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3.魔道具名人(幼女)
5話
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◇
バルドラッドに連れられる道すがら、シオンはここぞとばかりに、これまでの進捗と相談事を次々と浴びせかけていた。
相手の都合を聞かずに無礼かもしれないが、バルドラッドは本当に捕まらないのだから多めに見てほしい。
「……ということで、サンドワームの件についてはこの後解毒剤の作成と浄化を並行しながら……」
「わかったわかった、その辺はノイルに任せるよ」
畳みかけるようなシオンの報告に、バルドラッドは辟易した様子で生返事をする。
まあ、それでいいのだ。
どうあれ、進捗がバルドラッドの耳に入ったという事実が大切なのだから。
「まあ浄化も大事なんだけど、どっちかっていうとサンドワーム解体後の調査と分析が課題だね」
ぼやくようにバルドラッドが言う。
「結局、変異している体の組織がありましたーとか、そういう大きな進捗が無いわけ」
「そうみたいですね……このあとノイルさんとナナリーさんも作業に加わるとかで」
実のところ、現魔王城にはモンスターの進化や生体構造の研究などに関するスペシャリストがいないのだ。
医療班を務めるナナリーも、いわゆる体の中を開けたり閉じたりするような治療をメインにはしていない。
ノイルは個人的な興味で調査できるだろうが――。
(何に関しても幹部の皆さんに頼り切りになるのって、本来良くないことなんだよね)
シオンはううむと唸った。
「まあ、急に専門家育成しろって言っても難しいからさ、やっぱ頭下げるべきところには下げないとね」
「はあ……」
バルドラッドが頭を下げる姿が一ミリも想像できず、今度はシオンが生返事をする。
「あ、もちろん頭を下げるのはキミだよ!」
バチン!と無邪気にウインクする姿に、呆れを通り越してむしろ安堵した。
ああ、いつもの魔王様だ。
「頭を下げる、というのは……?」
「元、魔王城の闇医者」
「闇……医者?」
「あいつに解体された魔物やモンスターは数知れず……もしかしたら、人間もね?」
「ひっ!?」
ゾゾゾ、と背中に寒気が走る。
その様子を見て、バルドラッドはいたずらっ子のように笑った。
「大丈夫大丈夫、初対面でいきなり魔王城の職員を解体したりしないでしょ」
「初対面じゃなかったら解体されるんですか……っ?」
冗談なのか本気なのか分からない――それが魔王クオリティ。
そんな軽口を交わしながら、二人はレヴィアスの執務室へと辿り着いた。
「入るよ、レヴィ」
ノックも無く、バルドラッドはガチャリとドアを開ける。
もはやそのくらいではシオンも驚かない。
まさかと思う振る舞いを、この人はさも当たり前のようにやってのけるのだ。
「バルドラッド様……と、シオンですか」
シオンはバルドラッドの背後から顔をひょこりと出し、身振りで「すみません」と謝意を伝える。
以前、ナナリーの執務室にバルドラッドがノックも無く勝手に入室した時には、さすがにしこたま怒られていた。
が、レヴィアスはこんな時でも表情をピクリともさせない。
……というか、ナナリーにこんこんと説教された記憶は、バルドラッドの頭の中には残っていないのだろうか。
「んー」
ずかずかと執務室に足を踏み入れたバルドラッドは、ずいっとレヴィアスに顔を近づけ、何かを観察するよう目つきをする。
椅子に座って何かの資料を見ていたのであろうレヴィアスを見下ろすようにしながら、バルドラッドは腕を組んだ。
「そろそろだね」
そう言うと、バルドラッドはレヴィアスの額にすっと手を当てた。
瞬間、その手が淡く発光する。
何かの魔法だ。
一瞬の光にシオンは目を閉じ、そして恐る恐るまぶたを開く。
そこには、椅子に座ったままバルドラッドに寄りかかり、目を閉じるレヴィアスの姿があった。
「……えっ?」
「あー、大丈夫、寝てるだけ」
くたりと体重を預けたレヴィアスを、机に伏せさせながらバルドラッドはにっこり笑う。
(……あの、レヴィアスさんが?)
大きな声を出して起こさないようにと気を付けながらも、シオンは驚きを隠せない。
何が起きたのかとおろおろしているシオンの様子を、バルドラッドは面白がっているようだった。
「レヴィは放っておくと本当に寝ないんだよね」
困ったもんだよ、とカラカラ笑う。
いや、それは笑いごとなのか。
「だから定期的に、俺がこうやって寝かしつけをしてるってわけ」
「いや、でもこんな、いきなりですか?」
机の上には、明らかに着手途中の書類が置かれている。
シオンは慌てて、レヴィアスの今日のスケジュールを知りうる限りで確認する。
「レヴィが寝てるって言ったらだいたいのことは何とかなるよ」
ことも無げにバルドラッドが言い放つ。
その様子からすると、この『強制睡眠』は日常茶飯事なのだろう。
それでも、身じろぎひとつせず硬い机の上で伏せて寝ているレヴィアスの姿に、不安がよぎる。
「あの、このままで大丈夫なんですか……?」
「いつもこのままだよ」
そう言って笑いながら、バルドラッドは執務室から出て行ってしまう。
「えっ…!?本当にこのまま……っ」
「ナナリーとノイル、あとレヴィアスの配下に、レヴィ寝たからって伝えといて」
なるほど、その伝令役ということか。
自らがここまで連れてこられた理由に、ようやく納得する。
(……いや、でも本当にこのままで大丈夫なの……?)
小さく聞こえる寝息に、どうやら本当に眠っているだけのようだ、と少し安堵する。
とはいえ、寝心地は悪かろう。
「さすがに、ソファに移動させるくらいした方がいいのでは……」
シオンは意を決して、ひたすら静かに眠るレヴィアスへと手を伸ばした。
「し、失礼しまーす……」
レヴィアスの長い腕を抱えるようにして、どうにかソファへ向かおうとその体を背負う。
「よいしょ……うう……いけるか、私」
魔王城で目にする巨大な体躯を持った魔物達の中では、レヴィアスは細身だ。
それでもシオンが運ぶには十分に重い。
一歩、二歩……と半ばレヴィアスの体を引きずるように、作業机からソファへと近づいていく。
「むむむ、あ、これ……無理かも……っ」
半分くらいの距離を移動したあたりで、自分が無謀なことをしようとしていることに気が付く。
膝がプルプルと震え、何とかレヴィアスの体を支えていた腕も限界を迎えつつある。
だ、誰か……
(助けてー!!)
せっかく眠りについたレヴィアスを床に落とす訳にはいかない。
出来るだけ衝撃を与えないよう、じわりじわりと潰れるようにシオンは床へと沈んでいく。
その時、ドアの外から声がした。
「レヴィアス様、報告が……」
「はああーー!ガルオンさんーーー!!」
助けてええ!とシオンは思いっきり情けない声を上げた。
慌てた様子で「失礼します」と言いながらドアを開けて入ってきたのは、やはりワーウルフのガルオンだった。
「シオ……ン?」
部屋に入って、一瞬どこにいる?と視線を彷徨わせる。
それから、ガルオンは足元ではいつくばっているシオンを見て目を丸くした。
「はっ!?」
「たすけ……って、ちょっと!ガルオンさん出ていかないで!!」
ほとんど飛び出すように部屋から出ていこうとするガルオンを、シオンが必死に呼び止める。
だが声のボリュームはちゃんと控えめに――。
「な、なにして……」
困惑して目を逸らしながら、ガルオンが恐る恐る部屋へと戻ってくる。
その様子に、シオンはふと今の自分の姿勢に気が付いた。
背中からレヴィアスが覆いかぶさるようような格好をしており、押し倒されるようにシオンは半分床に伏せている。
なるほど、これはいけない。
――双方の名誉のために!
バルドラッドに連れられる道すがら、シオンはここぞとばかりに、これまでの進捗と相談事を次々と浴びせかけていた。
相手の都合を聞かずに無礼かもしれないが、バルドラッドは本当に捕まらないのだから多めに見てほしい。
「……ということで、サンドワームの件についてはこの後解毒剤の作成と浄化を並行しながら……」
「わかったわかった、その辺はノイルに任せるよ」
畳みかけるようなシオンの報告に、バルドラッドは辟易した様子で生返事をする。
まあ、それでいいのだ。
どうあれ、進捗がバルドラッドの耳に入ったという事実が大切なのだから。
「まあ浄化も大事なんだけど、どっちかっていうとサンドワーム解体後の調査と分析が課題だね」
ぼやくようにバルドラッドが言う。
「結局、変異している体の組織がありましたーとか、そういう大きな進捗が無いわけ」
「そうみたいですね……このあとノイルさんとナナリーさんも作業に加わるとかで」
実のところ、現魔王城にはモンスターの進化や生体構造の研究などに関するスペシャリストがいないのだ。
医療班を務めるナナリーも、いわゆる体の中を開けたり閉じたりするような治療をメインにはしていない。
ノイルは個人的な興味で調査できるだろうが――。
(何に関しても幹部の皆さんに頼り切りになるのって、本来良くないことなんだよね)
シオンはううむと唸った。
「まあ、急に専門家育成しろって言っても難しいからさ、やっぱ頭下げるべきところには下げないとね」
「はあ……」
バルドラッドが頭を下げる姿が一ミリも想像できず、今度はシオンが生返事をする。
「あ、もちろん頭を下げるのはキミだよ!」
バチン!と無邪気にウインクする姿に、呆れを通り越してむしろ安堵した。
ああ、いつもの魔王様だ。
「頭を下げる、というのは……?」
「元、魔王城の闇医者」
「闇……医者?」
「あいつに解体された魔物やモンスターは数知れず……もしかしたら、人間もね?」
「ひっ!?」
ゾゾゾ、と背中に寒気が走る。
その様子を見て、バルドラッドはいたずらっ子のように笑った。
「大丈夫大丈夫、初対面でいきなり魔王城の職員を解体したりしないでしょ」
「初対面じゃなかったら解体されるんですか……っ?」
冗談なのか本気なのか分からない――それが魔王クオリティ。
そんな軽口を交わしながら、二人はレヴィアスの執務室へと辿り着いた。
「入るよ、レヴィ」
ノックも無く、バルドラッドはガチャリとドアを開ける。
もはやそのくらいではシオンも驚かない。
まさかと思う振る舞いを、この人はさも当たり前のようにやってのけるのだ。
「バルドラッド様……と、シオンですか」
シオンはバルドラッドの背後から顔をひょこりと出し、身振りで「すみません」と謝意を伝える。
以前、ナナリーの執務室にバルドラッドがノックも無く勝手に入室した時には、さすがにしこたま怒られていた。
が、レヴィアスはこんな時でも表情をピクリともさせない。
……というか、ナナリーにこんこんと説教された記憶は、バルドラッドの頭の中には残っていないのだろうか。
「んー」
ずかずかと執務室に足を踏み入れたバルドラッドは、ずいっとレヴィアスに顔を近づけ、何かを観察するよう目つきをする。
椅子に座って何かの資料を見ていたのであろうレヴィアスを見下ろすようにしながら、バルドラッドは腕を組んだ。
「そろそろだね」
そう言うと、バルドラッドはレヴィアスの額にすっと手を当てた。
瞬間、その手が淡く発光する。
何かの魔法だ。
一瞬の光にシオンは目を閉じ、そして恐る恐るまぶたを開く。
そこには、椅子に座ったままバルドラッドに寄りかかり、目を閉じるレヴィアスの姿があった。
「……えっ?」
「あー、大丈夫、寝てるだけ」
くたりと体重を預けたレヴィアスを、机に伏せさせながらバルドラッドはにっこり笑う。
(……あの、レヴィアスさんが?)
大きな声を出して起こさないようにと気を付けながらも、シオンは驚きを隠せない。
何が起きたのかとおろおろしているシオンの様子を、バルドラッドは面白がっているようだった。
「レヴィは放っておくと本当に寝ないんだよね」
困ったもんだよ、とカラカラ笑う。
いや、それは笑いごとなのか。
「だから定期的に、俺がこうやって寝かしつけをしてるってわけ」
「いや、でもこんな、いきなりですか?」
机の上には、明らかに着手途中の書類が置かれている。
シオンは慌てて、レヴィアスの今日のスケジュールを知りうる限りで確認する。
「レヴィが寝てるって言ったらだいたいのことは何とかなるよ」
ことも無げにバルドラッドが言い放つ。
その様子からすると、この『強制睡眠』は日常茶飯事なのだろう。
それでも、身じろぎひとつせず硬い机の上で伏せて寝ているレヴィアスの姿に、不安がよぎる。
「あの、このままで大丈夫なんですか……?」
「いつもこのままだよ」
そう言って笑いながら、バルドラッドは執務室から出て行ってしまう。
「えっ…!?本当にこのまま……っ」
「ナナリーとノイル、あとレヴィアスの配下に、レヴィ寝たからって伝えといて」
なるほど、その伝令役ということか。
自らがここまで連れてこられた理由に、ようやく納得する。
(……いや、でも本当にこのままで大丈夫なの……?)
小さく聞こえる寝息に、どうやら本当に眠っているだけのようだ、と少し安堵する。
とはいえ、寝心地は悪かろう。
「さすがに、ソファに移動させるくらいした方がいいのでは……」
シオンは意を決して、ひたすら静かに眠るレヴィアスへと手を伸ばした。
「し、失礼しまーす……」
レヴィアスの長い腕を抱えるようにして、どうにかソファへ向かおうとその体を背負う。
「よいしょ……うう……いけるか、私」
魔王城で目にする巨大な体躯を持った魔物達の中では、レヴィアスは細身だ。
それでもシオンが運ぶには十分に重い。
一歩、二歩……と半ばレヴィアスの体を引きずるように、作業机からソファへと近づいていく。
「むむむ、あ、これ……無理かも……っ」
半分くらいの距離を移動したあたりで、自分が無謀なことをしようとしていることに気が付く。
膝がプルプルと震え、何とかレヴィアスの体を支えていた腕も限界を迎えつつある。
だ、誰か……
(助けてー!!)
せっかく眠りについたレヴィアスを床に落とす訳にはいかない。
出来るだけ衝撃を与えないよう、じわりじわりと潰れるようにシオンは床へと沈んでいく。
その時、ドアの外から声がした。
「レヴィアス様、報告が……」
「はああーー!ガルオンさんーーー!!」
助けてええ!とシオンは思いっきり情けない声を上げた。
慌てた様子で「失礼します」と言いながらドアを開けて入ってきたのは、やはりワーウルフのガルオンだった。
「シオ……ン?」
部屋に入って、一瞬どこにいる?と視線を彷徨わせる。
それから、ガルオンは足元ではいつくばっているシオンを見て目を丸くした。
「はっ!?」
「たすけ……って、ちょっと!ガルオンさん出ていかないで!!」
ほとんど飛び出すように部屋から出ていこうとするガルオンを、シオンが必死に呼び止める。
だが声のボリュームはちゃんと控えめに――。
「な、なにして……」
困惑して目を逸らしながら、ガルオンが恐る恐る部屋へと戻ってくる。
その様子に、シオンはふと今の自分の姿勢に気が付いた。
背中からレヴィアスが覆いかぶさるようような格好をしており、押し倒されるようにシオンは半分床に伏せている。
なるほど、これはいけない。
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