魔王城すこや課、本日も無事社畜です!

ハルタカ

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3.魔道具名人(幼女)

9話

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「あはは、ご、ごめんなさいね二人とも、お姉さん情けなくて……」

「いえ、あの……大丈夫ですっ」

 二頭の飛竜が横並びで大空を飛んでいる。
 シオンの飛竜はもちろん二人乗りで、竜の手綱を取っているのは鬼族の双子の妹、ラキだ。

「あ、見えてきた!あそこがドランさんの工房ですよ」

 工房の入口付近で、ドランと三人娘らしき人影が手を振っているのが見える。
 ゆっくりと飛竜を降下させ、彼女たちのもとへと向かう。

「よく来てくれたね!二人とも」

 ドランが笑顔で歩み寄り、アキとラキを迎え入れた。
 飛竜の上での会話はあまりなく、双子たちはそれぞれに緊張している様子だった。
 差し出された手を見て、彼らの表情が少し和らぐ。

 (良かった……緊張し過ぎていたら、言いたいことも言えないものね)

 今回の顔合わせで、部署の異動までを一気に決定するつもりはない。
 何せ、彼らにとって巡回隊は自分たちを拾ってくれた恩人たちであり、家族にも近い存在なのだ。
 それを無理に引き離したいとは思わない。

「ようこそ、私たちの工房へ!まずは中を見ていってよ!」

 彼女たちは持ち前の明るさを発揮し、四人がかりでアキとラキを工房の中へと引きずっていく。
 巡回隊はどちらかというと屈強、強面の魔物達が多い組織だ。
 こんなふうに手をひっぱられて両脇からワイワイと話しかけられることなんてなかっただろう。

「ドランさん、ほら、ちょっと二人がびっくりしてますよ」

 良い刺激になるだろうとは思いながらも、あまりのテンションの差に少々心配になる。
 特に、兄であるアキは巡回隊からの異動の相談を頭出しした時点で、少し表情を曇らせていた。
 環境が変わるということは、良くも悪くも本人たちにとって大きなストレスになる。

「へへ、ごめん。さあ、この辺は君たちにも馴染みがある物が多いよ!」

 ドランが指をさした先には、鎧や盾、手甲などの防具が積まれていた。
 これらは、巡回隊をはじめとした戦闘機会が想定される組織に配備されている。
 その生産や整備、改良などを請け負っているのがドランの工房なのだ。

「これ……新しい胸当てですか?」

 ラキが、大量に積まれた防具の中から皮製の胸当てを見つけてドランに尋ねる。
 ドランは大きく頷いて、その胸当てを手に取った。
 ガラガラ、と周りに積まれていた他の装備品たちが床に転がる。

(あああ……ドランさん、ちょっと掃除しておいた方が良かったのでは)

 三人娘たちがそれらを拾い上げ、またポイポイと適当に積み上げていく。
 まあ、ありのままの姿を見せた方が誠実か、とシオンは苦笑いした。

「これはねえ、フロストヴァイパーっていう、氷湖に生息する大蛇の皮で出来ていて……」

「私が考えた試作品なんですー!」

 ドランの解説に対して、合いの手を入れるように三人娘たちが入れ代わり立ち代わり補足をして回っている。
 ナイスコンビネーション……なのだろうが、情報過多で双子たちが困惑しないかが気がかりだ。

(あれ……)

 ふと見ると、兄のアキが先ほど崩れた防具を拾い上げ、じっと眺めては丁寧にそれらを積み上げていることに気が付いた。
 表情は硬いが、後ろ向きな気持ちばかりではなさそうだけれど……。
 いまひとつシオンはその心情を読み取ることが出来ない。

 ドランたちは双子を連れて少しずつ奥へと進んでいく。

「そんで、これが今回あなたたちと一緒に商品化していきたい素材だよ!」

 ぴらっと掲げて見せるその布は、確かにシオンが受け取った手袋と似た光沢を放っていた。
 それはどうやら双子にとっても珍しいものに見えるらしく、アキとラキは一歩近づいてその布を観察する。

「きれい……」

 ラキがそう呟くと、三人娘たちは顔を見合わせて嬉しそうに微笑んだ。
 そこからは、少し専門的な説明が行われていく。
 魔法石を砕き、特殊な繊維に魔法石の粉末を纏わせる行程。
 どのくらいの魔力を通しながら強化していくのか。
 
 やはり相変わらずのマシンガントークではあったが、ドランの説明に懸命についていこうとする双子の姿勢には感心させられるものがあった。

 一通りの説明を終え、ドランは双子たちをいつもの食卓へと招く。
 ここからは、具体的な異動の打診に入っていくというわけだ。

 三人娘は作業に戻ってもらい、その場にはシオンとドラン、そして双子の四人となった。
 少し和らいでいた二人の緊張が、しんとした空気に触れてまた少しずつ高まっていくのが感じられた。
 まだ幼い二人を思うと、警戒するのは無理もないことだ。
 
「お茶を淹れましたよ」

 ほんのりと甘い香りのする花のお茶だ。
 四人分のカップをテーブルに置き、それぞれがゆっくりとカップを手に取って一呼吸した。

「急な話でごめんね」

 へへ、と笑いながらドランが沈黙を破る。

「でもね、私たちにとっては急な話じゃないんだ」

「え……?」

 ラキが、不思議そうな顔をしてドランを見つめる。
 さらりと流れる前髪の隙間から覗く、小さな角。
 鬼族の証だ。

「あ、ひかないでね。私たち、備品の配備で巡回隊に顔を出すたびに、あの子たちと働きたいねーって言ってたの」

 真っすぐなドランの言葉に、双子は驚いたような顔をした。

「でも、ちゃんとお話したことなんて……」

「うん、無かったよね。私たちの悪い癖で、納品に行くとついつい物品の説明にばっかり気を取られて、こっちがしゃべりっぱなしになっちゃって」

「……何で僕たちなんですか」

 これまでじっと黙っていたアキが、思いつめたように口を開く。

「僕たちは鬼族のくせに非力で……巡回隊のお荷物になっているって自覚はあるんです」

 だから、出ていけって言われたら仕方ないとは思っています。
 そういうアキの表情は、どこか絶望を感じさせる影を背負っていた。
 アキの言葉を聞いて、ラキもうっすらと目に涙を浮かべる。

「二人とも、そうじゃなくて……」

 慌てて口を挟みそうになるシオンを、ドランは素早く手で制した。
 それから、双子の目を見てニカッと笑う。

「魔道具の役割って、使い手を死なせないことだと思ってるんだよね」

「……?」

「君たちが防具や魔道具を整備してるのを見かけた時、どうしてそこまで一生懸命やるのかなって思ったの」

 ドランが僅かに身を乗り出すようにしながら、二人の顔を交互に見る。

「巡回隊って、腕自慢が多いからさあ、防具も邪魔くさいとか、頼れるのは身一つ! みたいなことを言うやつも多いのよ」

 ……確かに。
 特にレヴィアスの配下にいる魔物達は、自分の腕っぷしに自信を持っている者が多い。
 良い意味で、自信満々という性格の集団だ。

「でもね、あと一枚装甲が多かったら、もう少し衝撃をやわらげられていたら、重傷を負わずに……命が助かったかもしれないって奴も沢山いる」

 はっと、ラキが息を飲む音が聞こえた。
 もしかしたら、これは彼らの心の傷に触れてしまう話なのかもしれない。
 それでも、ドランは滔々と話し続けた。

「私の魔道具工房はね、強力な魔道具を作りたいんじゃなくて、使い手を守るための強さを突き詰めたいの」

 一呼吸。
 ドランはゆっくりとカップに手を添え、お茶を飲む。

「だから、一緒に働く人には、皆を死なせないっていう気持ちを持っていて欲しい……戦うのは怖いことだって知っていて欲しいんだ。」

 しん、とした空間に、甘いお茶から立ち上る湯気が優しく漂う。
 指先をカップで温めるようにしながら、兄のアキが口を開いた。

「……皆を、死なせたくありません」

 それは、絞り出したような、彼の心からの声だった。
 妹のラキも、彼の横で小さく頷いた。
 
 一口お茶を飲み、シオンがそっと口を開く。
 
「あのね、レヴィアスさんと、巡回隊長さんから預かっている言伝があるの」

 双子が、シオンの顔を見る。
 
「行くかどうかは、二人が決めていい。もしも行くのなら……」

 二人の顔が、こわばった。

 どんな言葉が続くのか、怖いという気持ちがあるのだろう。
 自分たちを拾い、育ててくれた人たち。
 役に立てているのかと自問自答する日々もあっただろう。

 不安そうな顔をする二人を安心させられるよう、シオンはそっと微笑んだ。

「もしも行くのなら、巡回隊の二人の部屋は空けておくから、たまに帰ってきなさい、って」

 ラキの大きな瞳から、一筋の涙がゆっくりとこぼれていった。
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