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1.転職先は魔王城
3話
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勢いに任せて椅子に座ってしまったお尻が、緊張のせいでジリジリと熱い。
シオンが着座する様子を見ていた三人も微動だにせず、一瞬しんと水を打ったような静けさがあたりを包んだ。
この場の緊張感をどう捉えてよいのかわからないまま、まずは先方が口を開くのをじっと待つ。
すると、シオンのちょうど真正面に座る金髪の男性から、隠すことなく、あまりにも堂々とこちらを値踏みするような視線が送られていることに気づいた。
チャラチャラとした雰囲気からは想像できないその鋭い視線に、シオンは思わず一瞬身構える。
それに気づいたのか、彼はわざとらしく両手を顔の横に挙げながら破顔一笑した。
細められた目に煌めく瞳は、淡い桃色をしている。
これは流石にカラコンだろうか?
周りの二人と比べてやや幼い顔立ちをしている彼に、その甘い色合いがよく似合う。
「やあ、ごめんごめん驚いたよね。"君たちの世界"でいう"面接"っていうものをできるだけ再現してみようと思って色々試行錯誤したんだけど」
そう言いながら、金髪の男性は机や椅子、会議室のような部屋一帯をくるりと指さした。
「結果、こんな仕上がりになったんだけど……その反応を見るに、やっぱり評価はイマイチみたいだねえ」
からからと笑いながら、彼はシオンの履歴書を手に取った。
こちらの評価を気にしているような話をしておきながら、その言葉に対するシオンの表情や反応には一切興味がない異様な振る舞いが、彼の異様さを引き立てている。
彼は時折履歴書を指先でなぞる仕草を見せながら、書かれた文字にするすると視線を滑らせる。
「うちはね、住み込みで衣食住は完全補償だよ。ただしこれまでの人間関係とは一切隔絶されたところでのお仕事。君の経験は活かせる……というか活かしてもらわないと困るかな」
全くこちらを見ずにぺらぺらと喋りだすその姿を見て、シオンの恐怖心が一気に煽られる。
不安が自分の眉あたりににじみ出ているような気がしながら、シオンはじっと彼の見事な金髪がゆらりと揺れるのを眺めていた。
すると、彼がふと顔を上げ、パチリと目が合う。
こちらの反応を伺うようにじっと目を見据えられたまま、しばし双方無言の時間が流れた。
バッグの中にしまってある腕時計の、奇妙なほど滑らかにくるくる動く針の音すらも気になってしまう程の静寂だ。
(きっ……気まずい!気まずすぎる!!やっぱり新手の圧迫面接なの!?)
こちらの目を見ているようで、見ていないような。
どちらかというと頭のずっと奥を何か探られているかのような違和感に、一層の居心地悪さを感じる。
耐えがたく、シオンは思わず彼からバッと目をそらした。
シオンのその反応を見てか、椅子に腰かける三人が一瞬驚いた顔をする。
両端の男女が、中央の金髪の男性にちらりと視線を送った。
金髪の男性はそれを見てなぜだか満足そうにニコニコと笑うと、彼らの視線に答えるように高らかに言った。
「ほらね、耐性持ちだ。俺の言った通りだったでしょ?」
「ええ……、それに”複数持ち”ですね」
(ちょっと……身内で盛り上がらないでよー!!)
しかも、もしかしてやっぱり真ん中に座っている金髪の男性が決定権者なの?と絶望感に苛まれる。
無理だ。ノリもソリも、全てが合わない気がしてならない。
もはや泣き出しそうな気持ちで冷や汗をかきながら視線をさまよわせていると、茶髪の女性がやや態度を軟化させた様子で穏やかに語りかけてきた。
「ごめんなさい、貴女には理解の及ばないことばかりでしょう。これから一つずつ説明していくけれど……貴女の手元にある選択肢はそう多くはない、ということは最初に伝えておかなければならないの」
透き通った、芯のある声だ。
相手を落ち着かせる、包み込むような彼女の声に一瞬好感を持ちそうになった。だが、ちょっと待て。
聞き捨てならない言葉が並び立てられていたような気がする。
「えっと……どういう、ことですか?」
努めて冷静に、シオンは質問を投げかける。
「まず、今の貴女の状況を説明するわ。貴女は今、"元いた世界"にも、"私たちの世界"にも属していない……どこにも属さない、言わば“宙に浮いた存在”なの」
茶髪の女性がパチンと指を鳴らすと、シオンの目の前でホログラムのように映像がふわりと立ち上がった。
徐々にピントが合わされるように、ぼんやりとした背景が少しずつくっきりとしていく。
あまりにも見慣れた風景だ。
音声は無く、ただ通りの様子が映し出されているが、毎日聞こえる車の音や、バス停の前で挨拶を交わしあっている学生の声が鮮明に思い出される。
そこは毎朝、毎晩通勤のたびに使う最寄りの駅へと向かう道で、曲がり角にはお気に入りのパン屋がある。
尤も、ここ数年は休日どこかに出かけることも減り、なかなか立ち寄る機会はなかったのだけれど。
少しずつ鮮明になっていく映像の中心には、そんないつもの道をうつむき加減に歩くシオンの姿が映し出されていた。
服装は、会社に向かうときのオフィスカジュアル。
毎日のコーディネートを考える時間もゆとりも無くて、一週間を制服のようにローテーションして着ている。
いったい、これはいつの映像?
今日なのだろうか。
それならば、やはり今日は仕事の日だったんだ。
今さらどうしようもないけれど、着手するはずだった仕事の山に思いを馳せて一瞬気が遠くなる。
(でも一体どこから、何のためにこんな撮影を?)
カメラアングルはゆっくりと切り替わり、中心には常にシオンがいる。
つまりこの映像は、シオンを捉えるために撮影されているということだ。
気味の悪さに戸惑いを感じながらも、シオンはその映像をじっと見つめる。
通学の自転車に追い越されながら、横断歩道を渡る。
時々使う郵便ポストを通り過ぎ、いつもの駅に向かって歩みを進めていく様子が淡々と映し出されていた。
ややあって、映像の中の彼女はよろりと体を揺らめかす。
一瞬棒立ちになってから胸元を抑えると、ふらつきながらその場にしゃがみ込んだ。
(なに、これ……でも私……)
なぜか、覚えがある。
どくどくと自分の心臓が脈打っている音が耳に響き始める。
緊張で乾いた唇が呼吸に合わせて震え、すっと血の気が引いていくのを感じながら、それでもなおその映像から目を離すことができなかった。
画面の中でしゃがみ込む自分が、より一層小さく体を折りたたむように地面に手をつき、道路に倒れ込む。
覚えている。
鼻先に感じた、アスファルトの匂いを。
遠くで聞こえる、こちらに呼びかける街の人の声を。
自分の身に起きた、この出来事を。
あまりの恐怖に、たまらずシオンは震える手で口元を覆う。
……その瞬間に、映像がふっとかき消えた。
シオンが着座する様子を見ていた三人も微動だにせず、一瞬しんと水を打ったような静けさがあたりを包んだ。
この場の緊張感をどう捉えてよいのかわからないまま、まずは先方が口を開くのをじっと待つ。
すると、シオンのちょうど真正面に座る金髪の男性から、隠すことなく、あまりにも堂々とこちらを値踏みするような視線が送られていることに気づいた。
チャラチャラとした雰囲気からは想像できないその鋭い視線に、シオンは思わず一瞬身構える。
それに気づいたのか、彼はわざとらしく両手を顔の横に挙げながら破顔一笑した。
細められた目に煌めく瞳は、淡い桃色をしている。
これは流石にカラコンだろうか?
周りの二人と比べてやや幼い顔立ちをしている彼に、その甘い色合いがよく似合う。
「やあ、ごめんごめん驚いたよね。"君たちの世界"でいう"面接"っていうものをできるだけ再現してみようと思って色々試行錯誤したんだけど」
そう言いながら、金髪の男性は机や椅子、会議室のような部屋一帯をくるりと指さした。
「結果、こんな仕上がりになったんだけど……その反応を見るに、やっぱり評価はイマイチみたいだねえ」
からからと笑いながら、彼はシオンの履歴書を手に取った。
こちらの評価を気にしているような話をしておきながら、その言葉に対するシオンの表情や反応には一切興味がない異様な振る舞いが、彼の異様さを引き立てている。
彼は時折履歴書を指先でなぞる仕草を見せながら、書かれた文字にするすると視線を滑らせる。
「うちはね、住み込みで衣食住は完全補償だよ。ただしこれまでの人間関係とは一切隔絶されたところでのお仕事。君の経験は活かせる……というか活かしてもらわないと困るかな」
全くこちらを見ずにぺらぺらと喋りだすその姿を見て、シオンの恐怖心が一気に煽られる。
不安が自分の眉あたりににじみ出ているような気がしながら、シオンはじっと彼の見事な金髪がゆらりと揺れるのを眺めていた。
すると、彼がふと顔を上げ、パチリと目が合う。
こちらの反応を伺うようにじっと目を見据えられたまま、しばし双方無言の時間が流れた。
バッグの中にしまってある腕時計の、奇妙なほど滑らかにくるくる動く針の音すらも気になってしまう程の静寂だ。
(きっ……気まずい!気まずすぎる!!やっぱり新手の圧迫面接なの!?)
こちらの目を見ているようで、見ていないような。
どちらかというと頭のずっと奥を何か探られているかのような違和感に、一層の居心地悪さを感じる。
耐えがたく、シオンは思わず彼からバッと目をそらした。
シオンのその反応を見てか、椅子に腰かける三人が一瞬驚いた顔をする。
両端の男女が、中央の金髪の男性にちらりと視線を送った。
金髪の男性はそれを見てなぜだか満足そうにニコニコと笑うと、彼らの視線に答えるように高らかに言った。
「ほらね、耐性持ちだ。俺の言った通りだったでしょ?」
「ええ……、それに”複数持ち”ですね」
(ちょっと……身内で盛り上がらないでよー!!)
しかも、もしかしてやっぱり真ん中に座っている金髪の男性が決定権者なの?と絶望感に苛まれる。
無理だ。ノリもソリも、全てが合わない気がしてならない。
もはや泣き出しそうな気持ちで冷や汗をかきながら視線をさまよわせていると、茶髪の女性がやや態度を軟化させた様子で穏やかに語りかけてきた。
「ごめんなさい、貴女には理解の及ばないことばかりでしょう。これから一つずつ説明していくけれど……貴女の手元にある選択肢はそう多くはない、ということは最初に伝えておかなければならないの」
透き通った、芯のある声だ。
相手を落ち着かせる、包み込むような彼女の声に一瞬好感を持ちそうになった。だが、ちょっと待て。
聞き捨てならない言葉が並び立てられていたような気がする。
「えっと……どういう、ことですか?」
努めて冷静に、シオンは質問を投げかける。
「まず、今の貴女の状況を説明するわ。貴女は今、"元いた世界"にも、"私たちの世界"にも属していない……どこにも属さない、言わば“宙に浮いた存在”なの」
茶髪の女性がパチンと指を鳴らすと、シオンの目の前でホログラムのように映像がふわりと立ち上がった。
徐々にピントが合わされるように、ぼんやりとした背景が少しずつくっきりとしていく。
あまりにも見慣れた風景だ。
音声は無く、ただ通りの様子が映し出されているが、毎日聞こえる車の音や、バス停の前で挨拶を交わしあっている学生の声が鮮明に思い出される。
そこは毎朝、毎晩通勤のたびに使う最寄りの駅へと向かう道で、曲がり角にはお気に入りのパン屋がある。
尤も、ここ数年は休日どこかに出かけることも減り、なかなか立ち寄る機会はなかったのだけれど。
少しずつ鮮明になっていく映像の中心には、そんないつもの道をうつむき加減に歩くシオンの姿が映し出されていた。
服装は、会社に向かうときのオフィスカジュアル。
毎日のコーディネートを考える時間もゆとりも無くて、一週間を制服のようにローテーションして着ている。
いったい、これはいつの映像?
今日なのだろうか。
それならば、やはり今日は仕事の日だったんだ。
今さらどうしようもないけれど、着手するはずだった仕事の山に思いを馳せて一瞬気が遠くなる。
(でも一体どこから、何のためにこんな撮影を?)
カメラアングルはゆっくりと切り替わり、中心には常にシオンがいる。
つまりこの映像は、シオンを捉えるために撮影されているということだ。
気味の悪さに戸惑いを感じながらも、シオンはその映像をじっと見つめる。
通学の自転車に追い越されながら、横断歩道を渡る。
時々使う郵便ポストを通り過ぎ、いつもの駅に向かって歩みを進めていく様子が淡々と映し出されていた。
ややあって、映像の中の彼女はよろりと体を揺らめかす。
一瞬棒立ちになってから胸元を抑えると、ふらつきながらその場にしゃがみ込んだ。
(なに、これ……でも私……)
なぜか、覚えがある。
どくどくと自分の心臓が脈打っている音が耳に響き始める。
緊張で乾いた唇が呼吸に合わせて震え、すっと血の気が引いていくのを感じながら、それでもなおその映像から目を離すことができなかった。
画面の中でしゃがみ込む自分が、より一層小さく体を折りたたむように地面に手をつき、道路に倒れ込む。
覚えている。
鼻先に感じた、アスファルトの匂いを。
遠くで聞こえる、こちらに呼びかける街の人の声を。
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