その惨状を。
0.001秒~0.003秒
両手の指が全て余す事無く貫かれる。
0.004秒~0.006秒
手甲全てが肌色見えぬ程までに貫かれる。
0.007秒~0.011秒
足甲から足首までが隙間無く貫かれる。
0.012秒~0.016秒
肘下が光の束に埋め尽くされる。
0.017秒~0.021秒
膝下が可視不可な程の光に包まれる。
0.022秒~0.027秒
両肩を貫ききった針は他より僅かに太い。
0.028秒~0.036秒
ふくらはぎも太ももも時変わらず光針の餌食に。
0.037~0.041秒
腰部が筋肉に沿って波を描く様にして埋め尽くされる。
0.042秒~0.050秒
内臓を象った形に針が刻まれ、今にも動き出しそうだ。
0.051秒~0.058秒
心臓、鎖骨も肋骨も大胸筋までもが緻密と貫かれる。
0.059秒~0.063秒
首筋が脈さえ浮彫とする程に貫かれ、それさえ潰される。
0.064秒~0.065秒
頭に到達した途端に何故か目が最初に潰される。
0.066秒~0.070秒
耳が光だけになる。
0.071秒~0.079秒
髪の一本一本までもが宙に磔だ。
0.080秒~0.083秒
輪郭に沿って光の束が無数に立つ。
0.084秒~0.086秒
口が閉められない程に光針で埋め尽くされる。
0.087秒~0.090秒
顔筋が針によって埋め尽くされ、動かす隙間すら無い。
0.091秒~0.094秒
鼻が低くなったかと思える程に深々と無数の針が突き刺さる。
0.095秒~0.099秒
自慢の角も棘も余す事無く貫かれて形が見えなくなる。
0.1秒
同 じ 事 が も う 一 度 繰 り 返 さ れ る。
0.2秒
同じ事がもう一度。
同じ事がまた。
同じ事が。
0.3秒
何度目かもう数えられない。
何故か耐えきれない程の激痛が襲ってきた。
0.4秒
痛い。
辛い。
何故。
0.5秒
どれだけたった?
まだこれだけか。
もう やめてくれ。
でもこえはとどかない。
0.6秒
なぜまだいきている?
そうだ
ふめつだからだ
ふめつ、ふめつ……とは?
0.7秒
にくい
にくい
あるじさまがにくい
なんでふめつにした
0.8秒
にくい
にく
くいに
どどど
0.9秒
ど
どど
どどど
1秒―――
し
に
た
い
ゴルペオが天力子の様な存在となれるならば、体感時間は常人の一万分の一以下となる。
つまり彼はこのたった一秒の間に、数時間~数十時間にも及ぶ時間を過ごしたという事だ。
しかも度し難い激痛を伴いながら。
並の生物ではないから耐えられるかと思えば、そういう訳でも無い。
苦痛とは、その心が辛いから苦痛なのだ。
すなわち、この痛みはゴルペオにとっての苦痛。
ゴルペオが耐えきれない程に辛く激しい痛みが走り続けていたのである。
故に、その心が憔悴しきるのは必然だった。
そもそも、こうして心が解き放たれた事も不可解で。
肉体がなお残っている事も、激痛が走る事も意味がわからない。
何もかもがわからないから、心が耐えきれない。
〝何故〟と思う度に、心が別の痛みを伴うからこそ。
これを名付けるならば、【魂の牢獄】。
なまじ魂の様な存在に成れてしまうからこそ解き放たれない。
こうなってしまえばもはや不滅の肉体など何の意味も成さないだろう。
心だけが磔となっているのだから。
これは肉体が残るからこそ自由にもなれない、絶対不可避の苦痛地獄だ。
まるで、世界が滅んだ時に人々が感じるであろうそれと全く同じの。
違う部分があると言えば、事象の動静を剣聖が握っているという所か。
「勇やデュランみてーなのが居てくれたからよ、なんとなく概念がわかった。 ちょいと命脈らしいモンを突きゃ、魂なんてなぁ簡単に飛び出しちまうってなぁ。 これが茶奈みてーな事になったらどうなるかわからねーが……おめぇみたいな半端モンにゃ充分だろーよ」
もちろん、剣聖にその魂などが見えている訳ではない。
天力に目覚めている訳でも無ければ、敵の正体がわかっている訳でもない。
でも、その仕組みが同一性である事は理解出来た。
なら後は知るがままにこなせばいい。
例え見えずとも、知り尽くしているならば答えも手に取る様にわかる。
目隠しをしても使い慣れた箸を正しく掴めるのと同じ事だ。
後はその箸を使い、ゴルペオの魂を引き摺り出して。
帰るべき身体から隙間を失くしただけで全ての準備は整う。
『おう、見てんだろうが【ふんじょー】とかいう奴。 これが俺の一〇%だ。 つまり、後残り九〇%分の余力で、これからもおめぇを打ち抜き続ける。 更に加速してな。 望み通り最後まで待つってぇなら、残り時間をしっかり楽しめや』
一秒後、針を打ち付けた拳にこの言葉を乗せた事によって。
これもまた命力の言葉だからこそ、声にしなくとも瞬時に伝わるもので。
【魂の牢獄】に囚われたゴルペオへと時間差無く聴こえた事だろう。
ならばゴルペオはどう思っただろうか。
今の出来事の更に十倍以上となる苦痛が待っているとなれば。
じっと堪える事を選ぶだろうか。
心を殺して待つ事を選ぶだろうか。
否。
ゴルペオはもう、心が折れていた。
『いまのが、もっと……むりだ、もうしにたい……そうだ、しのう』
不滅の肉体など、所詮はただの入れ物に過ぎない
弱い心をただ隠すだけの、かりそめの器でしか。
故に憐れはゴルペオ。
その器さえ無ければ、彼はただの―――普通の人間でしかなかったのだ。
敬愛する邪神に〝玩具〟を与えられただけの。
自らを罪と豪語したままの。
そんな弱き心の示した結論が導く先は当然、滅びのみ。
たちまち、不滅だったはずの肉体が自ら灰の様になって崩れていく。
自ら死を望み、内に滾っていた怒りが跡形も無く消し飛んだ事によって。
これこそが剣聖の導き出した、不滅の滅し方。
究極にまで至った者だからこそ成し得た、心だけを破壊する手段なのである。
「さぁて、時間がねぇ!」
しかしそんな敗者に跡目も引かず、剣聖が力の限りに宙を舞う。
時間が無いからと、目的のまま一心に。
そうして間も無く見えたのは、なんとラクアンツェ。
首上だけとなった彼女は未だ宙を舞ったままで。
そんな小さい頭部を優しく抱え込み、そのまま大地へ向けて降りていく。
まるで慈しむ様に、優しく柔らかに。
「おうラク、まだ生きてっかぁ?」
「……全く、素直に死なせてくれないのね」
それというのも、まだラクアンツェが生きているという事を知っていたから。
だから急いだのだ。
地上に落ちるまで時間が無いのだと。
さすがの彼女でも、この勢いのままに地上に激突すれば死は免れない。
でもこうして間に合ってしまえばもう大丈夫。
予想よりもずっと早く倒せたから、なんて事無く助ける事が出来た。
剣聖としてはそれだけでもう、満足だ。
「それで、アイツは倒せたのかしら?」
「おう。 てんで弱っちかったぜ。 どうやら俺が引いたのはハズレだったらしい。 一番弱い奴を引くたぁツイてねぇなぁ」
「あらそれ、私に対する皮肉なのかしらー」
存外、ラクアンツェもまだまだ元気そう。
恐らく魔剣の主核が幸いにも無事だからだろう。
そうとわかれば、剣聖も相変わらずの笑顔を見せずには居られない。
ラクアンツェが据わった目を向けてしまう程の、「ニシシ」とした大きな笑顔を。
「んじゃま、後は他の奴等に任せるかぁ」
「そうね。 皆、きっと上手くやるもの」
そんな笑顔も、着地を果たした時には空の彼方へ向けられていて。
二人揃って視線を向ける様子がそこに。
空では仲間達の戦っている姿がまだ映っている。
ただ剣聖達が早く終わっただけで、戦いはまだまだ続いているから。
だからこそ、今はただ静かに眺めるのみ。
来たるべき仲間達の勝利姿をその目へ焼き付ける為に。
もう心配するつもりなど欠片も無いのだから。
今更その理由を説明する必要も無いだろう。
故に今はゆっくりと勝利の余韻に浸ろう。
大業を成したからこそ、救世を願う強者達にも―――それが許されて、いい。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】魔法大戦 〜失われた古代魔法で無双する!〜
加瀬 一葉
ファンタジー
王立魔法学校。高等部に編入してきた冴えない生徒ラフィト。エリートが集うこの学校で、辺境出身のラフィトは落ちこぼれの劣等生なのだが……。
実は彼は、失われたはずの古代魔法を操る一族の末裔。魔族の脅威が増す時代に、ラフィトは人類を救うことができるのか?
過去と現在が交錯する、魔法ファンタジー。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる