駆け落ちした愚兄の来訪~厚顔無恥のクズを叩き潰します~

haru.

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終幕

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  その日は雲一つない晴天だった。

「おいふざけるなよ! 貴様等、誰に何をしてるかわかってるのか!?」

  とある商会に向かうために街中を歩いていた男が突然騎士達に取り囲まれて拘束された。あまりの手際のよさに男は抵抗する暇もなく呆気なく鉄格子が嵌められた馬車の荷台へ押し込められた。

「黙れっ!」

「貴様には多数の罪状で逮捕状が出てるんだ!」

「その場で切り殺されなかっただけありがたいと思え! このクズ野郎がっ!」

「ヒィィッ……!」

  鉄格子を揺らしながら怒鳴り散らす男へ殺気を浴びせる騎士達。その姿に腰を抜かしたのか地面にへたり込みながら後ろへと後退っていった。


  * * *


  街の中心部にある騎士団の施設へ連行された男は薄暗くてカビ臭い取調室へ入れられた。

  男の他に騎士が二人いた。
  一人は机を挟んで男の向かい側にいて、もう一人は逃亡防止なのか扉に寄りかかりながら出口を塞いでいた。

「さて証拠はもう既に揃ってるし罪状はもう決まってる。お前の処遇は変わらん……が、一応取り調べはしてやる」

「な、なにをいってるんだ!」

「名前は」

「は?」

「もう一度言うぞ。貴様の名前はなんだ」

「ア、アルバート・ロブゾだ! 俺はロブゾ伯爵家の長男で跡取りなんだぞ! こんな事をしてただで済むと思うなよ!」

  高圧的な騎士の態度にタジタジだった男は名前を問われた途端、勢いを取り戻して騎士相手に凄んだ。

「騎士ごときが俺に逆らえると思ってるのか!」

  男は確かに容姿が美しく貴族子息だと言われると納得出来るものだったが、その身成りはお粗末としか言い様がなかった。

  洗濯を怠っているのか、少し黄ばんだシャツにシワのついたズボン。そんな物を身につけていて誰が貴族だと信じるのだろう。

  騎士達は互いの顔を見合わせて鼻で嗤った。

「貴様が貴族? その身成りでか? ……過去の栄光にすがるのはほどほどにしとけよな。話が進まねぇから」

「は? 過去の栄光? ち、違う! 俺は本当にーー」

「ああーわかった、わかった。そういう暮らしがもう一度したいって願望なんだな。はい、はい、それはもういいから話を元に戻すぞ。貴様はサイモン。どっかの国で貴族をやってた元ボンボンなんだろ?」

「はあ!? サ、サイモン???」

「街で貴様の事を聞き込んだらそう言ってたぞ? 商家のお嬢さんをだまくらかして金を巻き上げてたんだろ? 運良く金持ちのお嬢さんの恋人に収まった貴様は生活費を貢いでもらうヒモだったらしいな」

「ヒ、ヒモ!? 俺がヒモだと?」

「まぁ男が女を騙して金を巻き上げる程度なら胸糞悪いが、騎士団の出る幕ではない。……が、持参金を作る為に恋人の実家の商家から物を盗んだり、遊び相手だった既婚者の女を恐喝して金を巻き上げるのは違法だ。その旦那とひと揉めして怪我を負わせたのも暴行罪にあたる」

「…………なにをいってるんだ?」

  騎士の話が進む度に男の表情には疑問が多数浮かび上がった。

  自分がやった自業自得の罪もあるが、全く身に覚えのない知らない話まであったのだ。

「ひとまず現時点では窃盗罪、恐喝罪、暴行罪が貴様にはかけられてる。運が良ければこのままだが証拠がもっと出てきて貴様の行いが悪質だと判断されれば詐欺罪も加算されるから覚えておくように! 犯罪奴隷として鉱山で働いてもらう。恐らく期間は最短で……五十年くらいだろうな」

「犯罪奴隷ってなんだよ! ふざけんな! 五十年経ったら俺はもう老いぼれのジジィじゃねぇか!」

「当然だ。その期間、しっかり己と向き合い犯した罪を償ってこい!」

「っざけんな……ふざけんな…………ふざけんなよっ! 俺はサイモンなんかじゃねぇ! アルバート・ロブゾだ! 伯爵家の嫡男だぞ! こんな真似していいと思ってるのか! ……そうだ! 母上をっ! ジュリエッタを呼べ! あの二人なら俺が誰かわかるはずだ! おい! 何してる! さっさと呼んでこーーぶへぇっ!」

  興奮状態であれこれ騒ぎ立てる男の頭を机に叩きつけて黙らせた騎士はゾッとするような冷酷な瞳で見下ろしていた。

「無駄口はそこまでにしろ。耳障りで仕方がない」

「な、なんべ……」

  ボタボタと垂れる鼻血を押さえながら男は真っ青な表情で「嘘なんてついてない」と言った。

  だが騎士にとってそれはどうでもいいこと。
  男の言葉が真実だろうが嘘だろうが、男の名前は『サイモン』だと決まっているのだ。
  
「貴様はサイモン。それ以外の誰でもない。……あと教えておいてやるとアルバート・ロブゾは先月失踪期間が六年目になったからご家族の意向で死亡届けが提出され受理された」

「し、死亡届け?」

「アルバート・ロブゾはもうこの世には存在していない。ロブゾ伯爵家はジュリエッタ・ロブゾ様が継承したんだ。もう長男も跡取りも必要ない」

「ジュリエッタがいるから俺は必要ない?」

「ああーこれは独り言だがもしもアルバート・ロブゾが存命だった場合、騎士団は即刻奴を捕縛して極刑にしなければならない。」

「……っ!?」

「アルバート・ロブゾは婚姻前ではあったが両家での取り決めで浮気はご法度だった。よって異例ではあるがトマゾ伯爵家からの要望で姦通罪が適応される。そして前ロブゾ伯爵から被害届が出ていた窃盗罪を加えると犯罪奴隷では収まりきらない罪状となるんだ。……わかるだろ? 平民相手の犯罪と貴族相手の犯罪では処罰の度合いが違うんだ」

「ア、アルバート・ロブゾなら……きょ、極刑?」

「奴は色んな者達に恨まれてるからなぁ~。騎士とはいえ問答無用でその場でたたっ切る可能性もなぁ~。あ、トマゾ家の方々は今でもアルバート・ロブゾを探してるらしいぞ? いくら慰謝料を受け取ったとはいえ、娘をずたぼろにした男をそう簡単には許さないだろうな……まぁあれだよな。刺し違えてもってやつだ」

「ひっ……!」

  アルバート・ロブゾがそこまで恨まれているだなんて考えてもみなかったのだろう。命が狙われてると知り土色をした表情で俯いてしまった男の身体は出会った時より一回り小さくなっており、微かに震えていた。

「じゃ最後にもう一度だけ聞くな? 貴様の名前はなんだ?」

「…………サ、サイモン…………サイモンです」

「……よし、じゃ罪状の確認していくから素直に答えていけよ」

「はい」

  か細くて小さな声でボソボソと話す男にはもう気力が残っていないのか、次々と罪を認めていきあっという間に鉱山送りとなった。


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