陛下を捨てた理由

甘糖むい

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侯爵家令嬢ジェニエル・フィンガルドは、幼い頃から王妃候補として育てられてきた。
数多くの候補者の中でも、ジェニエルは頭一つ抜きんでていた。
王家に忠実な家臣を父に持ち、生まれながらの美貌を備えた彼女にとって、セオドール第一王子との結婚は、ほぼ約束されたも同然だった。

年が一つしか違わないせいか、ジェニエルとセオドールは幼い頃から兄妹のように遊び、年頃になると周囲の貴族たちからも「お似合いだ」と噂されていた。
そんな関係を築いていたジェニエルは、自分が王妃になることを疑わなかった。

16歳になると、セオドールも本格的に剣術や戦場に赴くようになり、毎日顔を合わせていた日々は、週に一度、月に一度へと減っていった。
ジェニエルは、彼のためにハンカチに刺繍をしたり、王妃教育に勤しむ忙しい日々を送るようになった。
いつの間にか、二人は本気で笑い合うことも少なくなり、悲しむよりも国の未来を真剣に語り合うようになった。

国のためにできることを考える気持ちは、いつしかセオドールを支えたいという思いに変わり、ジェニエルの行動原理となった。
朝も夕も王妃教育に励み、国母としての努力を惜しまなかった。

そして20歳。
ジェニエルはセオドールと結婚した。
国で最も美しく、才知に優れた彼女にとって、セオドールとの結婚は当然の結果であった。

同性の令嬢たちに憧れられ、異性には称賛される。
パーティーに出れば誰よりも注目を浴びる。
ジェニエルは理想の女性として、セオドールの隣に立つために、日々の努力と自信を持っていた。

順当に結婚式を終えて3年。
国の良き母であろうと努力してきたジェニエルに、ひそやかな噂が立ちはじめる。

――お世継ぎが生まれないのはジェニエル様に問題があるらしい。

その声はどこからともなく現れ、何の傷もなかった王妃像を簡単に打ち砕いた。
一度傷がつけば、次から次へと嫌な噂や陰口が彼女に向かい、尾びれ背びれがついた噂は世間に広まり、最終的にはまたジェニエルの元へと戻ってくる。

「ジェニエル様に問題があるだなんてぇ!!」

身支度を手伝うメイド、エレナが声を荒げた。
ジェニエルがセオドールと結婚した際に、新しく侍女としてつきたいと志願してきてくれたまだ18歳になったばかりの彼女は少々気性が荒かった。

「気持ちはわかりますが、ジェニエル様の前ですよ、エレナ」
「あっ、申し訳ございません、ジェニエル様!」
「いいのよ、いつもありがとう、エレナ。貴方たちが真実を知ってくれているだけで、私は十分よ」

嗜める言葉を発したのは、ジェニエルが小さい頃からずっと世話をしてくれているメイラードだった。 彼女は一人で王宮に行くジェニエルを心配してついてきてくれた心優しい女性で、エレナとは親子のようなやり取りをしてジェニエルを癒してくれる。

「私に問題があるのは間違ってはいないもの……」

そう言ってジェニエルは窓から見える所で親し気に女性と庭の散策をするセオドールにため息をついた。
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