時き継幻想フララジカ

日奈 うさぎ

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第十二節「折れた翼 友の想い 希望の片翼」

~勝者を讃える唄はかくも哀しき~

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 もしかしたら【ナイーヴァ族】とは現代人に近い存在なのかもしれない。
 今までのどの種族よりもずっと。

 決して怨恨だけで動こうとせず、その行動原理は理性を伴ったもので。
 でも例え相手が敵だろうと、理屈が伴えば耳を傾ける事もある。
 仲間の為なら己を犠牲にする事も厭わないくらいに気高い。
 その為に抑止力という概念を利用し、常々外敵から守ってみせた。

 それだけ、とても理知的なのだ。
 戦闘種族などという野蛮な肩書きが似付かわしくないくらいに。

 そんな事実を戦神サヴィディアという存在から受け取って。
 だから勇は悩まずには居られなかった。

 その様な人物とどうして戦わなければならなかったのか、と。

 しかし今更気付いてももう遅い。
 真実を晒したのはトドメの一撃を見舞った後だから。
 死を前にしたからこそ曝け出した本性だったから。

 だからサヴィディアは素直に微笑んで死ぬ事が出来たのだ。
 自らの心意気を汲むに相応しい人物と戦い、看取ってもらえたからこそ。

 例えその全てを伝えきれずとも。
 悔いは無いと言わんばかりに。

「……戦神サヴィディア、アンタの名前は絶対に忘れないよ。もし出会い方がこんなんじゃなければ、きっと戦わずに済んだかもしれない人だから」

 でもそんな想いだけは充分と勇に伝わった。
 その所為でこう呟いた後には涙を流していて。
 それと共に、湧き出る悔しさを握り締めて空を仰ぐ。

 その痛みで、泣き出してしまわない様にと。
 彼等を見送る事で、苦しみを紛らわそうとして。



 けれど勇はこの時ふと気付く。
 空を仰ぎ続けてもなお、起こるべき事象がいつまでも訪れない事に。



 雑兵達が消えないのだ。
 サヴィディアの死に嘆き悲しんだままで。
 光に包まれる事さえなく、未だ在り続けていて。

「なんだ、なんで消えないんだ……!?」

 王が死ねば直ぐに雑兵達も消えるはずだった。
 その原因がわからずとも、例外無く起きていた事象だった。

 だけど今はその兆しが一切無い。

 明らかにおかしかったのだ。
 まるで、サヴィディアが王ではなかったと言わんばかりに。

 今までに無い事態に勇が動揺する。
 堪らず何度も周囲を見回してしまう程に。
 この戦いはまだ終わっていないのではないかと思えてならなくて。

 確かに周囲からは戦意は見られない。
 しかしもしそれが一時的なものだったならば。
 サヴィディアの死が引き金となり、暴れ回る事になったのならば。

 そうなれば今の勇とて、遠く離れた仲間を救うのは不可能である。



 そんな不安が過った時だった。
 気付くと彼方から一人、誰かが駆けて来るではないか。

 それもまるで、生まれた不安を掻き消す様な弱々しさで。



 それもまた【ナイーヴァ族】。
 けれど周囲の誰よりも小柄で細々しくて。
 武器など持たず、薄布のワンピースを纏った姿で真っ直ぐ来るという。

 勇が居ようとも一切恐れる事も無く、一心不乱に。

「サヴィディア!! サヴィディアッ!!」

 どうやら女性だったらしい。
 そんな声色と仕草だったから。

 そんな人物が大地の裂け目を避けつつ亡骸の下へ。
 遂には啜り泣きながら傍へと倒れ込み、寄り添っていて。

「ああ、何と言う事! 貴方は、どうして……ッ!!」

 恐らくサヴィディアの伴侶なのだろう。
 もっとも、あれ程の貫禄と強さがあれば居ないはずも無いか。

 家族と呼ばれる存在が。

「……其方が、サヴィディアを討ったのだな?」

「えッ!?」

 するとそんな者から唸る様な声色が囁かれて。
 その怨恨にも近い声色に、思わず勇が動揺する。

 決して恐ろしいとは思えない相手だった。
 だけど、それでも今の一言には何だか抗えなくて。

 きっと強い罪悪感があったからだろう。
 この人物が愛するべき存在の命を奪ってしまったから。
 例え理由があろうとも、残酷な事をしてしまったのだと。

 だからこそ震えずにはいられない。
 構えた魔剣を震わせずには。

「我が【ナイーヴァ】の女王アーラトマ=カノトフである。貴公の戦い振り、この傷より見てわかる。見事な戦いぶりであったのだろう」

「貴女が女王、だって!?」

 だがそんな震えがたちまち止まる事に。
 思いも寄らぬ事実と――思いも寄らぬ立ち振る舞いを見せつけられた事で。



 そう、今目の前で立ち上がった存在が王なのである。
 戦神サヴィディアではなく彼女、アーラトマこそが。



 これは今までに前例の無い事だ。
 王と言えば本来は象徴で、力の権化だったから。
 争いの世で力を誇示し、他者を畏怖しめる存在だったから。

 けど彼等は違ったのだ。
 理知的だからこそ、強さが全てではない。
 故に王をか弱き女性として、その伴侶を強者とした。

 より理知的に種族を繁栄させる為に、と。

 そんな事実が勇の罪悪感を更に高まらせる事となる。
 彼等は決して、命を奪っていい様な存在ではなかったから。

 もしかしたら攻め入るべきは【ナイーヴァ族】では無かったのではないか。
 罰するべきは【アゾーネ】の方にだったのではないか、と思えるくらいに。

「しかし悔やむ必要無い」

「なっ!?」

「逃げる事も出来たであろう。ここまで来る必要も無かったであろう。それでもなお其方はサヴィディアと相まみえ、戦ってくれた。この人の想いに沿って。なればこの結末は運命なのだから」

 しかしそんな罪悪感さえも、アーラトマの言葉が溶かしていく。
 まるで敵に向けるものとは思えない優しい声色で。

 きっと女王と呼ばれる程の存在だから、人を見る目もあるのだろう。
 それで、勇は決して意味も無く切り掛かっては来ないのだと見抜いて。
 その上でこうして語りかけているのだ。

 まるで勝利者の勇を讃えるかの様に。

「伝統に乗っ取り、決闘を制した其方に賛辞を贈りたい。強者たる者に相応しき栄光と喝采を、今ここで」

「お、俺に……賛辞だって……?」

 本当は苦しいのだろう。
 本当は泣き出したいのだろう。

 だからその言葉は震えていて。
 けど必死で堪えて、勇を讃えようとしているのだ。
 彼女もまた掟と伝統を守り、【ナイーヴァ族】を守ろうとしているから。

 ここまでに築き上げた伝説と存在感を失わせない為にも。



「皆の者、盛大に讃えよ!! 逞しき強者に我等が祝福を!!」



 だからこそ叫ぶ。
 島全体へと轟かせる程に強く。
 更にはその両手を真っ直ぐと掲げながら。

 戦神サヴィディアを讃えて。
 激しい戦いを繰り広げた事を讃えて。

 そして、新たに現れた勇という強者を褒め讃えて。

 するとたちまち場に地響きが走る。
 兵士達が足踏みをし始めたのだ。
 個々に持った槍をも大地へと突きながら。

「「「オオオオオオーーーッッッ!!!!!」」」

 更には大喝采までもが待っていた。
 他全ての音を消し去る程の大歓声が。

 それら全てが、勇を讃えていたのである。

 信じられもしない出来事だっただろう。
 まさか敵だったはずの存在にこうして喝采を受けるなどとは。
 だから勇も思わず立ち尽くし、唖然とするばかりで。

 もしこれが、死の無い決着での形だったらどれだけ良かったか。
 だからふと、隣を眺めずにはいられなかった。



 もしかしたら、未来が違ったならば。

 サヴィディアは生きて勇の手首を取ってくれただろうから。

 女王と共に讃え、共に両手を振り上げてくれただろうから。

 きっと、屈託の無い笑顔と共に。



 でも現実はずっと残酷で、苦しくも儚いものだった。
 そんな夢幻に浸る事さえ許されないくらいに。

 勇は気付いてしまったのだ。
 アーラトマが黄金の短剣を握り締めていた事に。

「ううっ……!?」

 復讐だろうか。
 また決闘なのだろうか。
 そんな不安が一瞬で過る。

 しかしそんな勇へ向けられたのは、アーラトマの微笑みで。

「勝者よ生きよ。そして己を讃え、我有りと高らかに誇って欲しい。気高き戦神とその伴侶がという事実をその胸に抱いて――」

 勇はその微笑みに視線を釘付けにされてしまっていた。
 だから何も抗う事が出来なかったのだ。

 アーラトマが自らの胸に短剣を突き刺すという行為に対して。

「――うああッ!?」

 こう気付いた時にはもう遅かった。
 たちまち吐血し、力無く崩れ落ちて。
 それもサヴィディアに寄り添う様に、弱々しい手を傷付いた頬へと寄せながら。

「サヴィ、ディア、今すぐ、其方……の元、へ――」

 その表情はとても穏やかだった。
 まるでサヴィディアの微笑みに殉じるかの様に。
 まさしく愛し合う夫婦の様に。

 ならばきっと、共に逝く事もまた本望なのだろう。

 だからその姿には、一切の恐れは無かった。
 なにかもが愛に溢れていたのだ。

 そんな彼等の姿がたちまち光に包まれる。
 天に召されんとばかりに煌々と。

 それでも喝采は止む事など無く。

 例え動揺しようとも。
 例え恐怖しようとも。
 兵士達は一心不乱にただただ賛辞を送り続けていた。
 それが彼等の掟で、伝統で、それでいて成すべきだとした事だからこそ。

 故に大喝采は、彼等が消えるまでずっとずっと響いていた。

 主達が死のうとも、自分達が消え去ろうとも。



 その誇りに殉じて、最後の最後まで勇を讃え続けたのである。



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