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3.魔道具名人(幼女)
7話
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◇
サンドワームによる被害が解毒薬の安定生産により落ち着きを見せたころ、シオンは再びドランの工房を訪れていた。
「本当に、迅速なご対応ありがとうございました」
腹ペコ少女たちの昼食を作りながら、シオンは感謝の気持ちを伝える。
土壌の汚染は全て取り除くことができ、川の水も浄化されたことが確認できた。
枯れてしまった作物や樹木が元に戻るにはまだまだ時間がかかるだろう。
それでも、ハーピーたちは里に留まる判断をしたようだった。
正直なところ、彼らが里を離れる判断をすることもあり得るかなと思っていた。
長らくの住処に愛着はあれど、彼らにも食べ盛りの子供たちがいる。
それに、あれ以降目撃情報は無いといっても、未知のサンドワームが出没した地域なのだ。
いつも通りの安全な生活環境がもどったとは言い難い。
しかし、ハーピーたちの選択に大きな影響をもたらしたものが二つある。
ひとつは、ナナリーが自然環境の回復のためにドライアドたちによる支援を申し出てくれたこと。
もう一つは、予定されていた見張り塔の建設作業を早めるというバルドラッド、レヴィアスの判断だ。
これに異を唱える魔物達はおらず、現場での環境回復作業にも皆、士気高くあたってくれている。
本来、他者に対して無関心を貫くものが多い魔物が、一つの種族のために協力している。
この世界に来てまだ間もないシオンだが、今回のことには大きく感銘を受けた。
きっとこれが魔王城の在り方、そしてバルドラッドがやりたかったことを象徴する大きな出来事なのだろう。
「急ごしらえの装置だったけどね、私達も久々にヒリヒリして楽しかったねー」
「ねー!」
ドランと三人娘たちは、皆でニコニコしながらテーブルについて食事が出来るのを待っている。
こうして並ぶと、幼馴染の親友たちの集まりにも見える。
しかし、いざ作業が始まるとドランの厳しい指示に三人娘たちにも緊張が走る。
そうして工房がピリッと引き締まるのだから、不思議だ。
焼きあがったハンバーグをパンに乗せ、野菜と一緒に挟む。
旗をつけたピックを刺して、皿の脇にはコロコロっとしたフライドポテトを添えた。
おせっかい焼きとしては野菜もたくさん食べてほしいので、余り野菜で作ったミネストローネをカップにもりっとよそう。
「さあ、お待たせしました」
「キャーーーー! シオンちゃんあいしてるっ」
いつの間に作ったのか、『あいらぶ♡すこや課』と書かれた小さな横断幕を握りしめながら歓声を上げる少女たち。
その恥ずかしい部署名、忘れていたのでやめてほしいなと苦笑いする。
「ふぉれで、あの布をひょうひんかひたらろうかって?」
あの布を商品化したらどうかって?
そう。その話だ。
「そうなんです、珍しい製法だから、衣類に活用したら特産品になるかもってヴァルターさんが……あ、食べてからで大丈夫です」
口いっぱいにハンバーガーを頬張りながら、ドランがこくこくと頷く。
どうやら口に合ったようで何よりだ。
「商品化するのはべつにいいよ。今大きな仕事もないし、製法も別に門外不出ってものじゃないから」
口の端についたケチャップをぺろりとやりながら、ドランはあっさりと了承する。
三人娘たちも、同じように頷いた。
「まあ、魔王城と私たちの取り分は要検討だけどね! 私達も人間のお金欲しいし!」
「欲しい欲しい! 可愛いお洋服とか、ぬいぐるみとかほしい!」
キャッキャとはしゃぐ娘たち。
取らぬ狸の皮算用とならないかだけハラハラするが、毎日手袋を愛用している身からしても、魅力的な商品だと感じている。
うまく顧客を得られれば、息の長い商品になるのではないだろうか。
「バルドラッドさんと交渉しているところですが、販売ルートのあっせんや輸送の分だけ魔王城でいただいて、あとは工房の運営費に充てて良いという話になりそうです」
「まじ? やったー、超楽しいことになりそう」
「そのお金ですこや課は雇えないの?」
「まいにちごはんつくってー!」
早速浮かれている彼女たちだが、どうやら頭のなかでは生産ラインをどうするかなどの計算が走っているらしい。
きゃっきゃとやりながら紙を取り出し、何やら計画を書き込んでいる。
それにならって、シオンもいつものノートを鞄から取り出した。
「私はちょっと、毎日は来られないですが……そうですね、安定した在庫を準備するとなると人手もいるでしょうし、人員を少し動かす必要があるかな……」
「あのさ」
ドランが少し真剣な目でシオンに向き合う。
「欲しい子いるんだよね」
「欲しい子……ですか?」
「ゴリゴリの魔道具を作るの任せるのはきついかなって思ってたんだけど、こういう商品なら任せたい子がいて」
ドランのその言葉に、三人娘の顔が一層ぱっと明るくなる。
どうやら、欲しい子、というのは全員共通の思いのようだ。
シオンはペンを握る手に一層力を籠め、ドランたちの話に耳を傾けた。
サンドワームによる被害が解毒薬の安定生産により落ち着きを見せたころ、シオンは再びドランの工房を訪れていた。
「本当に、迅速なご対応ありがとうございました」
腹ペコ少女たちの昼食を作りながら、シオンは感謝の気持ちを伝える。
土壌の汚染は全て取り除くことができ、川の水も浄化されたことが確認できた。
枯れてしまった作物や樹木が元に戻るにはまだまだ時間がかかるだろう。
それでも、ハーピーたちは里に留まる判断をしたようだった。
正直なところ、彼らが里を離れる判断をすることもあり得るかなと思っていた。
長らくの住処に愛着はあれど、彼らにも食べ盛りの子供たちがいる。
それに、あれ以降目撃情報は無いといっても、未知のサンドワームが出没した地域なのだ。
いつも通りの安全な生活環境がもどったとは言い難い。
しかし、ハーピーたちの選択に大きな影響をもたらしたものが二つある。
ひとつは、ナナリーが自然環境の回復のためにドライアドたちによる支援を申し出てくれたこと。
もう一つは、予定されていた見張り塔の建設作業を早めるというバルドラッド、レヴィアスの判断だ。
これに異を唱える魔物達はおらず、現場での環境回復作業にも皆、士気高くあたってくれている。
本来、他者に対して無関心を貫くものが多い魔物が、一つの種族のために協力している。
この世界に来てまだ間もないシオンだが、今回のことには大きく感銘を受けた。
きっとこれが魔王城の在り方、そしてバルドラッドがやりたかったことを象徴する大きな出来事なのだろう。
「急ごしらえの装置だったけどね、私達も久々にヒリヒリして楽しかったねー」
「ねー!」
ドランと三人娘たちは、皆でニコニコしながらテーブルについて食事が出来るのを待っている。
こうして並ぶと、幼馴染の親友たちの集まりにも見える。
しかし、いざ作業が始まるとドランの厳しい指示に三人娘たちにも緊張が走る。
そうして工房がピリッと引き締まるのだから、不思議だ。
焼きあがったハンバーグをパンに乗せ、野菜と一緒に挟む。
旗をつけたピックを刺して、皿の脇にはコロコロっとしたフライドポテトを添えた。
おせっかい焼きとしては野菜もたくさん食べてほしいので、余り野菜で作ったミネストローネをカップにもりっとよそう。
「さあ、お待たせしました」
「キャーーーー! シオンちゃんあいしてるっ」
いつの間に作ったのか、『あいらぶ♡すこや課』と書かれた小さな横断幕を握りしめながら歓声を上げる少女たち。
その恥ずかしい部署名、忘れていたのでやめてほしいなと苦笑いする。
「ふぉれで、あの布をひょうひんかひたらろうかって?」
あの布を商品化したらどうかって?
そう。その話だ。
「そうなんです、珍しい製法だから、衣類に活用したら特産品になるかもってヴァルターさんが……あ、食べてからで大丈夫です」
口いっぱいにハンバーガーを頬張りながら、ドランがこくこくと頷く。
どうやら口に合ったようで何よりだ。
「商品化するのはべつにいいよ。今大きな仕事もないし、製法も別に門外不出ってものじゃないから」
口の端についたケチャップをぺろりとやりながら、ドランはあっさりと了承する。
三人娘たちも、同じように頷いた。
「まあ、魔王城と私たちの取り分は要検討だけどね! 私達も人間のお金欲しいし!」
「欲しい欲しい! 可愛いお洋服とか、ぬいぐるみとかほしい!」
キャッキャとはしゃぐ娘たち。
取らぬ狸の皮算用とならないかだけハラハラするが、毎日手袋を愛用している身からしても、魅力的な商品だと感じている。
うまく顧客を得られれば、息の長い商品になるのではないだろうか。
「バルドラッドさんと交渉しているところですが、販売ルートのあっせんや輸送の分だけ魔王城でいただいて、あとは工房の運営費に充てて良いという話になりそうです」
「まじ? やったー、超楽しいことになりそう」
「そのお金ですこや課は雇えないの?」
「まいにちごはんつくってー!」
早速浮かれている彼女たちだが、どうやら頭のなかでは生産ラインをどうするかなどの計算が走っているらしい。
きゃっきゃとやりながら紙を取り出し、何やら計画を書き込んでいる。
それにならって、シオンもいつものノートを鞄から取り出した。
「私はちょっと、毎日は来られないですが……そうですね、安定した在庫を準備するとなると人手もいるでしょうし、人員を少し動かす必要があるかな……」
「あのさ」
ドランが少し真剣な目でシオンに向き合う。
「欲しい子いるんだよね」
「欲しい子……ですか?」
「ゴリゴリの魔道具を作るの任せるのはきついかなって思ってたんだけど、こういう商品なら任せたい子がいて」
ドランのその言葉に、三人娘の顔が一層ぱっと明るくなる。
どうやら、欲しい子、というのは全員共通の思いのようだ。
シオンはペンを握る手に一層力を籠め、ドランたちの話に耳を傾けた。
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