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2.すこや課、現場入りします
6話
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◇
「ふあぁ……よく寝た」
シオンは、寝起きが良いほうだと自負している。
テントに持ち込んだ寝具は、決して体に優しいとは言えない硬さだ。
しかし、一日しっかりと働いた後の心地よい疲労感が、どうやらそれすらも帳消しにしてくれたらしい。
おかげで、テントをバタバタと叩く夜風の音も、マットの硬さも気にならず、ぐっすり眠ることができていた。
「シオンさん、おはようございます!あの……具合はどうですか?」
同じテントで夜を明かしていたカイレンが、シオンの声に気がついて遠慮がちに問いかけてくる。
その声を聞いて、シオンの心がじんわりと温かくなった。
カイレンは、昨日付き添ってくれた時も、とにかくシオンの体調を心配してくれていた。
おそらく今も、いつもよりも早めに起きてシオンの様子に変わりないかを見守ってくれていたのだろう。
なんとありがたいことなのだろう。
正直、そんな気遣いを受けることが申し訳なくなるほど、今のシオンの体調には何の問題もなかった。
自分でも意外なほどに、体の怠さも、気持ちの曇りも感じなかったのだ。
それはきっと、親身に寄り添ってくれたカイレンのお陰であり、迅速に人を呼んで対処してくれたレヴィアスの配慮のおかげなのだろう。
「ありがとう、本当にすっかり大丈夫みたい」
なんだかお腹がすいたね、とシオンが笑うと、カイレンは安心したようにフフッと微笑む。
カイレンが笑うのに合わせて、彼女がいつも身に着けているチョーカーを飾る赤い石が、きらりと光った。
「じゃーん!」
カイレンが、後ろ手に隠していたバスケットから、シェフご自慢のふかふかパンで作られたフルーツサンドを取り出す。
彼女は切り口から溢れそうなほどたっぷりのクリームとフルーツが挟まれたそれを、ウキウキとした様子でシオンに手渡してくれた。
「朝食に甘いのとしょっぱいのが用意されていたんですが、疲れた体には甘いもの!と思いまして」
「最高のチョイスだわ、カイレン。私たちの連日の疲労に、乾杯!」
体調は万全でも、疲労がないとは言っていない。
ああ、毎日の心地よい疲労……と自分たちに言い聞かせながら、カイレンとシオンはここまで二人三脚で頑張ってきたのだ。
そんな二人で一緒に食べるフルーツサンドの甘みが、それぞれの体に染み渡っていくような気がした。
「……それでですね、シオンさん。これはシオンさんの判断に任せますし、無理にということは絶対にないんですが」
「うん?」
カイレンは少し迷ったような顔をして、一瞬口ごもる。
それにしても、随分と勿体ぶった前置きだ。
カイレンは躊躇いを吹き飛ばすように、勢いをつけてもう一口、まるで宝石が散りばめられたかのように輝くフルーツサンドをほおばってから、シオンの目を見て言葉をつづけた。
「ガルオン……青毛のワーウルフが、もう一度ちゃんと話したいと申し入れてきています」
正直、それはシオンにとって意外な言葉だった。
目の前であんな風に倒れ込んでしまったシオンの姿を見て、彼はすっかり呆れているだろうと思っていたからだ。
シオンの弱さを嫌っているのであろう彼が、それを目の当たりにしてなおシオンと話したがる理由が見当たらない。
むしろ、もう目の前に現れないようにしてくれ、と言われるほうが、まだ想像がつく。
「ちゃんと話したい、って一体何だろう」
「その……レヴィアス様が言うには、彼には謝罪の意志があるとかで」
「えっ?」
その言葉に、思わず少し困惑したような声が漏れてしまう。
それを聞いたカイレンが、慌てた様子で付け足した。
「あの、レヴィアス様も、体調を優先しなさいと仰っていました。謝罪を受ける義務はないし、それは本人も理解していると」
(ああ、結局、多忙なレヴィアスさんに仲介してもらうことになってしまった)
自分の弱いところが出てしまったばかりに、彼の手を煩わせてしまったことに、少しの自己嫌悪が湧き上がる。
それと同時に、普段は誰がどう思っていようとどこ吹く風、という様子で飄々としているレヴィアスが、こちらの心情を優先した提案をしてくれていることに少々驚いた。
「なんだか意外……って言うと失礼だよね」
今回のことも、仕事の流れを悪くしてしまうようなトラブル、と言ってしまえばそれまでだと思っていた。
バルドラッドが普段レヴィアスのことを鉄面皮だの朴念仁だのと言っているので、ついそんな目で見てしまっていたことを反省する。
「あ、いえ、正直私もびっくりしています。種族間のイザコザとか、そういうものはひと睨みして、場を凍らせて去っていくタイプの方だと思っていたので」
けろっとした顔で、ものすごいことをカイレンが言ってのける。
悪びれた様子が全くないので、もしかしたら実際に近しい事例が存在するのかもしれない。
それにしても、時々こういうことを悪意なく言うものだから、カイレンには驚かされる。
「えっと、じゃあガルオンさんに、お昼休憩にでもお会いしましょう、って伝えてもらえるかな」
「はい、でも本当に大丈夫ですか?」
「うん、野外の休憩所で話が出来ると嬉しいかな。あと……カイレン、一緒に来てくれる?」
ガルオンと会話すること自体に恐怖があるわけではない。
嫌われているのだろうと自覚している相手と向き合うのは簡単なことではないけれど、それでもシオンは彼との対話を拒むつもりはなかった。
どちらかというと、自分の心身が昨夜と同じような反応をしてしまい、きちんと話ができないままに迷惑をかけてしまうことを避けたい、ということを念頭に置いて同席を頼んだのだ。
「もちろんです。……じゃあ、レヴィアス様にもそう伝えますね」
ありがとう、とカイレンにお礼を告げて、シオンはフルーツサンドの最後の一片を口に入れる。
じわりと口の中に広がるクリームの甘みと、プチっとはじける果実の酸味は、少しだけ落ち着かない気持ちをごまかすのにぴったりだった。
「ふあぁ……よく寝た」
シオンは、寝起きが良いほうだと自負している。
テントに持ち込んだ寝具は、決して体に優しいとは言えない硬さだ。
しかし、一日しっかりと働いた後の心地よい疲労感が、どうやらそれすらも帳消しにしてくれたらしい。
おかげで、テントをバタバタと叩く夜風の音も、マットの硬さも気にならず、ぐっすり眠ることができていた。
「シオンさん、おはようございます!あの……具合はどうですか?」
同じテントで夜を明かしていたカイレンが、シオンの声に気がついて遠慮がちに問いかけてくる。
その声を聞いて、シオンの心がじんわりと温かくなった。
カイレンは、昨日付き添ってくれた時も、とにかくシオンの体調を心配してくれていた。
おそらく今も、いつもよりも早めに起きてシオンの様子に変わりないかを見守ってくれていたのだろう。
なんとありがたいことなのだろう。
正直、そんな気遣いを受けることが申し訳なくなるほど、今のシオンの体調には何の問題もなかった。
自分でも意外なほどに、体の怠さも、気持ちの曇りも感じなかったのだ。
それはきっと、親身に寄り添ってくれたカイレンのお陰であり、迅速に人を呼んで対処してくれたレヴィアスの配慮のおかげなのだろう。
「ありがとう、本当にすっかり大丈夫みたい」
なんだかお腹がすいたね、とシオンが笑うと、カイレンは安心したようにフフッと微笑む。
カイレンが笑うのに合わせて、彼女がいつも身に着けているチョーカーを飾る赤い石が、きらりと光った。
「じゃーん!」
カイレンが、後ろ手に隠していたバスケットから、シェフご自慢のふかふかパンで作られたフルーツサンドを取り出す。
彼女は切り口から溢れそうなほどたっぷりのクリームとフルーツが挟まれたそれを、ウキウキとした様子でシオンに手渡してくれた。
「朝食に甘いのとしょっぱいのが用意されていたんですが、疲れた体には甘いもの!と思いまして」
「最高のチョイスだわ、カイレン。私たちの連日の疲労に、乾杯!」
体調は万全でも、疲労がないとは言っていない。
ああ、毎日の心地よい疲労……と自分たちに言い聞かせながら、カイレンとシオンはここまで二人三脚で頑張ってきたのだ。
そんな二人で一緒に食べるフルーツサンドの甘みが、それぞれの体に染み渡っていくような気がした。
「……それでですね、シオンさん。これはシオンさんの判断に任せますし、無理にということは絶対にないんですが」
「うん?」
カイレンは少し迷ったような顔をして、一瞬口ごもる。
それにしても、随分と勿体ぶった前置きだ。
カイレンは躊躇いを吹き飛ばすように、勢いをつけてもう一口、まるで宝石が散りばめられたかのように輝くフルーツサンドをほおばってから、シオンの目を見て言葉をつづけた。
「ガルオン……青毛のワーウルフが、もう一度ちゃんと話したいと申し入れてきています」
正直、それはシオンにとって意外な言葉だった。
目の前であんな風に倒れ込んでしまったシオンの姿を見て、彼はすっかり呆れているだろうと思っていたからだ。
シオンの弱さを嫌っているのであろう彼が、それを目の当たりにしてなおシオンと話したがる理由が見当たらない。
むしろ、もう目の前に現れないようにしてくれ、と言われるほうが、まだ想像がつく。
「ちゃんと話したい、って一体何だろう」
「その……レヴィアス様が言うには、彼には謝罪の意志があるとかで」
「えっ?」
その言葉に、思わず少し困惑したような声が漏れてしまう。
それを聞いたカイレンが、慌てた様子で付け足した。
「あの、レヴィアス様も、体調を優先しなさいと仰っていました。謝罪を受ける義務はないし、それは本人も理解していると」
(ああ、結局、多忙なレヴィアスさんに仲介してもらうことになってしまった)
自分の弱いところが出てしまったばかりに、彼の手を煩わせてしまったことに、少しの自己嫌悪が湧き上がる。
それと同時に、普段は誰がどう思っていようとどこ吹く風、という様子で飄々としているレヴィアスが、こちらの心情を優先した提案をしてくれていることに少々驚いた。
「なんだか意外……って言うと失礼だよね」
今回のことも、仕事の流れを悪くしてしまうようなトラブル、と言ってしまえばそれまでだと思っていた。
バルドラッドが普段レヴィアスのことを鉄面皮だの朴念仁だのと言っているので、ついそんな目で見てしまっていたことを反省する。
「あ、いえ、正直私もびっくりしています。種族間のイザコザとか、そういうものはひと睨みして、場を凍らせて去っていくタイプの方だと思っていたので」
けろっとした顔で、ものすごいことをカイレンが言ってのける。
悪びれた様子が全くないので、もしかしたら実際に近しい事例が存在するのかもしれない。
それにしても、時々こういうことを悪意なく言うものだから、カイレンには驚かされる。
「えっと、じゃあガルオンさんに、お昼休憩にでもお会いしましょう、って伝えてもらえるかな」
「はい、でも本当に大丈夫ですか?」
「うん、野外の休憩所で話が出来ると嬉しいかな。あと……カイレン、一緒に来てくれる?」
ガルオンと会話すること自体に恐怖があるわけではない。
嫌われているのだろうと自覚している相手と向き合うのは簡単なことではないけれど、それでもシオンは彼との対話を拒むつもりはなかった。
どちらかというと、自分の心身が昨夜と同じような反応をしてしまい、きちんと話ができないままに迷惑をかけてしまうことを避けたい、ということを念頭に置いて同席を頼んだのだ。
「もちろんです。……じゃあ、レヴィアス様にもそう伝えますね」
ありがとう、とカイレンにお礼を告げて、シオンはフルーツサンドの最後の一片を口に入れる。
じわりと口の中に広がるクリームの甘みと、プチっとはじける果実の酸味は、少しだけ落ち着かない気持ちをごまかすのにぴったりだった。
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