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3.魔道具名人(幼女)
8話
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◇
「話は分かりました」
テーブルで向かい合って、シオンはレヴィアスと話をしていた。
ノートを見ながら会話する分にはいつも通りなのだが、なんとなくレヴィアスの目を見ると気まずさを感じてしまう。
(うう……集中、集中)
勝手に赤くなろうとする自分の頬を、心の中で叱咤する。
気を取り直して向き合ったレヴィアスは、いつもよりも少し顔色が良いように見えた。
バルドラッドの見立ての通り、やはり休息が必要だったのは間違いない。
「人間との境界で警備にあたらせている者たちですが、見張り塔が完成すれば巡回者を減らすことができるでしょう」
「ありがとうございます!……ご本人たちは、どう思うでしょうか」
ドランが欲しい子、といったのは、レヴィアスの配下として働く鬼の双子だった。
彼らは幼いうちに両親を亡くし、生きるために荒野を彷徨っていたところ魔王城で保護されたのだという。
「……これはあくまで私の所見ですが」
レヴィアスが前置きをする。
その話によると、こうだ。
鬼族にしては、双子ともに非力で、体力面でも周囲よりやや劣っている。
種族としてのポテンシャルを考えると、万が一の戦闘でも活躍が出来る警備・巡回の業務が適任なので現在の配置にしている。
しかし、彼らはいまいちその『鬼族』としての戦闘特性を活かすことが出来ていない。
恐らくは、幼少期に他種族との争いで両親が命を落としたのを目の当たりにしており、荒事に対する恐怖心が影響しているのだろう。
ということだ。
「うーん……お話を聞く限り、戦闘スキルが求められる仕事をメインにしない方が活躍できそうですね」
それを聞いて、レヴィアスがこくりと頷く。
「ただ、彼らは幼い時にその巡回隊に発見されて保護に至っています」
なるほど。
彼らには、巡回員の仕事に対する恩義がある。
「巡回隊の上長から、何度か別の部隊への異動を提案したこともありましたが……本人たちからはここにいさせてくれとの申し出がありました」
「本人たちの希望なんですね……うーん」
難しい問題だ。
それならば巡回隊で、と思う気持ちもあるのだが。
一方で、レヴィアスの話を聞く限り巡回隊の仕事は彼らにとって『過去の傷』と嫌でも向き合わざるを得ない場でもあるのだろう。
「そもそもなぜドランは、彼ら二人を?」
鬼人の双子の名前は、アキとラキ。男女の双子だ。
鬼としてはまだ若く、見た目にすると、ドランのところの三姉妹よりも少し幼く見える。
「巡回隊への支給用魔道具を運んだ時に、少し会話をしたようです」
興奮したようなドランの言葉を思い出す。
『もう、すっごいかわいくてーー!!お兄ちゃんの後ろを妹ちゃんがぴょこぴょこついて歩くの!おんなじ顔して』
いや、思い出すにしても、もう少しいいフレーズがあったはず……
『あの子たちの住んでた地域のセンスなのかなー?お洋服も超かわいくて、あれ自分で作ってるのかなあ』
『あの太もも!それからきゅっと締まった二の腕!きゃー!!それを包むレース?組み紐?の装飾が絶妙』
も……もう少しいいことを言っていたような。
レヴィアスに伝えられる内容が、あったはず。
シオンは焦りながら記憶を手繰っていく。
(駄目だ、レヴィアスさんが真顔でこっちを見てる!)
そうだ、メモ。メモに取っていたはず。
「えっと……支給品の整備や、古いものの修復などの作業が非常に丁寧。他には劣るかもしれないが、腕力や体力は工房での作業で十分活用できる。何より……」
思い出した。
(これを聞いて、私はレヴィアスさんに正式に話をしてみようと思ったんだ)
「チームの仲間を思って、今自分にできる事を一生懸命探している。自分が直した装備を着て巡回に出ていく仲間を見送る様子にぐっと来た。あの子たちが欲しい」
「……なるほど」
少しだけ、レヴィアスの表情が和らいだような気がする。
その、ほんのわずかな表情の変化に、シオンは心が温かくなった。
レヴィアスは部下のことをよく見ている。
かける言葉や表情など、外に出るものが乏しいだけだ。
鬼人の双子のことも、それとなく気にかけていたことがよくわかった。
「私としては異論ありません。あとは本人間の話で進めて下さい」
「ありがとうございます……ドランさんが直接話したいと言っていました。最終的な意思決定は、本人たちに委ねますね」
双子にとって、良い転機となるだろうか。
ドランも、レヴィアスも、双子のことをよく見ているからこそ浮上した今回の話だ。
どちらに転んでも、双子にとって良い決断だったと言えるようにしてあげたい。
(……ドランさん、直接話すって言ってたけど、大丈夫かな……)
ふと、あの感情の高ぶりに任せたマシンガントークを思い出す。
(だ……大丈夫かな……)
一抹の不安を感じながらノートにメモをつけていると、こちらを見ていたレヴィアスとぱちりと視線が交差した。
「あ……すみません、なにか」
わたわたと、焦りを滲ませてレヴィアスに尋ねる。
陽に透ける銀髪と、落ち着いた印象の瞳を縁取るまつ毛に思わず目を奪われる。
背中に感じた少し低い体温を思い出して、シオンはぱっと顔を伏せた。
「いえ、今日は少し貴女の様子が違ったので」
「えっ、そ……そうですか?」
やっぱり顔に出ていただろうか。
仕事に支障をきたしてはいけない。
シオンは慌てて顔をあげて、普段通りの笑顔を見せた。
「色々な話が進んでいて、嬉しいことですが少し慌てているのかもしれません」
これはシオンの本心だった。
大きな仕事がひと段落してから舞い込んできた、特産品の生産や人事異動の話など、頭の中はいつもフル回転。
それは嬉しい出来事の積み重ねだけれど、どれも非常に大切な事柄だ。
だからこそ、シオンの心中にはいつも張り詰めたような緊張感がある。
「……少し休んでは?」
「れ……レヴィアスさんがそれを言いますか?」
思わず、シオンは噴き出した。
レヴィアスは、相変わらずの無表情でこちらを見つめている。
ほんの少しだけ、口元の印象が柔らかい気がする。だんだんと、その違いがわかるようになってきたのだ。
「そうですね、この件が終わったら少しお休みしようかな。外出もしてみたいですし」
テーブルに開いていたノートを片付けながら、シオンはレヴィアスへと微笑みを向けた。
「話は分かりました」
テーブルで向かい合って、シオンはレヴィアスと話をしていた。
ノートを見ながら会話する分にはいつも通りなのだが、なんとなくレヴィアスの目を見ると気まずさを感じてしまう。
(うう……集中、集中)
勝手に赤くなろうとする自分の頬を、心の中で叱咤する。
気を取り直して向き合ったレヴィアスは、いつもよりも少し顔色が良いように見えた。
バルドラッドの見立ての通り、やはり休息が必要だったのは間違いない。
「人間との境界で警備にあたらせている者たちですが、見張り塔が完成すれば巡回者を減らすことができるでしょう」
「ありがとうございます!……ご本人たちは、どう思うでしょうか」
ドランが欲しい子、といったのは、レヴィアスの配下として働く鬼の双子だった。
彼らは幼いうちに両親を亡くし、生きるために荒野を彷徨っていたところ魔王城で保護されたのだという。
「……これはあくまで私の所見ですが」
レヴィアスが前置きをする。
その話によると、こうだ。
鬼族にしては、双子ともに非力で、体力面でも周囲よりやや劣っている。
種族としてのポテンシャルを考えると、万が一の戦闘でも活躍が出来る警備・巡回の業務が適任なので現在の配置にしている。
しかし、彼らはいまいちその『鬼族』としての戦闘特性を活かすことが出来ていない。
恐らくは、幼少期に他種族との争いで両親が命を落としたのを目の当たりにしており、荒事に対する恐怖心が影響しているのだろう。
ということだ。
「うーん……お話を聞く限り、戦闘スキルが求められる仕事をメインにしない方が活躍できそうですね」
それを聞いて、レヴィアスがこくりと頷く。
「ただ、彼らは幼い時にその巡回隊に発見されて保護に至っています」
なるほど。
彼らには、巡回員の仕事に対する恩義がある。
「巡回隊の上長から、何度か別の部隊への異動を提案したこともありましたが……本人たちからはここにいさせてくれとの申し出がありました」
「本人たちの希望なんですね……うーん」
難しい問題だ。
それならば巡回隊で、と思う気持ちもあるのだが。
一方で、レヴィアスの話を聞く限り巡回隊の仕事は彼らにとって『過去の傷』と嫌でも向き合わざるを得ない場でもあるのだろう。
「そもそもなぜドランは、彼ら二人を?」
鬼人の双子の名前は、アキとラキ。男女の双子だ。
鬼としてはまだ若く、見た目にすると、ドランのところの三姉妹よりも少し幼く見える。
「巡回隊への支給用魔道具を運んだ時に、少し会話をしたようです」
興奮したようなドランの言葉を思い出す。
『もう、すっごいかわいくてーー!!お兄ちゃんの後ろを妹ちゃんがぴょこぴょこついて歩くの!おんなじ顔して』
いや、思い出すにしても、もう少しいいフレーズがあったはず……
『あの子たちの住んでた地域のセンスなのかなー?お洋服も超かわいくて、あれ自分で作ってるのかなあ』
『あの太もも!それからきゅっと締まった二の腕!きゃー!!それを包むレース?組み紐?の装飾が絶妙』
も……もう少しいいことを言っていたような。
レヴィアスに伝えられる内容が、あったはず。
シオンは焦りながら記憶を手繰っていく。
(駄目だ、レヴィアスさんが真顔でこっちを見てる!)
そうだ、メモ。メモに取っていたはず。
「えっと……支給品の整備や、古いものの修復などの作業が非常に丁寧。他には劣るかもしれないが、腕力や体力は工房での作業で十分活用できる。何より……」
思い出した。
(これを聞いて、私はレヴィアスさんに正式に話をしてみようと思ったんだ)
「チームの仲間を思って、今自分にできる事を一生懸命探している。自分が直した装備を着て巡回に出ていく仲間を見送る様子にぐっと来た。あの子たちが欲しい」
「……なるほど」
少しだけ、レヴィアスの表情が和らいだような気がする。
その、ほんのわずかな表情の変化に、シオンは心が温かくなった。
レヴィアスは部下のことをよく見ている。
かける言葉や表情など、外に出るものが乏しいだけだ。
鬼人の双子のことも、それとなく気にかけていたことがよくわかった。
「私としては異論ありません。あとは本人間の話で進めて下さい」
「ありがとうございます……ドランさんが直接話したいと言っていました。最終的な意思決定は、本人たちに委ねますね」
双子にとって、良い転機となるだろうか。
ドランも、レヴィアスも、双子のことをよく見ているからこそ浮上した今回の話だ。
どちらに転んでも、双子にとって良い決断だったと言えるようにしてあげたい。
(……ドランさん、直接話すって言ってたけど、大丈夫かな……)
ふと、あの感情の高ぶりに任せたマシンガントークを思い出す。
(だ……大丈夫かな……)
一抹の不安を感じながらノートにメモをつけていると、こちらを見ていたレヴィアスとぱちりと視線が交差した。
「あ……すみません、なにか」
わたわたと、焦りを滲ませてレヴィアスに尋ねる。
陽に透ける銀髪と、落ち着いた印象の瞳を縁取るまつ毛に思わず目を奪われる。
背中に感じた少し低い体温を思い出して、シオンはぱっと顔を伏せた。
「いえ、今日は少し貴女の様子が違ったので」
「えっ、そ……そうですか?」
やっぱり顔に出ていただろうか。
仕事に支障をきたしてはいけない。
シオンは慌てて顔をあげて、普段通りの笑顔を見せた。
「色々な話が進んでいて、嬉しいことですが少し慌てているのかもしれません」
これはシオンの本心だった。
大きな仕事がひと段落してから舞い込んできた、特産品の生産や人事異動の話など、頭の中はいつもフル回転。
それは嬉しい出来事の積み重ねだけれど、どれも非常に大切な事柄だ。
だからこそ、シオンの心中にはいつも張り詰めたような緊張感がある。
「……少し休んでは?」
「れ……レヴィアスさんがそれを言いますか?」
思わず、シオンは噴き出した。
レヴィアスは、相変わらずの無表情でこちらを見つめている。
ほんの少しだけ、口元の印象が柔らかい気がする。だんだんと、その違いがわかるようになってきたのだ。
「そうですね、この件が終わったら少しお休みしようかな。外出もしてみたいですし」
テーブルに開いていたノートを片付けながら、シオンはレヴィアスへと微笑みを向けた。
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