赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第五章:公女の戦い

第八節:加賀谷零、開幕を告げる

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公都・大公執務室
 調印式と襲撃を乗り越え、リィナたちが王城へ帰還したのは薄曇りの夕刻だった。
 重い扉を押し開けると、執務室には加賀谷とヴァルド・レヴァンティスの姿がある。
 大机の上には、南部連邦との正式調印文書と真新しい戦況報告書。紙の束は沈黙のまま、緊張を放っていた。

 「――まずは、ご苦労だった」

 加賀谷の声は低く、しかし確かな温度を帯びていた。
 ヴァルドも一歩前へ出る。背筋を伸ばしたまま、深く頭を垂れた。

 「リィナ殿の決断が、同盟を現実にいたしました。見事なお働きでございます」

 「いえ、それは……」
 リィナは言葉を探したが、喉の奥で途切れた。――逃げ場のない事実を、彼女自身が一番わかっている。

 加賀谷が視線を合わせる。
 「成果には責任が伴う。けれど君は“自分の意思”で動いた。それが国を動かしたんだ」

 リィナは息を詰めた。
 その言葉は賛辞である以上に――肩を並べる者への宣言だ。

 「未熟さも迷いもあります。でも、それでも……証明してみせます」

 拳を握りしめるその手に、怯えはなかった。
 ヴァルドが静かに目を細め、満足げに頷く。

 「よい覚悟でございますな」

 束の間、室内の空気が和らいだ――が、次の報告が投げ込まれる。

 「北方連合が、陥落いたしました」

 ヴァルドが報告書を滑らせる。
 加賀谷は紙面に走り読みしただけで、眉間の皺を深くする。

 「グラース砦が三日……。早すぎる」
 「帝国の示威行動かと存じます。公国と連邦の結束を、“無意味”だと示したいのでしょう」

 「戦わずに屈させるための、最初の一撃……」

 リィナの声は低く震えたが、恐怖ではなく怒りの色を帯びていた。

 ◆ ◆ ◆

 加賀谷は窓際へ歩き、夜の街を見下ろした。
 灯りが連ねる石畳の向こう、遠くの塔の影が揺れる。
 北方陥落の報せは、やがて商人や市民の耳にも届くだろう。怯え、動揺し、抗議の声が上がるのは目に見えている。

 ――帝国はそれを狙っている。経済と世論の“不安”こそ最大の兵器だ。

 (ならば、こちらは不安を武器にさせない)

 机の上に戻り、連邦との条約文を指先で叩く。
 ルーメ通貨の連邦導入、ゴーレム貸与、軍備協力――。それらはまだ“芽生え”に過ぎない。

 「……ここからは、守りではなく“先に動く”交渉を始める」

 声は静かだが、決意は鋼のように響いた。
 「資源の囲い込み、兵站の再編、そして――経済を軸にした包囲網。時間は我々の味方にはならない」

 「ヴァルド、早速で悪いが臣下を集めてくれないか。動揺が広がる前に手を打ちたい」
 
 ヴァルドは言葉を発さずに深く頭を下げ、主君に与えられた役目の遂行に向かった。


 

 ◆ ◆ ◆


 
公都・城内大広間
 
 加賀谷はゆっくりと振り返った。
 目の前には集められた公国の貴族、文官、武官たちだ。
 
 傍に控えるは加賀谷の人の忠臣たちだ。ヴァルド、ガロウ、ミロ、ノア、そしてリィナ。
 加賀谷が壇上に上がるころには空気は、すでに変わっていた。
 
 加賀谷の言葉一つひとつが、役者としての“舞台”を照らし始める。

「……皆、よく聞いてくれ。俺たちは今、とてもわかりやすい“敵”を得た」

 視線は地図上の北方を刺す。

「帝国は力で制した。恐怖で黙らせ、絶望で膝を折らせた。それが奴らの“正しさ”だ。だが──それだけじゃない」

 加賀谷の声が徐々に熱を帯びる。

「奴らは、我々に問いを突きつけてきた。“そちらの正義に、民は従うに足る希望があるのか?”と」

 その言葉に、誰もが息を呑んだ。

「……俺たちは、答えなければならない。“はい”と。堂々と。胸を張って」

 拳をゆっくり握る。演説というより、“宣言”だった。

「──だから俺は、ここから先の舞台を用意する」

 壁の地図を一瞥しながら、加賀谷は続けた。

「〈共栄連合〉。そう仮に名づけよう。この土地を軸に、南部連邦、自由都市群、交易都市。資源と技術と流通を、それぞれが出し合う、“共に栄える圏”だ」

 少し口元を歪めて笑う。

「なあ、信用できないか? 戦火もまだ終わらぬこの世界で、そんなもの夢物語に思えるか?」

 誰も答えない。

 だから、加賀谷は一人で答える。

「──いいか、俺たちはその“夢”を見せるんだよ」

 バン、と机を叩く。

「事実なんて関係ない。民にとっては“夢を信じられるか”がすべてだ」

「だからこそ我々がその舞台装置となり、役者となり、英雄となって見せる。“あの国は違う”“この国にはまだ道がある”──そう信じさせることが、唯一の希望だ」

 ミロが小さく息を呑む。
 リィナが拳を強く握る。
 ヴァルドのまなざしが鋭くなる。

「そのために俺は、国家ファンドを立ち上げる。初期資本は我々が出す。信用評価制度、出資配当、インフラ再投資……“繁栄の兆し”を数字で見せる」

「紙と貨幣で世界を変える。“国が変わる瞬間”を、全員に“見せる”んだよ。これが希望です、これが勝利の始まりですってな」

 目が光る。

 もはや彼は、“大公”ではない。

 希望という脚本を語る脚本家
 未来という舞台の主役であり演出家
 嘘で真実を塗り替える統治者

「……皆、これから国民に芝居を打ってもらう。“勝てる国”という劇を演じてもらう。“この国に未来がある”と、信じさせる芝居をな」

「世界は見ている。帝国も見ている。ならば俺たちは、見せつけようじゃないか。“未来を選べる国”のあり方を」

 静寂。
 しかし、それは敗北の沈黙ではない。
 言葉のひとつひとつが、信仰のように胸に刻まれていた。

 そして、加賀谷は静かに結んだ。

「……舞台は整った。次は“選ばれる側”になる番だ」







◆あとがき◆
毎日 夜21時に5話ずつ更新予定です!
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今後も読みやすく、テンポよく、そして楽しい。
そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
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