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「陛下、今回も……」
滴る汗を拭う医者に、セオドールはわかりやすくため息をついた。
処刑台にでも横たわるかのようなベッドの上で身を横たえたジェニエルを見下ろすその目は冷たく、言葉にしなくとも、彼の思っていることが手に取るようにわかる。
「今度から定期検診は一人で受けてくれ」
「陛下、それは……」
医者が咎めるように声を上げようとした瞬間、ジェニエルは制止した。
余計なことを言えば、彼女もまた他の者たちと同じように、仕事を取り上げられてしまうかもしれない。
静かに二人の様子を見ていたセオドールは、皮肉めいた笑みを頬に浮かべた。
「子供ができたら、連絡をしてくれ」
「……わかりました」
医者に支えられながら身を起こしたジェニエルは頭を下げる。だが、セオドールは一度も彼女を顧みることなく、部屋を出ていった。
「……どんな難病も治せる癒しの力があっても、自分の体は治療できないようだな」
意地悪く笑う彼の姿は、ジェニエルの知らない別人のようだった。
セオドールと結婚してから三年。
一国の国母となったジェニエルは、いまだ子を成したことがなかった。
「ジェニエル様……」
「いいのよ、貴方はよくやってくれているわ」
幼い頃から祖母のように慕う医者の、泣き出しそうな表情に、ジェニエルはすべてを隠す笑みで答えるしかなかった。
薄い自分のお腹に手を当てる。
月に一度、決まった時間に行われる自室での妊娠検査は、じわじわと彼女を蝕んでいた。
元々細かった食事は、不妊のストレスからさらに細くなり、甘いもの以外はほとんど喉を通らない生活が続く。
「もっと食べないといけませんよ」
自分より一回り小さい、皴だらけの手がそっと乗り、優しく握られる。
昔から体温の低いジェニエルとは違い、真冬でも温かな手は、冷え切った心まで温めてくれるようだった。
「どうして陛下はジェニエル様ばかり責められるのでしょう……」
「それは……私が子を宿せないからよ」
「いいえ、子を成すことは片方だけの努力でできるものではありません」
力強い否定の言葉ではなく、ジェニエルを包む慰めは優しかった。
「ミギー……」
「まずはお食事をしっかりとってください。子のことは、それから考えましょう」
「ええ、ありがとう」
王妃である以上、避けては通れない役目を後回しにしてもいいと言ってくれるのは、ほんの数少なかった。
誰もが言葉にしないが、皆がジェニエルの懐妊を心待ちにしており、その重圧は日々、確実に彼女にのしかかっていた。
滴る汗を拭う医者に、セオドールはわかりやすくため息をついた。
処刑台にでも横たわるかのようなベッドの上で身を横たえたジェニエルを見下ろすその目は冷たく、言葉にしなくとも、彼の思っていることが手に取るようにわかる。
「今度から定期検診は一人で受けてくれ」
「陛下、それは……」
医者が咎めるように声を上げようとした瞬間、ジェニエルは制止した。
余計なことを言えば、彼女もまた他の者たちと同じように、仕事を取り上げられてしまうかもしれない。
静かに二人の様子を見ていたセオドールは、皮肉めいた笑みを頬に浮かべた。
「子供ができたら、連絡をしてくれ」
「……わかりました」
医者に支えられながら身を起こしたジェニエルは頭を下げる。だが、セオドールは一度も彼女を顧みることなく、部屋を出ていった。
「……どんな難病も治せる癒しの力があっても、自分の体は治療できないようだな」
意地悪く笑う彼の姿は、ジェニエルの知らない別人のようだった。
セオドールと結婚してから三年。
一国の国母となったジェニエルは、いまだ子を成したことがなかった。
「ジェニエル様……」
「いいのよ、貴方はよくやってくれているわ」
幼い頃から祖母のように慕う医者の、泣き出しそうな表情に、ジェニエルはすべてを隠す笑みで答えるしかなかった。
薄い自分のお腹に手を当てる。
月に一度、決まった時間に行われる自室での妊娠検査は、じわじわと彼女を蝕んでいた。
元々細かった食事は、不妊のストレスからさらに細くなり、甘いもの以外はほとんど喉を通らない生活が続く。
「もっと食べないといけませんよ」
自分より一回り小さい、皴だらけの手がそっと乗り、優しく握られる。
昔から体温の低いジェニエルとは違い、真冬でも温かな手は、冷え切った心まで温めてくれるようだった。
「どうして陛下はジェニエル様ばかり責められるのでしょう……」
「それは……私が子を宿せないからよ」
「いいえ、子を成すことは片方だけの努力でできるものではありません」
力強い否定の言葉ではなく、ジェニエルを包む慰めは優しかった。
「ミギー……」
「まずはお食事をしっかりとってください。子のことは、それから考えましょう」
「ええ、ありがとう」
王妃である以上、避けては通れない役目を後回しにしてもいいと言ってくれるのは、ほんの数少なかった。
誰もが言葉にしないが、皆がジェニエルの懐妊を心待ちにしており、その重圧は日々、確実に彼女にのしかかっていた。
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