魔王城すこや課、本日も無事社畜です!

ハルタカ

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3.魔道具名人(幼女)

3話

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「うんんんんまーーい!手料理が体に染みるゥゥゥ!」

 工房に響き渡る奇声。
 声の主はもちろんドランだ。

 乾燥装置についての打ち合わせが終わり、夕食に差し掛かる頃。
 夕方に差し掛かるところでドランから「工房に泊まっていけばー?」と誘いを受けたのだ。

 急げば夜中には魔王城まで戻れる、という時間ではあったが、幸いナナリーのスケジュールも翌日の昼過ぎまで空いている。
 せっかくなので、魔道具などに関する勉強も兼ねて一泊させてもらうことにした。

「お口に合いましたか?」

 ドランの行動にも、少しずつ免疫がついてきた。
 両側の頬を押さえながら足をばたつかせて叫ぶドランに、シオンは微笑みを向ける。

「泊めていただくお礼です。お弟子さんたちもたくさん食べてくださいね」

 はーい!とキラキラした明るい声をあげるのは、ドランの工房に弟子入りしている三人娘たちだ。
 ドランと彼女たちは、元々同じ地域に住んでいたドワーフで、昔から奇抜な発想と圧倒的な作業速度で目立つ存在だったドランを慕い、彼女が立ち上げた工房に押しかけてきたらしい。

「シオンちゃん! このごはん美味しい!! これなに!」

「オムライスですよ。スープは熱いので気をつけてくださいね」

 幸運なことに、この世界にもコメある。
 というか、用途や呼称が異なったとしても、食用されている作物はシオンの元いた世界にかなり近い。

 もちろん、度肝を抜かれるようなダイナミックな料理に出会うこともしばしばあるが、それでも、食文化や味覚の面で不自由を感じなかったことはありがたく、心の安らぎにもなっていた。

「クレックさんたちの料理には敵わないですけど、喜んでもらえてよかったです」

 ドランと三人娘は、ケチャップで星やハートを描いたオムライスにかぶりついている。
 工房内にあるキッチンには使用した痕跡があまりない。
 瓶詰めや、そのままかじりつける果物なんかがいくつも転がっていた。
 
「やっぱり技術者の皆さんは寝食忘れがちなんでしょうか……」

 彼女たちの健康が気がかりで、オムライスを口に運びながらシオンがぽつりと呟いた。

「んーん!なぜか料理すると素材の味を下回る結果になるから、もう素材のまま行こう!って結論になったの」

 元気よく答えてくれた三人娘たちの笑顔がまぶしい。

 魔王城内では、クレックやアニタが腕を振るう食堂のおかげで栄養面の心配はあまり必要なくなってきているものの、やはり城外に出るとそうはいかない。
 
 ……数日分作り置きをしていってあげようか。

 一人暮らしを始めたばかりの子供の家に通う親の気持ちになる。
 
「食事の宅配サービスとか、できないですかね……」

「魔王城から? あったらサイコー! でも、現実的には厳しいね」

 もごもごと咀嚼しながらドランが返事をする。

「正直、小さな包み一つ分くらいのなら魔法で転移させられるんだけど、消費する魔力量がすごいんだよね」

 周りで三人娘たちがコクコクと頷いた。
 やはりそうなのか。

 魔王城でも、物資の補給ルートの確保に毎回苦労している。
 シオンも薄々ではあるが、魔法の力を使っても物質の転移は難しいのだろうと察していた。

「私たちのゴハンのために、魔術師一人使い倒すってのは結構覚悟が必要だよね」

 ドランの言葉に合わせてキャハハと笑い声が響き、食卓に花が咲く。

 小さな食卓をみんなで囲む温かさに、シオンもつられて笑顔になった。
 食堂のように広い空間で賑やかにとる食事も楽しいが、こういった家庭的な雰囲気も懐かしい。

 小さい頃の団欒を思い出して、少しだけシオンの胸がぎゅっと締め付けられる。
 この痛みも、少しずつ遠くなっていくのだろうか。
 
「まあ、それならどちらかというと料理人を派遣するほうが現実的ね」

 スープをゆっくりと楽しみながら、ナナリーが口を開いた。
 
「各地域に調理拠点を置いて、そこから飛竜なんかで個配可能なエリア限定で食事の支援……なんてことも面白そうだけれど、まあもう少し、情勢が落ち着いてからじゃないかしら」

「んふふふ~、夢のある話っ!」

 料理人の派遣。

 魅力的だが、今の厨房メンバーに余力があるかといわれるとそうではない。
 やりたい事と、やるべきことの優先順位を考えると、なかなかすぐに答えは出なかった。

「さあ、じゃあ私は少しご飯を作り置きしていきますね。キッチンをお借りします」
「うわあ~~ん! ありがとうシオンちゃん! 寿命が百年延びるっ!」

 歓喜するドランと三姉妹たち。
 その傍らには、気まずそうに目を伏せるナナリーの姿があった。

「……ごめんなさいね、シオン。手伝いたい気持ちはあるけれど、私はキッチンに立たない方がいいタイプなの」

 シオンはナナリーをいたわるように、そっと微笑んだ。




 翌日、ドランたちに見送られながら工房を後にする。
 彼女たちはなんと惜別の涙まで流しながら、手を振ってくれた。

 昨夜シオンが作った惣菜は、さっそく彼女たちの昼食になるらしい。
 日持ちするような野菜のピクルスやジャム、塩漬けにした魚や肉など――簡単なものだが思いつく限りの作り置きだ。

 ひと仕事した心地よい疲労を感つつ、喜んでくれている彼女たちの顔を見て、ここに来てよかったと実感する。
 
 飛竜に揺られながら、背中にナナリーの体温を感じた。
 ふわりと、花のような香りが鼻をくすぐり、ドランたちではないけれど、ちょっと鼓動が高鳴った。

「数日分にしかならないですけど、ちょっとでも栄養取ってもらえると良いですね」

 心地よい達成感に、シオンは笑う。 
 彼女たちにそうしたように、自分自身にもこうして愛を向けてあげられていたならば。

 どうしようもない『たられば』に、少し苦いため息をついた。

「どうしたの?」

 ナナリーが飛竜の手綱を取りながらシオンに尋ねる。
 風の音に紛れるかと思ったのだが、ため息を悟られてしまっただろうか。

「あ……いえ、いまさら何をっていう感じなんですが」

 ふふ、と思わず笑いが漏れる。
 どちらかというと、自嘲の色を込めて。

「私も、私のことをもっと心配してあげればよかったなって……」

 ナナリーは、わずかに飛竜の速度を緩める。
 ぴゅうと風を切っていた飛竜の翼が、やわらかに空を撫でた。
 
「ナナリーさん……? わっ……」

 後ろから回されているナナリーの腕が、きゅっとシオンを包む。
 ほんの数秒。

 それから、二、三度髪を撫でられた。
 
  
 飛竜がキュウ、と小さな声で優しく鳴いた。
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