魔王城すこや課、本日も無事社畜です!

ハルタカ

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2.すこや課、現場入りします

7話

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 真っすぐなシオンの視線に耐え切れないというように、ガルオンは弱々しく俯いた。

「あんたは、他の魔物たちとも上手くやっているようだったし……ここが居心地良くなっちまったら、もう後には引けなくなるんじゃないかって」


 だから、言わなくていいことまでつい……と言って、ガルオンは一層小さく体を丸める。
 

「ガルオンさん、めちゃくちゃ私のこと心配してくれてたんですね」
 

 確かに、彼の言葉にはとげがあり、威圧的だった。

 客観的に見て同僚に対する態度としては、適切ではなかったと思う。

 それでも、シオンは不思議と彼の行動が悪意ある嫌がらせだとは感じていなかったのだ。


 ね?ともう一度声をかけ、シオンはガルオンの顔を覗き込む。

「うっ……」

 彼は少し照れたような、あるいは拗ねたような顔をしてそっぽを向いた。

 業務上の会話をしに行った時の様子を思い出せば、いかに彼が生真面目で仲間思いであるかがよくわかる。

 シオンのことを邪険に扱いながらも、なんだかんだで質問に対する返答は正確で、出てくる意見も建設的なのだ。


「心配してくれて、ありがとうございます」


 シオンはそう言って笑った。

 大きな体を小さく縮こまらせながら、ガルオンはちらりと視線をあげてシオンの様子をうかがっている。
 
「でもね、ガルオンさん。私、魔王城以外に帰る場所がないんです」

 元の世界で住んでいた、自分のアパートがぼんやりと脳裏に浮かぶ。

 あの小さくて、飾り気のない簡素な部屋が、シオンの帰る場所のはずだった。
 正直、思い出という思い出がたくさんあったわけではない。

 早朝家を出て、夜中に帰ってきて寝るだけ。
 それでも確かに、あの場所はシオンの帰る場所だった。
 
 地元を出てどのくらい経っただろう。
 盆も正月もほとんど顔を出してあげられなかった両親。

 社会人になる前は頻繁に連絡をとっていた学生時代の友人たち。

 それから同僚。

 
 関係の濃い薄いはあれど、彼らとは再び言葉を交わすことができないのだ。

 そう思うと、自分のあのような最期を呪いたくなる。


「ご存じのとおり、私は転生者なので……ここにしがみついて、なんとか頑張ってやろうと思ってます」


 シオンは、暗い気持ちを振り払うように笑いながらファイティングポーズをとる。
 

「……変なやつ」


 全く様になっていないその姿に、ガルオンが苦笑する。

「まあ、こうなったら仕方ないから、俺も守ってやるし……しぶとく生き残れよな」

 ごめん、とガルオンは再び短く謝罪を口にして、少しだけ遠くの空を見るような目をした。


 守ることができなかった命のことを思っているのかもしれない。


 もしくは、シオンと同じように、帰る場所が失われた仲間のことを考えているのかもしれない。

 例えば、隣にいるカイレンのように。


 シオンは、ガルオンの隣で静かに微笑んだ。
 口調は相変わらず乱暴だが、幾分か彼の言動から棘が取れたようにも感じる。


「俺が言うのもなんだけど、レヴィアス様のことも頼むからな」
 
「はい!………はい?レヴィアスさんですか?」
 
「……は?」


 ガルオンは目を見開き、驚いたような顔をシオンに向ける。

 それからぎこちなくカイレンへと視線を移し、彼女に何かを問いかけるような目をした。

 その視線を受けて、カイレンは静かに首を振る。

「ね、そう思うじゃないですか?でも、違うんですよ」
 
「いや、あれは……だってあのレヴィアス様が、ああなるんだぞ?」
 
「レヴィアスさんに何かありましたか?」

 二人は、ああでもないこうでもないと、なんだか要領を得ない話をしている。

 不思議な気持ちでそんなやりとりを交互に見つめながら、シオンは首をかしげた。


「いや……何かあったと思っていたんだが、それが無かったというか、なんというか」


 ガルオンが、あまりにも奥歯にものが詰まったかのような物言いをするので、シオンはますます怪訝な顔をする。

 そして、ああ、と思い当たり手を叩いた。

「レヴィアスさんの業務負担について、ですか?安心してください、私が何とかしてノー残業デーを作ってみせます!」

 シオンは張り切って肩を回す。
 そのためには、それこそガルオンの協力も必要だ。

 何しろ、レヴィアスの負担をともに背負ってくれる右腕、左腕を育成する必要があるのだから。
 
「レヴィアスさんの負担を軽くするためには、レヴィアスさん管掌下で独自の仕組みを作るしかないと思っているんですよね」

 ガルオンはきょとんとした顔をしている。

 仕事の話になると、つい饒舌になってしまう。
 
 「指導役を担ってくれそうな若手が大切です。ほら、ガルオンさんみたいな人のことですよ。だからガルオンさん、私にしたみたいなものの言い方を、新人さんにしちゃだめですよ!」

 
 人差し指を立てて、ガルオンの顔を覗き込む。

 すっかり毒気を抜かれてしまったガルオンが、ぽかんと口を開けて頷いた。


 それを見たシオンは、思いっきり笑った。

「やあ、シオン。ちょっとこっちにも顔を貸してくれる?」

 背後から、やや間延びした印象のゆったりとした声が響いた。

「おふたりとも、お疲れ様です!」
 
 眠たげな目を細めて笑うノイルと、いつも通り凛とした表情のレヴィアスがふたり並んでそこにいた。

 タイプの異なる美が押し寄せてきて、なんだかとても眩しい。
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