魔王城すこや課、本日も無事社畜です!

ハルタカ

文字の大きさ
27 / 84
3.魔道具名人(幼女)

4話

しおりを挟む


「はい、確かに。品質も申し分ありませんね」

 綺麗に整えられた口ひげと金縁の丸眼鏡がトレードマークの商人、ヴァルターが満足そうに微笑んだ。
 今日は、リューネリーフとハーピーの尾羽の物々交換の日だ。

 魔王城の応接室で、テーブルを挟んで向かい合う。
 シオンが魔王城に来てから初めて商談をしたのもこのヴァルターだった。
 彼からは、商談を通して人間社会での物の価値や流通、その暮らしぶりなど、色々なことを教えてもらっている。

「急なお願いだったのに、ありがとうございます。提示していただいた量のリューネリーフはすべて買い取らせていただきます」

 無事に取引がまとまり、シオンは胸をなでおろした。

 これまでも、食料品や衣料品、人間が作った魔道具などを買い付ける機会はあったものの、ここまでスピード感が求められる商談は初めてだった。
 ヴァルターも、眼鏡の奥でにっこりと目を細める。

「ひどく慌てた様子でご連絡をいただいたときは、何があったかと驚きましたよ」

「うう、すみません。でも、これで何とかなりそうです」

「それにしても、サンドワームの突然変異ですか……我々も移動中によく見かけるモンスターですからね。調査の進展を願っていますよ」

 ヴァルターが、口ひげをひと撫でしながらため息をついた。
 人間側でも今回の突然変異について何か情報を持っていないかと、魔王城に出入りのある商人には簡単に聞き取りを行っていた。
 しかし、やはり誰もが「まさか」と驚き、表情を曇らせるばかりだった。

「……おや?」
 
 少しの間をおいて、ヴァルターはシオンの手元に目を留める。
 彼は、シオンが身に着けている手袋を見ると、興味深そうに眼鏡を持ち上げた。

「あ、これですか?」

 シオンは両手をヴァルターの目の前まで持ち上げた。
 光に透けると淡いピンクや銀色の艶を放つ手袋だ。

 先日の食事のお礼に、とドランたちが帰りに持たせてくれた試作品で、履くとじんわり温かい。
 肌寒くなってきたこの季節には有難い一品だ。

「これはこれは……珍しい技術で織られた布ですね」

「えっ、そうなんですか?」

 ぎゅっと押し付けられるがままに、何もわからず受け取ってしまった。
 貴重なものなのだとしたら、本当に貰ってしまってよかったのだろうか?

 シオンは少々不安になる。

「ああ、すみません。素材自体が珍しいというよりも……一部に魔法石を砕いて作った染料が使われているようですね」
 
「魔法石を?」

「なるほど、この発想は無かった……面白いですね、これ、売れますよ」

 しげしげとシオンの両手を眺めるヴァルターに、シオンは慌てて両手を振った。

「あっ、これはちょっと、頂き物なので」

「ははは、失敬。私物を急に強請ったりはしませんよ。ですが……その技術を使った生地や衣類なんかは、特産品になるかもしれませんね」

 なんと、それは朗報だ。
 何せ魔王城では外貨が圧倒的に不足しているのだ。

「使われている魔法石は、恐らく紅水晶でしょう。炎を宿した魔法石ですが、微量を繊維に含ませることでほんのりと発熱しているんですね」

「なるほど……」

「商品化する意向があるようでしたら、ぜひお声をかけを」

 ヴァルターはにっこりと笑うと、仕立ての良いチョッキの襟をぴっと正した。

 応接室から出たところで、シオンは見送りをやんわり辞退される。
 もう何度も魔王城を訪れているヴァルターにとって、ここは馴染みの場所だ。

 「少しだけ挨拶して回りますから」と言って、結局いつも応接室のドア横で見送ることが恒例になっていた。

「ヴァルターさん、ありがとうございました。本当に助かりました」

「いえいえ、私に声をかけて下さったこと、決して後悔させませんとも。商売ですから」

 『商売ですから』

 これは、彼の口癖だ。

 バルドラッドから無理難題を押し付けられた時も、同じようにして笑っていた。
 その言葉には、どこか相手を安心させる誠実さと温かさがある。
   
 ヴァルターはチャーミングに笑って、去っていった。

(さて……あとはリューネリーフを現地に輸送して……)

 ドランからは乾燥機の最終調整が完了したという連絡を受けている。
 すでに魔道具を現地に運ぶための輸送班には、工房へと向かってもらっていた。
 
 幸い、ナナリーが栽培したサンプル用のリューネリーフでの試験結果も良好だ。
 わずか一割のロスで、質の良い状態のまま植物体を乾燥させることに成功したのだ。
 
 城門付近に積んでもらったリューネリーフの出発を見送ろうと、シオンは廊下を歩きだす。
 手袋の件も、良い話を聞くことが出来た。

 今回の件が落ち着いたら、ドランたちに商品化の相談をしてみよう――そんなことを考えながら、足取りは自然と軽くなった。

(あら、カイレンだわ)

 陽当たりの良い大窓の下で、カイレンがヴァルターと立ち話をしている。
 カイレンの手には小さな手提げ袋と、可愛い容器に入った軟膏のようなものが握られている。

 ヴァルター商会の傷薬をはじめとする常備薬は、魔王城でも好評だ。
 特に軟膏や、肌に塗布する化粧水なんかも取りそろえられていて、城内の女性陣に喜ばれている。

(今度、ドランさんたちにもお土産で買っていこうかな)

 重たい工具や、高温の装置を扱うドランたちの手には傷や火傷の跡が残っていた。
 ちょっとした休憩の時に、自分をいたわってもらうのもいいかもしれない。

 いつもよりも二割増しで笑顔がはじけているような気さえするカイレンを微笑ましく見つめながら、シオンは城門へと向かった。

 解毒薬が軌道に乗れば、きっとハーピーたちも一息つけるだろう。
 それは、魔塔の研究員たちも、ガルオンたちも同じだ。

 ひとつ、大きな仕事をやり切ることが出来たような心地で、思わず頬が緩む。

「ご機嫌だね、シオン」

「はい!……わっ、バルドラッドさん!」

 突然ひょっこりと目の前に顔を出した魔王に思わずシオンは飛びのいた。
 ゼロ距離魔王は心臓に悪い。

「な、な、なんですか?びっくりした……」

「ははは!ちょっと顔かして欲しくて」

 「はあ……何でしょう」

 バルドラッドはニンマリと笑うと、何も言わずに手招きをした。


 ――嫌な予感しか、しない。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲
ファンタジー
「普通がいちばん」と教え込まれてきた佐藤啓二は、日本の平均寿命である81歳で平凡な一生を終えた。 死因は癌だった。 癌による全死亡者を占める割合は24.6パーセントと第一位である。 そんな彼にも唯一「普通では無いこと」が起きた。 死後の世界へ導かれ、女神の御前にやってくると突然異世界への転生を言い渡される。 それも生前の魂、記憶や未来の可能性すらも次の世界へと引き継ぐと言うのだ。 啓二は前世でもそれなりにアニメや漫画を嗜んでいたが、こんな展開には覚えがない。 挙げ句の果てには「質問は一切受け付けない」と言われる始末で、あれよあれよという間に異世界へと転生を果たしたのだった。 インヒター王国の外、漁業が盛んな街オームで平凡な家庭に産まれ落ちた啓二は『バルト・クラスト』という新しい名を受けた。 そうして、しばらく経った頃に自身の平凡すぎるステータスとおかしなスキルがある事に気がつく――。 これはある平凡すぎる男が異世界へ転生し、その普通で非凡な力で人生を謳歌する物語である。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
 お人好しで動物好きな最上悠は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏も、寿命から静かに息を引き取ろうとする。 「助けたいなら異世界に来てくれない」と少し残念な神様と出会う。  転移先では半ば強引に、死にかけていた犬を助けたことで、能力を失いそのひっそりとスローライフを送ることになってしまうが  迷い込んだ、訪問者次々とやってきて異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

『三度目の滅びを阻止せよ ―サラリーマン係長の異世界再建記―』

KAORUwithAI
ファンタジー
45歳、胃薬が手放せない大手総合商社営業部係長・佐藤悠真。 ある日、横断歩道で子供を助け、トラックに轢かれて死んでしまう。 目を覚ますと、目の前に現れたのは“おじさんっぽい神”。 「この世界を何とかしてほしい」と頼まれるが、悠真は「ただのサラリーマンに何ができる」と拒否。 しかし神は、「ならこの世界は三度目の滅びで終わりだな」と冷徹に突き放す。 結局、悠真は渋々承諾。 与えられたのは“現実知識”と“ワールドサーチ”――地球の知識すら検索できる探索魔法。 さらに肉体は20歳に若返り、滅びかけの異世界に送り込まれた。 衛生観念もなく、食糧も乏しく、二度の滅びで人々は絶望の淵にある。 だが、係長として培った経験と知識を武器に、悠真は人々をまとめ、再び世界を立て直そうと奮闘する。 ――これは、“三度目の滅び”を阻止するために挑む、ひとりの中年係長の異世界再建記である。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

転生魔竜~異世界ライフを謳歌してたら世界最強最悪の覇者となってた?~

アズドラ
ファンタジー
主人公タカトはテンプレ通り事故で死亡、運よく異世界転生できることになり神様にドラゴンになりたいとお願いした。 夢にまで見た異世界生活をドラゴンパワーと現代地球の知識で全力満喫! 仲間を増やして夢を叶える王道、テンプレ、モリモリファンタジー。

処理中です...