赤字国家に召喚されたので、まずは売却から始めます──でも断られたので価値を爆上げして帝国に頭を下げさせることにしました【TOP3入り感謝】

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第五章:公女の戦い

第九節:理想に値する現実をつくれ

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 深夜の政庁塔。街灯もまばらな公都の夜を見下ろしながら、加賀谷は一人コーヒーを啜っていた。
 先の演説では“国を率いる者”として語ったが、その言葉のひとつひとつは、喉を焼くように重かった。
 人を動かすのは言葉でなく、信じさせる技術――その重さを、今さらながら噛みしめている。

 ノックの音。振り返ると、制服姿のまま、リィナが控えめに扉の前に立っていた。

 「……こんな時間に?」

 「眠れなくて。というか、あなたが起きてる気がしてたから」

 遠慮がちに入ってきたリィナは、軽く息をついてソファに腰を下ろす。
 しばしの沈黙のあと、ふいに尋ねる声が落ちた。

 「ねえ、カガヤ」

 「ん?」

 「……あなたは、どうしてここまで公国に尽くしてくれるの?」

 加賀谷はコーヒーのカップを傾け、ひと呼吸置いてから、片眉を上げて言った。

 「へえ……その質問、まさか“召喚した張本人”から聞くとはな」

 リィナは言葉を失い、少しだけ目を伏せた。

 「……あのときのこと、いまでも悔いてる。巻き込んでしまったことも、無力だった自分も」

 「気にするな。あれがなきゃ、俺はずっと別の椅子で数字だけ追ってただけだ。──ま、当時の俺からすれば“地獄に落とされた”気分だったけどな」

 少しだけ口調を砕いて言う加賀谷に、リィナは小さく笑った。

 「でも、落ちた先で……自分で立ち上がって、ここまで来てくれた」

 「……そうだな」

 加賀谷は窓の外を見やる。静かな街の灯が、まるで星のように遠くに揺れている。

 「俺がここで動いてる理由は……たぶん、借りを返してるんだ。あの日、自分の選択で公国を変えてしまった、その責任にな」

 「責任、って……」

 「選ばれたからとか、正義だからじゃない。ただ――“選べる場所に立ってしまった”からには、選ばなきゃならない。選ばず逃げた結果を、もう二度と見たくないから」

 「……それは、自分への罰?」

 「罰って言えばカッコつくな。でも俺はたぶん、ちゃんと“この国が良くなるのを見たい”と思ってるんだと思う」

 リィナは、黙って頷いた。

 「じゃあ、私は──」

 リィナは、長いまつげを伏せた。
 その横顔には、彼の言葉を真正面から受け止める気概が宿っていた。

 「じゃあ、私は――その“理想の現実”を一緒に作る役、ってことでいい?」

 「……お前はもう、十分すぎるほどそうしてるよ。迷っても、走っても、必ず意味を残してきた」

 加賀谷の言葉に、リィナは微笑みを返した。

 と、そのとき。控えめなノック音が室内の空気を切るように響く。

 「失礼いたします」

 姿を見せたのは、ヴァルド・レヴァンティスだった。相変わらずの丁寧な物腰に、場が少し引き締まる。

 「この時間に……なにか急ぎの報告か?」

 「いえ、正式な会議の場でお話しする予定だった件ですが、よろしければ今、少しだけ」

 「構わない。話せ」

 ヴァルドは一礼し、携えていた資料の一部を机に差し出した。

 「先月、ヴェステラ学院で実施した実務選抜講義ですが──予想以上に、才覚のある若者たちが結果を出しました。なかには政商レベルの資質を持つ者もいます」

 「へえ……期待以上か」

 「そこで、加賀谷閣下にお願いがございます」

 加賀谷は眉を上げる。

 「お願い?」

 「臨時でも構いません。次の講義にて、“実務家としての統治戦略”をテーマに、ご登壇いただけませんか?」

 「俺が、教師役か?」

 「貴方のような実例を持つ方の語りは、何よりの教材です。加えて──その中から“次に仕える者”を選ぶ準備も必要でしょう」

 ヴァルドの言葉は、単なる教育論ではない。
 その奥にあるのは、次世代を育て──いずれ資本と権限を委ねるという、国家の構造改革そのものだった。

 しばらく無言で資料に目を通していた加賀谷は、やがて息をひとつ、深く吐く。

 「……ただの“学びの場”にとどめるつもりはないってわけだな」

 「その通りです。適切な器が育てば──“任せられる事業”のひとつやふたつ、興すことも可能かと」

 「……ファンドか。人も金も、意志の通るところへ流せる仕組みが要る。そういう目論見だな」

 ヴァルドは沈黙をもって肯定した。

 加賀谷は、静かに頷く。

 「わかった。柄じゃないが──必要ならやる」

 立ち上がった加賀谷の横顔に、夜の灯が差す。







◆あとがき◆
毎日 夜21時に5話ずつ更新予定です!
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今後も読みやすく、テンポよく、そして楽しい。
そんな物語を目指して更新していきますので、引き続きよろしくお願いいたします!
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