魔王城すこや課、本日も無事社畜です!

ハルタカ

文字の大きさ
29 / 84
3.魔道具名人(幼女)

6話

しおりを挟む
「あーーっ、違うの違うの!今レヴィアスさんが寝てて……!」

 違うに決まっているじゃない!と慌てて繰り返し否定する。
 ガルオンはしばし狼狽えていたものの、ピクリとも動かないレヴィアスの姿を見て納得したのだろう。
 レヴィアスの体を支えるようにしながら、ソファへと横たえるのを手伝ってくれた。

「いや……本当に焦るから、やめてくれ」

「ごめんなさい、でも机で寝かせておくのも忍びなくて……」

 冷や汗をかいた様子のガルオンに、シオンは礼を言う。
 一人ではここまで移動させている間に、レヴィアスを起こしてしまっていたかもしれない。

 ソファで小さな寝息を立てるレヴィアスの姿に、ガルオンは困ったようにため息をついた。

「こうなる前に、休んでほしいって思ってはいるんだがな……」

 まあ、俺なんかが口出しできる事じゃないんだけど、と少し落ち込んだ様子でガルオンが頭を掻いた。
 やはり、レヴィアスの無茶な働き方に思うところがあるのだろう。

 ガルオンに確認したところ、予定されている報告などはすべてキャンセル可能とのことだった。
 レヴィアス配下の他数名へも共有しておいてほしいことを伝えると、ガルオンは快く引き受けてくれた。
 
 てっきりハーピーの里で作業をしているところかと思っていたが、ちょうど報告のために魔王城に戻ったところだったらしい。

 居合わせたのが縁のあるガルオンで良かった、とシオンは幸運に感謝した。


「……なあ、本当にレヴィアス様とは何もないのか?」

 ぼそっとガルオンが呟く。

「ないですって!本当にさっきバルドラッドさんが……」

「いや、今の話じゃなくて」

 恋仲とかじゃねえの?

 ぶっきらぼうにガルオンが問いかける。

 ……こいなか?

「いやいや、ないでしょう。私みたいなどこの馬の骨とも知れない人間と」

「どこの馬の骨でも好きになるのは自由だろ」

 すごいことを言っている。

「……意外と情熱的なんですね、ガルオンさん」

 シオンが驚いてそういうと、ガルオンはバツが悪そうに鼻を鳴らした。
 それにしてもだ。

 ……好き?

 私が、レヴィアスさんを?
 もしくはレヴィアスさんが、私を?
 
「お前はここに来たばっかりだから知らないだろうけど、レヴィアス様にこんなに近づける奴なんて中々いないからな」

「え?いやでもナナリーさんとか、それこそガルオンさんとか……」

「ナナリー様とは幹部同士だから、そりゃあ会話もあるだろ。俺なんて、会話はほとんど報告事項だけだ」

「それは……コミュニケーション面でちょっとお互い課題がありますね」

 じゃなくて!とガルオンが苛立ちを見せる。
 
(いや、大切なことだと思うんだけどな、上司と部下の関係性)

 そんなことを考えながら、うだうだと何かを言っているガルオンの話に耳を傾ける。
 こんな、社内の恋バナみたいなものにガルオンが興味を示しているのが意外でならない。

「別に茶化そうとしてるわけじゃねえよ。……お前みたいなのがレヴィアス様のそばにいるなら、俺たちも安心だなって思ってるだけ」

 思いのほか真剣な顔で返されて、シオンは面食らっていた。
 だいたい、社内恋愛みたいなことは、もといた世界でも考えたことが無かったのだ。
 学生時代以来、まともに恋愛なんてしてきていない。
 
 ド直球なガルオンの言葉に、少しだけ動揺している自分に気が付いた。
 
「執務室の中で二人でいられるなんて、よっぽどだぞ、多分」

「それは、仕事が……」

「別に、書類受け取って終わりにだって出来るだろ」

 ガルオンは、どうしてもレヴィアスとシオンの間に特別な関係性を見出したいらしい。
 セクハラですよともんくも言いたくなるが、ガルオンの目があまりに真剣だ。
 そうなると、思わずシオンもうーんと考え込んでしまう。
 
 自分がどうこう、というよりも、レヴィアスが自分なんかを相手にするだろうか?という気持ちが大きい。
 あの、活動時間の九割九分を仕事に費やしているレヴィアスが。

「シオンは、レヴィアス様のことをどう思ってるんだよ」

 ……ド直球。

「どうって言われても……」

 困惑しながらも、この世界に来てからのことを思い返してみる。
 仕事の関係上、確かにレヴィアスとのかかわりは多かった。
 実のところ、無表情で淡々とした様子の彼に、最初は少し恐怖心を抱いていた。
 
 必要最低限で返される言葉や端的な行動から、彼の性格を読み取ることが難しかったのだ。
 
(安心できるようになったのはいつからだっけ……)

 その態度が、決して自分を遠ざけたりないがしろにするものではないと気が付いた。
 むしろ、公正で、向き合いとして誠実だとも感じられるようになったのだ。
 それに、初めてバルドラッドと向き合った時にも、彼の容赦無い追求から守ろうとしてくれていた。

 あれは、決して他者に対して無関心な人がとる行動ではなかったと思う。
 
「……誠実で優しい方だと思うけど」

 その答えを聞いて、ガルオンは少しだけ誇らしげに笑った。
 ほら、彼はこうして部下にも愛されている。

「なら、良かった」

 それからもあれやこれやとガルオンから質問をされたが、シオンの頭の中をその言葉たちが素通りしていく。
 仕事に戻るガルオンの後姿を見送りながら、シオンはぼんやりと考え事をしていた。

 ぱらぱらと、レヴィアスの承認サインが書き込まれている処理済みの書類を集めながら、ガルオンの言葉を反芻する。

 レヴィアス様にこんなに近づける奴はいない…?

 これまであまりにも必死に仕事をしていて、考えたことも無かった。

(レヴィアスさんをどう思っていのか……か)

 一緒に仕事をすると、安心する。
 仕事漬けになっているのは少し心配だ。
 彼のためにも、何とか業務を整理して力になりたいと思っている。 
 
 頭の中を整理しながら、シオンは未だ少しも動かないレヴィアスの姿をちらりと見た。

 ふと、先ほど背負った時のレヴィアスの体温を思い出す。
 初めて飛竜に乗った時、後ろから支えてくれた腕の強さも。

(あれっ……?)

 今更どきどきと鼓動が早くなる。

(わ、やだやだ、変に意識しちゃって)

 じわじわと顔が赤くなっていることを感じて、シオンは手の甲を押し当てて頬を冷やす。
 なんだか急に焦りを感じ、手早く書類をまとめると、足早にレヴィアスの執務室を後にした。

 廊下を急ぎ足で歩く。
 頬に感じる風が、冷たくて気持ちいい。

「あら、シオン、お疲れ様」

「あっ、ナナリーさん!お疲れ様です」

「……どうかした?」

「へっ?あ、いえ……そうだ、レヴィアスさんが今眠っているので、一旦お仕事がストップします」

「あら、そう。……わかったわ、ありがとう」

 ペコリとお辞儀をして、また足早にその場を立ち去る。
 しばらくナナリーがこちらを見ていたような気がする。

(顔、赤くなかったかな……)

 湧き上がった感情を落ち着かせるように、シオンはもう一度頬をごしごしと手のひらで擦った。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜

小林一咲
ファンタジー
「普通がいちばん」と教え込まれてきた佐藤啓二は、日本の平均寿命である81歳で平凡な一生を終えた。 死因は癌だった。 癌による全死亡者を占める割合は24.6パーセントと第一位である。 そんな彼にも唯一「普通では無いこと」が起きた。 死後の世界へ導かれ、女神の御前にやってくると突然異世界への転生を言い渡される。 それも生前の魂、記憶や未来の可能性すらも次の世界へと引き継ぐと言うのだ。 啓二は前世でもそれなりにアニメや漫画を嗜んでいたが、こんな展開には覚えがない。 挙げ句の果てには「質問は一切受け付けない」と言われる始末で、あれよあれよという間に異世界へと転生を果たしたのだった。 インヒター王国の外、漁業が盛んな街オームで平凡な家庭に産まれ落ちた啓二は『バルト・クラスト』という新しい名を受けた。 そうして、しばらく経った頃に自身の平凡すぎるステータスとおかしなスキルがある事に気がつく――。 これはある平凡すぎる男が異世界へ転生し、その普通で非凡な力で人生を謳歌する物語である。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *本作の無断転載、無断翻訳、無断利用を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

『規格外の薬師、追放されて辺境スローライフを始める。〜作ったポーションが国家機密級なのは秘密です〜』

雛月 らん
ファンタジー
俺、黒田 蓮(くろだ れん)35歳は前世でブラック企業の社畜だった。過労死寸前で倒れ、次に目覚めたとき、そこは剣と魔法の異世界。しかも、幼少期の俺は、とある大貴族の私生児、アレン・クロイツェルとして生まれ変わっていた。 前世の記憶と、この世界では「外れスキル」とされる『万物鑑定』と『薬草栽培(ハイレベル)』。そして、誰にも知られていない規格外の莫大な魔力を持っていた。 しかし、俺は決意する。「今世こそ、誰にも邪魔されない、のんびりしたスローライフを送る!」と。 これは、スローライフを死守したい天才薬師のアレンと、彼の作る規格外の薬に振り回される異世界の物語。 平穏を愛する(自称)凡人薬師の、のんびりだけど実は波乱万丈な辺境スローライフファンタジー。

転生したみたいなので異世界生活を楽しみます

さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… 沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。 誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。 感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢 ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
 お人好しで動物好きな最上悠は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏も、寿命から静かに息を引き取ろうとする。 「助けたいなら異世界に来てくれない」と少し残念な神様と出会う。  転移先では半ば強引に、死にかけていた犬を助けたことで、能力を失いそのひっそりとスローライフを送ることになってしまうが  迷い込んだ、訪問者次々とやってきて異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

『三度目の滅びを阻止せよ ―サラリーマン係長の異世界再建記―』

KAORUwithAI
ファンタジー
45歳、胃薬が手放せない大手総合商社営業部係長・佐藤悠真。 ある日、横断歩道で子供を助け、トラックに轢かれて死んでしまう。 目を覚ますと、目の前に現れたのは“おじさんっぽい神”。 「この世界を何とかしてほしい」と頼まれるが、悠真は「ただのサラリーマンに何ができる」と拒否。 しかし神は、「ならこの世界は三度目の滅びで終わりだな」と冷徹に突き放す。 結局、悠真は渋々承諾。 与えられたのは“現実知識”と“ワールドサーチ”――地球の知識すら検索できる探索魔法。 さらに肉体は20歳に若返り、滅びかけの異世界に送り込まれた。 衛生観念もなく、食糧も乏しく、二度の滅びで人々は絶望の淵にある。 だが、係長として培った経験と知識を武器に、悠真は人々をまとめ、再び世界を立て直そうと奮闘する。 ――これは、“三度目の滅び”を阻止するために挑む、ひとりの中年係長の異世界再建記である。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

転生魔竜~異世界ライフを謳歌してたら世界最強最悪の覇者となってた?~

アズドラ
ファンタジー
主人公タカトはテンプレ通り事故で死亡、運よく異世界転生できることになり神様にドラゴンになりたいとお願いした。 夢にまで見た異世界生活をドラゴンパワーと現代地球の知識で全力満喫! 仲間を増やして夢を叶える王道、テンプレ、モリモリファンタジー。

処理中です...