陛下を捨てた理由

甘糖むい

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それは、オリヴィアを伴ってセオドールが城に戻ってきたその日の夜のことだった。
重く沈む空気の中で、二人は形式だけの夕食を囲んでいた。
金と白の陶器に盛られた料理はどれも一流のはずなのに、味も香りもまるで感じなかった。

いつもなら、まず城を空けたことを詫びる言葉があるはずだった。
軽やかに外での出来事を語り、珍しいものを見た話、各地の評判、時にはオリヴィアの見解を交えて笑い合う。
そんな仲睦まじい夫婦の時間は、もう存在していなかった。

まるで凍りついた湖のように、食堂の空気は張りつめていた。

セオドールは黙々と目の前の料理を口に運び、淡々とナイフとフォークを操っていた。
彼の指先に込められた力も、表情のひとつひとつもどこか遠く。
ジェニエルには他人のもののように思えた。

ジェニエルは、ずっと彼の様子を伺っていた。
だが、その視線にセオドールが応えることはない。
まるでそこにジェニエルなど存在しないかのように、彼は皿の上だけを見つめていた。

――まさか、本当に記憶を失ってしまっているのでは?

その疑念が、脳裏にこびりついて離れなかった。
あまりにもよそよそしくあまりにも無関心な態度に、言葉を飲み込むしかなかった。

そんな時だった。

「……さっきから視線がうるさい」

そう呟いたセオドールの声は、食器の音よりも冷たく静かに響いた。
突然の指摘にジェニエルはびくりと肩を揺らし、すぐにカトラリーを置いて頭を下げた。

「申し訳ございません……」

その言葉にセオドールは返答せず、代わりに小さくため息をついた。
手元のワイングラスを持ち上げ、赤い液体をゆっくりと回している。
まるで、それが彼の心の渦を代弁しているかのように、ゆらゆらと波紋が広がった。

ジェニエルは、問いかけたかった。
どうして私のことを避けるのですか?と。
けれど、それは口にできなかった。
彼が何も覚えていないのかもしれないという恐れと、違っていたら取り返しのつかないことになるという恐怖とが、彼女の舌を縛っていた。

そんなジェニエルの悩みも知らないセオドールは、口元を拭うと静かに問いかけた。

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