19 / 25
暗雲
しおりを挟む
何でだ? 何でこんな事になってるんだ?
俺はアルバート・ロブゾだぞ!?
由緒あるロブゾ伯爵家の長男で優秀な男なんだ!
幸せになって当然だし、自分の願いを優先させて何が悪い! 誰しもやってる事だろう!?
俺はただ窮屈なしきたりや暮らしが嫌なんだ!
当主なんて苦労ばかりで全然楽しくないだろ!
何でそんな役目を俺に押し付けてくるんだ!
カナリアだって見た目が美しいだけで口煩い上、夫になる俺へ命令紛いの事をしてくるんだぞ!? あんな可愛げのない女と一生共にするだなんて地獄すぎるだろ。他の女と逃げて何が悪いんだ!
マリーだって最初は従順で可愛い女だったんだ。
二人で過ごした最初は本当に幸せだったんだ。
それなのに伯爵子息の俺が選んでやった恩も忘れ、あの女は口答えをするようになった。ギャーギャー泣き喚いて鬱陶しいガキを優先して家の事は疎かになっていくし、何よりもあの女は俺の所有物に手を出しやがった!
ああ、今思い出しても腹がたつ。
もっと痛めつけてやればよかった。
しかもあの女は俺という夫がいながら娼婦になんてなりやがって……正直あの時ほど憎たらしいと思った事はなかったな。一瞬にしてあの女への愛が冷めた。
借金がどうとか、息子の面倒がどうとか、少しは働けだとか、アイツは何様なんだ。
あの女が死んで本当に清々した。
あえて言いたい事があるとすればあの無表情で不気味なガキを連れて死んでいけっつーんだよ。
まぁ今はあのガキが金に代わりそうだから生かしてやってるが面倒くさい事には変わらないな。
折角駆け落ちやクズ共に騙された一件で名前が知られてしまったアルバート・ロブゾではなく、サイモンという架空人物で新しい女が出来たっていうのに何でこんなにも上手くいかないんだ!
シェイラは商会の末娘で世間知らずの箱入り娘。
金があるお嬢さんを騙すのなんて簡単だった。
俺が少し苦労話をして涙を見せれば、あっという間に金品を与えてくれたチョロい女だった。
大人の男に憧れがあるのか、ちょっと優しい言葉や甘い言葉をかけてやれば簡単には落ちて身体を許してきた。
中々大きな商会が実家だから結婚は厳しいかと思っていたら親父も甘くてチョロい男だった。娘が選んだ男なら結婚や仕事を紹介するもの構わないと言ってきた。
まぁ俺の目的は商会の金なだけで、仕事の紹介なんて別にいらないけどな。
シェイラの親父が要求してきたのは一つだけ。
ーー娘の為に金を稼いで持参金を支払えたら結婚を認める。
だけど俺は自分で働くのは嫌だ。
楽して金を稼ぎたい。
……だがこんなチョロいカモを逃がすのは勿体なさすぎる。
そんな時だった。
妹のジュリエッタの存在を思い出したのは。
俺がロブゾ家から逃げ出してからきっと苦労してきたはず。もしかしたら婚約相手も見つかっていないかもしれない。
邪魔なレオナルドをロブゾ家の後継者としてジュリエッタに売りつければ持参金も手に入るしロブゾ家へ恩も売れる。
レオナルドさえロブゾ家に入ってしまえば、今後金の融通もしてもらえるし、いざとなれば屋敷に転がり込む事も出来る。…………と思っていた。
兄である俺の事を慕っていたジュリエッタなら俺の頼みを絶対に聞いてくれると思っていた。
それなのにアイツは俺を知らない人間として扱いやがった。アルバート・ロブゾとしてではなくロブゾ家に纏わりつく不審人物として屋敷への出入りを禁じた。
ジュリエッタの奴、氷のような冷たい表情で俺を見下してきやがった。
何も出来ない甘ったれた妹の分際で優秀なお兄様に楯突くなんてふざけてやがる!
くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ!
彼処にある物は元はといえば全て俺の物になる筈だったんだ。ジュリエッタがつけてた高い宝石やドレスだって俺の物なんだ! アイツは俺のおこぼれを貰ったに過ぎないくせに調子に乗りやがって……
面倒くさい当主になりたい訳じゃないが、あの暮らしには未練がある。贅沢がしたい。金が欲しい。大勢にかしずかれたい。平民の暮らしなんてもううんざりなんだ。
戻りたい……でも戻りたくない。
でもやっぱり平民は嫌だ。
矛盾してる。それは自分でもわかってる。
だからこそ俺は商家のお嬢さんに目をつけたんだ。
貴族の義務を果たさなくても金が手に入る特別な場所を。
シェイラが望む『理想の王子様像』を演じてやってきた。優しくて頼りになってシェイラを誰よりも愛する男。
ちょっと色気が足りなくて俺には物足りない女だったから適度に外で遊びはしたけど、馬鹿なシェイラには絶対にバレていないと確信していた。
それなのに何故だ!?
何故シェイラは俺に会いに来なくなった?
連絡しても返事すらない。
家に行っても理由をつけて門前払いされる。
一体どうなっているんだ?
何が起きてるっていうんだ……
俺は幸せにならなきゃいけない男なんだ。
誰も俺の幸せの邪魔なんてさせない。
俺はアルバート・ロブゾ。
俺のする事に間違いなんてないんだ。
俺はアルバート・ロブゾだぞ!?
由緒あるロブゾ伯爵家の長男で優秀な男なんだ!
幸せになって当然だし、自分の願いを優先させて何が悪い! 誰しもやってる事だろう!?
俺はただ窮屈なしきたりや暮らしが嫌なんだ!
当主なんて苦労ばかりで全然楽しくないだろ!
何でそんな役目を俺に押し付けてくるんだ!
カナリアだって見た目が美しいだけで口煩い上、夫になる俺へ命令紛いの事をしてくるんだぞ!? あんな可愛げのない女と一生共にするだなんて地獄すぎるだろ。他の女と逃げて何が悪いんだ!
マリーだって最初は従順で可愛い女だったんだ。
二人で過ごした最初は本当に幸せだったんだ。
それなのに伯爵子息の俺が選んでやった恩も忘れ、あの女は口答えをするようになった。ギャーギャー泣き喚いて鬱陶しいガキを優先して家の事は疎かになっていくし、何よりもあの女は俺の所有物に手を出しやがった!
ああ、今思い出しても腹がたつ。
もっと痛めつけてやればよかった。
しかもあの女は俺という夫がいながら娼婦になんてなりやがって……正直あの時ほど憎たらしいと思った事はなかったな。一瞬にしてあの女への愛が冷めた。
借金がどうとか、息子の面倒がどうとか、少しは働けだとか、アイツは何様なんだ。
あの女が死んで本当に清々した。
あえて言いたい事があるとすればあの無表情で不気味なガキを連れて死んでいけっつーんだよ。
まぁ今はあのガキが金に代わりそうだから生かしてやってるが面倒くさい事には変わらないな。
折角駆け落ちやクズ共に騙された一件で名前が知られてしまったアルバート・ロブゾではなく、サイモンという架空人物で新しい女が出来たっていうのに何でこんなにも上手くいかないんだ!
シェイラは商会の末娘で世間知らずの箱入り娘。
金があるお嬢さんを騙すのなんて簡単だった。
俺が少し苦労話をして涙を見せれば、あっという間に金品を与えてくれたチョロい女だった。
大人の男に憧れがあるのか、ちょっと優しい言葉や甘い言葉をかけてやれば簡単には落ちて身体を許してきた。
中々大きな商会が実家だから結婚は厳しいかと思っていたら親父も甘くてチョロい男だった。娘が選んだ男なら結婚や仕事を紹介するもの構わないと言ってきた。
まぁ俺の目的は商会の金なだけで、仕事の紹介なんて別にいらないけどな。
シェイラの親父が要求してきたのは一つだけ。
ーー娘の為に金を稼いで持参金を支払えたら結婚を認める。
だけど俺は自分で働くのは嫌だ。
楽して金を稼ぎたい。
……だがこんなチョロいカモを逃がすのは勿体なさすぎる。
そんな時だった。
妹のジュリエッタの存在を思い出したのは。
俺がロブゾ家から逃げ出してからきっと苦労してきたはず。もしかしたら婚約相手も見つかっていないかもしれない。
邪魔なレオナルドをロブゾ家の後継者としてジュリエッタに売りつければ持参金も手に入るしロブゾ家へ恩も売れる。
レオナルドさえロブゾ家に入ってしまえば、今後金の融通もしてもらえるし、いざとなれば屋敷に転がり込む事も出来る。…………と思っていた。
兄である俺の事を慕っていたジュリエッタなら俺の頼みを絶対に聞いてくれると思っていた。
それなのにアイツは俺を知らない人間として扱いやがった。アルバート・ロブゾとしてではなくロブゾ家に纏わりつく不審人物として屋敷への出入りを禁じた。
ジュリエッタの奴、氷のような冷たい表情で俺を見下してきやがった。
何も出来ない甘ったれた妹の分際で優秀なお兄様に楯突くなんてふざけてやがる!
くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! くそっ!
彼処にある物は元はといえば全て俺の物になる筈だったんだ。ジュリエッタがつけてた高い宝石やドレスだって俺の物なんだ! アイツは俺のおこぼれを貰ったに過ぎないくせに調子に乗りやがって……
面倒くさい当主になりたい訳じゃないが、あの暮らしには未練がある。贅沢がしたい。金が欲しい。大勢にかしずかれたい。平民の暮らしなんてもううんざりなんだ。
戻りたい……でも戻りたくない。
でもやっぱり平民は嫌だ。
矛盾してる。それは自分でもわかってる。
だからこそ俺は商家のお嬢さんに目をつけたんだ。
貴族の義務を果たさなくても金が手に入る特別な場所を。
シェイラが望む『理想の王子様像』を演じてやってきた。優しくて頼りになってシェイラを誰よりも愛する男。
ちょっと色気が足りなくて俺には物足りない女だったから適度に外で遊びはしたけど、馬鹿なシェイラには絶対にバレていないと確信していた。
それなのに何故だ!?
何故シェイラは俺に会いに来なくなった?
連絡しても返事すらない。
家に行っても理由をつけて門前払いされる。
一体どうなっているんだ?
何が起きてるっていうんだ……
俺は幸せにならなきゃいけない男なんだ。
誰も俺の幸せの邪魔なんてさせない。
俺はアルバート・ロブゾ。
俺のする事に間違いなんてないんだ。
119
あなたにおすすめの小説
元夫をはじめ私から色々なものを奪う妹が牢獄に行ってから一年が経ちましたので、私が今幸せになっている手紙でも送ろうかしら
つちのこうや
恋愛
牢獄の妹に向けた手紙を書いてみる話です。
すきま時間でお読みいただける長さです!
その支払い、どこから出ていると思ってまして?
ばぅ
恋愛
「真実の愛を見つけた!婚約破棄だ!」と騒ぐ王太子。
でもその真実の愛の相手に贈ったドレスも宝石も、出所は全部うちの金なんですけど!?
国の財政の半分を支える公爵家の娘であるセレスティアに見限られた途端、
王家に課せられた融資は 即時全額返済へと切り替わる。
「愛で国は救えませんわ。
救えるのは――責任と実務能力です。」
金の力で国を支える公爵令嬢の、
爽快ザマァ逆転ストーリー!
⚫︎カクヨム、なろうにも投稿中
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
心を病んでいるという嘘をつかれ追放された私、調香の才能で見返したら調香が社交界追放されました
er
恋愛
心を病んだと濡れ衣を着せられ、夫アンドレに離縁されたセリーヌ。愛人と結婚したかった夫の陰謀だったが、誰も信じてくれない。失意の中、亡き母から受け継いだ調香の才能に目覚めた彼女は、東の別邸で香水作りに没頭する。やがて「春風の工房」として王都で評判になり、冷酷な北方公爵マグナスの目に留まる。マグナスの支援で宮廷調香師に推薦された矢先、元夫が妨害工作を仕掛けてきたのだが?
義妹が聖女を引き継ぎましたが無理だと思います
成行任世
恋愛
稀少な聖属性を持つ義妹が聖女の役も婚約者も引き継ぐ(奪う)というので聖女の祈りを義妹に託したら王都が壊滅の危機だそうですが、私はもう聖女ではないので知りません。
公爵令嬢の苦難
桜木弥生
恋愛
公然の場で王太子ジオルドに婚約破棄をされた公爵令嬢ロベリア。
「わたくしと婚約破棄をしたら、後ろ楯が無くなる事はご承知?わたくしに言うことがあるのではございませんこと?」
(王太子の座から下ろされちゃうから、私に言ってくれれば国王陛下に私から頼んだことにするわ。そうすれば、王太子のままでいられるかも…!)
「だから!お嬢様はちゃんと言わないと周りはわからないんですって!」
緊張すると悪役っぽくなってしまう令嬢と、その令嬢を叱る侍女のお話。
そして、国王である父から叱られる王子様のお話。
犠牲になるのは、妹である私
木山楽斗
恋愛
男爵家の令嬢であるソフィーナは、父親から冷遇されていた。彼女は溺愛されている双子の姉の陰とみなされており、個人として認められていなかったのだ。
ソフィーナはある時、姉に代わって悪名高きボルガン公爵の元に嫁ぐことになった。
好色家として有名な彼は、離婚を繰り返しており隠し子もいる。そんな彼の元に嫁げば幸せなどないとわかっていつつも、彼女は家のために犠牲になると決めたのだった。
婚約者となってボルガン公爵家の屋敷に赴いたソフィーナだったが、彼女はそこでとある騒ぎに巻き込まれることになった。
ボルガン公爵の子供達は、彼の横暴な振る舞いに耐えかねて、公爵家の改革に取り掛かっていたのである。
結果として、ボルガン公爵はその力を失った。ソフィーナは彼に弄ばれることなく、彼の子供達と良好な関係を築くことに成功したのである。
さらにソフィーナの実家でも、同じように改革が起こっていた。彼女を冷遇する父親が、その力を失っていたのである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる